バリアヒーラーの迷宮探索   作:死期

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4話

「⋯⋯⋯わ、忘れてください」

「ふふ、その様子なら大丈夫そうだね」

 

 いやー恥ずい。恥ずかしすぎる。

 

 なァにいい年こいて泣いてンだ。まァやせ我慢してたからなァ。アイツら元気にしてっかなァ。

 

 ま、元気だろ。

 

 心配すんなっつッてたのに心配しちゃあ、アイツらに悪ィ。

 

 つーか女神様の包容力ヤバすぎだろ。さすが女神様。

 

 ベルくんはなんか話についてけてなかったっぽいけど涙ぐんでる。お前もいい子過ぎかよ。

 

 ほんっと、いい人過ぎて忍びねェな。

 

 ⋯⋯これ以上、迷惑かけてらんねェ。

 

「ま、まァ、色々話してスッキリしたッス。ジブンはジブンなりに頑張るンで、また後日お礼に来ます」

「⋯⋯うん? え、キミどこ行くつもりだい?」

「⋯⋯や、まァ、なんか適当に⋯⋯?」

「野宿するとか言わないよね?」

「ウッ、いや、まァ⋯⋯しない、とは思うッスよ。こう、色々頑張って」

「嘘だね」

 

 バッサリ言い切られた。

 

 いや、でもさァ。これ以上迷惑かけらんないっしょ。

 

 どうみてもボロい廃墟で生活するファミリア、絶対資金とかカツカツだろ。ここでお世話になるわけにいかない。

 

 好意に甘えるのはヤメ。さっさと出てかねェと。

 

 お礼は───まァ()()体売りでもすりゃなんとかなるだろ。

 

「⋯⋯スンマセン、手ェ離してもらっていいっスか?」

「駄目だね。キミ、なんだか思い詰めた顔してる」

「そんなことないッスよ?」

「それも嘘だ」

 

 ⋯⋯。

 

 もしかして神様って嘘見抜けたりする?

 

 やっべ⋯⋯。

 

 手を引かれるままにまた座り直す。怒ってるな、コレ。多分話についてこれてないベル君も怒ってる。

 

 なんで、なんて言えねェな。こんなお人好しですって顔に書いてあるような奴らの前で隙晒すんじゃなかった。

 

 そしたら難しい顔をしてたベルが口を開いた。

 

「⋯⋯あの、ニィと神様がよければ、【ヘスティア・ファミリア】に入団してもらうのはどうかな?」

「それは名案だ!流石はベル君!ボクの最初の眷属なだけあるよ!」

「はいっ神様!!」

「よぅし!この調子で毎日眷属を増やしていけばロキのファミリアなんて目じゃないぜ!」

「はいっ!!この調子でどんどん眷属を増やしていつか有名なファミリアになりましょう!!」

「ベル君!」

「神様!」

「え、イヤ、申し訳ないッスよ。これ以上厄介になるのは⋯⋯」

 

 ⋯⋯。

 

 はしゃぎだした神様とベル君が固まった。

 互いに抱き合って大喜びしてたのに、なんかすみません。イヤァでも、マジで申し訳なくなるからな。

 

「⋯⋯いいかいニィ君」

「⋯⋯ハイ」

「ボクも無理強いするつもりはないけどね、今のキミを放り出そうなんて考えてないんだ」

「でもジブン一文無しですし、お荷物にしかならないッスよ」

「なおさら悪い!!そのまま出てってどうするつもりだったんだい!!」

 

 ⋯⋯⋯、体売ろうと思ってましたとか言えねェ雰囲気だなコレ。

 

 いやこの体女だしな。

 

 あ、でも万が一この体の元の持ち主に返すことになったりしたら困るしな。春を売るのはやめたほうがいいか⋯⋯?

 

「ニィ君、キミ行くあてもないんだろう?」

「まァそうッスね⋯⋯」

「じゃあしばらくここで過ごすといいよ。ベル君もいいよね?」

「はいっ、もちろん!」

「い、イヤ駄目に決まってるじゃないッスか!それじゃまるっきり寄生虫ッスよ!そんなん駄目ッス」

 

 お、お人好しがすぎるこの人。人じゃなくて神様か。

 

 面倒見がよいっていうかよすぎる。

 

「それならボクのファミリアに入団しないかい?」

「イヤどうしてそうなるんスか⋯⋯」

「キミはさっき寄生虫になるのが駄目って言ってたよね。別にボクの眷属になるのがイヤだとは言ってない。違うかい?」

「⋯⋯⋯いや、まァ、ヘスティア様の眷属になりたくないってわけじゃないッスから」

 

