バリアヒーラーの迷宮探索   作:死期

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5話

「『リパルス』」

「これは⋯⋯魔法陣?」

「っぽいッスね⋯⋯あ、消えた」

 

 速攻防御魔法なる魔法を使ってみたら、半透明の板が数秒生まれて消えた。

 

 神様に危険がないように上の廃教会で実験中だ。

 

 もっかいやってみよ。

 

「『リパルス』」

「狙ったところに出せるんだ!」

 

 別に見た場所とか手を翳すとかそんな必要もない。どの位置に、どの向きで出すかをしっかりイメージできれば自在に生み出せるみたいだ。

 

 あー、でももともと物がある場所には出ねェな。

 

「これちょっと触ってみてもいい?」

「あァ、多分大丈夫だと思うけど───『リパルス』」

「じゃあ触るね───お、おおっ!?」

 

 生み出したバリアにベルが触れると、結構な勢いで仰け反った。ふぅン、壁を生み出してるっていうか、触れたものを押し返す力場みたいなものか。

 

「こ、これスゴいよ!これなら盾に使えるんじゃないかな!」

「うーんどうなんスかねェ。数秒しかもたないッスから、使いにくそうッスけど」

 

 場所は自由自在。でも近けりゃ近いほど狙った場所に出しやすい。

 

 連続でポンポン出すこともできるけど、維持できるのは数秒か。

 

 そんで押し返す力は、こう腕でぐいっと押した程度。

 

 うーん、力不足だろこれ。

 

 バリア名乗るには弱いな。防御魔法っていうかいたずら魔法だろこれ。

 

 まあその分精神力(マインド)の消費も少なそうだ。

 

「実際に戦ってみないとわからなさそうッスね」

「そっか。それじゃあ早速ダンジョンいく?」

「そっスね」

 

 まァなんにせよ金がいるし、ダンジョンとやらに行って小銭稼ぎしないとな。せめてパンツくらい買わないと神様に申し訳立たない。

 

 んー、まァ昨日ゴブリンにぶっ殺されかけたけど、別にトラウマではないんだよなァ。

 

 なんというか、現実味がなかったからな。深刻に考えてなかった。

 

 それにベルくんも一緒に行くわけだし、俺はファルナも貰えたしでなんとかなるんじゃねェかと。

 

 つーことで行こう、ダンジョン。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 神様に軽ゥい感じの挨拶して送り出された俺たちだったけど、すぐダンジョン入れるわけじゃァなかった。

 

 ハイ、冒険者ってやつにならないといけないんですね。

 

 行き先は『冒険者ギルド』って組織の施設だ。そこで冒険者として登録しねェといけないらしい。

 

 ふーん、これアレか。昨日ファルナないのにダンジョンにいたのがバレたら締め上げられたりするアレか。

 

 バレねェようにしないとな。お口チャックだ。

 

 そんでまァギルドの施設である万神殿(パンテオン)ってとこについたわけだが、なんというか思ったのと違う。

 

 冒険者ギルドって聞いたらフツー荒くれ者の兄ちゃんどもが朝っぱらから酒酌み交わしてどんちゃん騒ぎしてるようなアレ想像するわけだが、どうにもそんな場所じゃねェらしい。

 

 なんというか役所みたいだ。うんそうだ、市役所って感じ。換金品を持ってきた冒険者やらが集い、受付の人が書類書いたりなんやらしてる。

 

 おースゲーな、あの服。スーツみたいだ。

 

「⋯⋯ベル、ジブンはどこに行けばいいっスか」

「うーんと、たぶんエイナさんとこに行けばいいのかな⋯⋯?」

「エイナさん」

「アドバイザーの人でね、えっと、あそこら辺にいると思うんだけど⋯⋯」

 

 あそこらへんと言われるままに視線をやったんだが、何も見えねェ。俺のタッパがなさすぎて全然視線通らないわ。

 

 ちょっと肩車でもしてくれねェかな。

 

 あ、やっぱヤメだ。外套の下パンツしかねェから下着で密着することになる。そいつァよくない。

 

「あ、エイナさ〜〜ん!!」

「え、ちょっと待つッス」

 

 急に大声出してずんずん進むベルくん。いや手ェ引いてくれるのはありがたいけど恥ずかしくないのか?

 

 周りの人一瞬ギョッとした顔で見てたぞ。

 

 まァとにかく受付カウンターまでやってきたわけだが、はァなるほどねこの人がエイナさん。

 

「おはようエイナさん!」

「おはようベルくん、そしてそちらの彼女は⋯⋯?」

「あ、おはようございますッス⋯⋯ジブンはニィって言うッス。えーと、昨日ベルのファミリアに入団して、冒険者になろうと思ってるんスけど、登録とかってここでできるんスか?」

 

 耳の先がとんがったキレイなネェちゃんだ。やるなァベルくん。こんな仕事できそうな綺麗所と交流があるなんて。やりよるやりよる。

 

 エイナさんは快く質問に答えてくれた後、事務の人になんぞ声かけていた。あ、踏み台持ってきてくれるのね。助かります。

 

