オペレーターに勝ちたい! 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「隊長!クリスマスですよクリスマス!!何しますどこ行きますなんか食います!?」
「働く」
「ええ…?」
そう言い切り、チェン隊長は黙々と行っていた作業を再開させた。
今日は12月24日。クリスマスイブである。龍門はどこか色めき立っており、並ぶ店の様子もいつもとは違い、赤や緑のイルミネーションが、街そのものを賑やかにしていた。
「なのになんでそんな感じなんです!?」
「…なんだ、『そんな感じ』とは?」
「いや…もうちょっとこう、なんかあるでしょう!?」
「はぁ…何を言っているのか分からん。さっさとお前も働け。今日は残業は許さんぞ」
「もう終わってますー。出勤して昼前までにはもう終わらせてるんですー!」
「早いな!?」
クリスマス楽しむためにね!もう頑張りましたよ俺はマジで。それなのに俺の上司と来たら…全く、困った龍門ちゃんだ(?)
「じゃあ俺に寄越して下さいよその書類!手伝いますんで!」
「…やけに強情だな。何が狙いだ?」
憤慨する俺に、チェン隊長は作業をしながら訝しむ様な目を向ける。…し、失礼な…!俺はただ…!
「我々の仕事は楽しむ事じゃない。楽しむ市民を守る事が龍門近衛局として最優先すべき仕事だ。……それに、仕事終わりでも良いだろう、楽しむのは。…九時までには終わらせる。だからそれまではしっかり仕事を──」
「ただ俺は隊長と二人で街で遊びたかっただけなのに…!」
「終わった」
「えっ」
「仕事終わった」
「いや…でも、今してたのは…」
「あとは押印するだけだ。そして期日は明後日までだ」
「えっ」
「何をしている、時間には限りがあるんだ。さっさと支度しろ!」
「えっ」
……えっ。
「イラ、アレを見ろ。サンタがジャグリングをしているぞ!」
「うわああすげええ!!お駄賃、お駄賃渡しに行きましょ!」
二人で目を輝かせながらサンタに駆け寄る。子供っぽい?うるせぇサンタさんの前じゃ大人もみんな子供になるんだよ!!
サンタの足元にあった帽子に、お気持ちを二人でそっと入れる。するとサンタは懐から赤色のバルーンを取り出して、もぎゅもぎゅと何かを作り始めた。
しばらくもぎゅっていたそれを、サンタはチェン隊長に差し出す。その手に持っていたそれは、ハート型の形をしていた。
「うわああ!良いなぁ隊長!」
さらにサンタはゆっくりと隊長を指差し、そして次に隣にいる俺を指し示した。
「…!?なっ、な…!」
「?どういうことなんだサンタさん!教えて!」
そう俺が言うと、何故かじとーっとした目で俺を見た後、隊長の肩をぽんぽんと二度叩くサンタ。
「…ありがとう、頑張るさ」
「?」
決意を込めたその声に、サンタはグッ!と親指を立てる。俺はそれをただ眺めているだけだった。
「ホシグマに何か買っていくか」
「いいですね。今日任務で居なかったですし」
二人で露店の商品を並び見る。マフラー、お菓子セット、手袋など色々あったが、結局俺たちが選んだのは──。
「やっぱお酒ですね」
「そうだな。ヤツにこれ以外を送ったとしても喜ぶイメージがつかん」
副隊長といえば酒。と言う訳でお酒を買った。何が美味いのかさっぱりだった俺たちは少し値が張ったシャンパンを購入し、ラベルに包んでもらう事にした。
「…そういえば、ホシグマには声をかけなかったんだな」
その最中、隊長が俺に問いかける。その顔はどこか悪戯をする前の子供のような、それでいて嬉しそうな女性の表情をしていた。
「私だけを誘うなんて…分かってるな、イラ。うん。それはそうさ、私は上司であり、一番距離が近いと言っても過言ではないのだからな、うん」
「声かけたんですけどねー、そこで任務があるって断られたんですよ」
メッセージアプリで『今日クリスマスなんで街行きませんか!?』と送った所、『いく』ってノータイムで送られてきたんだけど、その後それが取り消されてて、
『すまない、今日はこの辺りから離れた場所で任務がある』
『任務が終わるのが九時なんだ』
『九時から私と愉しまないか?』
『たのむ』
って送られてきた。九時から私と、の次の漢字が分からなかったんだけど、まあ多分ええやろ、と思い狐がグーサインを出すスタンプを送っておいた。
これで隊長と副隊長と一緒に遊べるね!って事で万事良好だと思っていたのだが。
「あっっっそ」
それを聞いた隊長は無表情でそう呟いて、その場をつかつかと離れて行った。
「え!?あ、ちょっと!?まだ包んでもらってないですよ!隊長!隊ちょーう!?」
