オペレーターに勝ちたい!   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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公開求人で上級エリートタグに初めてお会いしました。
ナイチンゲールがやってきました。ああ…また昇進素材集めだ…。


我ら、マゼラン探検隊!その二

「おおお…!美味そうだなあ、この果物食べれんのか!?」

「毒」

「お酒に酔った感覚になって、最終的に脱水症状になるから食べたらダメだよー」

 

思いっきりその赤い果物をぶん投げる。あっぶねえな本当に。

島に上陸した俺たちは、早速探検を始めた。今回の目的は地図を埋め、そこにどんな生物が生息しているか、またどんな環境でどのような建造物があるかなどを調べる事である。

横ではマゼランがタブレットに一生懸命何かを記録していた。少し覗いて見ると、hPaだとか何パーセントだとか難しそうな事が書いてある。さらにアスベストスもいつものふざけた態度ではなく、真剣な目で手にしたノートと植物を交互に見比べていた。

た、探検家っぽい…。よ、よし、俺も…。そばにあった花を重々しい表情で見てみる。青い薔薇のようだが、実は新種の花なのでは?ボブは訝しんだ。一本引っこ抜いてじっくりと観察していく。

 

「ふうむ、これはまさか、まだ図鑑に載っていない──」

「それも毒」

「花の匂いを嗅いだら酩酊状態になるから気をつけてねー」

 

思いっきりその花をぶん投げた。もうやだ。

 

「──ふう、ここ付近には新しいものはなさそうだねー」

「ああ、気温も地質も平均的だ。チッ、面白くねーな」

 

タブレット端末から顔を上げ、アスベストスに呼びかける。アスベストスは首を鳴らしながら持っていた植物を投げ捨てた。

 

「もっと奥に進んでみるか」

「そうだねー。キャンプ地も決めときたいし。イーちゃん、行くよ!」

「あ、ハイ!」

 

強かな女性たちは先へ進む。俺は急いで後を追った。

 

 

 

 

「ここ良いじゃん!ここにしよー!」

「おっしゃー!」

 

鬱蒼と茂った林の中を歩いていると、開けた場所にたどり着いた。近くには湖もあり、確かにキャンプ地とするには充分だろう。俺は三人分のテントを下ろし、息を吐く。

 

「じゃ、テント張ろっか!」

 

マゼランのその声で各自各々のテントを建てていく。俺が買ったのは『デカイ!安い!簡単!クロージャ印のキャンプ用テント』だ。クロージャにオススメされ、更に特典まで付けられたので購入した。お値段130000龍門弊と少し高かったけど。まあどうせなら高くて長く使えるものを買っといたほうが良いからな。

説明書を読みながら組み立てていく。確かに組み立ても簡単で、十五分程度で完成した。

 

「おお…良いねえ」

 

中に入ると、確かに広い。一人で使うには十分なスペースである。そこに荷物を置き、ひとまず俺の寝床はこれで完璧だ。

外に出て二人のテントを見に行く。まずはマゼラン。一人用の黄色いテントを張り、今はアウトドアチェアに座ってドローンの整備をしていた。

 

「──あれ、イーちゃん。もう張り終わったの?」

「おう、見てみろあれ。良いだろ〜」

 

目を丸くするマゼランにドヤ顔で応える。

 

「お、良いの持ってるね。でもちょっと大きいんじゃない?」

「そうなんだよ、明らかに三人分くらいあるんだよなあ…」

「あはは…まあ良いじゃん、のびのびできるって事で!それに、あたしのテントが壊れちゃった時はお邪魔できるし!」

 

悪戯な笑みを浮かべるマゼランに、思わずこちらも苦笑してしまう。いやいや、まさか。そんな急にテントが壊れるわけが無いだろうに。

そうだ、アスベストスのテントはどうなってるんだろうか。ちょっと見に行ってこよう。

 

「じゃ、俺アスベストスのも見てくるわ」

「はーい!」

 

