バカとバカの弟と召喚獣   作:じょーく

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問 以下の問いに答えなさい。
『イタリアの独裁者で、ファシズム理論を独自に構築した人物は誰か答えなさい』

姫路瑞希の答え
『ムッソリーニ』

教師のコメント
正解です。簡単な暗記問題でしたね。

坂本雄二の答え
『…………』

教師のコメント
消した跡がありますが、おそらく書いてたら正解ですよ?

吉井空弥の答え
『ムッツリーニ』

教師のコメント
坂本君のは撤回です。


第三問

「なぜじゃ!? どうして誰も笑ってくれないのじゃ!」

 

 薄れゆく意識の中、秀吉のアルトの声が耳に届く。ふぅ、やれやれ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

 どうやら秀吉、敵は無能の味方であるという言葉、君のせいで変えなきゃいけないらしいぜ。

 僕はもうほとんど見えない眼で、卓袱台(ちゃぶだい)の上に倒れこみながら後ろにいるFクラスのみんなの様子を観察する。しかしほとんどの生徒は卓袱台、畳の上の違いはあれど、倒れ伏してピクリとも動かなかったので別にそこまで観察する意味はなかった。

 雄二と先生と……頬をひくつかせてる島田さんぐらいしか無事なのいねえや。

 

「すみません、遅れてしまい――きゃああああああああああああああ!」

 

 自己紹介タイムが始まり、次の鐘が鳴るまで開かれないと思われていた扉から現れたのは、先生でも転校生でもなく、元から文月学園に在籍していた生徒、ウェーブのかかった桃色の髪をして、胸は――すごく、大きいです。目立つところを見ようとして髪の次に胸を見てしまう辺り、僕の思春期さがにじみ出た。

 あ、顔は普通に美形だね。しかしどうだろう、Aクラスで美形の人ばかりのを見て、ああ――天は人に二物を与えるんだなあと考えたあれを、僕は撤回しなければならないのかもしれない。

 

 と思ったけど、そういえばやっぱりこの子も普通に頭が良いな、ということを思い出して、僕は神を憎んだ。

 

 そしてそんな彼女はこの畳が紅く塗られた惨状を見て、いまにも卒倒してしまうのではないかと心配できる。教室への扉をあけたら大量殺人事件の現場だったということを考えれば、それは当然の反応だろう。

 

「ああ、姫路さんですか。今はちょうど自己紹介をしていたところです」

 

「自己紹介でどうしたらこうなるんです――ケホッ」

 

 走ったばかりの上、この環境が人に優しくないようなFクラスで叫ぼうとして、咳き込む彼女。

 ああ、まあ見た目通り、体が強いとかじゃないんだろうな。

 ……これは、ちょっとなあ。

 Fクラスに入るというのは、たいてい勉強よりも運動が得意だとか、少なくとも勉強なんかしないで遊んだりする人間ばかりなので、こういう最低な環境でもあんまり構わないで良いはずなんだけど……。

 

「私はちょっと拭くものを用意してくるので、どうぞ済ませておいてください。みなさん、私は少し出ますので、姫路さんの自己紹介が終わった後、少しだけ待っていてください」

 

 普通じゃないこの状況を見て、何時も通りの態度だという福原先生は普通にすごいと思う。

 

「え、と……あれ?」

 

 と、姫路さんが少し目を離した隙に復活している僕たちだった。秀吉も席に「なぜじゃ……」とつぶやきながら戻っている。

 

『…………』

 

 いったいどうしたら、あれだけの現場がこんなありふれたようなクラス風景になるのだろう。しかしそれを気にしてはいけない。なぜなら僕も既に慣れてしまったから。

 

「ひ、姫路(ひめじ)瑞希(みずき)です! これから一年間よろしくお願いします!」

 

 彼女は慣れていないからか、少しだけこのまま自己紹介するのを躊躇したが、それでもさすがの優等生と言うべきかなのか、深々と礼儀正しく頭を下げて自己紹介を終了させた。

 僕みたいに噛まないかなと思ってしまった辺り、僕の器の小ささが知れる。

 

『はい! 質問です! どうしてここにいるんですか?』

 

 Aクラス入り確実であるような姫路さんがどうしてこのバカの集まりなFクラスにいるのか、僕も疑問だった。

 Fクラスはバカの集まり、ここ重要。

 

「あ、はい。えと、実は振り分け試験で熱を出してしまって……」

 

『実は俺も熱(の問題)が出てな』

 

 そうそうそうだった。僕も熱が出てた気がする。

 

『ああ、科学だろ? 難しかったなあ』

 