「クソボケ様、お待たせしました。こちら商品です。割れ物なので。まるで女性の心の様に割れる様なものなので。丁寧にお持ち帰り下さい」
「ああ、ありがとうございます!…え今クソボケって」
「言ってません」
「いやでも」
「はよいけ」
「はい」
俺はその言葉に背中を押されるように、走って隊長を追いかけて行った。
「あれ?イラ!」
店から出て、きょろきょろと辺りを見回していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「エクシ…エクシア!?なんだその格好!?」
「えへへー、かわいいでしょ?」
そこには、エクシアの姿があった。しかしいつものペンギン急便の制服とは違い、赤を基調にした服。配達と言う足を動かす作業だからか、そのスカートの丈は少し短いものとなっていた。しっかりその頭には三角の赤い帽子を被り、誰がどう見てもサンタだと思える様な格好をしていた彼女の姿を見て、俺は驚愕する。
「ボスがね、『クリスマスにダセェ格好で仕事されちゃあ、エンペラーの名が廃る』って言って、これ用意されたの!」
「あー…」
確かにあの人なら言いかねん。理屈よりもグルーヴで動いてる人だ、その場のノリでサンタ服買ったんだろうな…。
「で、どう?」
「どうって…似合ってるよ」
「かわいい?」
「かわいい」
「えへへー」
「ほう。私はどうだ、イラ」
そのやけに疲れている声に振り向くと、そこにはテキサスの姿があった。例に漏れず、彼女もいつもとは違うコスチュームを見に纏っており、それは──。
「トナカイ?」
「ああ…」
げんなりと頷くテキサス。赤い三角帽子は変わらず、しかしそれに加えて頭には茶色の角が付けられている。
「これのせいでさっきから子供たちに纏わりつかれてな…面倒だ」
「でも満更でも無さそうだったじゃん?」
「…はあ」
なんだかんだでノリがいいからなテキサスは。そう言うところがまた子供達に好かれるんだろうけど──って違う!今は隊長を探すんだろ俺の馬鹿!
「なあ、隊長──チェン隊長見てないか?」
「…なんであの人の名前が出てくんのさ?」
「いや、さっきまで一緒に居たんだけど…怒らせちゃって、はぐれちまった」
「ふーん…それってデートじゃん、ずる」
「チッ」
何故か途端に機嫌が悪くなる二人に疑問を抱くが、ひとまずそれは置いておく。今は隊長優先だ。
「私は知らないな」
「あたしもー」
「そっか…ありがとう、じゃあ俺行くわ!配達頑張ってくれよな!」
「まって」
そう言って立ち去ろうとすると、俺の右手がエクシアに捕えられる。長時間外での労働をしていたせいか、その手は冷たかった。
「あー…もしかしてかもだけどさ、チェンさん怒って帰っちゃったんじゃない?」
「え゛」
「あたしだったらね?置いてってくぐらい怒ってたら、そのまま帰ってアップルパイ食べるよ!」
そうなの?(震え)アレ、俺もしかして大変なことしちゃってる…?
で、でもチェン隊長だよ?そこまで怒る人…か。チェン隊長か。そっか。
「〜〜やらかした…!?」
「…かもな」
そのテキサスの呟きに、俺は全身の体温が急激に下がる感覚を覚える。
ま、まずい。早く謝らないと…!そう思い、俺はメッセージアプリを開こうとする。
「ちょいまちー!怒らせた人が今何言っても逆効果だって!」
「え…で、でも…」
「火に油を注ぐだけだ、時間が解決してくれるのを待った方がいい」
まじか。途端に心の中に罪悪感が募っていく。せっかく早く仕事を切り上げて、俺の我儘に付き合ってくれたのにも関わらず、怒らせてしまった。
「…そんな顔をするな。クリスマスが台無しだぞ」
「ああ…」
「私だったら、そんな思いはさせない」
「え?」
そう言ったテキサスは、真正面から俺の目を見つめる。その琥珀色の瞳は、全てを包み込む熱を秘めていた。
「私たちの仕事は十一時には終わる予定だ」
気づけば俺たちの距離は、お互いの白い息がかかるほどの距離まで縮まっており──。
「お前の今夜を、私にくれないか?報酬は渡す。…これは、前金代わりだから、気にするなよ──」
俺の視界には、頬を赤く染めたテキサス以外何も見えなくなっていた。
「いいや、生憎コイツの予約は埋まっている。悪いが他のヤツを当たれ」
その声と同時に、テキサスが離れていく。そして俺の腕に感じる体温。そこに目を向けると──。
「隊長!」
「お前。あそこは走って追いかける所だ、何をこんな所で道草食ってる!しがみついてでも追い縋れ!」
「ごめんなさい!!」
鬼の顔をした隊長が説教しながら腕の拘束を締め付ける。痛い!すごく痛い!万力ってくらい痛い!