にこやかに手を振られてその場を後にする。あいつは離れたところにテントを建ててたな。一緒に建てりゃいいのに…。性格の問題が出てんなアレ。

少し歩くと、アスベストスの背中が見えた。しかし、そこにはテントの姿が見当たらない。あれ?まだ建ててなかったのか。

 

「おい、アスベストス?お前テント建ててねえじゃん、どうしたんだよ」

「……」

 

その言葉に反応したアスベストスは、ゆっくりと俺の方を振り返る。その表情は、無であった。

な、何だ…?と不審に思っていると、アスベストスが何かを持っていることに気づいた。よく見るとそれは布切れのようなもので、ずたずたに引き裂かれている。…あれぇ?もしかして──。

 

 

 

「──テントぶっ壊れた」

 

「ええええええ!?」

 

 

 

 

話によると、テントを張ろうとしたアスベストスは珍しい生き物を見つけたらしく、少しその場を離れてしまった。そして帰って来たら、現在進行形でテントが野犬に食いちぎられている最中だったのだ。

すぐに野犬は追っ払ったが、テントが壊されてはどうしようもない。さてどうするかと考えていた時、ちょうど俺がやって来た──。これが、今回の騒動の一部始終である。

 

「クソが!!あの犬っころども次見たらマジで殺してやる…!」

「あーあ、だから俺たちと近い所で建てれば良かったのに」

「うるせぇ!」

 

げしげしと細い足で俺の足を蹴る。はっはっは、効かん効かん待て脛は痛い辞めて爪先で蹴らないで。

悶絶しながらも、俺はアスベストスに質問を投げかける。

 

「なあ、お前どうするんだ。このままだと寝場所が無いけど」

「…ハァ。ま、良いさ。アタシゃ木の上でも寝れっから──」

 

そう言ったアスベストスはさっさとランタンなどを持って木に登ろうとする。…マゼランと俺がテントで、アスベストスは木の上って…。なんか可哀想だな。どうにか手は──。

 

 

 

 

「………あ」

「あン?」

 

 

 

 

「あったわ、手」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん、な、ななななな──」

「いらっしゃーい」

 

 

そうだった、俺のテントデカいんだったわ。何で早く気がつかなかったんだ。

中にアスベストスの荷物を入れる。その荷物の持ち主はいつものジト目を見開き、顔は紅潮していた。尻尾もうねうねと波打っている。どうした、あの果物食ったか?

 

「ちょ、ちょっと待て!お前、マジで言ってんのか?アタシにテントに入れって事は──アタシにテントに入れって事か!?」

「何で二回言ったんだよ」

「いやいやいやいや、それはおかしいって。考え直せマジで」

 

首を振るアスベストス。しょうがないだろテント無いんだからお前が。可哀想じゃん。

 

「だからって、あ!そ、そうだ、アタシみたいなろくでもねーヤツと一緒に寝るのなんか嫌だろ?な?だから──」

「いや、俺はアスベストスのこと嫌じゃないし、むしろ好きな方だと思うけど…」

「ははぁぁはあはいぃぃぃ!?」

 

目がぐるぐるしてらぁ。尻尾も赤くなっており、落ち着きなく動き回っている。頼むから爆炎モードは辞めてね?

 

「ま、マジに言ってんのかよぉ…!こんな事ならもうちょい、こ、心の準備ってやつが──!」

「────ふーん、いい御身分ですなぁアスちゃん」

「う…ま、まぜらん…!」

 

入り口には頬を膨らませたマゼランが居た。その姿を見て、よりしどろもどろになるアスベストス。

 

「ま、私のテントは一人用だし、いいんじゃないかな?一人用だけど」

 

だから何でお前ら二回言うんだよ。流行ってんの?それ。

 

「ふん、そろそろご飯の用意するから、二人とも手伝って!」

 

そう言ったマゼランはおたま片手に怒った様子で出て行った。なんで?すると、アスベストスも寝袋をセットして、こちらを睨みつけた。

 