 見上げてばっかりで結構首が痛かったんスよ。

 

 そんでそこからは冒険者についての簡単な説明だ。危険な仕事であることを何度か念押しされて、登録書を渡される。

 

 普通に日本語じゃねェ言語を書けていることに我ながら気色悪さを感じるな。まァ書けねェよか万倍マシだから文句のつけようないけど。

 

「はい、これで登録の方は終わりね⋯⋯それと冒険者の講義の方の手続きもしましょうか」

「講義ッスか。ジブンお金ないんスけど」

「⋯⋯えっと、受講料とかは必要ないわよ?」

「マジッスか」

 

 ひょえー大盤振る舞いじゃん。

 

 なんかその道のプロっぽい人に教えてもらえるんなら是非教えてもらいたい。しかもタダだぜタダ。

 

 どことなく微妙そうな顔をしたベルくんを引っ張って講義をうけさせてもらった。

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 まァ講義の内容はなんか攻略wikiでも読んでるみたいな気分になった。『初心者が最初にやるべきことリスト』みたいな感じで簡潔にまとめられていてありがたい。これ金取っていいと思うぜ。

 

 ただ案の定ベルくんは途中で飽きてしまったらしく集中しきれてなくて、ちょっとばかし叱られてた。そこからは気合い入れ直してたんでいいけど、まァこの辺は俺が頑張って覚えてベルに楽させてやりてェな。

 

 そんで講義の後、軽い気持ちで魔法について質問したら怖い顔で窘められた。

 

 自分のステイタスに関することは安易に人に漏らしちゃダメだと。そんで秘匿すべきステイタス筆頭の『魔法』なんか口にすべきじゃないんだとか。

 

 それに魔法は個人差がデカいから人に聞いても分かることは少ないらしいし、聞くメリットも薄いときた。

 

 いんやまさに正論。ぐうの音も出ねェ。

 

 ぐぅ。

 

 あ、ごめんなさい。ふざけてるわけじゃないんス、ホント。すみません。

 

 魔法に伴う精神力(マインド)の消費とかよくわかんねェから聞いときたかったんだけどなァ⋯⋯

 

 

 

 

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 講義で萎びてしまったベルも、いざダンジョンへ行くとなれば気力も復活していた。

 

 俺? 俺は教わったこと丸暗記しようとして必死に反駁してるよ。

 

 えーと、まずダンジョンの一階層。ここにァゴブリンとコボルトが湧くんだと。群れは三体まででファルナがあるなら誰でも倒せるくらい弱いらしい。

 

「ベル、もしモンスターに会ったら最初はジブンにやらせてくださいッス。そんでヤバくなったら助けてほしいッス」

「わかった。無理しないでね」

 

 腰に提げた駆け出し冒険者用のナイフは、まァ使わんだろう。ナイフとは言っても自分の体格じゃ微妙に取り回しにくい大きさだ。

 

 だから俺の得物はコッチ。

 

 昨日からずっと持ってたなんかいい感じの棒。軽くてよく撓る木製の棒だ。

 

 軽く振り回してみるとヒョウと風を切る音がしていい感じ。

 

 俺の体そうとう柔らかく、関節を動員して棒を振り回すと、体に纏わりつくように回転して結構な威力が出てそう。

 

 なんか映画とかで見る武術の達人っぽさあるわコレ。演舞みたいだった。

 

 そうやって棒術お披露目会を終えた時だ、遠くでなんかの音。近づいてくる足音が聞こえた。

 

「⋯⋯ニィ、聞こえた?」

「ン⋯⋯、やっとモンスターでてきたみたいッスね」

 

 せわしなく足を動かして走り寄ってくるゴブリンが一体。あァ昨日見たときより、なんか動きがよく見える。動体視力とか上がってるのかも。

 

 ベルには後ろで待機してもらってジリジリと前進。体を半身にして棒を中段に構えながらの接近だ。

 

 ゴブリンは二人同時に飛びかからない俺たちの様子に、少し警戒を示した後、前に立つおれに向けて飛びついてきた。

 

「ニィ!」

「⋯⋯大丈夫ッス」

 

 よく見える。

 

 寄ってきたゴブリンの腕を側面から打ち体勢を崩す。あんまり効いてないな。そのまま脇、腰、鎖骨と骨を流れるように叩いてやれば今度は効いたらしく、痛みに一瞬怯んだ。

 

 うーん、攻撃が軽いかな。

 

 でもこればっかりは仕方ないわな。俺の体も棒も決して大きくなく重くもないわけで、魔法も攻撃用のじゃないと来た。

 

 あァそうだ。魔法と言ったら『リパルス』の方が盾として使えるのか確認しときたいんだった。

 

 攻撃の手を止めゴブリンの動きを待つ。好機と見たかゴブリンは両手を広げて飛びかかってきた。

 

「『リパルス』」

 

 飛びかかってきたところに速攻防御魔法。体が浮き上がってたためかこいつはよく効いて、空中で体勢を崩したゴブリンはバタバタ手足を振り回すとどしゃっと背中から落ちた。

 

 う、うーん。

 

 まあ効いたからいいんだけど、やっぱりバリアみたいに使うのはあんまりか?

