ラブライブ! Rainbow Colors 作:isizu8
銀髪の少年『ライ』は記憶喪失である。ある日当てもなく街を彷徨い行き倒れていたところを皇家に拾われ、それから紆余曲折を経て皇家の養子となりそれから彼は皇ライとなったのである。
「やはり、駄目か」
ライは公園のベンチに座り、一息つく。
「そう簡単に戻ったら、苦労はしないか……」
皇家の計らいで午前中は虹ヶ咲学園へ通い、放課後は失った記憶を求め街へ駆り出し記憶の手がかりを探す。休日の場合はこれを1日中……。これがライの日常であった。
しかし、それを毎日繰り返しても全く成果が得られない現状に彼は辟易としていた。彼は感じていた。このままでは、記憶は一生戻らないかもしれないと……。
「ライ君?」
どうしたものかと俯く彼に何者かが声を掛けてきた。
「歩夢……」
声の正体は上原歩夢。虹ヶ咲学園の生徒でありライのクラスメイトでもある。
「今日もずっと街を歩いてたの?」
「ああ」
「その様子だと、今日も?」
「……察しの通りだ」
「そうなんだ……」
歩夢はライの事情は一通り知っていた。
ライが転校した初日、クラス委員長ということもあり校内の案内は彼女が行っていた。その際に彼の事情を聴いており、それ以来、ライを何かと気にかけるようになりこうして時折言葉を交わし合う仲になっていた。
「そういう歩夢はどうしてここに?」
「私はちょっとお買い物に行こうと思って……」
歩夢はそこまで言うと一度言葉を切ってそのまま少しの間考え込む。その仕草をライは不思議そうに眺めていると……。
「そうだ! ちょっとライ君に手伝ってほしいことがあったの」
「手伝ってほしいこと?」
「うん。今からパスケース買いに行こうと思ってて、一緒に選んでほしいんだけど……お願いできるかな?」
歩夢が両手を合わせ懇願する。ライとしては少し休憩した後、記憶探しを再開しようと思っていた。
しかし、どうせこの後再開したところで手掛かりは掴めないだろうと若干諦めかけており、気分転換に歩夢に付き合うのもいいかもしれないと考えていた。それに、自分をいつも助けてくれる歩夢の頼みなのだから引き受けるべきだろうとも感じていた。少し悩んだ末、ライは答える。
「分かった。僕で良ければ手伝うよ」
「ありがとう! 疲れてる所ごめんね」
「気にするな。丁度、気分転換しようと思っていたところだから。それで、どこに行くんだ?」
「えっと、ここのお店なんだけど……」
歩夢は鞄の中から携帯を取り出しそれをライに見せながら行き先を告げる。そこは駅に隣接するデパート内にある雑貨屋だった。
その後、二人は目的地に向かって歩き出す。
◆
ライと歩夢は買い物を済ませた後UTX学園前までたどり着く。
歩夢の買い物に同行したライだが、それが終わるとまだ時間があるので一人で記憶探しを再開しようとした。しかし、今度は歩夢も同行すると言い出した。彼女曰く『お買い物に付き合ってくれたお返し』とのことだった。
「いつもすまない」
「えっ? どうしたの突然」
歩夢は今回と同様に、都合が良い日はかなりの頻度でライを手伝っている。彼としては自分の都合に付き合わせてしまっている上、未だ何の成果も出せていない現状であるため、付き合ってくれている彼女にも申し訳ないと感じていた。
「訳わからん奴の相手をさせて、済まないと思っている」
「……」
「……本当だ」
ライがそう言うと歩夢は目を丸くする。本心で言ったつもりなのだが、反応はいまひとつだった。暫くすると彼女は突然……。
「ふふっ……」
笑いだしたのだ。一体何故笑っているのか理解できないライは首を傾げる。
そんな彼に歩夢は笑顔を浮かべたまま答える。
「ごめんねいきなり笑ったりして。でも、ライ君が変な事言うから」
「変、かな?」
「そうだよ。だって私はライ君の事『訳の分からない人』だなんて思ってないし、そもそもそんなこと自分で言うことでも無いでしょ?」
「……」
「私は好きで君のことを手伝ってるの。だからそんなこと言わないで、これからも私を頼ってほしいな」
そう言って歩夢はライに笑いかける。裏表の無い本心から来る表情だ。
「……ありがとう」
ライは目の前の友人に感謝しつつ、その場を後にしようと踵を返す。すると、その先に写ったのはUTX学園前の街頭ビジョン。それだけなら別に不思議な物では無いのだが、次に映った光景がその印象を変えていく。
『みんなー、今日は私たちのライブに来てくれてありがとう! 精一杯歌います!』
『私たちと会場のみんな、中継先のみんなで輝きをつないでいこう!』
その映像には華やかな衣装を身に纏った18人の少女が映っていた。
「あれは……?」
「スクールアイドル……。μ'sとAqoursだね」
「歩夢、知っているのか?」
「うん。と言ってもそんなに詳しくないけどね。えっと、確か……」
歩夢が携帯を取り出し検索を掛けている間、ライはモニターに映し出されているライブ映像を眺めていた。
統率のとれた動き。激しい動きをしているのにも関わらず、当人たちは決して笑顔を崩さない。
アイドルに詳しくない自分から見ても彼女達のパフォーマンスは見事なものだと彼は感じていた。
「それでね、今映っているμ'sとAqoursはスクールアイドルの中でもトップクラスの実力がある人達なんだって」
歩夢が携帯を片手に話す。
スクールアイドル……それは学校で結成されたアイドルグループの総称。今映っているμ'sとAqoursは、その中でも特に有名なグループである。
モニター越しに見える彼女達の表情は輝きに満ちている。それは本人達だけでなく、それを見ている者達もどこか満たされたような表情をしている。
このように、スクールアイドルとは人を惹き付ける何かがあるのだろう。彼女達の言葉で言うのならそれは『輝き』と言ったものだろうか。
輝き……。それは今のライには無い感情。彼はそれが少し羨ましいと感じていた。
ライは思う。スクールアイドルという存在に関わることでその輝きの一端に触れることが出来るのだろうか……と。
今まで全く気にならなかったというのに、このライブを見てから気になって仕方がない。
その瞬間、ライ中で不思議な気持ちが芽生え始めていた。
「ライ君、どうしたの?」
「何でもない。そろそろ行こう」
「せっかくだから、もう少し見ていかない?」
「それもそうだな」
歩夢に同意してライは再び歩夢と共に画面の向こう側の世界へ目を向ける。
そこには多くの観客がいて、彼女たちの歌を聞いている。皆一様に笑顔を浮かべている。
その姿はライにとって、とても眩しく見えていた。