「──言っとくけど、なんかしたらコロス」

「何もしねえよ…」

「は?」

「何で怒ったの!?」

 

ふん!と鼻を鳴らしながら、アスベストスもテントから出て行った。残された俺は、一人呟く。

 

 

 

 

 

 

「よ、よくわからん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

少し早い夜飯を食べた後、俺たちは明日どう動くかを話し合っていた。

 

「とりあえず、もう少し奥の方まで行ってみるって感じで良い?」

「ああ。ま、何もねーと思うけどな」

「任せろ!バンバン新しいもの見つけてやるぜ!」

 

腕をぶんぶんと振りながらやる気をアピールする。今日は毒物しか触ってねえからな、明日こそは…!

その姿を見たマゼランは苦笑を浮かべ、アスベストスは鼻で笑った。何だお前ら。

 

「じゃ、そろそろ寝ようか」

「え、早くね?」

「明日何が起こるか分からないからね。早めに休息を取るのが、一流の探検家なんだよ」

「えぇー、せっかくジェンガとか持ってきたのにー」

「お前…。ピクニックかなんかと勘違いしてるだろ…?」

 

リュックからジェンガやトランプを取り出し始める俺を残念な子を見るような目で見下すアスベストス。パーティグッズは基本だろ?やれやれ何言ってんのか。

そう思っていると、アスベストスがぐいっとコーヒーを飲み干した。そして椅子を立ち、テントに向かう。

 

「寝るわ」

「ええ…?」

 

そのマイペースさに困惑してしまう。うそだろ?今からジェンガする流れだったじゃん。そんなにやりたくなかったの?

 

「……イーちゃん。…ジェンガ、やる?」

「…うん」

 

この後めちゃくちゃジェンガした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…まさかドローンを使って同時に八つ取りするなんて…アイツも大胆になったな…」

 

テントの中に入り、寝袋のチャックを開ける。横ではアスベストスが静かに寝息を立てていた。…こいつも疲れてたのか、無理もない。いつもとは違って、素人の俺が居るんだからな。余計に気が張ってしまうだろう。

 

「明日も頼むぜ、アスベストス。おやすみ」

 

そう静かに言って、俺は寝袋に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(…?寒いな…)

 

寒気を感じて目を開ける。今の季節は春が終わる頃。涼しい風はあっても、寒気がするほどの寒さは感じられない筈だ。そんなことを考えているうちに、体温は徐々に低くなっていく。

これはいけないと、寝袋に深く潜り込み、寒さから身を守ろうとする。身を捩った摩擦で、テントからパリパリ、と言う音が鳴った。

 

 

(────嫌、おかしいだろそれは。何で氷が割れた音がしてんだ──!!)

 

 

即座に跳ね起き、テントから顔を出す。

俺たちが滞在している島に、雨、雪、霰が降り注ぐ。強い風が吹いており、木々は揺れ、黒い雨雲はどんよりと島全体を覆っていた。突然起こる異常気象、それは──。

 

 

「天災か──!」

「イーちゃん!」

 

マゼランが焦燥の顔で隣のテントから出てくる。

 

「イーちゃん、テントを捨てて逃げよう。このままだとテントごと凍え死んじゃう!」

「でもどこに逃げるんだよ!?」

「大丈夫。お昼にあたしのドローンで洞窟を見つけといたから、そこに行くよ!」

「さっすが隊長!」

 

言うが早いが、俺たちは荷物をまとめるためにテントに戻る。今も寒いが、耐えられないほどではない。寒さがひどくなる前に急いで整理をしていると、ふと横でまだ眠っているアスベストスに目が行く。

呑気だな全く!今死にそうだって時に──!そう思い、俺はアスベストスの体を揺らし、起こそうとした。

 

「おい、おいアスベストス!起きろ!天災が来た、このままじゃ──」

「はあぁっ……!はっ、はあっ…!」

「──アス、ベストス?」

 

