オペレーターに勝ちたい!   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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俺がアークナイツをやるきっかけになった人です。
誕生日に出せて良かった。


ホシグマ副隊長に勝ちたい!

「──そういえば、私の有給が貯まっていてな」

 

近衛局のオフィスにて。休憩の時間にコーヒーを飲んでいたチェン隊長が話しかけてくる。俺の向かい側に座って前に行われた作戦の始末書を作成していたホシグマ副隊長は、首をこきり、と鳴らしながら隊長に目を向けた。

 

「隊長はいつもお忙しいご様子ですからね。貯まるのもまあ、妥当かと…」

「そういうお前も使ってないだろ、ホシグマ」

「え、お二人ともそんなに使ってないんですか?」

 

思わず口を挟んでしまうと、二人は息を合わせて頷いた。…マジか。確かに近衛局のトップだから、気楽に休む訳にはいかないんだろうけど一つも入れてないは…どうなんだろうか。

 

「ああ。最近はレユニオンも大人しくしている。だからな…ここらで一気に使おうかと思っているんだ」

「おお、良いじゃないですか!」

 

その俺の賛同の言葉に気を良くしたのか、満足気に笑みを見せた隊長は自分のデスクに戻り、タブレット端末を見せてきた。俺と副隊長は同時にそれを覗き込んだ。

 

「『今年も夏がやって来た![オブシディアンフェスティバル]!』…?」

「シエスタという観光都市で行われる祭だ。各分野のアーティストが集まり、パフォーマンスを披露する。ほぼノンストップでライブがある事から、その期間は眠らない都市と評されているらしい」

「ほえー…楽しそうですねぇ!」

「隊長がこのような場所に行くとは、思いもよりませんでした」

「私を何だと思っているんだ。私にだって楽しみたいと言う感情はある」

 

携帯をぽちぽちと操作し、こっちでも調べてみる。おお、すげえな。めちゃくちゃ賑わってるじゃん。…え、今年のゲストエンペラーさんなの?あの人どこにでも居るな…。

そんな風に驚いていると、今までの力強い声が嘘だったかの様に、隊長が声を窄めて俺に視線を向けて来た。

 

「そ…それでな、イラ。もし良かったら──一緒に行かないか?」

「あ、え?俺っすか?」

 

その突然の提案に惚けた声を上げてしまう。こういうのって大体同性の友達とかと行くんじゃないのか?それこそ副隊長とかと行けば良いのに。

そんな事を思っていると、俺の思考を読んでいたのか隊長は頬に手をつきながらじとっとした目を向けてきた。

 

「…じゃあ聞くが、お前は私とホシグマが居なくても一人で満足に仕事ができるのか?」

「……いや、でも最近は書類にもミスは無くなってきましたし、余程の事が無い限り──」

「──できないんだお前は。いいな?」

「ハイ」

 

泣いちゃうぞマジで。そんな凄まれながら『お前は仕事ができねえだろ』って言われたら人ってすぐギャン泣きできる事を実例を見せながら小一時間説明してやろうか?

 

「だから、まあ、何だ──。日頃お前には世話になっているし、その礼というのも込めてだな。…その、どうだ?」

 

た、隊長が優しい……。目を逸らしながら頬を赤くしてる隊長を見て、思わず胸を押さえてしまう。…久しぶりにこんなこと言われたな。飴と鞭の飴がようやく貰えた気分だ。

そんな事を考えながら俺は少し思案する。…行っても良いんならそりゃ行くけど…でも俺って──。

 

「──お言葉ですが、隊長」

 

その時、向かい側から声が上がる。キーボードを叩きながら、ホシグマ副隊長は冷静にこう言った。

 

「イラはもう、有給を使い果たしていますよ」

「あ、ですよね」

 

そう。俺の有給は、この前のマゼラン探検隊の時に全て消費していたのである。計画性が無い?うるせえよ黙れよ。

 

「それに、レユニオンの活動が最近静まっていると言っても何があるかはわかりません。その『何か』があった時に、小官一人では対処し切れない可能性も…」

「む──」

 

その一切の反論も許さない正論に、隊長も口を噤む。…まあ、そりゃそうだ。いくら副隊長が強いからと言って、人手は増える事は無い。指揮をしながら皆の盾になるってのも色々な面でキツいだろうな。

ま、隊長もそこは理解してくれると思うが俺もフォロー入れとくか。

 

「隊長、誘って下さったのはありがたいんですけどすみません。やっぱり副隊長の負担が大きいかなと。…後俺、海嫌いですし」

 

