バリアヒーラーの迷宮探索 作:死期
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。【ロキ・ファミリア】所属のレベル5の少女。
なんでも6歳の頃にダンジョンに潜り、たったの一年でランクアップしたのだとか。もちろんこの記録は世界最速。ワールドレコードというわけだ。
なんじゃそりゃ。本当に人間か? 6歳って言ったら幼稚園上がりたての子どもじゃないか。いやこの世界に幼稚園があるとは思わんけど。
あの金髪のネーチャン、強いんだろなーと思ってはいたが、本当にトンデモない人だったんだな。
ミノタウロスを一瞬でバラバラにした【勇者】様も大概だけど、ベルを助けてくれた【剣姫】様も人外のやべーやつだ。
そんでどうにもベルくんはその【剣姫】様に一目惚れしてるっぽい。そりゃまァ命の危機を助けてくれた恩人だもんな。惚れても仕方ないんじゃないの?
うーん、でもその【剣姫】っていうの別名【剣鬼】なんて物騒なものあってだな。曰く寝食を放り出してモンスター皆殺しにしてるだとか、他の冒険者に無関心な殺戮マシーンだとか、ダンジョンアタックが趣味のダンジョン狂いだとか。
ヤ、すげー人だってのはわかるんだけど、ちょっとお近づきになりたくはないかな⋯⋯今度会えたらお礼は言うけど⋯⋯
そんでベルくんに【剣姫】の噂話を吹き込んでくれやがったのはギルドのエイナさんだったけど、【剣鬼】の噂はシャットアウトしてたらしい。
憧れを汚さないように配慮してくれたんだろうけど、多少はヤバそうな面も教えてあげたほうがいいんじゃないか? ってことでさり気なく【剣鬼】さん実はヤバい人じゃねアピールをしておこう。
「ヴァレンなにがしッスか⋯⋯、でも聞いてる分には結構危なそうッスよね、寝る間も惜しんでモンスター狩りとか」
「うん! 凄いよね、才能もあるんだろうけどすっごい努力家なんだろうなー!」
うっ、純心か。
そ、そうか⋯⋯寝る間も惜しんでモンスター狩りって、スポ根的には加点要素か。つーか俺は何してんだ。他人の陰口叩くとかサイテーじゃん。
⋯⋯いや、これアレだな。嫉妬してるなァ自分。
「⋯⋯それにしても、なんで神様怒らせちゃったんだろう⋯⋯帰ったら謝らないと」
「あァ、まあ、それは、そうッスね⋯⋯」
つい先程の話だ。
『ベル君のあほーっ!』とは女神様の談。
ヘスティア様の前でヴァレンなにがしの武勇伝を語り続けたベルに、嫉妬の炎を滾らせた女神様がキレたのだ。
あァ、俺もヘスティア様も嫉妬って意味では同じ感情をヴァレンなにがしに向けてるわけだ。
だけど、俺のァもっと、見苦しいモンなんだよなァ。
情けねェ。
【剣姫】なんかじゃなくってさ、俺が守りたかったんだよ。俺が家族を守りたかった。
金髪のネーチャンがベルの前に立ってるのを見たときさ、『なんでそこに立っているのは俺じゃねェんだ』と思っちまったんだ。
兄ちゃんとしての役割を
みっともねェな。
感謝こそすれど妬むだなんて、筋違いといいとこだろうこの恥知らずがよォ。そんなんだから俺ァ頼りがいのない兄ちゃんだって思われてんじゃねェのか?
⋯⋯⋯だっせェな、俺。
─────────────────────
ダンジョン、もといバベルの塔を目指し大通りを進む。ホームを出たのが朝早かったのもあり人通りはかなり少ない。まァとは言ってもパルゥムが露天の準備していたり、同業者っぽいあんちゃん達が肩組んでゲラゲラ笑ってたりと賑やかなもんだ。
ベルは神様怒らせて何も食べずにホーム飛び出したし、俺ァ食欲なくってなんも食ってない。ダンジョン潜る前になにかしら胃に放り込んでおきたいけど、はて?
