バリアヒーラーの迷宮探索 作:死期
2800ヴァリス。
一階層をひたすら探索してゴブリンとコボルトをしばき続けた結果がこれだ。
ウーン、ヴァリスってなんぞやって思わないでもないけどこれってどれくらいの収入なんだろう。ヘスティア様のバイトの時給が30ヴァリスらしいから相当いいんじゃないか。
無理言って安物の衣類を帰りに買わせてもらいホームに着く。
晩ごはん?
もちろんじゃが丸くんだ。
いやでも俺甘いモンあんまり好きじゃないんだよなァ。
ほんと、ご飯はもういいんでお二人で食べてください。お腹いっぱいなんで。
⋯⋯⋯そ、それじゃステイタス更新してもらっていいですか?
いやこういうのってやっぱり気になるよね。男の子だもん。
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ニィ
Lv1
力:I0 → I1
耐久:I0 → I1
器用:I0 → I9
敏捷:I0 → I3
魔力:I0 → I9
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「───はい、終わったよ!これがキミのステイタスさ」
「ありがとうございますッス」
「⋯⋯⋯ますっす」
言葉尻捉えてくる女神様は、まァこの際無視。
器用さと魔力がトントンで伸びてそれ以外が誤差と。ゲーム的に考えれば理想の後衛って感じに見えるな。
そんで伸びた能力値の総量は───、ベルくんと同じくらいらしい。
・早熟する
・愛を捧げ続ける限り効果持続
・愛の丈により効果向上
・改宗により効果消失
ファミリア。一つ屋根の下、つまりァ家族ってか。
こんな大層なスキルある割にはあんまりかな。いやベルくんに才能があるってことか。
⋯⋯⋯それとも、まさか家族への
足りてないっつーか、なんというか。
要するに───
「ニィくん、どうかしたかい? 顔色が悪いけど」
「ヤ、ジブンは元気いっぱいッスよ」
「⋯⋯⋯そうか。悩みがあるならいつでも言ってくれよ? ボクはキミの主神なんだから」
⋯⋯⋯やりにくいなァ。
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ステイタスってのは実戦だけじゃなく訓練でも伸びるらしい。
んじゃ俺がなにすべきかって話だが、もちろん筋トレだ。
自傷して回復魔法使えは耐久も魔力も伸び伸びやんけ!って呟いたら女神様がめちゃくちゃ怖い顔したので泣いてしまった。いや、泣いてないけど泣きそうになった。
⋯⋯見えるところではやらないようにします。
ところで筋肉痛とかに回復魔法って効くんかな。超回復とか起きなくなって筋トレの意味ありませんとかなったり悲しい。悲しいたけ。
でも筋肉痛のままダンジョン行くのも舐めてるよな。一応命がけなんだし。
まァ女神様の前では自主トレはやめとくか。心配そうな目で見られると心が痛む。俺なんかを心配しないでくれ。そのぶんベルくんを見てやってくれ。
んじゃまァ、今日もダンジョン行きますか。
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と、まァそんな感じの日々が続いた。
アビリティは器用と魔力に振り切れた伸び方してる。私の魔力は53です。53万じゃねェけど。
あと被弾してねェはずの俺の耐久が6とか伸びた日は小一時間問い詰められた。それでめちゃくちゃ警戒されて自傷&回復魔法がバレた。
シャワールームに血が残ってたのが悪かったなァ。
おかげでホームにいる間はナイフ没収だ。
でも収穫もあった。
俺の回復魔法ってのァ結構深い傷でも元通りに治せるんだ。腕とかの裂傷程度ならなんとかなる。でもまァ血は戻らねェみたいで貧血になるんだ。
それと最後まで詠唱した『ベネディクション』は『リパルス』の比にならんくらいマインド持ってかれる。
結構マインド使ったあとに喜々として完全詠唱の『ベネディクション』したもんで、貧血×
血溜まりで気絶してるところで見つかるとかいう最悪のムーブをしてしまった。
死ぬほど叱られたけど回復魔法の感覚は掴めたのでヨシ!
