太平洋上。見渡すかぎりの青色を、幾筋もの黒煙が汚している。波間に消え行く残骸の中には、同僚のものも混じっているのだろうか?
―――いや、もう同僚ではなくなったのだったか。このヘリに乗った時点で、私の所属は抹消されていたはずだ。
「目標地点に到達。もう一度、貴方たちに課せられた依頼を確認します。作戦目的は味方艦隊との戦闘で半壊した深海棲艦郡の掃討。敵勢力の大半は駆逐艦です。
この依頼を達成したとき、貴方たちはレイヴンとして登録されます。
……敵戦力を確認、想定通りのルートを進行中。情報より少ない、楽勝ですね。これより作戦領域に投下。ミッションを開始します。」
幸運を。そんなオペレーターの言葉に押されるように、私は戦場に降り立った。
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レイヴン。 ―艦隊の枠組みを超え、鎮守府の柔軟な運用のために作られた独立要員―
勿論こんなものは建前に過ぎず、実際には依頼という形で司令部に使われる便利屋。依頼は正規艦隊の撤退支援や残敵処理、敵艦隊への牽制や間引きなど多岐にわたる。構成員の大半は何らかの理由で志願した元艦隊所属の艦娘であり、軍人としては問題のある人物が多い。
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<38分前>
輸送用装甲ヘリSTORKに乗るのはこれが初めてだった。
レイヴン用の送迎機として運用されているこのヘリには、現状私を含めて僅か二人の艦娘しか搭乗していない。
兵装を開発している軍需企業「ムラクモ」のテストドライバーらしい艦娘。艤装も小口径砲に強いムラクモの新装備らしきもので、砲身が集まりガトリングガンのようになっている。それが、左右に一つずつ。
「砲身、Ok。ファイアコントロールシステム、問題なし。スタビライザーよし。重心調整も完了。」
彼女の確認作業は4週目に入り始めていた。慎重な性格なのかテストドライバーの性かと思って見ていたが、どうやら只単に緊張しているだけらしい。だが兵装確認手順そのものに淀みはなく、揺れる機内でも正確だった。
「給弾機構確認、よし。もう一度、「ねぇ、貴方。」は、はい!」
「私は霞、コールサインはこっちが1で構わないかしら?」
彼女、夕張は緊張しきった顔のまま頷いた。
最初こそぎこちなかったものの、彼女との会話は意外なほど弾んだ。
彼女の口数が多かったためだ。緊張を解こうと意図的に口数を多くしているのだろう。自己分析ができていて、その対策もしっかりとしている。僚艦が実戦経験のない企業の子飼い、などど聞いた時には唖然としたものだが、彼女ならばそこまで心配はしなくても良さそうだ。
「実験兵装の試射試運転が仕事だったはずなのに、いきなり実戦データとってこい!なんて言われたときはホンットもうどうなることかと思ったけど。旗艦が貴方みたいな人で良かった~。」
「…旗艦じゃないわ。」
「え?あ、そうか、レイヴンって個艦戦闘が基本だから旗艦がいないんだっけ。」
「そう!そしてその分旗艦が行う指令の伝達やなんかは我々オペレーターが担当しますよ!」
会話に通信が割り込む。やたらハイテンションな若い男の声。
「おおっと、自己紹介は不要ですよ!私は貴方たちについて知っていますし、この試験に合格出来なければもう会うこともありません。もっとも!失敗した場合、私だけでなくこの世ともお別れになるでしょうけれど!
敵は呉鎮守府の艦隊との戦闘を敗走した残存勢力。要は敗残兵ですね。
戦艦、並びに航空戦力は存在していないため、限界までストークで接近します。接敵まで三十分程度。この敵勢力の殲滅が、貴方方への試験となります。撤退は自由ですが、このチャンスに二度目はありません。以上!何か作戦内容について不明な点は?」
「…不明な点だらけよ。敵の数と内訳、その展開も分かっていたら教えて。」
「敵影は10隻前後。それ以外の情報はありません。」
実に簡潔な答え。夕張の顔が引きつるのが見えた。
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<作戦領域上空>
「先に行くわね。レイヴン1、霞、出撃るわ!」
「レイヴン2、軽巡夕張、続きます。…これに生き残れば!」
限界まで接近するとは聞いていたが、これは流石に近すぎる。敵の目の前に運んで空から投下するとは…。ここまで近いと撤退も不可能だろう。まぁ元々、逃げる気もない…逃げるわけにもいかない。敵の艦影は8。戦力差は圧倒的だが、一応打ち合わせはした。夕張もあてに出来るハズだ。
戦闘モードを起動し、降下。敵に照準を合わせる。戦闘開始だ。
多勢に無勢。
だが時間も領域制限もないのなら、引き撃ちでの遠距離戦で数を減らそう。機上ではそんな策とも言えない粗末な作戦しか建てることが出来なかった。