ベルが弾かれたように背後を振り返った。
「⋯⋯!?」
「ン、どしたんスか?」
「いや⋯⋯なんだろう、誰かに視られてたような気がして」
「⋯⋯ふぅん⋯⋯?」
まァいいやさっさと行こうぜ。そういう連中は無視するに限るんだ。
首を捻るベルを急かす。人通りは少ないとは言え通りの真ん中で突っ立ってるのはマズイ。
「あの⋯⋯」
「!」
「のわっ!?」
背後からかけられた声に、今度は二人して振り返った。
声の主は見上げるような巨体───あァ違った、俺が小さいんだった。えーと、ベルとそう大差ない体格の女の人だった。青みがかった銀髪のネーチャン。スカートの上にエプロンつけて、頭にフリルのついたカチューシャしてるあたり、どこぞの飲食店の従業員と見た。
ほうほう、やるなぁベルくん。こんな綺麗なネーチャンともしりあいだったんか。
ただ俺たちが大げさに驚いたモンだから向こうも困惑してんな。
「ヤ、スンマセンね。ちょっと驚いちゃって⋯⋯ほら、ベルも⋯⋯」
「あ、ご、ごめんなさいっ!びっくりしちゃって⋯⋯!」
「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって⋯⋯」
ペコペコ互いに頭下げる。俺も日本人だからなァ、こういう頭下げ合戦始まるとなかなか終わらないんだよな。
それにしても、なんか二人共他人行儀じゃん。
「ン、あれ、ベル⋯⋯この人知り合いんじゃないんスか?」
「え、えっと⋯⋯ちょっと、ごめんなさい、覚えがなくって⋯⋯」
どういうこった。
もしかしてアレか、ベルに一目惚れしたから声かけたとかか?
いやあ流石にそんなことはないか。あるとしたら客引きのたぐいだろうか。ちょっと警戒しとこう。
「え、ンじゃあなんか用事とかあったかんじッスか?」
「あ⋯⋯はい、そちらの方がこれを落とされたので⋯⋯」
「え、僕!?『魔石』? あ、あれっ!?」
紫色の拳大の石ころだ。銀髪のネーチャンはそれをベルに渡しに来たらしい。
ふぅん?
なァんか怪しいな。ベルの腰巾着は、うんちゃんと締まってるな。そもそもベル、『魔石』は全部昨日のうちに交換してなかったっけ?
ちょっと耳かしてくれ。
「⋯⋯魔石って昨日換金してたんじゃないんスか?」
「も、もしかしたら残ってたのかも⋯⋯」
「⋯⋯巾着も緩んでた感じッスか?」
「そうかも⋯⋯」
「ふぅん⋯⋯そうか、ンじゃ気を付けるんスよ。貴重品とか落っことしたら大変ッスから」
⋯⋯ベルがそう言うんなら俺ァいいや。
悪質な客引きの類かもしれねェから目だけ光らせておこう。
「す、すいません。拾ってもらって、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらないでください」
綺麗なネーチャンとお喋りしてるベルはドギマギしてるけど、楽しそうだ。たぶんその人、なんかしら狙いがあって接触してきてるんだろうけどな。
うんうん、これもまた社会経験ってやつかもしれんな。
まァなんかあったら割って入ればいいだろう。兄ちゃんはここで背景になっときますね。
────────────────────
客引きだった。
あれよあれよと言う間にご飯の詰まったバスケットを押し付けられ、そんで夜にお店に来るようにと約束を取り付けられてしまった。これでお店行かなかったらバスケットの代金をせびられるやつだな。俺ァわかるぞ。
ちなみにご飯も店に誘われたのもベルだけだ。最初っから狙い撃ちにしてやがったな。
女の人の名前ァ覚えたぞ。シル・フローヴァさんね。
まァぼったくられないように俺もついてくし、きっと大丈夫だろう。念の為財布の中身潤わしておかねぇとな。見せる用の財布と万が一のときのために隠しとく巾着にそれぞれヴァリス仕込んでいくぞ。
そんでそのためには兎にも角にも金稼ぎだ。ダンジョン潜って荒稼ぎと行こう。
────────────────────
半日だ。
半日ダンジョンでゴブリンやらコボルトを狩りまくって、ドロップアイテムを換金に行くこと数回。
ベルは滅茶苦茶気合い入っていてがむしゃらに突っ込むもんだから面食らっちまった。なにやらヴァレンなにがしに恥じない自分になりたいらしい。
まァ俺もそういうのはいいと思うぞ。目標があるってのはないよか万倍いい。ただ無茶して怪我しないかだけは心配だ。
実際油断した隙にゴブリンに蹴っ飛ばされていた。いや、油断してたのは俺もか。今の俺の『魔力』なら『リパルス』で普通に防げた不意打ちだったからな。
そんで西日がさしてきた頃合いでホームに帰ってきた。
廃教会の隠し部屋で、まず俺が神様にステイタスを更新してもらう。
ニィ
Lv1
力:I7 → I8
耐久:I37 → 39
器用:I86 → I99
敏捷:I11 → I14
魔力:I88 → I94
《魔法》
【ベネディクション】
・詠唱『清廉なる天秤は命を量る。燃え尽きる礼賛。祈りの色は白。熾火の下に灰積もる。癒やせ』
【リパルス】
・速効防御魔法
スキル
・早熟する
・愛を捧げ続ける限り効果持続
・愛の丈により効果向上
・改宗により効果消失
大黒柱
・家族への支援能力向上
・柱状武器による防御に補正
吝嗇家
・魔法に消費する精神力を軽減し効果弱体
・魔法の詠唱を省略し効果弱体
アビリティの方はいい感じに伸びてるな。なんか棒振り回してるのが効いてるらしく器用さの伸びが良い。魔力は『リパルス』死ぬほど連打してるおかげでぐんぐん伸びる。この2つは明日にでもHに到達するだろうな。
昨日のミノタウロスとの逃避行で耐久と敏捷がしっかり伸びてたのもいいな。まだこの二つのアビリティは大きく凹んでるけど、伸ばしようはあるってわけだ。
力はしらん。もう全ての火力は前衛任せだ。一応『リパルス』でナイフや石を飛ばせばダメージを与えられなくもないけど、そんな暇あったら支援に回ったほうが効率的だ。
そんでベルの方はどうだろうか。
「⋯⋯えっ、熟練度上昇トータル160オーバー?」
ベルが口をあんぐり開けて紙を見つめて、ヘスティア様が滅茶苦茶不機嫌になった。
俺?
