バリアヒーラーの迷宮探索   作:死期

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16話

 桶に溜めた水で顔を洗う。

 

 灰色に近い白の髪は、やっぱりベルの真っ白さと比べればくすんでいるように見えるな。同じ色をした目もどことなく燃え尽きた灰みたいだ。不吉にも荼毘に付した遺骨を思い出す。

 

「⋯⋯それにしても、()()()()ってどこの誰なんスかねー」

 

 めちゃくちゃ役立ってるからいいんだけど、この棒術とかどこで習ったのか分からないしスキルの【吝嗇家】とかなんで発現してるのかイマイチわからない。元の体の持ち主が持ってたものなのかもしれないな。

 

 まあそうやって独白してみたところで何も変わらないんだけどな。神様にはこことは違う世界───地球のことを話してみたけど心当たりはないみたいだし、俺の転生?ってやつは原理も理由もよくわからない。

 

 不可抗力とはいえ、誰ぞの体を乗っ取ってることになるし、罪悪感が欠片もないわけじゃないけど。

 

「まァ、身体返してくださいとか言われてもやり方わかんないッスからね⋯⋯」

 

 考えても詮無いことだ。

 

 水面に映る少女は何も答えない。軽薄そうな笑顔が張り付いているだけだ。

 

 さて、そろそろダンジョンいく準備しなきゃな。

 

 

 

 俺の装備はもともとシャツにパンツ、その上から外套を被ってたんだけど、こんなブカブカなもの着てるのは良くないと忠告された。まあ棒が絡まったら致命傷だからな。そんなヘマしないけどって言ったらエイナさんがキレたので泣いてしまった。

 

 そんで結局は、シャツにホットパンツ、膝と胸に金属製のプロテクターをつけてレッグにホルスターを装着した。

 

 軽装すぎると専属アドバイザーのエイナ様が難色を示したけど、これ以上着けると重いのだ。俺の力はパルゥム相応で非常に低い。敏捷も大して高くない以上、あまり防具をつけると動きが悪くなるのだ。

 

 そもそも防御なんか棒で十分なので動きを良くして被弾しないって方面で行くべきだろう。噂に聞く【勇者】様も軽装らしいしこれくらいが丁度いいはずだ。

 

 ちなみに棒じゃなくて槍を持たないのかと言われて試そうとしたけれど、重心が先端に偏りすぎていて使いこなせなかった。両刃薙刀とかあればイケるかもしれないけど、それだと今度は【大黒柱】ってスキルの『柱状武器』って指定から外れると思うしな。

 

 あとバックパックとかは装備できない。

 

 重いし棒振るのに邪魔だからだ。

 

 だから荷物持ちはベルに全部お任せだ。悪いな。

 

 

「───ニィ、そろそろ準備できた?」

「バッチリっス。いつでも行けるッスよ」

 

 

 俺が着替えるってことで別の部屋に行ってたベルがひょいっと顔を出した。ノックしないとアブナイんじゃないかと思うけどどうやら悪気はないみたいだし言及しない。ヘスティア様もとかをうっかり覗いて顔真っ赤にするところ見てみたいし。

 

 

「⋯⋯あ、そうッス、今日行く前に『豊穣の女主人』に挨拶しとかないッスか?」

「えっと、シルさんのいるあの酒場だよね? そこに行くって⋯⋯どうして?」

「いやァ、ちょっとあそこの人達に結構ボロクソ言われてるンスよね。ベルが」

「僕がボロクソに!?⋯⋯⋯あ、そういえば」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「申し訳ありません、お客様。当店はまだ準備中で───」

「ああぁ! あん時幼女(ロリ)置いて食い逃げした白髪野郎と男に逃げられた幼女(ロリ)ニャ!!」

「いやロリじゃないッス。18歳ッス」

 

 訂正、ボロクソに言われてるのはベルだけじゃなかった。なんだよ男に逃げられたって。

 

 ものすごい失礼な物言いの猫人(キャットピープル)と、少し目を丸くしたエルフのオネーサンがお店の準備をしてた。

 

 あとベルくん、なんでそんな驚いてるの。え、俺の年齢? いや少なくとも中身は18歳だよ。この体はどうか知らんけど⋯⋯

 

「えっと、スンマセン。シルさんってみえますか? こないだかなーり失礼なことしちゃったンで謝罪させてもらいたいなって⋯⋯」

「す、すいません⋯⋯」

「シルに貢がせるだけ貢がせて要らなくなったらポイした男にシルは渡さないニャ!!」

「少し黙っていてください」

「ぶニャ!?」

 

 ヒエッ。

 

 キャットピープルの店員さんが白目剝いて倒れた。とんでもない速さの手刀、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。昏倒した店員を引きずってエルフのオネーサンがシルさんを呼びに行った。

 

 こんなヤバい店員のいる店で、ベル君は椅子倒して逃げてったわけだ。よく捕まらなかったな。たふん相当心象は悪いだろうけど。

 

 かくいう俺もあの時は精神的にいっぱいいっぱいで無愛想な対応した気がするし、なんにせよ謝らないと。

 

 

「ベルさん!?」

 

 

 パタパタと足音がしてシルさんがやってきた。おーい俺もいるよ。アウトオブ眼中ですか? あ、小さすぎて物理的に眼中にないと。悪かったなチビで。

 

 

「お、一昨日はごめんなさい⋯⋯いきなり、お金も払わずお店飛び出して⋯⋯」

「いえ大丈夫ですよ⋯⋯戻ってきてもらえただけでも嬉しいです」

 

