バリアヒーラーの迷宮探索 作:死期
目が覚めたのは翌日の朝で、どうにも俺はベルにしがみついて寝ていたらしく、同じタイミングで起きたベルが奇声を発してベッドから転げ落ちた。
どことなく居た堪れない空気の中、ご飯食べたり身だしなみ整えたりしてステイタスを更新するに至る。
ベルのステイタスが400以上伸びたと聞いて俺はソファから転げ落ちた。
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ニィ
Lv1
力:I8 → I26
耐久:I39 → I69
器用:I99 → H199
敏捷:I14 → I66
魔力:I94 → G201
《魔法》
【ベネディクション】
・詠唱『清廉なる天秤は命を量る。燃え尽きる礼賛。祈りの色は白。熾火の下に灰積もる。癒やせ』
【リパルス】
・速効防御魔法
スキル
・早熟する
・愛を捧げ続ける限り効果持続
・愛の丈により効果向上
・改宗により効果消失
大黒柱
・家族への支援能力向上
・柱状武器による防御に補正
吝嗇家
・魔法に消費する精神力を軽減し効果弱体
・魔法の詠唱を省略し効果弱体
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俺も300くらい伸びててひっくり返った。
「え、ちょっ⋯⋯な、なんスかこれ⋯⋯!?⋯⋯神様、算数できなくなったッスか!?」
「⋯⋯いくらなんでもそれはひどいよ、ニィ君」
ジトッとした目つきのヘスティア様に叱られた。悪いことした。
いやでもおかしいだろ。ヘスティア様が前教えてくれた分には、熟練度とやらが10以上上がるようなことは最初だけで、すぐに頭打ちに陥るんだとか。
そのはずが普通に数十単位、魔力に至っては3桁伸びている。
こうもいっぺんに成長するなど普通は考えられない、と思うのだが⋯⋯
チラッとベルの方を見る。
神様に成長期なんじゃないって適当な誤魔化しかたされて、その上で無茶をしないように釘を差されたからか、どこか吹っ切れたような精悍な顔をしている。
転げ落ちた床から身を起こして、紙に目を戻す。
スキル
【
・早熟する
・愛を捧げ続ける限り効果持続
・愛の丈により効果向上
・改宗により効果消失
⋯⋯怪しい。怪しいなこれ。
そして、成長どころか
神様なにか知らないかな。
「神様⋯⋯」
「⋯⋯ちょっと待っててくれよニィ君⋯⋯、おぅいベル君! もう一回ニィ君のステイタス見るから、一旦上に待避してもらっていいかい?」
「分かりました神様!」
適当な口実でベル君を逃したあたり、やっぱり彼には告げてないなにかがありそうだ。
「⋯⋯神様、その、やっぱりベルにもあるンスか⋯⋯?⋯⋯『早熟する』ってスキルが」
「うん、実はそうなんだ。キミの【
「【
なんでも想い人に心を寄せる限り成長に補正がかかるってスキルらしい。
あーわかったぞ。想い人ってヴァレンなにがしのことだな。彼女への憧れがベルを強くしたと。
「⋯⋯正直、このスキルを公にするのはよくないと思うんだ。娯楽に飢えてる神々にこんな強力な『レアスキル』がバレたらちょっかいをかけられるに決まってる」
「そんな
「むしろそういうおバカの方が多いくらいだよ⋯⋯とにかく、こんなスキルのことをベル君に伝えるわけにはいかない。あの子は嘘が下手だからね───いやニィ君が上手いって意味じゃないよ?」
「あァ⋯⋯イエ、わかるッスよ⋯⋯ベル、真面目っていうかバカ正直ッスから⋯⋯」
なるほどね。
言いたいことは完璧に理解した。
「アレッスね、ベルに変な虫がつかないようにちゃんと見張っててほしいってことッスよね」
「ま、まぁ、そんなところだね。それと、キミ自身もちゃんと気を付けるんだよ。君の【
真価?
