体の向きを変え彼女の方へと近づいてゆくと、中尉も俺の意図を察したのか、俺の方へと向かって飛んできた。注意するべきなのはさっき述べた通り、マッジク・ブーストを使用されて不意を突かれること。
「機動性はこっちが上、さっきは慎重になりすぎたもんな……こっちも不意を突いて……」
射程に入った。銃を構え、引き金に指を掛ける。よく引き付け、位置を予測して……一瞬だけ引き金を引く。
「おっと」
放たれた弾丸をするんと避けられる。その後も数発射撃するが、見事に全弾避けられるか、シールドに阻まれ手ごたえがない。が、その間に中尉の後ろをとることができた。
「やっぱりやるっ」
「次はこっちから行くよ!」
そういわれたとたん、中尉が進行方向を変えないまま体ごとMP43の銃口をこちらへと向けてきた。間髪入れずに牽制が飛んでくる。足を前へ向け空中で急停止、強烈なGが体を襲うと同時に弾丸が目の前の空を切った。
航空歩兵が航空歩兵である由縁は、その戦闘スタイルにある。脚部に装着されたユニットで進行方向を調整するため、通常の航空機に比べ機動性が高く、動きの自由度が高い。進行方向と逆に射撃することや空中停止、無理をするならば鋭角に近い機動などのトリッキーな軌道もできる。さらにはホバリングや垂直及び短距離離着陸など、後のヘリコプター、この時代で言うならばオートジャイロでのみ可能なことを変形等の準備無しで可能である。そのため戦略、戦術的な自由度も高く、単純な戦闘能力だけなら、航空機よりも有利である。
中尉も俺もその特性が理解できているからこそ、エースとして活躍でき、なおかつ生き残ることができているわけで。
だからと言って、空中にそのまま静止しているのはこの場合においては特性を生かせているとは言えない。実際、追い打ちをかけるように弾丸が飛んでくる。
「うぉ」
シールドを張りながら後退しつつ、銃口を中尉に向ける。しかし、なかなか照準が定まらない。いや、定まらないように中尉が動いている。にもかかわらず、あちらはこちらを見事にとらえ、当ててくる。
「いいぞ、クルピンスキー!そのまま押し切れ!」
管野中尉の声援が通信機を介して俺の耳に届く。同時にクルピンスキー中尉にも届いているのか、声援に呼応するように動きがよくなる。
「このままだと……本当に押し切られるな」
いずれシールドを展開できなくなるし、マジックブーストを使われ、隙をつかれた時が危ないか。
「やっぱり、まだ技能が足りないか」
状況を打開するため必死に狙いを定めるものの、ダメ。俺と中尉との間に技能の差を感じる。
「……あの技を使うには近づかないといけない……でも、自分から近づくのは厳しいだろうし」
こまめに回避軌道をとるものの、それさえ見越して射撃が来る。抜け出すのは難しいだろうし……飛びながら考える。マルチタスクは得意じゃないが、職務上、そうやすやすと負けるわけにはいかない。追い詰められた時こそ、逆に冷静になるべで……逆?
「……そうか、無理に自分から向かわなくたって」
こっちから近づけないのなら、あっちから近づいてもらえばいい。
「なら、こうすれば……」
わざと気が抜けた動きをする。些細な動きだがその動きを見抜いたのか、視界から中尉が消えた。
「来た!」
何も持っていない左手に魔法力を込める。最後に見えた位置から察するに……
「ここぉっ!」
「読まれた!」
シールドを解除、体をひねり予測位置に体を向ける。予想通りの位置に中尉が来た。しかし、位置的にMGで当てるにはつらい近距離だが、剣一閃が届かない距離。それも大体予想通り。やっぱり、この技を使うタイミングが来た。
グローブに魔法力を流し込み、グローブを構成している物質の光の反射率と屈折率を変える。そして左手を突き出し……
「シャイニングフィンガー!!」
手から一瞬だけ、シールドを展開させ、シールドの発光を一転に集め、中尉の顔に向けて放つ。
「うわ!」
まぶしい光が中尉を襲う。中尉は思わず目を覆った。
「この瞬間を待っていたんだ!」
背中に装備していたMP40を左手で構え、中尉に銃口を向けて、引き金を引く。
「あんまり正々堂々とした勝ち方じゃないけど……さすがトップエースだな……こうじゃなきゃ勝てなかった」
ピンク色のインクが、血のように中尉のコートを染めていた。