「⋯⋯⋯ニィくん、キミさては反省してないね?」
「ヤ、してるッスよ」
「⋯⋯⋯あんなこと二度とやるなよ?」
「ハイ、もちろんッス」
「⋯⋯⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯あ、やべ、神様って嘘見抜けるんだった。
「ニィくん」
「ハイ」
「次同じことをしたら、ボクは二度と添い寝をしない」
「え」
思わず情けない声が出た。
そ、そんな殺生な⋯⋯⋯
「ベルくんにも、キミとは添い寝をさせない。いやベルくんはボクと添い寝だ」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「もう一度聞くよ、二度とあんなことしないね?」
「⋯⋯⋯ハイ」
⋯⋯⋯いつかでっかいベッド買って、ベルくんと神様と川の字で寝たいって夢は守られた。
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ダンジョン探索は順調だ。実力がついてくるのを実感しつつ、今は4層で戦っている。
モンスターの出現数も増えて収入がウマい。神様に美味しいもの食べさせてあげられそう。
いやーもうちょっとお金貯まったら台所とか新調したいなァ。もちろん自費だ。そんで毎朝お味噌汁を作ってあげたい。
あ、オラリオって味噌あるんか?
ないならないで別の汁物作りたい。というか手料理振る舞いたいし胃袋を掴みたい。
そのためには兎にも角にもお金だ。お金は全てを解決する。
「ってことでベルくん、そろそろ5階層に行かないッスか?」
「うーん、エイナさんに怒られそうな気もするけど⋯⋯」
「でもこの調子なら大丈夫ッスよ」
なにせ5層まではそこまで危険なモンスターも出ない。
あァでも6層、テメーはダメだ。『ウォーシャドウ』とかいう危険極まりない新米殺しが湧くと聞く。
なンで5層まででしっかりアビリティを鍛え上げておきたいわけだ。
「だめッスかね」
「⋯⋯⋯正直、僕も下の層に下りたいなって思ってたところなんだ」
「オッ、じゃア行くッスか?」
「そうだね。神様にもいいもの食べさせてあげたいし」
おーいい子ちゃんだベルくん。
サイコー。一生ついてくよ。
そうして、俺とベルは一つ下の層、第5層へと足を進めた。
このときの軽率な判断を、俺ァ死ぬほど悔やむことになるなんて、まだ知らなかった。
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「モンスター、全然いないね」
「そッスね。でも下の階層になるほどモンスターってのは狡猾になるんで、もしかしたら気配を隠して待ち伏せしてるンかもしんないッス」
モンスターがいない。
不自然に静まり返った洞窟に二人分の足音だけが響く。
おかしいなァ。4層まではもっとじゃんじゃん湧いてたのに。
それに待ち伏せされてるにしちゃあ場所がひらけすぎてる。そンじゃあもっと入り組んだところを探そうと突っ込んでみたんだが、それでも見つからねェ。
気を抜くわけではないが正直拍子抜けだ。
これならとっとと6層目指してもなんとかなるんじゃねェかな。俺の魔法による妨害と、ベルの俊足による速攻は盤石だ。
もうここらじゃ敵なんていねェ。
俺たち地元じゃ最強なんだ。
そんで、ついにだ。ついにモンスター四匹の集団に出くわした。まるで
───あァ、ホント。後にして思えばどんだけ気ィ抜いてんだって話だ。
なァにが気を抜くわけではないが、だって?
バカが。テメェダンジョンはいつだって命懸けなんだぞ。
そんで命賭けてンのは
ちくちょうが。ふざけてんのか。
そんでよォ、オレは知ってたはずなんだ。
なにかあったときっつー『なにか』なんざ、前触れなく訪れるんだ。それをよォく知ってるはずなのによォ。
なにかあったとき、一番に危険な目に遭うのはベル。
その『なにか』は、まさに、今、曲がり角の向こうから────
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ズシンという地響を聞いて、ベルはまず自分の耳を疑った。同じ音がもう一度ズシンと響いて、隣を歩くニィが足を止めた。
もう一度同じ音がして、二人は完全に硬直した。
「───足音?」
「ベル、だめ、だめッスよコレ」
震えた声だった。
ダンジョンの第5層であんな大きな足音を響かせるモンスターがいるはずない。
音源は目の前の曲がり角の向こうから、だんだんとこっちに近付いてくる。
「逃げッ、逃げるッスよベル⋯⋯、ほら⋯⋯」
「う、うん⋯⋯」
首筋がチリチリと焦げているかのような嫌な予感がした。そうだ、さっきのモンスター。やけに焦っていたように見えた。なにかから逃げてきたみたいに統率が取れておらず、簡単に処理できた。
その逃げてきた『なにか』ってやつが、その通路にいるんじゃないか⋯⋯?