真価ってなんだっけと思いながらスキルの文面を思い返す。えーっと、たしか『愛を捧げ続ける限り効果持続』『愛の丈により効果向上』
⋯⋯こ、これってアレだよな。家族
「ボクたちのことを『家族』だって、心の底から思ってくれたんだろう?」
「───や、やめてくださいッス⋯⋯」
ば、バレバレじゃないか。
愛を捧げるとか、愛の丈とか全部書かれてるせいでなにもかも筒抜けだ。プライバシーの侵害だ。
ぼっと火が付きそうなほど顔が赤くなって、ヘスティア様はにやにやと悪い笑顔を浮かべている。
やめろー、やめてくれ⋯⋯
「いやー君は本当に可愛い子だなぁ」
「ほんと、勘弁してくださいッス⋯⋯」
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よし、大切なことは覚えた。
ベルに悪い虫がつかないように見張ること。
スキルのことがバレないようにちゃんと隠すこと。
こればっかりはベル君に任せられないから、俺に一任するとのこと。
⋯⋯嬉しいな。やっぱり頼られるってのは何よりも嬉しい。たぶん神様は、頼られないと心細くて仕方ない俺の為にわざわざ仕事として言いつけてくれたんだろう。
その優しさに報いたいという感情と、どうやったら報いることができるのかって不安が一緒くたになって湧き上がる。
⋯⋯でも、それでいいんだ。神様は一緒に悩んであげると言ってくれた。ベルは『頼るから頼ってほしい』と道を示した。
優しいなあ二人とも。
そんで件の女神様は、今日から【ガネーシャ・ファミリア】のパーティーに参加するのだとか。パーティーってダンジョン潜るのかと震え上がったけど、そっちのパーティーじゃなくって『
それで何日か留守にするらしい。
⋯⋯それじゃあ、アレだな。なんか、寂しいな。
いや遠慮なんかせずに行ってきてほしいけど。それはそれ、これはこれってわけだ。
「二人は、もしかして今日もダンジョンに行くのかい?」
「僕はそのつもりでいたんですけど⋯⋯」
「ジブンもッスね⋯⋯ダメッスか⋯⋯?」
⋯⋯自殺紛いなことして家族巻き込んだんだ。だめって言われても仕方ないわけだけど、でもベルは憧れに向けて頑張ってるわけだし応援してやりたい。
二人して上目遣いで見上げてると、女神様は振り返って笑った。
「ううん、いいとも。でも危ない橋を渡るんじゃないよ? 無理をして怪我をしたら心配する人がいるんだって、忘れないでほしい」
「はい! ありがとうございます!」
神妙に頷いた俺と、元気よく応えたベル。
⋯⋯あ、そうだ。
「ちょ、ちょっと、出かける前にいいッスか、ヘスティア様」
「うん、なんだい?」
「えーそのですね、その、少しお別れになるわけなんで、その⋯⋯」
「うん? 言いたいことがあるならはっきり言わないとわからないよ」
⋯⋯、よし、覚悟はできた。いくぞ。
「そ、その行ってきますの『
ヘスティア様に目配せする。神様は俺を驚いたような顔で見て、次いでベルの方をちらっと見た。
その瞬間、俺と神様は言葉なき視線だけで完全な意思疎通を果たした。
『行ってきますの
『君は天才か? よし、しよう。今すぐしよう』
「うんうん、もちろんいいとも! これから【ヘスティア・ファミリア】では挨拶として『
「えっ、か、神様⋯⋯それって、も、もしかして僕も含まれてますか⋯⋯?」
「当たり前じゃないか! 次はベル君の番だよ!」
身長差があるので神様のお腹に顔を埋める形だけど、ハグしてもらえた。温かい⋯⋯これが安らぎか⋯⋯
俺は『家族』とハグできて嬉しい。
ヘスティア様はベルとハグできて美味しい。
これがベルの提示した、頼り頼られる家族の関係というわけだ。
