「ふぅ……気持ちよかった」
シャワーを浴び終わり、体をふき、服を着る。もうすでに西住大尉はいない。
「食堂の場所は……格納庫のある棟か。外を一度通らなければならないから、部屋に戻って厚着するか。あ、部屋にまだ荷物ないんだった……はぁ……結局この寒い格好で外に出なきゃいけないのか」
知っての通り、この世界の女性は一般的にズボンという名のパンツを丸出し、もしくは上にタイツを着る程度。もともとこの世界の人間じゃない俺にはかなり抵抗感がある服装だ。なにより、あの格好は寒いのだ。冷え性で寒さが嫌いな俺に、あの格好は苦痛でしかない。だから俺は、普段から男性用の長ズボンを履いている。よく他のウィッチに疑問を持たれるが、「男装が趣味」で押し通していたりする。そのくらいには頑なに長ズボンをはいているのだが、今は履いていない。理由は簡単、昨日はタイツを履いたまま就寝してしまったからだ。長ズボンはストライカーユニット装着時に邪魔になるから、戦闘時にはタイツに履き替える。昨日は戦闘後にズボンに履き替える時間がなく、後回しにした結果がこれだ。
「取りに行くか……」
昨日の自分を恨みながら、脱衣所を出る。刺さるような寒さが、温まった体を急速に冷ましていった。
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「お、あったあった!」
寒さに震えながら格納庫に入ると、入り口のあたりに俺の荷物が放置されている。何個かあるバッグの中から一番大きいバッグを開き、中にある男性用の長ズボンを取り出した。
「確かここに……あったあった。やっぱこれがないと」
一般に市販されている男性用の長ズボンが数着入っているバッグから、汚れが目立たない暗めの色を選んで取り出し履く。俺の身長では、いわゆるショートサイズでも裾が余る。なので、裾を店に頼んで裾上げをしてある。
「よし、ぴったりだ。もう西住大尉のご飯ももうすぐ作り終わるだろうし、食堂に行くかな」
先述した通り、西住大尉のご飯は美味しい。さらに、この基地には、美味しいご飯を作ってくれるウィッチがいる。下原少尉だ。下原少尉のご飯はブレイブ本編でも評判だったと記憶している。あれさえなければ、彼女は完璧なんだけどな……
「ふふふ……楽しみだな」
食事は兵士の文字道理の生命線であり、重要な娯楽の一つだ。食事の良し悪しは士気にかかわる。某機動戦士でも、コックの人が「塩が足りない」と嘆いているシーンがあるが、塩がなければ人は死ぬし、塩は味の決め手だ。塩分がなければ、前線の兵士は栄養的な意味でも、精神的な意味でも実力を発揮できない。まぁ、ありすぎても大味になるだけだが。つまり、「食事は大事」というわけである。
なんて考えていたら、俺の体は食堂の目の前にあった。食堂に入ると、厨房からは音がするが、席には誰もいなかった。適当な席に座り、誰かが来るのを待つ。
「あ、滋中尉、おはようございます」
直ぐに人が来た。城野少尉だ。
「おはよう、少尉。クマがあるけど……大丈夫?」
顔をよく見ると、薄くだが、クマが見える。遅くまで仕事をしていたのだろう。書類仕事が苦手な上司としては申し訳ないが、ねぎらい程度しかできないもんで。
「えぇ、大丈夫です。隣失礼します。それよりも……あなたこそ大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。体は大丈夫。あ、隣なら全然開いてるしいいよ。それと、あの後、俺を運んでくれたのって、もしかして少尉だったりする?」
もしそうなら、お礼が言いたい。普段から迷惑をかけているのだし、礼儀ぐらいは尽くさねば。
「えぇ。中尉は軽いので運びやすかったです」
「そ、そう。ありがとう」
軽い、ねぇ……そんなに軽いのだろうか?