アスベストスの様子がおかしい事に気づく。その小さな体をさらに縮こませ、堪えるように震えている。元々白かった顔は、真っ青になっており、その血色が悪くなった唇からは、カチカチと歯が震えている音が聞こえていた。

 

 

「──おいッ!しっかりしろ!!」

「う、う……」

 

(何でだ…!何でこいつはこんな極端に寒がってるんだ!?何か変なものでも口に──いや、専門家がそんなヘマやらかすわけ無い…)

 

「イーちゃん、準備終わった!?」

 

マゼランが俺のテントを開ける。その服や髪には霜が降りており、先ほどより寒さが強くなっているのが目に見えてわかった。

 

「アスベストスがやばい!何でかは分からねえけど!」

「え──。アスちゃん!?」

 

驚愕の表情でアスベストスを見るマゼラン。しかし今はここで立ち話している暇は無い。俺はアスベストスを抱え、マゼランに指示を促した。

 

「道案内頼む、今頼れるのはアンタしか居ないんだ、隊長!」

「──!まっかせてーっ!!」

 

マゼランに続き、俺たちは極寒の環境へ飛び出した。

 

 

 

 

 

マゼランの案内で、洞窟へたどり着く。しかし、未だ悪天候は止む様子は無く、むしろ更に強くなっていた。

 

「これからどうするか……」

 

アスベストスの容態は悪化していっている。マゼランが診てくれているが、医療道具がない状態で原因が分かるとは考え難い…。

 

「うーん、これは…」

「何か分かったのか?」

 

マゼランに駆け寄る。一つ頷き、彼女は口を開いた。

 

「多分──種族の問題だね」

「…種族?」

「うん。アスちゃんはサヴラだから、爬虫類に似た子なの。爬虫類は変温動物だから、急な温度の変化に弱いんだ」

「な──、大丈夫なのか…?」

 

マゼランは顎に手を当てる。

 

「…どうだろう。とにかく体を温める事くらいしか今の私達にはできない。ランタン持ってきて!その他灯りも!」

「分かった!」

 

慌ただしく音を立てながらも光源をアスベストスの周りに置き、少しでも気温を上げようと試みる。

しかし──。

 

 

「はぁ…!はあ…!」

 

「──ダメだ、全然あったかくならねえ!」

 

 

ちっぽけな灯りでは彼女の体温は上がる事は無く、徐々に下がっていってしまっている。

 

「マゼラン、ドローンでどうにかできないか?」

「あたしのドローンは冷やす専門だから…!」

 

何もできない自分に腹が立つ。

 

(考えろ、考えろ。じゃないと友達がまた死ぬぞ。知恵を絞れ、そのクソみたいな脳みそフル回転させろ…!)

 

勉強した知識を呼び起こす。遭難した時の対処法、寒さ対策、暖かくする方法──!

 

 

「…あった」

「え?」

 

 

マゼランが困惑した声を上げるが、それに構わず俺は──服を脱いだ。

 

「え、え!え!?わわわわわ!何してんのイーちゃん!?頭おかしくなった!?」

「これだマゼラン!人肌だよ人肌!」

 

そう言うや否や、俺はアスベストスに抱きついた。その小さな体は鉄のように固く冷たくなっている。大丈夫だ、今俺が温めてやるからな。

 

「え、ちょ、ちょっと…!」

「うう…?う…」

 

温度を感じたのか、唸りながらアスベストスが俺の胸元に潜り込んでくる。よし、作戦成功だ…!黒いインナーに覆われた背中に手を回し、さすってやる。

 

「マゼラン、お前も来い!一人より二人、二人より三人だ!」

「え!?」

「早くしろ!アスベストスが死んだらどうすんだ!?」

「──っ。ああもう!どうにでもなれーっ!!」

 

 

 

すぽぽぽーん。

 

 

 

 