 本心だ。

 

 この人たちがすげーいい人だってのは分かる。いい人過ぎて心配になるくらいだ。

 

 だからこそ、迷惑をかけたくない。不義理をしたくない。

 

「じゃあ決まりだ。ニィ君、ボクの眷属になってくれよ」

「イヤ、だから⋯⋯」

「あぁ、じゃあ言葉を変えようか」

 

 目を逸らした俺の前に、わざわざヘスティア様は目線を合わせてきた。

 

 ⋯⋯何を言われたってここから出てくつもりは変わらない。

 

 そう決意して、まァその決意が次のヘスティア様の言葉でどこかにぶっ飛んだ。

 

「ニィ君」

「⋯⋯⋯なんスか」

「ボクの、ボクらの家族(ファミリア)になってくれないかい? 家族として、ボク達と家族として助け合ってほしいんだ」

 

─────な、にを

 

「ファミリアってのは家族だ。苦しいときには互いに手を差し伸べて乗り越えてさ、幸福は互いに分け合うんだ」

 

「ボクがキミを助けるんじゃない、ボクとベル君と、そしてキミがお互いに助け合うんだ。そんな家族(ファミリア)になってはくれないかい?」

 

 家族。

 

 家族か。

 

 それは、()()()()

 

 あァちくしょう。ヘスティア様、勧誘上手すぎでしょ。

 

 これまで眷属が一人しかいなかったなんて信じられねェ。

 

 あーもう、ホントに、我ながらちょろいなァ。

 

 ンでも仕方ねェだろ。

 

「⋯⋯ジブン、大層な人間じゃないッスよ」

「そんなことないさ」

「神様とベルに、なにかしてやれることもきっとないッス」

「もう一度言おう、そんなことないよ」

 

 ⋯⋯。

 

 ほんとにさァ。そういう人たらしなこと言わないでくれよ。

 

「それじゃ、こっちももう一回だけ聞くよ⋯⋯⋯ニィ君、ボクの眷属(ファミリア)になってはくれないかい?」

 

 二つの真摯な眼差し。二人の持つ赤と青のキレイな双眸。

 

 こんな、初対面の怪しい人間を簡単に信用してさァ。

 

 挙句の果てに家族になってくれ?

 

 良い人過ぎて心配だ。

 

 いつか悪い人間に騙されねェか、心配で心配でたまらねェ。

 

 だから、まァ。

 

 そんなことにならないよォに、()()()()()()()()()なんて。

 

「⋯⋯⋯わかった、ッス⋯⋯その、なんというか、ジブンとしても、願ってもない話ッス⋯⋯」

「───ということは」

「⋯⋯なります。いや違うッスね⋯⋯⋯ジブンを、ヘスティア様の眷属に───ファミリアに入団させてくださいッス⋯⋯」

 

 だから、俺は、頭を下げて頼み込んだ。

 

 

 

「不束者ですが、どうぞよろしくおねがいするッス」

「ん!? ちょっと待ってくれニィ君!今なんだかニュアンスがおかしくなかったかい!?」

「えっ、ンじゃあ、末永くよろしくおねがいするッス」

「ニィ君!?」

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()の豪勢なじゃが丸くんは、そのまま二人目の眷属加入記念と兼用になった。

 

 【ヘスティア・ファミリア】の食事事情に絶句していたニィは、それでもじゃが丸くんパーティーでようやく自然な笑みを浮かべ、いつの間にか眠ってしまった。

 

 血を流していたし疲労もあったのだろう。

 

 崩れ落ちるように寝こけてしまった少女は、今はベルによってベッドに運ばれ穏やかな寝息を立てている。

 

「⋯⋯神様」

「うん、言いたいことはわかるよ」

 

 小人族(パルゥム)特有の小さな背丈はヘスティアのそれより頭一つ分以上小さい。

 

 白───いやベルの持つ真に白い髪と比べるなら灰と呼ぶべき髪と褐色の肌。不健康に痩せている少女は、食卓で『ジブンもダンジョンに行きたい』と語っていた。

 

 ファルナもなかった彼女は、ベルの話を聞く限り見事な棒術を披露していたらしい。きっと将来有望な冒険者になることだろう。

 

 ただし。

 

「ニィ君はいい子だよ。ボクの勘がそう言ってる」

「そう、ですね。僕もそう思います」

「でもきっとまだ話してないことがある」

 

 ここではないどこかで生活していたという彼女の言葉。

 

 死を経て、そして新たな生を受けたとでも言うような彼女の体験は、錯覚や幻覚で切り捨てることのできない重みがある。

 

