バリアヒーラーの迷宮探索 作:死期
「いつかああいう装備してみたいね⋯⋯」
「ああいう装備って、さっき見てたヤツッスか?」
「うーん、まあね」
ダンジョンの帰り道、武具屋のショーウィンドウに収められていた大型のナイフに目を奪われていたベルを引き剥がした俺は、頭の中でざっくりと算盤を弾いていた。
まともな装備品ってのはそれだけでもう十分に高い。冒険者が高給取りっていうのを前提にしてもめちゃくちゃ高い。そんで
第一級冒険者とかが使ってるようなマジモンの最高品質のやつは「建築物かな?」って思うようなぶっ飛んだ金がかかってるらしい。
そうでなくともベルが魅入ってた
あと俺の使ってる棒は結構いい性能してるらしい。
どんだけ派手にぶつけても歪みない上、程よい金属のしなりと軽さが共存してる。さすがロキ・ファミリアでいただいた代物だ。ちなみに棒術は技術として一般的ではないらしく全然売られてなかった。
「ニィはそういうの憧れない? 魔法使いなら杖とか使うイメージあるけど」
「杖ッスかー、自分は特にはないッスね⋯⋯硬くて軽い棒ならなんでもいいッスから」
それこそ物干し竿でも大して変わらないことできるからな。俺は。
回復魔法でポーション代も浮く安上がりなニィちゃんなので。あとエンゲル係数も低くていいぞ。
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女神ヘファイストス。
下界に在るが故に『
彼女の【ヘファイストス・ファミリア】に所属する上級鍛冶師の腕前は冒険者にとって、おいそれと手の出せぬほど高品質の代物だとされている。その相場は桁外れの収入を得ている第一級冒険者ですら二の足を踏むような法外の値段であり、例えば零細ファミリアたる【ヘスティア・ファミリア】には逆立ちしても手に入ることなどないだろう。
───本来なら。
眷属のためになにかしてやりたいという思いに突き動かされたヘスティアによる
⋯⋯武具の類に強い誇りを持つ鍛冶神が、ただの土下座だけで折れたわけではないのは言うまでもなく、眷属を思う女神の心意気にこそ屈したわけではあるのだが、それを言うのは野暮というものである。
「ヒューマンの子の得物はナイフで、パルゥムは棒と」
「う、うん、そうなんだ」
右目に眼帯をかける赤髪の女性───女神ヘファイストスがため息混じりに確認する。
「⋯⋯ナイフの方は、今からやってやる。けどパルゥムの子の方は今すぐにとはいかないね」
「えっ⋯⋯つ、作ってくれるんじゃなかったのかい!?」
「やるって言った手前もちろん作るわ。でもあんたから聞いた話だけじゃ、その小人に何作ってやるべきか判断がつかない」
曰く、棒とはなんだと。
回復魔法を使うヒーラーであるなら杖を作るべき。しかしどうにも前衛で
話を聞くだけではパルゥムの戦い方や求めている武器が想像もつかない。
ならば防具はどうかと言うと、こちらもそう簡単に作ってやれるものでもない。
件のパルゥムは小人族らしく、極めて力と耐久が低いと聞く。ならば防具を身に纏ったところで衝撃に体が耐えられないだろう。そもそも戦いぶりからしてプロテクター以上の装備はかえって動作を邪魔しかねない可能性がある。
「そ、そういうことか⋯⋯」
「だから今度そのパルゥムを連れてくることね。そしたら考えるよ」
「わかったよ⋯⋯!」
「それじゃあナイフの方は今から打つからあんたも手伝いなさい」
「ああ、任せてくれよ!」
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「やっぱり酒場の方には行けないって連絡しとこうと思うンスよ」
「わかった⋯⋯それじゃあ早めに行っておこうか」
地下室を出て路地裏に飛び出すと、ベルはすぐに駆け出した。それに続いて俺も走り出す。単純な敏捷さではベルに追いつけないが加減してもらいながら走ってるのと、小柄を活かしてパルクールのように動いているのでついていけている。パルゥムのパルはパルクールのパルなのだ。嘘だけど。
あっという間に西の大通りに出て、当の酒場を目指す。
すると路地の角で獣人の店員がたむろしているのが見えた。彼女らがこちらに気付くとブンブン手を振ってきた。
「おーいっ、そこの
「チビじゃないッス!!⋯⋯いやチビか⋯⋯」
キャットピープルの店員だ。
ロリ呼ばわりは直ってたのでまあいいか。でもベルを白髪呼ばわりするのはやめようよ。
「おはようございます、ニャ。おチビは今日手伝いに来てくれるんニャ?」
「お、おはようございます。⋯⋯そ、そのことなんですけど」
「えっと⋯⋯ハイ、今日もダンジョン潜るんで、その⋯⋯ゴメンナサイッス⋯⋯」