「⋯⋯なんだかニィ君が間違った学習をしてる気がしなくもないけど──あ、こらベル君どこいくんだい!」
「すっ、すみません! 僕、先にギルドの方行ってますね!!!」
ベルは
ヘスティア様はベルくんのことがloveな方で好きみたいだし、俺としても応援したい。
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「『リパルス』」
『ギギッ!?』
ダンジョンの5層のモンスターに魔法を連打する。やはり俺の魔法は燃費という点においてずば抜けた性能を持っているのだろう。連射どころか、一度の発動で複数の展開さえ可能である。
もっとも複数枚の魔法陣を出そうとすると著しく制御が乱れ、あわや
それはさておき、俺が体勢を崩したモンスターだが派手に転倒している。魔力が上がったことで、魔法陣に触れた者へ与える反発力が上昇し、大の大人が突き飛ばしたくらいの力を発揮できるようになっていた。
そしてそれに即応したベルが一瞬で近付くと、ナイフで喉を突き刺してとどめを刺す。
「よし、順調だね」
「ッスね」
ベルは、強い。
強いというよりは尋常じゃなく速い。俺が作り出した隙を決して見逃さない。俺の詠唱がない魔法に対して、見てから反応しているのは速いの一言で済ませていいのか分からない反応速度だ。
⋯⋯うかうかしてられないな。
やっぱり俺は頼れる兄ちゃんでいたいことに変わりはない。置いてかれないように頑張らないと。
「───通路の先、いるね」
「何体かは釣るッス⋯⋯その内に、速攻で決めてくださいッス」
6階層に出現するウォーシャドウというモンスターは、駆け出し冒険者じゃどうしようもない強さだった。
それを相手に、俺は少なからぬ時間
この事実を冷静に考えた結果、俺は俺の評価をこう改めた。
こと単純な防御という点において、俺は才能があると言っていいだろう。膂力で上回る相手をいなし生存する。そして、囲まれれば囲まれるほど、受けた攻撃を回転に転化して更なる防御を可能にする。
極めつけに『魔法』だ。これみよがしに魔法を使う後衛がいれば、先に潰そうとするのは必定だ。頑張って怪我を追わせた前衛が回復魔法で復帰しようものなら、そりゃ治癒術師に狙いを変えて先に殺そうとするだろう。
つまり、消費の重たい回復魔法『ベネディクション』は見せ札。本命は
圧倒的な敏捷さでモンスターを暗殺する『首刈りウサギ』の爆誕だ。
「お、レアドロップっスよ!」
「本当だ! 今日の稼ぎはよさそうだね⋯⋯!」
⋯⋯まあ、そうは言ってもいちいち雑魚に『
実のところ、俺の棒術による防御も明確な弱点はあったりするけどね。
相手の力を利用する前提だから、ゆっくりと近付かれて
そんなことしてくる相手いないし、仮にいても悠長に構えてたら後ろから『
「よーし、今日は早めに帰って市場見に行くッスよ! 晩飯はジブンが作るッスからねー!」
「ニィ料理できるんだ! 神様にも食べてもらいたかったなー」
「⋯⋯うっ、そっか⋯⋯ヘスティア様いないんでした⋯⋯」
やっぱそれは寂しいなぁ。
今日はベッドに俺一人しかいないのか。やだなァ。
ベルは添い寝してくれないかな。そんなことしたら神様怒るかな。それにいっつもベルはソファで寝てるからだめか? いやだがしかし一人では寝れないし⋯⋯⋯
そんなこと考えてたら、また次のモンスターの群れに出くわした。気持ち切り替えて集中しなきゃ。
「ニィ、またモンスターが!」
「ソファぶっ壊せばいいッスね」
「いきなりどうしたの!?」
完璧に集中した俺は、ちゃんとモンスターの攻撃を捌いて、ベルに火力の全てを任せた。