 

 もっと、こう、攻撃を寄せ付けない壁みたいなつもりで使ったんだけどな。

 

 ひっくり返ったゴブリンを棒でしばき回す。

 

 頭だ頭。あと首。ビシバシ叩きまくった結果、首元でごきりと嫌な音がしてゴブリンは急に霧になって消えた。死んだのだ⋯⋯

 

「はぁっ、はあっ、余裕ッスね!!!」

「お、おめでとう!すごかったよ!!」

 

 微妙に引き気味のベルくん。

 

 よせやい。普通に泥仕合じゃねェかこれ。

 

 うーん、攻撃に当たることはなさそうだけど全然攻撃力足りねェな。

 

 この棒もなんつーか大勢に囲まれたときでも防御しやすい武器みたいな感じだし、どっちかというと防具とか盾だ。

 

 アレかな。ヒーラーは火力出せねェみたいなアレか。

 

 まだ別に回復魔法とか試せてるわけじゃねェから、ホントに俺がヒーラーっぽいのか分からんけど。

 

 どっちかというと防御ばっかり得意なタンクって感じだ。

 

「んー、アレッスね。ジブンの攻撃力足りてないんで、次からは後衛になるッス。防御魔法で支援するンで、なにか思ったことあったら教えて下さいッス」

「わかったよ。魔法で支援してくれる人がいるってなんだか安心するね」

「そっスか」

 

 あーベルくんええ子や。

 

 気を使ってるわけじゃなくて本心から言ってくれてる。

 

 どうみても今の俺は火力不足の役立たずなのにな。

 

 なんか、こう攻撃力はベルくんに任せて、俺は完全に裏方に回るか。

 

 マインド温存するために自衛は棒術で、そして火力役のベルくんを魔法で支援だ。うん、コレだな。ゲームっぽくなってきたけど、役割分担としちゃいい感じだろ。

 

 ところでマインド消費してるような感覚あんまりないんだよな。こう、体の中からふっとなにか抜けるような感じはするんだけどそこまでキツくない。

 

 感覚としては湯船から洗面器で一杯汲み出したくらいのもの。流石に何十回と汲み出せば目減りはするんだろうけど、言ってしまえばその程度。

 

 マインド消費し過ぎるとぶっ倒れるらしいから気を付けねェとならないが、この分なら余裕ありそうだ。

 

 まあ『魔法』名乗るにはちょっと弱いもんなコレ。腕でグイっと押したくらいのバリアだもんなァ。

 

 もうちょっと強くなりませんか?

 

 なりませんか⋯⋯

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 ニィの魔法は聞いていた話では『速攻防御魔法』というらしい。ドーンと魔法の盾が出るのを想像していたベルであったが、なんだか思ったのと違っていた。

 

「『リパルス』」

「───よしッ!これで終わりだね!」

 

 二足歩行の犬───コボルトの走り寄ってくる進行方向に『リパルス』が展開されると、鼻面を魔法陣に突っ込ませたコボルトは大きく仰け反り、がら空きになった胴体を簡単にナイフで切り裂けた。

 

「おつかれさん」

「ニィもお疲れ。『魔法』すごく助かるよ」

「そうッスかね⋯⋯へへつ⋯⋯」

 

 照れたのかそっぽを向いて頬をかくニィ。

 

 彼女の魔法は強い、というよりは便利といった代物だった。

 

 魔法そのものの効果は比較対象を知らないベルには判断がつかないが、きっと弱い部類なのだろう。だけど『速効』の名がつくだけあって素早く、取り回しがいいのだ。

 

「なんつーか、アレッスね。ヒーラーというかデバッファーって感じッス」

弱体役(デバッファー)⋯⋯確かにそうかも」

 

 ニィは徹底してモンスターの動きを邪魔していた。ゴブリンやコボルトが攻撃に移るに先んじて体勢を崩す。怯んだところをベルが近づいてくる倒すという連携は今の所綺麗に決まっていた。

 

 魔法だけじゃない。

 

 ニィのどこで覚えてきたのかよくわからない棒捌きは様になっていて、魔法にたよることなくモンスターの攻撃をあしらっていた。

 

 コボルトの落とした魔石を拾ってバックパックへ。

 

 荷物運びは体格のいいベルの仕事だ。ニィは棒を肩に担いでにへらと笑っている。

 

「いやァ悪いッスね。荷物多く持たせて」

「気にしないで⋯⋯って、腕!痣になってる!」

「うン⋯⋯?⋯⋯あれ、いつの間に⋯⋯『清廉』『ベネディクション』」

 

 捲れた外套から覗く腕に青痣。どこかでぶつけたのだろうそれを、回復魔法でしれっと消し去った。

 

 ⋯⋯⋯本当に頼もしい仲間だ。

 

 才能溢れる彼女に置いていかれないように奮起しなくては。

 

 ベルは気合を入れ直すと次のモンスターの群れを探して迷宮を進んだ。

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