バリアヒーラーの迷宮探索   作:死期

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9話

 【勇者】様の話ってのはそう難しいもんでもなかった。

 

 助けられたとき自分は『リパルス』で石ころ飛ばしてたわけだけど、なんでそんなことしたのかだって。回復魔法を使えるなら使って逃げればよかっただろうとのこと。

 

 あーこれ、あれか。質問って形の忠告か。忠告というよりは経験豊富な第一級冒険者様によるアドバイスってか。

 

 ステイタスに関わることだから答えなくていいとも言われたけど。

 

 うーん、まァ、そうさなァ。

 

「言われてみれば、まァそのとおりなんかも知れないッスね。単純に『ジブンがバカだった』で終わらせていいような気もするッス」

「⋯⋯極限状態だったんだ。冷静な判断をしている余裕なんてなかったんだろう?」

「まァ、そうなんスけどね。でも仮に冷静でいられたとして、多分ジブンァ似たようなことすると思うッスよ」

「⋯⋯というと?」

 

 仮に自分に回復魔法使って逃げられるようになったとしよう。

 

 目の前には片目傷付いて怒り心頭のミノタウロス。棒っきれは粉々でマインドも枯渇した俺に、なにができた?

 

「逃げるっつッたって、どこに逃げるんスか。ダンジョンの奥に進んじゃ帰還できねェッス。そんじゃ4層に───ベルの逃げた方に行くしかねェッス。ヤ、もしかしたらミノタウロスに気付かれずにあの場を離れられるかもしんないスよ。でも追いかけられる可能性の方が万倍高いッス」

「⋯⋯続けてくれ」

「えェ、ンで追いかけられたらどうなるかって、そりゃミンチッスよ。ンでジブンをミンチにしたミノタウロスは、今度ァ4層に行くんじゃないッスかね。中層からわざわざ上がってきたんスから、そりゃ上に行くって思うのが自然ッスから。そんならわざわざ目的地に近づけてやる必要はないっス。そんなことしちゃ逃がしたベルが余計に危険になるッス」

 

 そうだ、あそこで俺に逃げるなんて選択肢はなかった。

 

 1秒でも長くアイツの気を惹かなきゃなんなくて、あァ、確かにそうだな。いきなり石ころぶつけるなんてのは正気の沙汰じゃあなかった。

 

 わざわざ痛みに転げ回ってくれてたんだ。ンな所にちょっかい出すんじゃなくて、ちゃんと起き上がってから改めてちょっかい出したほうが時間稼ぎできただろうが。

 

「まァ、なんでジブンは逃げることなんてできなかったッスよ⋯⋯回復魔法使って、最低限動けるようにしてからのが時間稼ぎできたかもしんないって話なら、素直に認めるしかないッスけど。あァあと単純に、あんな怪我したのァ初めてだったんで回復魔法でどこまで治るとか判断できなかったッスね。こんなん治せるはずねェって頭から決めつけてたッス」

「そうか⋯⋯済まない、嫌な話をさせたね」

 

 まァ思ったより俺の回復魔法は強力で、多分足引きずって歩くことくらいはできたんだろうな。腕は諦めないといけねェけど。

 

「そんで⋯⋯話ってのはそんだけッスか?」

「───そうだね、病み上がりのところわざわざ済まなかった」

「イエ、第一級冒険者様に忠告貰える機会なんか滅多にないッスから。こちらこそありがとうございますッス」

「気にしないでくれ。こちらの失態の詫びも兼ねているし、同族の(よしみ)っていうところもある」

「ははっ、じゃあなんスか。同じ小人族(パルゥム)だから粉かけとこうってことッスか」

「まあね⋯⋯そうだ、君からもなにか聞きたいこととかあれば聞いてくれ。答えられる範囲では答えよう」

 

 話ァ終わりらしい。そんで軽い冗談にも笑顔で答えてくれるあたりこの人は気遣いの鬼と見える。

 

 ⋯⋯さて、じゃあ土下座の時間だな。ポーション代負けてください。

 

「⋯⋯えっと、じゃあ、そのスンマセン。つかぬことお聞きするんスけど⋯⋯、ジブンに使っていただいたポーションっておいくらくらいするんスか⋯⋯?」

「それを聞いてどうするんだい?」

「ヤ⋯⋯、その、デスネ。お恥ずかしながら今持ち合わせがなくって」

「あぁ、それなら気にしないでくれ。何度も言っているけど、元はと言えば我々の失態だ。君に治療費を要求する気はないし、むしろ破損した武具を弁償しようと思っていたところだ」

 

 ⋯⋯。

 

 そう、マジで? 聖人君子か?