俺はソファから転げ落ちたよ?
⋯⋯いやだって俺の伸びたステータスの合計って、えーと30ちょいか。つまりベルは俺の5倍速で強くなってるってわけだ。
え、なんで? いつもより気合は言ってるなーとは思ったけど、それだけじゃん。何がどうなったらそんなことになるんだ⋯⋯
一つ、なにかあるとしたら昨日の経験か⋯⋯?
「神様、こ、これどういうことなんですか!?」
「⋯⋯」
「か、神様⋯⋯?」
「⋯⋯」
神様はなにやら不機嫌だ。
ついにぷいっとそっぽを向いてしまった。あ、かわいい。
「あ、か、神様⋯⋯そういえば今晩シルさんに誘われてて酒場に行くんですけど」
「シルゥ!? 誰なんだいそれは?」
「え、えっと、朝会った酒場の店員の女の人で」
「ど、どこの馬の骨ともしれないやつにボクのベル君のがっ!?⋯⋯⋯ニィ君! 君というものがついていながらなんでこんなことになってるんだい!?」
「⋯⋯ヤ、スンマセン⋯⋯これも社会経験かなと思ったンス」
あァ、アレっすね。やっぱりヘスティア様ベルくんを異性として意識してらっしゃる感じね。
女の客引きに捕まるなんて、まァちょっと受け入れがたいッスよね。すみません、このミスは必ず挽回するんで⋯⋯
「あ、よかったらヘスティア様も一緒に来てくれないッスか⋯⋯?」
「ぐ、ぐぬぬ⋯⋯実は今日、バイト先の打ち上げが入ってるから、外せないんだ⋯⋯」
「そ、それは⋯⋯」
「頼んだよニィ君、ベル君に悪い虫がつかないように」
「ニィ君、ところでヴァレンなにがしについて知ってることってあるかい?」
「んーと、まァ、滅茶苦茶強い美人ってことくらいしか識らないッスね」
「そうか⋯⋯」
酒場目指してホームを出る前に神様にそう聞かれた。
答えられることはそう多くなくて申し訳ないな。
それにしても神様までヴァレンなにがしが気になるのか⋯⋯やっぱり俺みたいな人間にァベルを守ることなんてできないとか思われてるんかな。
そりゃあ、悲しいなァ。悲しいし悔しいなァ。
ベルァ昨日の今日でとんでもなく強くなったし、やっぱ俺じゃダメか。
俺は兄ちゃんにァ相応しくないか。
「⋯⋯ニィ君、なにか抱えているものがあるなら教えてくれよ? 相談にはいくらでも乗るから」
「ヤ、気にしないでくださいッス。ちょっと自己嫌悪してるだけなんで」
「⋯⋯気にするに、決まってるじゃないか。ニィ君キミは少しばかり頑張りすぎだ。昨日のこともある。もうちょっとボク達を頼ってくれてもいいんだ」
頑張りすぎ、か。
おんなじこと
頑張りすぎっつーことは無理してるように見えてるってこと。
そんで無理してるように見えてるってことは頼りなさそうに見えるってこと。
⋯⋯できねェよ、これ以上、神様とベルを頼るなんて。
頑張りすぎ程度じゃ足りねェんだ。もっと、もっと頑張らねェと、俺は、俺ァ。
頼れる兄ちゃんにァなれねェんだ。
ニィちゃんのスキルによる補正は『家族』への愛に依存します。ベルくんと神様を庇護の対象としか見做していない今のニィちゃんでは、ちゃんと『家族』判定されてません。