「…ううう、まさかこんな事になるなんて…!」

「ああ、でも見ろ。アスベストスの顔色がちょっと良くなり始めたぞ」

「いや、そう言う事じゃなくてぇ…!」

 

赤面しながら俺と川の字の状態でアスベストスを挟む下着姿のマゼラン。うむ、赤面って事は体温が高い証拠だな。

 

「う…すぅ…すぅ…」

 

アスベストスの寝息も安定してきた、よし。この調子だ。より温度を上げるため、俺はマゼランの背中に手を回す。

 

「んっひ!ア、アーちゃん…!」

「もうすこし引っ付くぞ」

 

アスベストスは今俺の胸元に頭を埋めており、その背後からマゼランがカバーをしてる状態だ。完璧すぎるなこの陣形。とりあえず現状維持で良いだろう。一息吐き、マゼランと目が合う。

 

「…俺が言うのも何だけど、良かったのか服脱いで。お前も寒いんじゃ…」

「ううん、あたしは寒いのは強いから…」

「そっか…悪いな」

「大丈夫だよ…」

 

静まる場。アスベストスの寝息が洞窟内に染み渡る。

 

 

「…ねね」

「あ?」

「もうちょっと、寄ろうよ。まだ寒いかもしれないから」

「あ、ああ…」

 

そう言われた俺はほんのすこし距離を縮めようとした。

しかし、ちょっと冷静になって考えてみたら俺ヤバいことしてないか?寒さで震え、抵抗できない状態の女性に半裸で抱きついて、その友達も脱がせて抱きしめさせた…。アレこれもしかして豚箱行きでは?

街の秩序を守る警察官が性犯罪紛いの事して逮捕されるとか洒落にならんぞ。つかそんな事してみろ、龍と鬼が殺しにくる。

その最悪な未来を予想してしまった俺は、アスベストスから離れる事にする。あとはマゼランに任せて、俺は外の様子でも見ておこう。そう決断し、そっと距離を取る。

 

 

「──だめだよ、イーちゃん」

 

 

マゼランはそれを許さなかった。俺の首に手を回し、無理やりその頭二個分ほどの距離を更に縮める。視界には黄色の瞳が一面に広がって、他の物は何も見えなくなった。

 

「ま、マゼラン。俺が間違ってた。世間一般的に考えて付き合ってもない男女が裸で抱き合うとかあまりにも不純すぎる。しかも俺はそう言う奴らをしょっぴく側だから余計に不味い。離れよう」

「ばれなかったら大丈夫だよ…」

 

いつからそんな悪い子になったの!お母さんそんな子に育てた覚えないわよ!!

マゼランがとろんとした目で徐々に距離を詰めてくる。その口は最短ルートで俺の口に辿り着こうとしていた。…いやいやいや待て待て落ち着けお前死ぬぞ俺がやめて、ヤメロォ!!

 

「…いやなの?」

「いや、嫌ってわけでは無いんすけどね?立場的に不味いですしこんな状況でムードも何も無いですしマゼランにはもっと良い人が見つかるはずなのでこんな所で乙女の純潔を散らすのは良く無いと思いますし」

 

 

「──じゃあ、しようよ」

 

 

ダメだこいつ無敵だ。どんな言葉でバリケード張ってもその悉くをぶち壊してくるんだけど。

 

「あたし、イーちゃんだったら──いいよ?」

「──うえっ!?え、あ…いや」

 

その一言だけで、マゼランは俺の抵抗する意思を亡き者とした。どうすれば、と視線を辺りに巡らせるがもう遅い。目の前の狩人はその隙を見逃さず、そのまま顔を近づけて────。

 

 

 

 

 

 

「────イッキシィ!!」

 

 

 

 

 

アスベストスの甲高いくしゃみが洞窟内に響き渡った。それで先程までのしっとりとした空気が晴れ、俺は弾かれたように離れる。……あ、危なかった…!マゼランのペースに飲み込まれてた…!もうちょっとで俺は龍門に帰れなくなってた…!お、恐ろしいやつ…!