 科学はともかく、生物は普通に苦手なんだよな。

 

『彼女が寝かせてくれなくて……』

 

 今年一番の大嘘をありがとう。

『今年一番の大嘘をありがとう』

 

 ……Fクラスの皆の声と僕の考えが重なって、少しの感動を覚えた。

 

 さて、それにしても福原先生が拭くものを取りに行っちゃったし、秀吉のところにでも行って駄弁(だべ)ろうかなー。

 

「あの……」

 

「ん? どうしたの、姫路……ちゃん」

 

 さん付けかちゃん付けで迷ったが、ここはまあアキ兄とは違った呼び方をしてみよう。

 

「えと、吉井君の弟さんですよね? 吉井君は……」

 

「弟だから僕も吉井だよ、そんな吉井君はここにいます」

 

「ああ、ええと、そうじゃなくて、吉井明久君は違うクラスなんですか?」

 

 ちっ、フルネームで攻めてきたか。美人な姫路さんに急に名前呼びされて慌てふためくアキ兄を見たかったのに。

 

「アキ兄ならそこに……いないね」

 

「あ……違うクラスなんですか……」

 

 ズーンと暗いものを背負うように肩を落とす彼女。秀吉とは違って、いちいち感情を露わにするので小動物のような可愛さが感じられる。

 それにしてもアキ兄どこにいったんだろう。実はFクラスというのは間違いで、Aクラスに入っていたという怒涛のパターンが0、000000000000000000001%ぐらいはあるかもしれない。

 

「いやいや、アキ兄がFクラス以外とか、ないわー。安心して良いよ姫路ちゃん。アキ兄は一生バカだ」

 

「ええと、安心してはいけないんじゃないんですか?」

 

 正論だった。

 

「じゃあ、今年は少なくともFクラス以外は有り得ないぐらいにバカだよ」

 

「そうなんですか! 良かったです……あ、ごめんなさい! 喜んだりしちゃって……」

 

 良かった、アキ兄がバカで喜んでくれる人がいてくれて。確かに僕がFクラスに入る中、アキ兄がEクラスなんかにいっちゃってたりしたら、僕もしばらくは寝込むという事態に陥っても仕方がないしな。

 と、噂をすればと言うのか、廊下に出ていたらしいアキ兄と雄二が、先生がいないためほとんど無法地帯となって騒がしくなっているFクラスに入ってくる。

 

「ほら、アキ兄が来たよ。もうすぐ先生が来るだろうから、言いたいことがあるなら行けば?」

 

「はいっ♪」

 

 おとなしそうで、頭が良くて、礼儀正しくて誰にも人気がありそうな彼女は、また、感情を露わにしながら嬉しそうに雄二と一緒にいるアキ兄の場所へと向かった。

 

 きっと彼女がFクラスに染まって、誰かに暴力をふるうようなことは無いんだろうなとか、それはそれで寂しいなとか思いながら、一人で雑巾を持ってきているはずの福原先生を待つこととした。

 

「……ずっと覗いてたけど(スカートの中)見えたの?」

 

 姫路ちゃんが去ったあと、彼女の影に隠れていた彼、比喩でもなんでもなく、影に隠れるぐらいに畳の上に這いずって彼女のスカートの中を必死に覗こうとしていた男に、僕はようやく気づくことができて、僕は話しかける。

 

「……覗いてない」

 

「畳の跡がついてるけど」

 

「……気のせいだ」

 

「手で隠してもバレバレだよ……」

 

 一年生のときに出会(であ)った現僕の友達。土屋康太は、今日もムッツリーニというあだ名に恥じない活動をしていた。

 僕はそのあだ名を聞くたびに思う。似たような名前をしている偉人に謝れ。そのあだ名のせいで僕は歴史の問題を一問間違えたんだぞと。

 

「……吉井あきにゃ――」

 

「お前も僕の名前を噛んじゃったとしてもあとで屋上な!」

 

 人のトラウマをえぐりやがって。

 

「……ちゃんと赤い顔をしたところは写真に収めた」

 

「ごめんなさい、今すぐ消してくださいお願いします!」

 

「……安心しろ」

 

 おお、やっぱり一年からの付き合いでいるだけある、さすがは僕の友達、戦友である親友の康太! これからもズッ友だよ――

 

「……もうお前の兄が予約済みだ」

 

「オーケー、僕はアキ兄もろとも康太を消し去れば良いんだね」

 

「……それは困る」

 

「僕は今現在困ってるよ!」

 

 なんで家族が写真買ってんだ! 確かに撮らせて言われても撮らせないだろうけどさ。

 

「……お前のこの写真、ほかの奴にも売れる」

 

「売るなよ!? フリじゃなくて絶対に売るなよ!」

 

「……そして男のほうがよく買っている」

 

「そんな情報いらないよ! 僕が女っぽいって設定がバレちゃったじゃん!」

 

 秀吉には負けるけど、男よりも女寄りの外見をしているという僕の隠し設定がこんなところで!