さっき調べた時に綺麗な湖が見えた。泳げない俺からすれば、近くにそれがあるだけで脚がすくむ。心から楽しめないと思うからやめとこっかなって言うのが六割程度であった。

 

「──分かった。まあ私は行くことにするよ。土産を期待しているんだな」

「お、やった!ありがとうございます!」

 

お土産って何だろ。黒曜石とかか?食べ物とかあったら良いなぁ。

そんな事を考えていた俺は、すっかり聴き逃していた。

 

 

「ホシグマ。私が留守の間──可笑しな真似はするなよ」

「可笑しな真似──。はて、小官には見当もつきませんね?」

 

 

冷たい視線を交わし合う、龍と鬼がそう呟き合っていたのを。

 

 

 

 

「そんな訳で、本日から三日の間隊長はご不在だ。その期間は私が隊長を務める。よろしく頼む」

 

朝の朝礼にて、そう締め括ったホシグマ副隊長に近衛局の職員は敬礼を返す。いつも隊長の扱きを受けている影響か、その動きには一切のズレはなく、気の緩みはどこにも見受けられなかった。それを見た副隊長は苦笑して、軽く手を振る。

 

「…ああ、そんなに硬くならなくていい、リラックスしてくれよ。鬼の居ぬ間に、と言う言葉があるだろう?私はオニだがな」

 

その軽いジョークに何処からか微かに笑い声が上がる。それを皮切りに、何処か張り詰めた空気が緩んでいくのを感じた。

 

「だが訓練はきちんとするぞ。休む時は休む、やる時はやる。メリハリを付けて行こう。20分後に組み手を行う。各々準備をして訓練所に集合だ。──では、解散」

 

 

 

 

「お前はすぐに攻撃を受け止めるクセがある。盾を持つ者としてその心根は正しいが、攻撃を受けると当然、盾も、身体も消耗する。受け止めなくても良い攻撃を見極めろ。守るべきものがあるならば、先ずは自分の無事を優先しろ。盾が早々に倒れては意味がないぞ」

「…はい!ありがとうございました」

「タフさはある。自信を持て。よし、次!」

 

そう評された隊員は、汗を流しながら何処か嬉しそうに去って行った。

副隊長は、問題点を指摘するだけではなく、その解決策や理由を丁寧に分かりやすく説明してくれる。

普段の訓練でも、副隊長に教わりたいと言う奴らが大半で、隊長が訓練の当番の時はグロッキーになるやつが大半である。まあそのおかげで俺は何回もリベンジできるんだけどね。

 

「はぁ…はぁ…!イラさん!今の、どうでしたか…!?」

「ん?ああ…」

 

副隊長に気を取られていると、新人の女性訓練兵が膝に手をつきながら俺を見上げてくる。そう、訓練の人手が足りないとのことで俺も臨時で教官役に任命されていたのだ。

 

「あー…こう、君のはガッ!って感じじゃん?だからもっと、ズガッ!って勢い付けたら相手もビビると思うぜ!」

「──ずがっ…ですか…?」

「そうそう、…イヤ、シュドッ!かな…?」

「あ、あの……少し、イメージが…」

 

おや。割と噛み砕いて説明したつもりだったんだけど。

それならばと、俺はその子の背後に立ち、腕を掴んでイメージ通りの動きをさせる。

 

「こうして、こう!…どう?分かった?」

「──は、はい…。あ、あの…ちょっと、私…汗が…」

「──あ、待ってごめん」

「え…」

 

顔を赤く染め上げ、汗で髪が額にへばりついた彼女は小さな声でそう呟く。その様子を見て、俺は即座に距離をとった。何処か唖然とした表情を浮かべる彼女に、土下座をせんばかりの勢いで頭を下げた。

 

「セクハラだったよねごめんね、いつも野郎共とばっかしてっから気が回らなかったお願いだから通報だけは」

「──そ、そんな!気にしてないですよ!」

「本当…?全然言ってくれればホシグマ副隊長と変わるよ…?」

「そんな事しなくていいです!イラさんに教えてもらいたくて、私はここにいるんですから!」

 

かーっ!見んねこの子いい子ばい!感動でお兄さん泣いちゃいそうだよ。あとでジュース奢ってあげよ。

 

「じゃあ、このままで行くよ」

「…はい、ご指導、よろしくお願いします…!」

 

そうか細い声を出した彼女の腕を再度掴み、俺は訓練を再開した。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