「そうニャ⋯⋯シルも店番サボってお祭り行ったのニャ、今日は災難なのニャ」
す、すごく申し訳ない気分になる。
お手伝いさせてほしいって都合のいいこと言ってるわけだからな。店が大変なときなのに行きませんって言っていい気分になるはずもない。
「あ、そうニャ。白髪頭はシルのマブダチニャ。ちょっとコレを渡してきてほしいニャ」
「へっ? こ、これ財布ですか? えっと⋯⋯どういうこと⋯⋯?」
「アーニャ、それでは説明不足です。お二人が困ってますよ」
カフェテラスからエルフの店員がやってきて事情を説明してくれた。
なんでもシルさんが
そして件の
「わかりました。東の大通りから人についていけば、闘技場に行けるんですね?」
「そうニャ。シルはさっき出かけたばっかりだから、すぐに追いつけるはずニャ」
お店手伝えない罪悪感もあって、俺は了承した。お人好しのベルも躊躇なく快諾してる。
邪魔になるだろう荷物───ベルのバックパックと俺の棒───を置いて、俺たちは早速大通りに向けて歩き出した。
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「ふぎゃーーッ!? むりむりムリッス⋯⋯!!」
「に、ニィ大丈夫!!?」
人混みにパルゥムは無力すぎた。他の人の腰辺りに顔がある俺には、道行く人の膝が腹や背中にドスドス刺さる。痛い痛い。たぶん
人波に飲まれた体は一瞬で浮いてあわやベルと逸れるのではないかというところで、腕を掴んで引き戻された。
「た、助かったッス⋯⋯というかシルさんこんなとこ通ってるンスかね⋯⋯」
闘技場を間もなくとしながらも全く前の見えない俺じゃあシルさんも探せない。
痛っ! あいたっ!?
目の前歩いてるおっちゃんのポーチががんがん顔に当たってめっちゃ痛い。
いやホントこの調子じゃ人探しなんて無理だぞ。
そうやって懸命に人混みをかき分けるベルの体を盾にして進んでいた時のことだ。
「おーいっ、ベルくーーん!!」
「かっ、神様!?」
少し離れたところから聞き覚えのある声。俺にはなんも見えないけどベルが驚いたように振り向き、進路を変えたのを見てついていく。
果たしてそこにいたのは女神ヘスティア様。ガネーシャ・ファミリアのパーティーに出ていたためホームになかなか帰ってこれなかった我らの主神がそこにいた。
「おや、ニィ君も一緒だったか! 久しぶりだね!」
「どうしてここに!?」
「おいおい馬鹿言わないでくれ、君たちに会いたかったからに決まってるじゃないか!」
腕の中あったかい⋯⋯
頭撫でられるのきもちいい⋯⋯
⋯⋯ハッ、お、俺は一体なにを
自然に両手を広げてきた神様に対して、俺は吸い込まれるようにしがみついてた。こ、これが母性か。
あーでも、もうちょっとこうしてもらってもいいですか。うりうりとお腹に顔を擦りつけながら、温もりを感じてたい。ベルくんは恥ずかしがるからやらせてくれないんだよね。
生暖かい目が突き刺さってるのを感じるけどいい年こいてなにやってんだって視線はこない。大通りで
「悪かったねニィ君。寂しい思いしたかな?」
「ヤ⋯⋯ベルがいたんで、大丈夫ッス」
「えっと、ところで神様⋯⋯その箱は一体?」
「これかい? これはねー、むふふー」
後ろ手にヘスティア様がなにか持ってるな。カステラかなにかの箱っぽい。お土産だろうか。
「やっぱりおしえなーい! 後のお楽しみだ!」
「えーっ!?」
よし。
満足したから離れるか。名残惜しいけど。
さてこれからどうしようか。俺たちはシルさんに財布届けなきゃならないんだけど、神様を連れ回すわけにはいかないよな。
悩みながらも周りを見ればお祭り騒ぎだ。人混みから少し離れたここからは親子連れやカップルもそこそこ見られる。
⋯⋯いいこと思いついたぞ。
「ベル、これ借りるッス」
「え、なになに。それシルさんの財布⋯⋯」
「⋯⋯なんで君はどこぞの女の財布を持ってるんだい?」
「た、頼まれたんです! シルさんの友人から届けてほしいって⋯⋯!」
がま口財布をゲット。そんで身を翻して二人から距離を取る。
「じゃあシルさんはジブンが探しとくッス! ベルは神様を案内しててくださいッス!」
「⋯⋯に、ニィ君⋯⋯君というやつは⋯⋯!!」
返事を聞かずに走り出す。
うんうん。元はと言えばお手伝いに行かなかった俺が引き受けるべき仕事だったからな。ベルに面倒事させるべきじゃない。
というわけで神様はベルくんとデートを楽しんでくれ。
帰ったら神様頭撫でてくれるかな。「でかした」って感じで⋯⋯
笑顔の神様によしよしされている自分を想像して頬が緩んできた。うへへ。
気色悪い笑みを見られないように、とりあえず俺は人気の少ない路地に飛び込んだ。