どのみち敵の目の前に出されて味方が二隻しかいないとなれば、そのくらいしかやれることはない。苦しい戦いを覚悟していたが、この作戦は驚くほど上手くいった。
「敵戦力、残り50%」
「了解!次、1時方向!敵駆逐2!10時の軽巡はこっちに任せて、向こうを狙いなさい!」
「了解!」
唸り続けるガトリングに負けないよう無線に怒鳴る。
夕張の新兵装、開発チームにはその装弾数から25ガトと呼ばれているらしいソレは、凄まじい勢いで弾丸を吐き出していく。
低装甲艦を標的に掃討戦用として開発されたこのガトリングは、敵の駆逐艦を蹂躙していった。火力こそ低いものの、連射性と装弾数に秀でた優秀な装備だ。
自らの射程外から射撃され、敵駆逐艦は為す術なく海の藻屑となっていく。
だが問題もある。射程の短さもあって、軽巡以上には通用しづらいようだ。
そのため私が前衛として囮を兼ねて突撃を担当し、後衛の夕張が固定砲台として敵を迎撃している。
最大戦速で突撃しつつ、軽巡に照準。主砲で制圧射撃を行い、こちらに視線を向けさせる。
相手が砲身を向けたのを視認し、魚雷を射出。照準のため動きが単調になった敵を狙う。一発…いや、二発。残弾よりも数を減らすことを優先すべきだろう。
針路をわずかに変更、直後に敵の砲撃が水柱を立てる。続いて至近弾多数。
魚雷の到達には時間が掛かる。まだ引きつけて置く必要があり、大きく舵を切る訳にはいかない。主砲で適度に牽制しつつ、魚雷の命中を祈る。
敵弾が止んだ。
「やった、敵影消滅!どーぉ、この攻撃はぁっ!!」
夕張も問題なく敵を排除したようだ。初陣の緊張からか、興奮している。射撃は正確さは保っているが、
「危なっかしくて見てらんないわね…。」
航跡が嫌に単調だ。敵への攻撃に集中しすぎて、視野狭窄に陥っている。
マズイか?アレじゃ、いい的になって――「避けなさい!レイヴン2、ブレイク!!」
「~っ!きゃあ!」
敵弾が夕張に突き刺さる。放ったのは、赤い重巡。
「ELITE!」
「注意、敵重巡を確認。予定にない敵戦力ですが、殲滅してください。」
――タイミングおかしいでしょ!?攻撃されてから警告だなんて!
くそ、文句を言っている暇すら惜しい。まずは夕張の所に、いや、射程で劣っている以上、的が一つから二つに増えるだけか?そもそも、敵の次弾の方が早い。夕張から離れすぎた、戦場で新兵を一人にするなんて…<また>私のミスか?
「落ち着きなさい、霞…まずは、敵の追撃を阻止しないと。」
自分に言い聞かせる。
エンジンフルスロットル。一直線に敵に突っ込む。まずは敵の視線を引きつけねばならない。
照準もそこそこに、主砲を撃つ。どうせ、当たったところで大した損害は与えられない。
「レイヴン2、損害報告!…レイヴン2、生きてたら返事しなさい!!」
「…ちら、レ…ヴン2!損害はありますが、ガトリングが盾になってくれました。なんとか動けます!」
横目で確かめると、撃ちぬかれたか壊れてパージしたのか、あの馬鹿でかい砲塔が片方無くなっていた。艤装そのものも右側が破損しているが、航行は出来ている。
「良かった、いけそうね。突撃するわ、ついてらっしゃい。」
「ちょ、ちょっと待って?ELITE相手に二隻で突っ込むの!?」
「そういう試験でしょコレは。それに、正確には私だけよ。レイヴン2には後詰をお願いするわ。」
「そんな無茶なって、お、置いてかないでよぉ!」
どのみち走り出したらすぐには止まれない。魚雷の残弾は4。当てられれば勝機はあるが、ELITE相手となると、相当に接近しなけば当たらないだろう。
…ここまで考えて、違和感に気づく。敵に突っ込んでいる私に、まだ敵弾が飛んでこない。本来なら、即座に敵から応射があるはずだ。
「敵の様子がおかしい、味方艦隊が何らかの損害を与えていたようです。運がいいですね。」
気楽に言ってくれる。本当に運がいいなら、初戦からELITE重巡になぞ出会っているものか。とりあえず、生きて帰れたらオペレーターを変えてもらおう。
敵は損傷からか、照準に手間取っているようだ。だが、それも大雑把な狙いでも当たる近距離になれば関係なくなる。かといって遠距離戦で撃ちあっても分が悪いだろう。敵はまぐれ当たり一発で勝てるが、こちらは何発叩き込めばいいか分からない。
どちらにしろ運が絡むのなら…
「賭けるか。」
突撃を継続。徐々に敵弾が体を掠めるようになる。
至近弾。あと一歩が遠い。
魚雷を射出。全弾撃ち切る。
だがその魚雷が重巡に届くより早く、
敵の砲塔が動き、
そして…
それよりも先に魚雷が破裂する。
至近距離での爆発に体制を崩した敵に、一直線に突っ込む。
射出直後に海面近くで炸裂した魚雷に対し、手に持つ主砲を盾にして。
魚雷の破片が体を傷つけるが、構わず加速。撃ち切った魚雷管を捨て、傷ついた主砲/その砲身部をパージする。