戦闘訓練が終わり、俺たち幹部は書類仕事に勤しんでいた。いつもとは違い、隊長が居ないので回ってくる書類が多く、俺は割と激務に襲われていた。

そんな中でもホシグマ副隊長はすらすらと仕事を片付けて行く。もう俺の四分の一ほどの割合になっている書類を見た俺はため息をついてしまう。

 

「早いですねぇ…」

「まぁな。お前は……」

「……すみません」

「はは、謝らなくていい。一人減るのはなかなか辛いからな」

「いやぁ…申し訳ないです」

「だから謝るなって。…それにな、私は実はすこし嬉しいんだ」

 

嬉しい?どう言う事だろうかと首を捻っていると、副隊長は作業を辞め、俺の目をじっと見つめて来た。

 

「お前と二人きりで、誰からの邪魔もされる事なく、お前と過ごせる事が、私は嬉しい」

「ふ…副隊長……!!」

 

そうはにかむように言った副隊長に俺は目頭が熱くなるのを感じた。

こんなんもう、一生ついて行くしかないじゃないですか。どれだけ俺の好感度を上げれば気が済むんだ。俺メスにされるって。

 

「ありがとうございます!!これからも頑張ります!!」

「あぁ。それと…」

 

俺は涙を堪え、書類に手をつけようとすると、その書類の束が半分、ホシグマ副隊長の手によって取られて行く。口を開けた俺が副隊長の顔を見ると、笑みを浮かべた副隊長が居て──。

 

「半分。手伝ってやるよ」

「抱いてほしい(脳死)」

「……は?」

「あ」

 

やっべええええ!!心の声が!でもこれは仕方ないじゃない!こんなんされたら誰でもこうなるわ!イケメンがいるんですもの、そんなん…もう、こう…ンァァァアッ‼︎

 

「………お前は」

「へ?」

 

心の中で内なる乙女を解放していた俺は、いつのまにか肩に柔らかい感触を感じていた事に気づく。ふわりと甘い香りが香る翠色の髪が、俺の首元をさらりとくすぐっていた。いつのまにか側に来ていた副隊長は、俺の手の上に手を置き、爪を立てその指を擽るように動かしていた。

 

「……よくないぞ、そういうのは…。フー……っ」

「あ、す、すいません…。つい心の声が」

「──ッ!!」

 

翠の髪の束がびくりと揺れる。そこからちらりと見えた山吹色の目は、ギラギラと輝いていた。そしてその口は何かを堪えるようにして歯を食いしばって震えていた。

……やっべ。怒らせたかな…!?調子乗りすぎた…!

 

「あ、あの」

「ふぅ……っ!!ふぅ、っ」

「えー…っと…」

 

ドンドン息が荒くなってるんですが。髪の向こう側からばっちりと目を合わせた状態から戻ってくれないんですが。あとさっきから引っ掻く力が強くなってます。ガリガリ手の甲削れてきてます。え、そんな怒る?『何言ってんの、キモ』で良いじゃん。良くねえよこの人にそんなの言われたら死ぬわ。

と、兎に角ご機嫌を取らないと…!──この手は諸刃の剣だ…多分この切り札使ったら俺は死ぬかもしれないが、まあ、なんとかなるっしょ!(楽観)

 

「──お酒!お酒飲みませんか!?」

「──は、あ?」

「今日終わったら酒ですよ、酒!俺が奢りますんで!どこでも着いていきますんで!ハイ!」

「……それっ、は…良いのか?」

「はい?」

 

 

「──ここまで我慢して、そういう誘いをして来て…そういう事で、良いんだよなァッ…………!!」

 

 

ヒィィィィィィッッ!!ガチギレじゃん!そんな!?そんな怒る!?そんな血走った目でそんな言葉を使うなよ、怖く見えるぞ。

その端正な顔は何かを耐えるかのように歪んでおり、もうNOとは言えない状況になってきている。でも一応……。

 

「えっと、なーんて──」

「オイ」

「──言うのがウソなんですよね実は!嘘の嘘的なね!?」

 

その地獄の底から響いてくるような声を聞いたオラはもう諦めたっぺ。

 

「──……ふぅ。すまんな。少し、荒ぶってしまった」

 

ガタガタ震えていると、突然副隊長は髪をかきあげ、息を深く吐く。…よ、良かった…!元の副隊長に戻ってくれた…!