その張本人は、口に指を当て、困った風にアスベストスを見ていた。

 

「…もう、もうちょっとだったのに」

 

もうちょっとって何すか。俺の人生崩壊計画っすか?

不味い、今俺の中のブラックリストランキングに変動が起こってる。三位ハイビスカス二位シルバーアッシュを抜かして堂々のトップにこいつが躍り出た。お前は無害だって信じてたのにっ!

 

「──イーちゃん、こっち来てよー」

 

マゼランが手招きをしてくる。俺にはそれが死神の誘いに見えた。

 

「だ、誰が行くもんか!」

「今みたいな事もうやらないから!アスちゃんがまた震えてるの」

 

目を凝らしてみると、確かにアスベストスが震え始めている。急に俺が離れたせいで温度が下がったのだろう。しかし……。

 

「ほらほら、早く早く」

「…なにもしない?」

「なんにもしないからー」

「……」

 

背に腹はかえられないか…。俺はアスベストスに近づいて、背中を向けて寝転がった。

 

「あれ?そっち向いちゃうの?」

「ああ。誰かさんのワナにハマらないようにな」

「罠って酷いよー!」

 

なんとでも言え。生き残った者が正義だ。

ふん、と鼻を鳴らし、俺は目を閉じる。しがみつくアスベストスの体温を感じながら、眠りの体制に入っていく。元々寝付きが良い俺は、すぐにまどろみに陥りかけていた。

 

「──イーちゃん」

「…なんだよ、お前も早く寝ろ」

 

マゼランが話しかけてくる。

 

「こんな状況に聞くのもなんだけど…あたしの知的探究心なだけでこの質問するから、答えてくれるかはイーちゃんが決めて。不快に思ったなら怒っていいから」

「あぁ?」

「イーちゃんってさ──種族は何なの?」

「俺か?俺はヴァルポだよ」

 

 

 

 

 

「何で────、()()()()()()()()?」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

『──本当にあの人達を見逃してくれるんだよな』

 

『ああ、約束するよぉ。ささ、早く』

 

『────っッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…無くした」

 

 

「──。そっか、ごめんね変なこと聞いて」

「…いや、大丈夫だ。それよりほら、寝るぞー。明日朝早いんだろ?」

「──うん!それじゃ、おやすみ!」

「おやすみ」

 

 

 

 

 

あのクソみてぇな記憶を思い返すたびに、俺の心の中の何かが蠢いて、身体の中に染み消える。──もう済んだ事だ、やめろ。

疑問、悲壮、喜色、歓楽。それら全てがひとつの感情になり、いつもそれがぐるぐると渦巻いている。──今ここでソレを起こすな。二人がいるんだぞ。

理性の指摘は、熱を帯びた俺の頭を冷ますのに効果的であった。一度深い深呼吸をし、次に心を落ち着かせる。そして目を閉じた。

 

(…今は、寝よう)

 

俺は逃げるように眠気へと向かっていく。

 

雨雪はまだ、止む事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止んだーーーー!!!」

「煩えよ!黙って手伝え!」

 

俺は両腕を上げ、叫ぶ。晴天。昨夜の悪天候からは一転、とても良い天気になった。後ろではマゼランとすっかり元気になったアスベストスが荷造りをしていた。

天災が起こった後は源石が落ちている。アスベストスは重度の感染者であるため、これ以上の探検は危険とみなし、即刻帰ることとなった。倒れたしな。

 

「というか、どう帰ろう…海凍っちゃってるよー…」

「そりゃ、ボート押すしか無いだろ。コイツが」

「お、俺ぇ!?」

「ああ?か弱い女の子に押させようってのかぁ?ひっでぇ野郎だな」

「か弱い…?…分かった、押すよ押す」

「それでいーんだよ」

 