「あなたはもっと食べたほうがいいですよ」
「そうかな」
なんて話していると、廊下から数人の声が聞こえてくる。
「カンノたら、『あいつがいなくても倒せたって』言ってるんだよ」
「カンノちゃんらしいね~」
「うっせえ、事実を言ってるだけだ」
「でも、危なかったのは本当じゃないですか」
ブレイクの面々、カタヤイネン曹長、クルピンスキー中尉、管野中尉、雁淵軍曹だ。四人ともこちらに気が付いたのか、それぞれが別々の反応をする。どこか驚いているようなクルピンスキー中尉、バツが悪そうな管野中尉、そんな二人を不思議そうに見つめるカタヤイネン曹長。そんな三人のことなんてお構いなしにこちらによってくる雁淵軍曹。
「おはようございます、滋さん!」
「おはよう、雁淵軍曹」
元気がよいのはよろしいことだ。査定に書きやすい長所だね、なんて。
「隣にいるのは……?」
軍曹が不思議そうに少尉のほうを見つめる。
「あぁ、彼女は城野少尉。俺の部下で、腕の立つウィッチさ」
「初めまして、雁淵軍曹。あなたの活躍は聞いていますよ。短い期間ですが、よろしくお願いします」
少尉が立ち上がり、雁淵軍曹のほうに手を出す。
「はい!よろしくお願いします!」
軍曹は、少尉の手を握り、これまた元気よく挨拶をした。
「あの、隣いいですか?」
軍曹が少尉に聞く。
「えぇ、どうぞ」
少尉は快くその申し出を引き受けた。
「皆さんも近くに来てくださいよ!」
軍曹が突っ立ったままの三人をテーブルに誘う。
「じゃ、ワタシはシゲル中尉の前に座っちゃおうかな」
真っ先に反応したのはカタヤイネン曹長だった。
「どうぞどうぞ。それに、『シゲル』でいいよ」
「うん、わかった。よろしくね、シゲル」
小動物のような笑顔と同時に、その印象をかき消す巨乳が机に乗る。
「oh…」
思わず声が出てしまう。
「ニ、二パ君……」
クルピンスキー中尉も反応した。女性愛者の彼女にも大きな破壊力を持つあの巨乳……すさまじいな、なんて。
「どうしたの?」
曹長がこちらを怪訝な顔でこちらを見つめる。
「あ、いや、何でもない」
さすがにおっぱいに驚いてなんて言えるはずがない。
「そう?ならいいや。二人とも立ってないで座りなよ」
彼女に追及されずに済んでよかった、なんて思っていると、曹長は未だに立ったままの二人をこちらに呼んでいた。二人はしぶしぶといった顔で曹長の隣と、その隣に座った。
「おはよう、クルピンスキー中尉。管野中尉」
「あ、うん。おはよう、シゲル君」
「お、おう」
なんだかぎこちない。
「どうしたんだ、二人とも?」
ま、なんとなく察せるがね。こういうのは聞くのがマナーみたいなもんだし。
「いや……何でもないよ。そういえば、君も僕と同じ長ズボンなんだね」
まず反応があったのはクルピンスキー中尉。ぎこちなさの原因は俺だろうし、俺が直すべきか。
「あ、確かに。昨日は履いて無かったよね」
と、曹長。
「うん、普段は長ズボンなんだけどね。短いズボンとか、扶桑式の下着が好きじゃなくてさ」
「へーなんで?」
曹長が話を広げてくれる。こういうコミュニケーションが上手い人が一人いると、すぐにぎこちなさが消えるものだったりするので、ありがたい。
「ま、何個か理由を挙げるなら、寒いからとか、さっきも言ったけど、短いズボンが苦手だったり、あとは……趣味かな」
「趣味?」
次は菅野中尉が食いついてきた。よしよし、いいぞいいぞ。
「うん、男装というか、それらしい格好をするのが好きなんだよね」
と、いつものテンプレを話す。
「もしかしてお前、
「カ、カンノ君!?」
「そういえば、一人称も『ワタシ』じゃなくて『俺』だよね。カンノも『俺』だけど、口調まで男の人みたいだし」
と、管野中尉がよくないところをついてきた。それに曹長が追い打ちをかける。
「さあね。ま、少なくとも節操無しじゃないから、安心して」
「なんか歯切れの悪い言い方だな」
ま、管野中尉が言ったことは間違いじゃないけどね。でも、節操無しじゃないのは事実だし。
なんて、いい感じにコミュニケーションが取れるようになってきたころ、食堂に入り口からさらに人が入ってきた。
3000文字超えちゃった。作業用として聞いてたヒラサワのメドレー(訳50分)の総数が3とかいうのが笑える。