 

 ちなみにベルには俺を置いてどっか行ったことを死ぬほど謝り倒されてる。いや、俺はいいんだけどね。ベルが幼女に貢がせてるクソ野郎扱いされてる方が困る。ウチの子はそんな悪い子じゃないんだが? あと俺は幼女じゃない。

 

 あとシルさんは大きなバスケットを持ってきてこれを昼食にしてくれと言ってきた。え、マジでいいの? これ大きさ考えるに二人分だよな。なにか裏がある⋯⋯訳でもなさそうだ。

 

 これ、もしかしかくてもシルさん惚れてるな? ベル君に。

 

 うーんすまなかった。正直腹黒女狐だと思ってたけど、これは乙女ですね。いや腹黒なのは変わらないけどベルに悪いことしようとしてるわけじゃないみたいだし、ちょっと印象変わったな。

 

「坊主達が来てるんだって?」

 

 そんなこと思いながらぼけーっと二人の様子を見てたら、店の奥から女将さんが出てきた。シルさんは仕事の途中でこっちに来てたみたいで中に戻っていく。

 

「⋯⋯坊主、冒険者だからって見栄をはるもんじゃないよ? そんなことしたってろくなことないからね」

 

 ⋯⋯この女将さん、例の『トマト野郎』の話把握してたんだ。あんな忙しそうにしてたのによく聞いてたな。すごいわ。

 

「いいかい、最初のうちは生きることに必死になりゃいいんだ。最後まで二本の足で立ってたやつが一番だからね。そんで帰ってきたやつにはアタシが酒でもなんでも振る舞ってやる。そういうヤツが一番の勝ち組さ。違うかい?」

 

 ニッと豪快に笑う女将さん。いやカッコいいな。俺もこんな感じに年取りたいわ。

 

 

「あと小娘」

「あ、ハイ。ジブンッスか」

「甲斐甲斐しいのはいいがね、あんま男を甘やかすんじゃないよ? アレくらいの叱咤跳ねのけてこそまともな男ってヤツさ。世話焼いてばっかじゃアンタは損するしコイツも成長しないってもんだ」

 

 

 ⋯⋯もしかして、俺がベルに惚れてるとか勘違いされてないか? いや確かに好きではあるし惚れ込んではいるけれど、あくまで家族としてだからな。

 

 

「⋯⋯あの、違うっスよ? そういうアレじゃないッスからね?」

「なんだそうかい! まあなんにせよお節介は程々にすることさ」

 

 豪快に笑い飛ばされた。

 

 あ、そうだ。折角だからこの女将さんに聞いときたいことあったわ。

 

「スンマセン、こんな時にアレなんスけど。夜間に臨時のバイトとかって募集してないッスか⋯⋯?」

「なんだい、金に困ってるクチかい?」

「いえ、その⋯⋯ジブンここらの人間じゃないんで、ここの料理とか勉強したいンスよ。なんでもしよかったら雇ってもらって、厨房の様子見せてもらいたいなーかんて。調理とかはできる方なんで即戦力になれるとは思うンスけど」

「⋯⋯ウチの味を盗もうってかい?」

 

 ヒエッ、チビリそう。

 

 ニイと片方の口の端を吊り上げて女将さんが笑う。食い殺されるんじゃないかと思うような威圧感。

 

 いや虫のいい話だもんね。

 

「しゅ、守秘義務は、守るンで⋯⋯」

「悪いけど、今は店員足りてるからね。バイトとして雇うってのは難しい。でも忙しい時に顔だしてくれりゃお手伝いとして使ってやらんこともない。もちろん小遣いも出すさ」

「ほ、ホントッスか⋯⋯!」

「フン、せいぜいこき使ってやるからね。泣き言言うんじゃないよ?」

 

 

 やったぜ。

 

 女将さんいい人すぎる。オカンって呼んでも? あ、ダメ⋯⋯

 

 

「あ、ベル、ごめんなさいッス⋯⋯勝手に決めて⋯⋯」

「僕はいいけど、大丈夫? ダンジョンに潜った後とかだと疲れてるでしょ?」

「いやベルに荷物とか持ってもらってるし、あんまり足動かすわけでもないンで実はそんなに疲れないンスよね」

「そっか、でも無理はしないでね」

「もちろんッス」

 

 

 無理して倒れたら女神様もベルくんも怒りそうだしね。ほどほどにしとくよ。

 

 それで直近の忙しい日ってやつが───なになに怪物祭(モンスターフィリア)ってイベントの日か。店員が休暇取ってるのと来客が多そうってことで来てくれると助かるってことか。

 

 うわ明日じゃん。うーん、明日ダンジョン行くつもりだったし⋯⋯

 

 

「無理に来るんじゃないよ。どうせいる人間だけで回すつもりなんだ。期待せずにいるさ」

 

 

 うーん包容力。

 頼もしすぎる女将さんの言葉。前もって連絡入れなくてもいいんだと。時間あるときに手伝いに来てくれればいいって、それは俺に都合が良すぎないか?

 

 ヘスティア様以外の誰かに母性を感じたのはこれが初めてだ。無意味な仮定だけど、今のファミリアがなければ自分はこの女将さんに一生ついてきそうな確信がある。

 

 まあそんな感じでいつでもお手伝いに行ける権利を手にした俺たちは、ホクホク顔でダンジョンに向かった。

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