 

 いやでも謝罪突っぱねた分際で、ポーション代踏み倒して弁償までされちゃ示しがつかないんだけど。

 

「その、ポーションの方ァありがたいンスけど、弁償となると、ちょっと受け取れないッス⋯⋯」

「⋯⋯そうか、なら口止め料だと思って受け取ってくれないか。とは言っても金銭ではなく、破損した武器の代わりを渡すという形になるが」

「⋯⋯⋯⋯⋯それなら、ありがたく、いただきたいッス」

 

 うーん、なんか借りを作りまくってる気がしないでもないけど、あの頑丈な棒へし折られて困っでたのは事実だ。

 

 だから、なんか物干し竿とか頂いて帰りてェな。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「あ、これいいッスね。いい感じッス」

 

 武器庫に案内した小人族(パルゥム)の少女───ニィは穂先のない槍を手に取るとひょうひょうと振り回した。

 

 宝剣や盾などの価値あるものを差し置いて、選んだものが頑丈な作りではあるがただそれだけの棒。

 

───軽すぎず、重すぎず、身の丈に合った武器だ。

 

「棒術かい? 見事なものだ」

「そっスか、第一級冒険者様に言ってもらえるんなら自身になるッス⋯⋯そんで、ホントにこれ頂いちゃっていいんスか?」

「ああもちろんだ。もとよりそれは熔かす予定のものでね。言ってしまえば余り物なんだ」

 

 装飾は少ない。軽めの金属でできた中が空洞の棒。駆け出し冒険者にとって安物とはとても言えないが、それでもそこまで大したものではない。杖としての性能は下の上から中の下あたりか。

 

 そもそも棒術など修めている者は極少数だ。鈍器でも刃物でもない武器をモンスター相手に扱う理由がない。

 

「ところで君はなぜ、棒術(それ)を?」

「ン、うーんと、なぜって言われると、うーんなんと言ったものか」

 

 ぬるりと体の表面を這うようにして棒が脇の間に収められた。駆け出しと言うにはいやに習熟した動作だ。

 

 ニィはうんうん唸ったあと、ようやく口を開く。

 

「魔法って、マインド使うじゃないっスか」

「そうだね」

「そんでマインドは中々回復するもんじゃ無いッスよね」

「それもそのとおりだ」

 

 彼女はなにか石ころを飛ばす魔法らしきものと、回復魔法を使っていた。あれを見る限りでは生粋の魔法使いといったところだろう。それも、特に後衛に向いた回復術士に違いない。

 

 彼女はレベル1の時点で、すでに高い効果量の回復魔法を使う将来有望な小人族(パルゥム)の女性だ。

 

「そんなら自衛の手段に魔法使ってるような余裕ないッスよね。そんなゆとりあるなら、パーティーの前衛支援した方が効率的ッス」

「では棒術は純粋な時間稼ぎに?」

「そッスね⋯⋯自分がバカスカ殴るよりベル⋯⋯あー、えっと、パーティーメンバーに火力出してもらった方が効率いいじゃないッスか。その点(コレ)はいいッスよ。盾よか軽くて視界も遮らないカンペキな防具ッス」

 

 まるで自力でモンスターの攻撃を防ぎながら、並行して味方を魔法で支援できているとでもいうかのような物言いだ。

 

───なるほど、すでに並行詠唱を

 

 もしや彼女はもう防御と魔法を両立しているのではないか。見栄を張っているというようには見えない。

 

 ならばやはり、この少女は『将来有望』程度では済まないのかもしれない。

 

「───そういえば、君の所属ファミリアを聞いていなかったね」

「ン、あァ、そういえばそうッスね。スンマセン」

 

 小人族(パルゥム)の中でも特に小柄な少女は居住まいを正すと、にへらと笑って告げた。

 

「ジブンはヘスティア様のところ───【ヘスティア・ファミリア】の団員のニィッス。零細もいいところッスけど、家族ァみんないい人ばっかりな、サイコーのファミリアッスよ」

 

 

 

 フィン・ディムナには使命がある。

 

 一族───小人族(パルゥム)の復興を。

 

 そのために必要なものは、いくつもある。

 

 武勇、名声、そして───

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 家族に色々報告するから帰っていいかーって聞いたら普通にかえしてもらえた。なにかあった時はコレを門番に見せてくれれば取り次ぐよってモン渡されてひっくり返りそうになったけど、ま、まァいいや。