 

「……だけどそのおかげで命びろいしてることもある」

 

「あん? なにそれ」

 

「……例えば明久がお前のように秀吉に抱き付く」

 

「うんうん」

 

「……明久が死ぬ」

 

「どうなった!? 説明省いてんじゃないよ!」

 

 秀吉の可愛さにあてられたのか!?

 あまりの可愛さで死んでしまう秀吉大好き病、自己紹介のときを思い出すとそれも有り得そうで怖い。

 

「……具体的にはFFF団の手によって」

 

「FFF団……ああ、そんな団あったね」

 

 確かこのクラスにいる須川君という男がその団の会長だったはずだ。そしてあのアキ兄も入っているという団。

 

「あれって何の会だっけ?」

 

「……異端審問会」

 

「ああ、そうそうそれそれ」

 

 モテない男のモテない男によるモテない男のための団、通称FFF団。平気でリア充たちに鉄槌どころか、死神のような大きい鎌で、嫉妬による攻撃をしてくる団である。

 

「なるほど、それで秀吉に抱き付いたら嫉妬で攻撃されてアキ兄が殺されちゃうと」

 

「……(コクリ)」

 

「それでなんで僕は平気なの?」

 

「……お前は抱き付いても女の子同士だということで済む」

 

「僕も秀吉も男だよ!」

 

 みんな秀吉を女扱いしてるのは、なんだかんだでネタかと思ったら本気かよ! 僕も一緒にお風呂に入ろうなんて、秀吉に言われでもしたら気絶しちゃうだろうけどさ!

 

 わざとらしく康太の前で大きなため息をついて、この話にいったん区切りをつける。本当ならば僕の男らしさを小十時間ほど説明してやりたかったところだが、あいにく、もう少しで福原先生は帰ってきてしまうことだろう。

 

「ところでさ、赤い顔になった僕の写真、消してくんない?」

 

「……断固拒否する」

 

「ちっ」

 

「……吉井あきにゃ……」

 

「こうなったら実力行使もいとわないぞ!」

 

「……悪いが俺はのぞ――バードウォッチングで鍛えられた足がある」

 

「どうやったらバードウォッチングでそこまでの自信がつく足ができるんだよ!」

 

 鳥を走って追いかけでもしたのか!?

 

「ふっ、だが言ったよな康太。僕は実力行使もいとわない。そして、僕はやると言ったら最後までやり遂げるかもしれないと小学校のころの先生に言われた記憶がなくもない僕のことを、君は知っているはずだ」

 

「……初耳だ」

 

「いくぞ! これが僕の全力だ!」

 

「……!?」

 

 ギュッ(僕が康太に抱き付く)

 ジャラン(黒魔術師のように全身を黒いマントで隠している20人以上の誰かが鎌を持った音)

 

「わー、ごめんねこうたー。えふえふだんの話を聞いたばかりなのにー」

 

 嫉妬で攻撃をする(・・・・・・・・)FFF団。

 秀吉に抱き付いても女みたいな容姿だからと許されるぐらいの僕。

 そんな僕が、一人の男に抱き付いたところを見たら、FFF団のみんなはどう思うだろうか。

 

「「「異端者には死の鉄槌を!」」」

 

 ……なんか、思ったよりすごそうな感じだな。

 

「……誤解だ!」

 

 ごめんね康太。自分でやっといてなんだけど本当にごめんなさい。まさかここまでとは思わなかったんです。

 

 僕から離れて逃げようとする康太を、あっという間に数の差で追い詰めて捕まえるFFF団。恐怖で逃げ場がないかとアタフタと周りを忙しく見渡す康太を見て、僕は静かに合掌した。

 

 いや、本当にごめん。まさかここまで反応する人がいるとは。

 

「はぁ……なんとか拭けるぐらいの雑巾があって良かったで……す」

 

「……(現在進行形でやばいことになってるFクラス)」

 

「……あの木下君? みんな被り物をしてどうしたんでしょうか?」

 

「…………青春、かのう」

 

 福原先生。雑巾、ありがとうございました。

 とりあえず僕も今すぐ代わりの卓袱台と座布団を取ってきます。




今回は土屋康太君と姫路瑞希さんの回でしたー。
……自己紹介ってこんな長いものだったっけ?
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