ニカッと笑いながらテキパキと荷物をまとめて行く二人。俺はテントぶっ壊れました。なのでフリーハンドです。ああ…130000龍門幣が…。

気を取り直して海を見てみる。一面が凍っており、大規模なスケート場になっていた。これならなんとか俺も怯える事なく押すことができる。良かった。

 

「おい」

 

そう胸を撫で下ろしていると、俺の横にアスベストスが立った。顔を向けると、アスベストスは海の方を向きながら、かろうじて聞こえる声で呟いた。

 

 

「一応礼は言っといてやる。…ありがと」

「────え」

「…な、なんだよ」

 

 

驚愕の表情を浮かべてしまう。だ、だって今、アスベストスが──!

 

「マゼランン!!今の聞いたかぁ!?アスベストスがデレたぞぉ!」

「ばっちり記録済みだよ!!」

「はあ!?オイ、デレてなんか──!てめコラ小娘ぇ!タブレット寄越せぶっ壊してやる!!」

 

わーきゃー騒ぎながら俺がボコボコにされるなんてトラブルもありながら、ボートに乗った俺たちは氷の上を滑っていく。

 

 

「そーいえばここら辺じゃ無かったっけ、アーちゃんが可笑しくなっちゃったの」

「オイ、やめてくれよマゼラン。折角気にしないようにしてたのに」

「赤いドレス──だったか?マジに居るのかもな、そういうヤツが」

「──♪」

「な訳ねえだろ、あーもう、怖くなってきた!スピード上げるぞ!」

「わわっ!」

「オイオイ…ガキじゃねえんだから…」

 

猛スピードで走るボートの上で、マゼランはアスベストスに笑いかける。

 

「えへへ、アスちゃん!」

「ああ?」

 

 

 

「また、この三人で探検しようね!」

 

 

その言葉に、一瞬呆気に取られた顔をしたアスベストスだったが、すぐに鼻でそれを笑い──。

 

 

 

 

「予定が合えばな」

 

 

 

 

こうして、俺たちの探検は幕を閉じた。でもみんな、落胆すんなよ?俺とアスベストスとマゼランの探検記は、始まったばかりだ!!

 

 

 

 

 

 

「──という休暇内容でありました!」

「──ずいぶん楽しんできたな?イラ」

 

龍門に帰ってきた俺は、執務室で怖い顔をしたチェン隊長とホシグマ副隊長に尋問されていた。何で?何で俺自分の有給を上司に報告しなきゃならないの?プライベートって知ってるのかな、隊長ズ…。

 

「こちらは暴動が起こってな、中々抑えるのが大変だった」

「小官も傷だらけだよ。まったく…誰かがいないおかげでな」

 

ダウト。チェン隊長が本気出せば暴動なんてすぐ終わります。なんなら名前だけで投降する奴らも居るんだぞ。どんだけ恐れられてんだよ。

あとホシグマ副隊長の傷は古傷でしょう。アンタの守りが突破できるのチェン隊長レベルじゃないと無理だって。

 

「それに、マゼラン、アスベストス…と洞窟で泊まったんだな?」

「──は、はい。しかし、やましい事は何もしていません!」

「…本当に?」

「……本当です」

「ま、良いだろう。イラ、すぐに仕事に取り掛かれ」

「──はいッ!」

 

あっぶねえええええ!!良かった!何とかこの危機を乗り越えられた!やっぱ瀬戸際で生きるのがイラなんですわぁ…。

ホクホクとしながら書類に向き合う。よーし!頑張るぞ!

 

「時にイラ、二人はどんな感触だった?」

「とても柔らかく、良い匂いがしました!嘘だろやっちまった」

「ふざけるなよイラァァ!!」

「小官も限界というものがあってだな…!イラ!!」

 

執務室から飛び出た二秒後、ドアが弾け飛び中から青の龍と緑の鬼が目を光らせながら追いかけてきた。

…ああもう!

 

 

 

 

「何でこうなるんだあああああ!!」

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