 

「では、私の家で飲むとしようか」

「ん?」

「酒は買わなくて良いぞ、今日は秘蔵のヤツを開ける」

「ん?」

 

宇宙フェリーンと化した俺を他所に、ホシグマ副隊長はその真っ赤な口をがぱりと歪ませ、獰猛に笑った。

 

 

 

 

「つまみは……まあ、良いか。──どうせすぐに食っちまう」

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

「「乾杯」」

 

ちん、とグラスを軽くぶつけ合い、ホシグマ副隊長は一気にそれを煽る、俺もちびちびと酒を口に付けた。

 

「ん、うまい…!」

「甘くて飲みやすいだろう、さぁもっと飲め」

 

夜の十一時頃。俺は副隊長宅へお邪魔していた。綺麗に掃除されている部屋に、シンプルな家具や装飾品。しかしキッチンには大量の酒瓶が並べられており、まるでそこだけバーのような空間となっていた。

俺は座布団に座り、部屋を見渡していると副隊長が真正面から俺の隣に座り直してきた。何故に。

 

「あまり女性の部屋をジロジロ見るもんじゃないぞ」

「す、すいません…」

「はは、良いさ。どれ、注いでやろう」

「あ、ありがとうございます」

 

グラスにまだ半分程残っていたので、一気にそれを飲み、次なる一杯を注いでもらう。そんな俺の様子を見た副隊長はにんまりと笑い、とくとくと酒をグラスに落とした。

 

「久しぶりに二人で飲むな、二ヶ月程前か?」

「あー……そっすねぇ…。最近は忙しかったですからねぇ…」

「そうだな、良く頑張ってくれてるよお前は。偉い偉い」

「ち、ちょっと…撫でないで下さいよ、俺ガキじゃねぇんですから!」

「ははは!」

 

頭を柔らかく撫でられ、羞恥心のあまり振り払う。そんな失礼な事をしたにも関わらず、副隊長は快活に笑って酒を飲んだ。

 

「うっ…ふう……」

 

その息を吐いた姿がどうにも艶かしく、つい目を逸らしてしまう。そもそもなんだその格好は。薄手の黒のキャミソールにショートパンツって。もう、目が万有引力(?)

 

「どうした、そんなに目を逸らして。部屋をジロジロ見るなって言ったろ?私だけ見ろよ」

「あ〜…空気ですね、空気見てました」

「なんだ、それ」

 

くつくつと笑う副隊長を他所に、何処か俺は体の異変に気づく。おかしい。俺はこの人達と結構お酒を飲んでいる。だから耐性はあるはずなのに、もう俺は頭が、ふわふわしてきているのはなんでだ…?

 

「俺ぇ…今何杯飲みましたっけぇ?」

「まだ二杯だ。もっと飲もう」

「あ、あの〜、俺今」

「もっと、もっと」

「うーっす…」

 

だめだよ、目上の人から注がれる酒は飲まねえと…。ぐびっと飲み干し、次の一杯を待つ。ホシグマ副隊長はそれを見て、この酒の説明をしながらまた注いでくれた。やさしい。

 

「こいつはな、度数が高すぎるんだ。私でも七杯で酔っ払うほどに。そして尚且つ飲みやすいからタチが悪い」

「はあ〜…すげえっすねえ」

「なあ、イラ。朝の訓練は楽しそうだったな」

 

朝の訓練。あぁ、あれか。

 

「ええ、強い後輩が一杯居て、俺もう嬉しくて嬉しくて」

「それは良かった。ところで…お前が背後から抱いた子は如何だった?」

「いやぁ〜のびしろですねえ!結構つよいですよ!」

「そうかそうか。あんなに密着していて、私は本当に怒っているぞ」

 

え。

 

「おこってんですか…?」

「ああ。だがまあ、昼の時にその機嫌は治った。お前が誘ってきたからな」

「あぁ〜なんだ!よかったぁ!おれもうホシグマさんに嫌われたらマジで、もう人生辛いんですよ!」

「ばか、嫌う事は無いよ。絶対にな」

「やったあ〜〜!」

 

 

 

「今から生涯一緒になるんだ。当たり前だろ」

 

 

 

あれえ…なんで俺押し倒されてんだあ。あ、あつい…。

 

 

「ホ、ホシグマさん…?」

「ああ…ッ!唆るからやめろって、ソレッ…!──食う。マジで食うからなイラ。覚悟しろよ…!」

「ええ…?あのですねえ」

 

「限界なんだよ」

「え」

 