「…追い縋ってるのは、どっちの方だ」
「フン、こうでもしないとコイツに悪い虫が纏わりつくからな」
「いつも一緒に仕事してるんでしょ?今日くらいはあたし達に譲ってよ…」
「譲ったら返さないだろうに」
今の交わされた四回の会話、その間にもずっと腕が締め付けられてたんですよ。それでですね、今なんと腕の感覚が無いんです。
これ以上絞められると本当に俺の腕が落とされそう(文字通り)なんで。
「逃げるんだよーーッ!」
「え、うわ!?」
「は?」
「…!」
俺はすぐさま隊長を横抱きにし、龍門をすたこらさっさと駆けていった。
「……何アレ、何アレ何アレ何アレ何アレ」
「──“シラクーザスラング”!!」
この日ペンギン急便は、過去最高の売上を達成した。その理由は誰も知らない。
「──はぁ、はあ!」
「おい、もういい…降ろせ」
「そうっすね…!」
いつもは子供で賑わう公園。しかし今はその小さな利用者達は自宅でパーティをしているのか、俺たち以外には誰もいなかった。
静かにチェン隊長を降ろして、俺はすぐさま──。
「──すいませんでした!!」
勢いよく頭を下げる。辺りに人がいなかったのが幸いだった。こんな姿、情け無くてしょうがない。
だけど、これだけはしなくちゃいけなかった。
「俺、馬鹿だから分かんないんです。だけど、チェン隊長を怒らせる様なことをしてしまって、本当に後悔してて…俺から今日、誘ったのに、不快な気持ちにさせてしまって…すいませんでした!!」
何度も謝る。たとえ受け入れられなくてもいい。だけど、気持ちだけは伝えたかった。
しばらく沈黙が続き、諦めかけたその時。
「──ひとつ条件がある」
チェン隊長が、口を開いた。俺はその言葉に、希望を抱く。
「はい!なんでも言ってください!」
「今なんでもって言ったか?」
「え」
「ごほん。…忘れろ」
そう一息つき、チェン隊長は普段では考えられない程の、か細い声でひとつ呟いた。
「二人の時だけ…私とお前しかいない時は、私を一人の女として、見て欲しい」
……どゆこと?
「…それは、えっと…例えば?」
「え!?言わせるのか、それを!?」
何をさせようとしてんの!?隊長に口に出せない様なことしたくないよ俺は!
「……た、例えばだな。私を名前で呼ぶとか」
「え?でも、いつも呼んでますよね?」
「『隊長』がついてるだろう。それ抜きで」
「何でそんな居酒屋みたいに…えっと、チェンさん?」
「〜〜〜っぐあああっ!!」
そんな苦しむ!?そんなだったら何で言わせたの!?顔もめちゃ赤えし!
慌てふためく俺を他所に、チェン隊長──チェンさんは口元を抑えて荒ぶる息を整えていた。
「こ、これは…」
「あの!やっぱやめとき」
「やれ」
「チェンさーん!」
「うっ…!」
無理だ。急に怖くなるのは無理だ。断れないよボク…。そんな事を二度三度続けていると、チェンさんは一時停止を申し出た。
「…はぁ、はぁ、腕を上げたな」
「なんの?」
「よし、一先ずはこれで良い。次の要望だが…」
「まだあんの?」
「先ずは他の女の連絡先は消してもらおう」
「え」
「さっきの事と言いやはりお前には悪い虫が付きすぎる。ペンギン急便のはまず消せ。な。してなかったら交換するなよ次は本当に無いからな。無論ロドスのオペレーターもだぞ。あのアビサルハンター…とか言ったか、極力関わるなよ。アイツはヤバい気がする。何かはわからんがな。あと距離感も考えろなんか近くないかあいつと。この前お前らを見かけた時にびっくりしたんだからなびっくりしすぎて涙が出た。それはもう涙が出た。海ができるんじゃないかと思ったよ、ははは。笑うな(豹変)。というかもうロドスには行くな、こちらから用事がある時は他の暇な奴を行かせるからな、ごめんな今まで気を回せなくてこれからはもうずっと一緒だからなまあホシグマはいるが良いだろうむしろ偶には私達の仲睦まじい所を誰かに見せつけないと飽きてしまうかそうかそれなら見せるだけだな言っておくが浮気は許さんぞあくまでも見せるだけだ良いかもう一度だけ言っておく浮気はダメだ、一人の女として見てくれるんだろそれならそのくらい当然だから頼む裏切らないでお願い────」
「チェンチェンチェンチェンチェンチェンチェンチェンチェンチェンチェンチェン!!!!!!!(悪霊退散)」
「はわわわあああああああ!!?」
な ん だ こ れ。
「とりあえず…名前で呼ぶんで、勘弁してくださいね」
「うん…あと、手も握ってほしい…」
「はい、どうぞ」
「えへへ…!」
お許しをもらえたので、ひとまず安心した。流石にアレは無理だ。第二のモスティマになるのを防げたので僕は満足です。
手を握り返し、にぎにぎとされていると、視界の端にちらほらと白いものが見えた。
「…雪」
「ホワイトクリスマスですね」
イブだけど。二人ですっかり暗くなった空を見上げる。イルミネーションの光を反射する、その雪が降る様子は圧巻の景色だった。
「…イラ」
「はい?」
「もう一つ頼みがある」
「ええ!?」
もうやだよ、あんなの!