主砲の装甲部がスライドし、先の尖った鉄塊――触角が形作られる。
「沈みなさい!」
最大の速度が乗った触角は、容易く敵の装甲を打ち砕いた。
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その後。
律儀にも後に続いていた夕張によって、瀕死の敵は完全に沈黙した。
「てっきり、ついて来ないと思ってたわ。私は命令を出す立場にはないし、あれだけ損傷を受けていたのだから、ついてくる義理もなかったのよ?」
「でも…あのとき賭け、って言ってたし。アイツに勝てる確証はなかったんでしょう?それなのに撤退もせず、私を庇ってくれた相手を見捨てる訳にはいかないわ。」
聞かれてたのか。
「…試験に失敗する訳には行かなかったってだけよ。」
敵の殲滅を確認し、ヘリが降りてくる。
「敵部隊の殲滅を確認。
貴方方の力、見せていただきました。ようこそ、新たなるレイヴン。貴方方を歓迎します。」
Misson1 レイヴン試験 クリアランクA
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レポート<この作品における設定>
企業。この作品で単に「企業」と表現した場合、艤装研究開発機関「TEAM R-Type」から技術供与を得た軍需企業群を指す。兵装や弾薬の製造に専念している社、Rと共同で開発を行っている社、独自の艤装を開発しようとしている社、等各社のスタンスは様々。稀ではあるが、企業からレイヴンに依頼が出されることもあるようだ。
レイヴン。当作のレイヴンイメージは、真面目な人が多いリンクスよりも、自由(すぎる)人が多そうなミグラントに近い。試験を乗り越えたレイヴンたちは、ネストと呼ばれる組織に加入、以後鎮守府や司令部から出された依頼をこなしていくこととなる。各鎮守府にも駐留所があるが、基本的に依頼があればどの鎮守府にも行くため、渡り鳥にも例えられる。
ムラクモ。クラウドブレイカーではなく、ミレニアムな方。小口径砲に強いとかは完全に捏造。当作品では、気合を入れて開発した25ガト(ACV系列に登場するガトリングガン)が、重くて装備しづらい割に使用用途が狭いという理由から提督たちに不評であったため、実績作りを目的にテストドライバーを戦場にブチ込むという暴挙にでる。結果として目論見は成功し、ELITE重巡を撃破(正確にはトドメを刺しただけだが)するという快挙を成し遂げたため狂喜乱舞の真っ最中。調子に乗って35ガトを作りはじめた。
数多くある企業の中から何故この企業を選んだかといえば、作っている機体に陽炎や不知火、響なんて名前があるからである。自称「技術のムラクモ」。実際すごいのだろうが、製品に「技術のムラクモ」なんて書き込んじゃうお茶目さん。
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<当作品について>
キャスティングの理由と紹介
霞。 主人公。艦これTRPGで「古風」個性判定の「白兵戦闘」を持っていたため、古風の白兵戦→触角のことか?→≒体当たり→ブーストチャージ! という連想から主役に。
とある事情で、艦隊勤務からレイヴンへの異動を目指す。艦隊では旗艦を勤めていたおり、その感覚が抜けずに夕張に対して指示を飛ばしていた。小回りと器用さを活かした味方艦のカバーと艦隊全体のサポートを得意とする。…割に触角を装備して突撃したりする。夕張が報告書でべた褒めしたためにムラクモに名前を覚えられた。これで沈んでも強化されて復活フラグが立った。
手持ち式の主砲の砲塔は、砲身部をパージすることで触角に変形する。
夕張。 僚機。レイヴン試験の僚機→アップルボーイ→メロン。メロンは果菜?聞こえない。
兵装実験艦というとても物語的に美味しい立場。当作では艤装を開発している企業の一つ、ムラクモのテストドライバー。訓練施設から直接ムラクモに就職したため実戦経験はない。練度や航行技能そのものは高いため、戦場に慣れさえすれば飛躍が見込める。企業の無茶ぶりで死地に放り込まれた被害者。レイヴンなんて性格破綻者しかならないと聞いていて(そしてそれは客観的に見て正しい)どうなってしまうのか不安でいっぱいだったが、僚艦に恵まれた。霞さんに対して恩義を感じている。これも一種の吊り橋効果。
武装の25ガトの射程は短以上中未満。装弾数は2500発。
戦闘について
この作品では一部の戦闘場面に、艦これTRPGの戦闘結果を取り入れております。
お読みいただきありがとうございました。初投稿につき、お見苦しい点もあったかと思われます。後日修正致します。
5/31題名をCombined Fleet Girls Collection Infinityから変更