 

 すげェ大御所とコネが出来たってことだからな。なんか借り作ってばっかな気がするけど。

 

 死にかけたところ助けられたり、ポーション代踏み倒したり、なんかいい感じの棒mark2をロハで貰ったり。あ、そういや金髪のネーチャンにお礼言ってないぞ。やべェどうしよ。無礼なやつとか思われてるかもしれん。

 

 うっ、胃が痛い⋯⋯

 

 ま、まァそんなこんなで帰路についたわけだ。俺が【ロキ・ファミリア】に保護されてるってのは、フィンに姫抱きされてるところ目撃してるベルなら察しが付いてるだろう。

 

 一応冒険者ギルドに顔出してポーチに入ってたアイテム幾らか交換してきた。

 

 ミノタウロスが5層に出たって情報をギルドは掴んでて、エイナさんに詰問された結果、俺ァうっかり殺されかけたってことをゲロっちまった。どうしよ、一応口止め料ってことでポーション代とかチャラにしてもらってんのに。

 

 うっ、胃が痛い⋯⋯

 

 そんでようやくホームに、帰ってきた。

 

 開口一番、ベルくんは凄い勢いで謝り倒してきて、ヘスティア様にはめっちゃ叱られた。

 

 まァ地上で助けを呼んでくれって言ったのが、ふつーに無理な話だと理解しちまったんだろうな。ベルを逃がすために、ベルが逃げるべきだと判断する『理由』をでっち上げる必要があったんだよ。

 

 極限環境で深く考えてる余裕なんかなかったから鵜呑みにした『理由』だって、安全な場所にきて落ち着いてからなら2秒考えりゃわかる。

 

 無理だと。

 

 地上に逃げて助けをよぶって、誰に助け求めるんですかと。仮に助けてくれる奇特なヤツがいたとして、その頃にァ俺は無事挽き肉になってるだろうと。

 

 だから()()()()()()()ってなるわけだ。

 

「やーもうホント、そういうのいいッスから。ほら結果論ッスけどジブンは無事。それに元はと言えばジブンが5層行こうぜって唆したのが悪いじゃないッスか」

「でも⋯⋯」

「でももヘチマもないッスよ。いいから辛気臭い顔やめて下さいッス⋯⋯ジャガ丸くん不味くなっちゃうじゃないッスか。ねぇ神様?」

「⋯⋯⋯言いたいことは色々あるけど、ベル君。君はそろそろ顔をあげるべきだ。君が後悔してることは伝わってるんだ。それならくよくよするんじゃなくて、『次は守る』って言えるように頑張る姿を見せるべきなんじゃないかい?」

「───! たしかに、そうですね⋯⋯! ごめん、ニィ⋯⋯次は、必ず僕が守れるように強くなるから!」

 

 はえー神様、さすが神様。

 一発でベルくんが立ち直った。

 

 これがカリスマってやつよ。惚れそう。つーか惚れた。ヘスティア様一生ついていきます。

 

 そんで【ロキ・ファミリア】で喋ったこととか、貰ったいい感じの棒二世とか包み隠さず話した。

 

 それとベルくんは助けてくれた金髪のネーチャン───アイズって人の話をめっちゃ聞かせてくれた。なんかおんなじ話五、六回されたけど。もしかしてベルくん酔ってる?

 

「⋯⋯あのロキ無乳が⋯⋯ウチのニィ君になんてことを⋯⋯!」

 

 ヘスティア様は神ロキと親交があったらしくすげー言い様。あんなセクハラ魔神の前にヘスティア様の巨乳はとてもじゃないけど出せないな。もしそんなことになったら俺が肉壁になる。

 

 俺の無乳で我慢してくれないかな。同じ無乳のよしみでさ。

 

 それにしてもアイズ───ヴァレンなにがし、か。うん、まァ、ミノタウロスを真っ二つにするような凄腕だ。スゲェ人なんだろうってのァ分かる。

 

 

 

 でもさ、兄ちゃんじゃなくて、他の人をスゲェって言ってるの聞くと、やっぱしんどいな。

 

 俺ァ頼れる兄ちゃんじゃねェか。

 

 

 『次は必ず僕が守る』ってか。 

 

 

 

 ───そう、か。俺ァ守るべき相手ってか。

 

 

 

 本当に情けねェな。俺ァ。

 

 

 俺ァ、そんな頼りねェか⋯⋯⋯

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