そんな想いを込めてチェンさんを睨むが、それを彼女はふっと笑い頭を振る。
「あんなやつじゃないさ。ただの、お願いだ」
「…なんです?」
「──私より先に、死なないでくれ」
しん、と雪が降る音だけが響く。冷たい空気に曝されたその言葉は、震えていた。
握られる手は力無く、先ほどとは違い僅かにしか強くならなかった。
「──嫌です」
だが断るがな。
「…何故だ」
「俺だって、チェンさんの死ぬ所なんて見たくも聞きたくもないですから」
「……私は感染者だ、命を落とすリスクはそうじゃない者と天地の差がある。それに職業柄、いつ何が起こるのかわからない。早死にするのは私の方だ」
「でも嫌です」
「──そんな事を、言わないでくれ…!」
「ですから、死ぬ時は一緒です」
「え…?」
「一緒に死にゃあ、どっちも残されずに済むでしょ」
そう言って、俺はチェンさんに笑いかけた。
…こうは言ったが、俺はチェンさんを死なせるつもりはない。もし、どちらかの命を犠牲にしてどちらかが生き残るんだったら、それは俺じゃなくチェンさんであるべきだ。
だから、これは小さな嘘。最初で最後の、嘘だ。
(ごめんなさい、チェンさん)
俺は深いため息を吐く。白くなったそれは、真っ暗な空に消えていった。
「──ただいま、イラ!良い子にして待ってたか……」
「メリークリスマ〜ス!」
「…メリークリスマス、ホシグマ」
ぱんぱん、と乾いた音が近衛局オフィスに響いた。俺は目の前で呆けているホシグマ副隊長を見て企みが上手くいった事を喜ぶ。
「は?」
「あはは!初めて見ましたよ、副隊長のそんな顔!」
「え…?イラ、何で…?今夜は、私と二人…?」
「サプライズです!今夜はチェン隊長とホシグマ副隊長と俺の三人でパーティーですよ!」
「は??」
「プログラムとしては、まずご飯食べて、その後ドキドキ!プレゼントタイムです!あ、俺が勝手にプレゼントを持ち込んだんで、そこは大丈夫ですよ!」
「は???は???は???」
「……イラ、本当にお前私がいて良かったな。もう少しで食い散らかされてた所だぞ」
「え?どういうことですか?」
「…いや…まあ良いか。何でもない」
呆れた様に呟くチェン隊長。…まいっか!パーティの準備しよー。
「ホシグマ、気持ちは分かる」
「──なぁ、私はいつまで焦らされれば良いんだ?」
「…痛いほど分かるさ」
「……なあチェン。この際しょうがない。──二人で喰わないか?」
「……ダメだ、嫌われるぞ。準備をしていない今、監禁してもイラの筋力なら突破されるだろう」
「………ふううううう……」
「ふったりっともー!準備できましたよーん!パーティーやりましょやりましょー!」
「………」
「………」
…え、何この威圧感。とても今から楽しむ雰囲気とは思えないんですけど…。
「──ああ、そうだな。やろう…!」
「やるんだな、ホシグマ?今、ここで…!!」
そんな迫真の心構えいらないって!なになになに!?怖えよ!
──そんなこんなで、席に座り。手にしたグラスをかち合わせ。
「「「メリー・クリスマス!!!」」」
近衛局にて、三人だけのパーティーが始まったのだった。
イベントストーリー沿いの話とか見たいですか?
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