「私が今までどれだけ我慢してきたと思ってる。今日だけじゃ無い、普段からもずっと我慢してきた。仕事だからと…だがもう、我慢は良い。私はずっと苦しんでたんだ」

「く…苦しんでた?」

「ああそうさ。チェンにいつも取られて、嗜めて…。チェン一人を警戒すれば良いと思えばペンギン急便やらロドスのオペレーター達も警戒しないといけない…苦しかったさ」

 

そ、そんな…。俺は。

 

「心優しいお前なら、私を安心させてくれるよな…イラ?」

「な…!」

「いただきます」

 

そう言って、ホシグマさんは目を瞑り、俺と顔を近づけた、そんな彼女に俺は──。

 

 

 

 

 

 

「うわああああああん!!!」

 

 

「!?!?!?!?」

 

 

「どうしてそんなになるまで相談してくれなかったんですかぁ!?」

「え、あ、イラ?」

 

困惑してるホシグマさんに俺は構わず泣きながら語りかける。

 

「おれ力になりたいんですよぉ!ですから俺に出来ることあれば言ってくださいよぉ!」

「い、いや…な、なんなら今は抵抗せず、何もしないでほしいんだが」

「何もすんなですかぁ!?俺は力不足ってわけなんですかあ!!」

「い」

「ヴァァァァァァォァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎(泣き声)」

 

俺はなんでこんな非力なんだ。憧れの人の悩みすら気づけず、何が助けるだ!!くそッ!ドクター後でぶん殴ってやるからなぁ!!

俺は泣きながら唖然としているホシグマさんを押し除け、側にあったベットに包まった。

 

 

 

 

 

 

「な、泣き上戸だったのか……」

 

ホシグマはそう呟く。計画では、このまま既成事実を作ってゴールインだった。

 

(限界まで飲ませたことがなかったツケがここにきて──!)

 

ホシグマは歯噛みする。しかし、えぐえぐと喘ぎながらシーツにくるまるイラを見て、強硬手段は悪手と考えたのか、そっと彼のそばに座り、背中を撫で出した。

 

「…助けてもらってるさ、いつも」

「ヴァァァァァァォァァァァァァァ」

「お前が近衛局に入ってきてから、いつも私の心の支えになってくれてたのはお前だよ」

「ヴァァァァァァォ」

「お前のその優しさに、私は…惚れたんだ」

「ヴァァァ……」

 

「だから…その優しさを、今から…私だけに」

「ヴヴ……ぐぅ」

「………おい、待てイラ。お前まさか…」

 

がばっとシーツを剥ぐと、そこには気持ちよさそうにして口を開き、いびきをかいているイラがいた。

 

「お、おい…!待て!寝るな!起きろ!」

「むにゃむにゃ…もう食べられませんよ……」

「ベタな寝言を言うんじゃない!せめてヤることヤってから寝よう!な!?」

「があーっ」

「……あんまりだ」

 

揺さぶっても、軽く頬を叩いても起きない彼に、がっくりと項垂れたホシグマは気分が沈んだ。

 

「……はあ。ズルは良くないということか」

 

顔を上げ、イラの寝顔を観察する。長いまつ毛に、まとめられた髪。元々は、白銀だったらしい彼の髪色は今は鈍い灰色となっている。

 

初めて彼と相対した時。それは友好的ではないものだった。そんな彼を、今は騙してでも独占したいと思えるほど好きになるなんて、ホシグマは予想だにもしなかった。

ふと、大きく開けられた口を見る。横に倒されたため、重力という理に逆らえなくなった涎が、左内頬から右内頬に糸を引いて移動している様が見えた。

その頬は、まだ液体を受け止められそうな形をしている。

 

「…………」

 

静かに、起こさないように、ホシグマは秘蔵と名した酒を持ち、そして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。ホシグマの住んでいるマンション内にて、婦人達が井戸端会議に花を咲かせていた。

 

「ねえねえ、昨日の夜中くらいに、変な音しなかった?」

「それって、なにか液体を啜るような音?」

「そうよ!三十分くらい聞こえてきてもう寝れなかったんだから!」

「しかも獣みたいな鳴き声もしてなかった?怖いわぁ〜」

 

「おはようございます」

「おはようございます!」

 

そこを、翠の鬼と頭を抑える灰色の髪の男が横切る。

 

「ホシグマさんだわ…相変わらず素敵よねぇ!」

「いつもより凛々しいお顔立ちだわ!どこかつやつやしてる」

「あの横の人…ぐったりしてない?誰?」

「さぁ?」

 

 

 

 

 

 

昨日の勝負──引き分け。

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