オペレーターに勝ちたい! 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「…と、言うわけで。これで龍門郊外に出現した感染生物の報告は以上となります」
目の前の黒いマスクで顔を包んだ、ロドスの制服を羽織っている、一目で怪しいと分かる男──ドクターが満足気に頷いた。
俺は今、ロドス・アイランドの執務室に来ている。近衛局とロドスのオペレーターとの龍門郊外での合同作戦の報告のためである。
「ありがとうございます、イラさん。今回の作戦は龍門近衛局の皆さんのおかげで成功しました」
そう嬉しそうに微笑むコータスの少女──アーミヤが、その長い耳をぴこぴこ跳ねさせた。その笑顔を見れただけで俺も作戦に参加した価値がある。…と面と向かって言えれば格好は付くのだが、いかんせんこの少女──ロドスのトップらしい。故に下手な事を口走った瞬間、俺の首はポンだ。いつも気を張ってしまう。
「いえ、私達は微力ながらお力添えをしたまでです。今後とも、私達近衛局を宜しくお願い致します」
「むう…何処か距離が遠くありませんか?」
ドクターもその言葉に頷く。俺はそれに苦笑いで返した。当たり前だろ。普段の俺で喋ったら、近衛局は多分三回くらい終わるぞ。そんくらい俺は今頑張ってるんだぞ。
「──いつかは君と対等に喋りたい──と、ドクターも仰っていますよ」
「…了解しました」
いや今声出してなかっただろ。何で言ってること分かってんだ。夫婦か?熟年タイプの夫婦か?
「あ、ドクター。肩に書類が付いていましたよ。これ今日までに終わらせて下さいね」
違った。新人が仕事終わらしたタイミングを狙って新しい仕事押し付けるタイプの上司の観察眼だった。愛なんか微塵もねえや。というかなんだその仕事の押し付け方。こじつけにも程があんだろ。ああ…ドクターが干からびてる…。
「で、では私はこれで。失礼しま──」
こちらに手を振るアーミヤさんと、こちらに手を伸ばすドクターに会釈をし、退出しようとしたその時──。
「…入るわ」
銀髪の髪を一つに纏め、自分と同じくらいの大きさの大剣を背負った美女──、スカジさんが執務室に気怠げに入ってきた。すると、彼女はその赤い目をこちらに向ける。
「…イラ。貴方も報告?」
「あ、はい!スカジさんも任務お疲れ様でした!」
スカジさんと話していると、アーミヤさんが驚いた表情を見せた。
「え?イラさんとスカジさんはお知り合いだったんですか?」
「はい、前にちょっと関わることがあって。その時に知り合い──」
「知り合いじゃないわ。友達よ」
……。静まり返った執務室に、ふんす!と鼻息が響く。
「──友達になったって感じっすね、はい」
「は、はあ……」
「いえ、もう友達なんていう言葉じゃ語れないわ。ベストオブ友達。友達の中の友達。永遠の友達なの」
全部友達じゃねえかよ。…そう、このスカジさん。実は、友達が一人も居なかったらしい。初めて出会った時、ロドスの訓練室で一人で筋トレをしていた。そこに喋りかけてみたら、なんやかんやあって友達に。その時の一言は忘れられない。
【私は今まで心を誰にも許さなかった…でも、今は違うわ。貴方だけは特別。私の全てを海のように受け止めてくれる…『友達』よ】
それを聞いた俺は涙が出そうになった。
ああ…この人友達居ねえんだなぁ…と。
そこから俺は奮闘した。スカジさんを色んな所へ連れ回し、時には一緒に訓練をし、とにかく普通の友達としての楽しさを教えた。その成果が出たのか、俺の前では花が咲くような笑みを見せてくれるようになり、無事にスカジさんと友達として遊べるまでに至ったのだ。…長かったなあ…。
「彼は凄いのよ。色々な食べ物を知っていて、彼とそれを食べると冷たい体がぽかぽかしてくるの」
私は食事は栄養が取れれば良いの。とかほざいてたから、無理やりジェイの屋台に連れ回してラーメン食ったなあ…。ラーメン来る前は興味なさげだったのに、いざ目にした瞬間目がキラキラしてた。