 だからこそ彼女がなにかを()()()()()()ような態度も、きっと真実だ。

 

「とはいえだ、根掘り葉掘り聞くのはやめたほうがいい。いつか自分から話したくなる日を待つとしようか」

「そうですね」

 

 悪い夢を見ているのかほろほろとニィが涙を流す。ヘスティアが頬を撫でるようにその雫を掬ってやると、顔の険がとれ安心したように体を丸めた。

 

「よしっ!じゃあボクもそろそろ寝ようかな!」

「はいっ!おやすみなさい、神様!」

「うん、おやすみ。ベル君」

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 目ェ覚めたら窒息しかけてました。

 

 ハイ、その、たわわのせいです。

 

 やけに体が暑くなァって思ったら、ヘスティア様と同じベッドで寝てました。

 

 なんかトラバサミみたいに正面から抱きつかれて、あとついでに自分からもなんでか抱きついていたらしく、その、顔が埋もれてた。

 

 あーやわらけー。息できねーって思ってるうちに絞め落とされて、そのまんま二度寝する羽目になった。

 

 イヤ振りほどけないのよ。

 

 見た目相応の力しかない自分じゃ三十センチ近く体格の違う人に捕まっちゃァ逃げようがない。

 

 死ぬかと思った。

 

 死因はおっぱい死、もとい窒息死。

 

 まァ、男の夢ってことで、その、なんだ、ハイ、気持ち良かったです。

 

 

 

 ⋯⋯⋯こんなこと思ってるなンて神様に知られた日にァ切腹モンだな。

 

 墓場までこの気持ちは持ってこ。

 

 おっぱいやわらかかったなー⋯⋯

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 下着は借りた。借りたっつか押し付けられた。

 

 まァおパンツなわけだが、左右を縫って無理やりサイズを合わせたわけだ。いや誰のおパンツかって言ったらそりゃお前、ねェ⋯⋯

 

 マジで面目ねェ。

 

 だけどノーパンで外出るのもアウトだしな。

 

「よしニィ君。今日はファルナを刻むよ!」

「ハイ、よろしくッス」

「うん、それじゃあここにうつ伏せになってくれるかな?」

 

 ベルを追い出して外套を脱ぐ。上はもちろん何もつけてない。胸なんざ無いからな。

 

 ベッドにうつ伏せになると、お尻のあたりにヘスティア様が腰を下ろす。

 

 お、おォ、やわらけー。

 

 なんか針と回復薬(ポーション)なる液体を用意してるあたり、まあファルナは入墨みたいなもんだろう。

 

 あァいうのは痛いって聞くがそれくらい我慢だ。

 

 あの線が細くてひょろっとしたベルだってファルナ刻んでもらってるわけだし、俺だってそれくらい我慢できるだろう。

 

「ッし、ヘスティア様。一思いにやっちまってくださいッス」

「⋯⋯なにか勘違いしてるみたいだけど、ファルナ刻むのは痛くないからね?」

 

 え、そうなの?

 

「ファルナは神の血(イコル)を使って付与するものでね。特にニィくんが気を張る必要もないさ」

「そーなんスか」

「うん、じゃあそろそろファルナを付与するよ」

 

 大人しくうつ伏せになり力を抜く。

 ポタリと背中に何か雫が垂れてきた。

 

 ヘスティア様は針を手に持ってたし、アレで指先に穴ァ空けて血を垂らしたのか。

 

 するとぽわぽわと背中で光が弾けて散っていく。なんぞ幻想的な色合いの光。直接目で見れればさぞや神々しかったのだろう。

 

 なンでもこの光はあくまで演出なのだとか。神様が面白半分に光らせたりしてるだけで、特に意味はないらしい。なんじゃそりゃ。

 

 とにかくファルナの付与自体は拍子抜けするほど簡単に終わった。

 

 背中からヘスティア様が降りて、俺も外套を着直す。

 

 そんで紙を手渡された。エ、この紙どっから出てきた。

 なんかレシートみたいだなと思ったが、これにステータスが記されているらしい。

 

 

───────────────

 

 

ニィ

 

 

Lv1

 

 

 

力:I0

 

耐久:I0

 

器用:I0

 

敏捷:I0

 

魔力:I0

 

 

 

《魔法》

【ベネディクション】

・詠唱『清廉なる天秤は命を量る。燃え尽きる礼賛。祈りの色は白。熾火の下に灰積もる。癒やせ』

 

【リパルス】

・速効防御魔法

 

スキル

一屋根下(ファミリア)

・早熟する

・愛を捧げ続ける限り効果持続

・愛の丈により効果向上

・改宗により効果消失

 