逃げようと提案したはずのニィは、その実一歩も歩いていない。足が根を張ったように動かない。ベルとて同じ有様だった。
なにか鈍重な存在感が通路の奥を歩いているという恐怖。それに足が竦んでいた。
ズシン、ズシンという足音はそのままどんどん近づいてくるのに動けない。
だんだんその足音は大きさを増していって。
ふと、止まると、今度は離れていった。
「⋯⋯あ、あァ⋯⋯」
気紛れ、だろう。強烈な存在感は踵を返して離れていく。
───気が、抜けてしまった。
カランという音は足元でした。先のモンスターのドロップ品が手から零れ落ちた音だと、遅まきにベルは気付いた。
ニィの顔が青ざめ、足音が、足音がこちらに。
「⋯⋯ベル、ベルッ、逃げ、逃げなきゃッ!」
少女が手を引こうとしてもんどり打って転げる。余計に大きな音がして、そして、曲がり角の奥に。
現れたのは牛頭人体の怪物。ニィの体を縦に二つ並べても足りない上背。
強靭な筋骨を怒りに膨らませたモンスター、ミノタウロスがそこにいた。
見た瞬間、心が折れた。
あれは、勝てない。
転倒していた少女も完全に腰が抜けてへなへなとへたり込んでいた。
歯の根が合わない。脂汗がどっと体から溢れ、一歩後ずさった。
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死だ。あれは明確な死だ。
第5層にいるはずのないモンスター。血まみれの棍棒を握りしめた牛頭の怪人。ミノタウロス。
苛立たしげにミノタウロスがこちらを睨んだ時に、失禁しそうになりながら、俺は曲がり角からやってきた『死』をイメージする。
ガチガチと歯が打ち合う音は、俺だけじゃなくってベルも立てていた。
おい、死ぬぞ。
死んじまうぞ。
誰のせいだ。
誰のせいで、誰が死ぬんだ。
俺だ。俺のせいだ。そしてベルが死ぬ。
俺が5層に行こうとベルを唆した。
そのせいでベルが死ぬ。
⋯⋯⋯⋯立たねェと。
「────ベル、逃げるッス」
立って戦わねェと。
俺のせいで、
テメェは、なに座ってやがる。
「───ジブンが、時間稼ぐッス。できたら、上で助けを」
膝に、力が入る。
あァそうだ、挽回しねェと。
家族を危険に晒したその罪を、ここで挽回しねェと。
「───たのむッス、ベル、走ってください。はやく、はやく走って」
ベルは、あァ、震えてやがる。可哀想に。
ゴメンよォ、俺が情けないばっかりに。向こう見ずな馬鹿なばっかりに。
でも、兄ちゃん頑張るから。頼む、走ってくれ。
ベルと、目が合う。恐怖に屈した目に、光が灯っている。
「ベル、ベルお願いッス。助けを呼んでくださいッス。ここは、ジブンに」
ベルがもう一歩後ずさる。縋るような目が俺と、その先のミノタウロスを交互に彷徨う。
⋯⋯⋯あァ、お前よォ、やさしいなァベルは。
咄嗟の判断だろう。いや、判断でさえないんだろう。
俺の手を掴んで逃げようとしたその腕を、俺ァはっきりと打ち払った。
「さっさと行くッス。ここは兄ちゃんに任せるッス!!」
いつかのベル君がスキルの副次効果で魅了を無効化するように、ニィちゃんも家族のためとあれば恐怖を無効化します。