「そして私と正面からぶつかり合って、互いの心を伝えたりもしたわ」
訓練の時に、やけに俺の方を見てくるから、一緒にやりませんか?って誘うと本気で剣振り回してきた。何で善意が殺意で帰ってくるのか分かんないけど、まあこれもコミュニケーションの一環だろう。
「満点の夜空を見ながら寄り添ったりもしたわ…。幸せとはこういうものなんだって、思ったわ」
その時気温が低かったからかな、隣でスカジさんが可愛らしいくしゃみしたんだよ。だから上着を着せてあげたんだけど、それでも寒かったのか体を寄せてきた。で、そのままスカジさんは寝てた。
まあ、こんくらいかな。俺がやった事といえば。
「──スカジさん?それって友達っていうより……」
アーミヤさんがドクターに口を塞がれる。何してんだ。アンタ仕事増やされるぞ。
「イラ?次はいつ、どこへ遊びに行きましょうか。私は貴方と居ればどこへでも良いわ。一緒の日に休みを取りましょう」
「あー…、そうですねー…。──あ、あの…スカジさん…」
「なあに?」
可愛らしく小首を傾げるスカジさんに、俺は
「たまにはね、えっと…そう、俺ばっかじゃ飽きるでしょ?」
「…?何を言っているのか分からないわ。もっと遠慮なく言って」
「…えっと。俺以外の人と遊んでみてはどうかなぁ、なんて…」
「…?何を言っているのか分からないわ」
ずっとおんなじことしか言わないじゃん、バグかな?
…そう。この人。他に友達が居ないため、俺以外と交流が無いのだ。俺は失念していた。俺がスカジさんと友達になったらオールオッケーだと思っていた。鼠算方式で友達増えるかと思ってた。しかし、あまりにもスカジさんがコミュ障すぎる。
俺と話す時はこんなんだが、他の人と顔を合わせたらあら不思議。物言わぬ美人の完成である。…違えよッ!俺はもっと他の人とも仲良くなって欲しいのッ!
「長期休暇を取るのも良いわね。一緒にバウンティハンターやってみましょうか?貴方だからこんな事言うのよ。私に一生ついてきてくれるって、言ったものね」
言った。スカジさんに『他の友達ができるまで』ついてくっていった。でも本人が作る気なかったら意味ないじゃん!なんでさ!
じゃあ他の友達作れって言えよって思っただろ?甘いな。
「スカジさん──。俺以外の友達もそろそろ作って下さ──」
「そんなモノ必要ないわ」
「ええ…?」
こうなるの。急に殺気出してくるの。ああほら、気温が下がってきた。友達できて嬉しいのに、友達要らねえってなんだよそれ。
「私が必要としているのはイラだけで、イラが必要としているのは私だけ。そうでしょう?友達はそういうものなのよ。私が初めての友達だから分からなかったのね。しょうがないわ、これから私と覚えていけば良いもの」
今俺のことディスったよね?自分のこと棚にあげて俺のことディスったよね?泣かすぞお前。
「…と、とっても仲がよろしいんですね…」
アーミヤさん?顔が引き攣ってますよ?ドクターも落ち着くために理性回復剤吸おうとしないで。あ、アーミヤさんにシバかれた。
するとスカジさんは手を叩き、こちらに笑いかけた。
「そうだ!私と一緒に、海に行きましょう…。私が貴方と出会う前に、よく行ってた落ち着ける海岸があるの。そこで──」
「あ、無理です」
…場が静まる。スカジさんは笑った表情のまま、凍りつく。アーミヤさんは信じられないものを見る目で俺を見る。ドクターは机の下に隠れていた。
「……むり?」
ぽつり、と呟く。
「むり?むり。むーりー、むり…。むり…」
壊れた。スカジさんが壊れた…!おいおいおい、ちょっとヤバい壊れ方してんぞスカジさん!?無理しか言えなくなってる!?
「…え、ええ、そうよね。そう。分かってたわ…!そんな事だろうと思った。どうせわたしはひとりきりなの、しってたわ…」
「──イラさんっ!なんてひどい事言うんですか!?女の子に──最低ですっ!」
「え!?」
壊れたの俺のせい!?普通に断っただけなんですけど!?