大黒柱

・家族への支援能力向上

・柱状武器による防御に補正

 

吝嗇家

・魔法に消費する精神力を軽減し効果弱体

・魔法の詠唱を省略し効果弱体

 

 

 

────────────────────

 

 ヘェ、ホントにゲームみたいだな。

 

 なんかわかるようでわからん文章が連なっている。つーかこの文字なんだよ。ふつーに読めるからいいけど初めて見たわ。

 

 

「いきなり魔法二つにスキル三つ!?回復魔法使えるし、これは速攻防御魔法?これは聞いたことないよ!なんというかヒーラーって感じだね!」

 

 ヒーラーか。

 

 うーん、なんかこう、切った張ったしてェって思うンだけど。

 

 いやでも回復魔法ってのいいなァ。なんか怪我治したりできるのは、うん、いいなァ。あ、そうだ。早速使ってみるか。

 

 ええと、魔法ってのは使うために『詠唱』しないとならねェのか。えーこの恥ずい文章読まないと使えないんか。

 

「えっと⋯⋯『清廉なる』⋯⋯?なんだっけ『ベネディクション』」

「おお!光ったよ!!」

 

 ぽわっと指先から光が生まれ、胸元にすっと吸い込まれていく。あァそうだ。痣になっている胸を治せねェかなというわけだ。

 

 うーん、少しばかり痛みが引いた?

 

 外套を捲って確認する。

 

 うーん、少しばかり痣がひいた?

 

「今、ニィくん詠唱途中でやめてたよね。それなのに魔法が発動してる」

「んー?あァこれじゃないッスか?」

 

 レシートみたいな紙の一部を指差す。

 

吝嗇家

・魔法に消費する精神力を軽減し効果弱体

・魔法の詠唱を省略し効果弱体

 

 吝嗇家ねェ。ケチンボってわけか。

 

 なんかマイナスなことしか書いてねェように見えるけど、ふぅン?

 

 あーなるほどね。魔法ってやつはちゃんと詠唱しきらないと発動しないらしい。だけどこのスキルのお陰で途中で切り上げても効果があると。まァ相応に弱くなるみたいだが。

 

 魔法の上限を伸ばすんじゃなくて、下限を引き上げるっつーのかな。取り回しをよくさせてくれるっぽい。

 

 まァ気を取り直してもっかい魔法使ってみよう。今度はちゃんと全部読み上げるぞ。

 

「よォシ、『清廉なる天秤は命を量る。燃え尽きる礼賛。祈りの色は白。熾火の下に灰積もる。癒やせ』『ベネディクション』」

「す、すごいよ。さっきより光ってる!」

 

 眩しっ。

 

 なんやこれ。

 

 普通に目が眩みそうなほどの光が手から放たれて、胸元に吸い込まれた。

 

 お、おォ?

 

 痛みが完全───とは言わないが消えている。

 

 痣も目に見えて引いた。

 

 こりゃすごい。別に痣が消えただけだからどこまでの怪我を治せるとかはわからないけど、タンスの角に足ぶつけたぐらいなら治せそうだ。

 

「これは、冒険に役立ちそうッスね」

「うんそのとおりだ!流石はボクの眷属だよ!」

 

 ⋯⋯ヘスティア様は、なんかスキルの一つをガン見しながら飛びついてきた。

 

一屋根下(ファミリア)

・早熟する

・愛を捧げ続ける限り効果持続

・愛の丈により効果向上

・改宗により効果消失

 

 ⋯⋯⋯。

 

 いや、ねェ。スキルは持ち主の心を反映するらしィんだけどさ。

 

 なんか、恥ずい。

 

 これじゃ弟・妹離れできてねェみたいじゃん。

 

 なんスか、その悪い笑み。めっちゃニヤけてますやん。

 

 ⋯⋯⋯。

 

「⋯⋯⋯ち、ちょっとベルにも報告してくるッス。一緒にダンジョン行くなら情報共有しないとなんで」

「あっ、ちょっと待ってくれニィくん!服を、上を着るんだ!!!」

 

 なんぞや騒ぐヘスティア様を置いて、耳ィ塞いで走った。

 

 上で待つベルのもとにパンツ一丁で飛び出した件については、あとから神様にこっぴどく叱られた。

 

 いや、すみません。

 

 このパンツ、ヘスティア様のお下がりですもんね。

 

 あ、違う?

 

 半裸なのがダメ。痴女?

 

 でもジブン、こんなちんちくりんなんでセーフでは?

 

 ア、イエ、ハイ。反省シテマス。

 

 すみません。

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