「しずむか。うん。そうしましょ」
「あああああ早く止めて!理由を説明してあげて下さい!!」
「ちょ、止めるって──」
俺はアーミヤさんに言われるがままスカジさんの前に押し通される。ふらふらとおぼつかない足取りで、スカジさんは俺の胸元に頭を預けた。
「あれ?いら。いらのにおいだー。あんしんする」
「…あ、あの。す、スカジさん?」
「──けどもう、これはてにいれられない…だって、ともだちじゃないから…。…と、友、だっ……ちじゃああっ!無くなっ、ひぐっ、た!からぁ!!」
「泣いちゃった!?」
スカジさんは子供の様に泣き始めた。そこで俺はようやく壊れた原因を知る。スカジさんは俺が即答で否定したから不安になったんだ。「自分は友達じゃなくなった」って。…バカか俺は。
そっと、スカジさんを抱きしめる。
「──スカジさん。泣かないで下さい。俺は別にスカジさんの事は嫌いになんかなってませんよ。これからも絶対に嫌いになりません。ずっと、友達です」
「…ぐすっ、でも。すぐに無理って言ったから…」
「あー…それはですね…」
俺は少しの羞恥心と共に、その理由を答えた。
「俺、泳げないんです」
「……え?」
俺はカナヅチだ。膝くらいまでの高さの水は何とかなるが、胸まで浸かったら俺は溺れてしまう。だから極力水辺には行かない様にしてるし、海なんかもってのほかだ。海を見た時点で足がすくんで動けなくなる。
だからチェン隊長にも、海辺の作戦には出さないようにお願いをしてもらうほどだ。海岸なんて行った日にゃ俺死ぬんです。マジで。
そう説明する。すると、スカジさんは俺の背中に手を回してきた。
「…もう、二度と紛らわしい事しないで」
「…はい。すいませんでした」
「絶対よ?」
「…は、はい…ッ」
ぎちぎちぎちぎち。これは俺の胴体から鳴ってる音です。間違いなく鳴ってはいけない音が聞こえますね?助けて下さい。アーミヤさん、そんな、いい話だなあ…的にハンカチで涙を拭いている暇があるんだったら助けて下さい。
ドクターも頷きながら軽く拍手しないで下さい。いいんすか?俺死にますよ?二等分になりますよ俺?
「──そうと決まれば」
静かに俺から離れるスカジさん。その目には、静かに燃える決意が宿っていた。…ん?
「イラ。特訓よ。私が必ず泳げるようにしてあげるわ」
「……ええええっ!?い、いいですいいです!」
「そんな遠慮しないの。これは必要な事よ。もし天災の影響で、津波に巻き込まれたらどうするの?」
「うっ……そ、それは…」
「それに、私と海に行けないままでは困るでしょう?」
「あ、それは大丈夫です」
「──うっ、ぐすっ…!」
「あーー!めちゃくちゃ泳ぎを教えてもらいたくなってきたなーー!どこかに泳げる銀髪美女が居ないかなぁーッ!?」
「!…ぐす、任せなさい…!私が一人前のバウンティハンターにしてあげるわ…!」
「はっはーん!ばっちこーい!(ヤケクソ)」
…こうして、俺は訓練所でスカジさんに泳ぎを教えてもらう事になった。因みに水に入った瞬間パニクって溺れました。目が覚めたら頬を赤らめたスカジさんが口に手を当てて流し目でこちらを見ていました。
二度と水に入らねえからなボケが。
【──えと。もし良かったら…一緒に訓練しませんか?】
どれだけ突き放しても食いついてきた。
【ち、力つっよ…!嘘だろ…ホシグマ副隊長よりも…?】
どれだけ逃げても追いかけてきた。
【スカジさーん!昼飯食いましょーう!…え?それゼリーじゃないですか!駄目っすよ固形の美味いもの食べないと!ついてきて下さい!ジェイってやつがめちゃ美味い屋台を──】
どれだけ抵抗しても引きずられた。
【スカジさん…コミュ力鍛えましょうよ…。せっかく生きてるんだから、人生充実させた方が良いでしょ?】
どれだけ隠れても探し出してくれた。
【──俺は大丈夫です。貴女をひとりになんかさせません。絶対に。だって俺は、貴女の──】
親しい、愛しい──。
【友達ですから!】
──友達。
今日の勝負──イラの大負け。
活動報告に書いて欲しいオペレーターとかあったら書いてください。よろしくお願いします。あと濁心スカジください。よろしくお願いします。