ラブライブ! Rainbow Colors 作:isizu8
ライは放課後、担任教師に頼まれていた機材の片付け終えて部室棟を利用して教室へ向かっている道中、ある部活の看板が目に留まった。
「スクールアイドル同好会……」
それを見たライは昨日見たライブ映像を思い出していた。モニター越しでも伝わるあの輝きに満ちた表情は本人たちだけでなく、それを見ている観客たちの目にもパフォーマンスを通して感動を与えていた。そしてライもまた、あのライブに心惹かれた者の1人であった。
自身の過去が不明瞭で一向にその手掛かりが掴めず鬱屈とした日々を過ごしている彼にとって、彼女たちの輝きに満ちた瞳を見て一種の羨ましさを感じていた。
「嫌です! 絶対に諦めません」
ライが昨日の一件を思い出している最中、部室から何やら話し声が聞こえ始めた。
「現状、1人も部員が集まっていない状況では生徒会長としてこの部を廃部にせざるを得ません」
「……部員ならいますもん」
「ほう? では今すぐこの場に連れてきてもらえますか?」
「うぅ……」
なにやら部の存続について揉めているようだ。ライは続きが気になりついそのまま立ち聞きをしているとやがてその部室の扉が開く。
「とにかくこれは決定事項です。このまま部員が揃わないのなら部室を明け渡して……えっ?」
そう言い放ち扉を開けた少女が次に目にしたのはライの姿だった。立ち去るタイミングを逃した彼と鉢合わせしたのだ。扉の先に人がいるとは思わなかったので彼女は驚いて言葉を止める。
「貴方は確か、皇ライさん? どうしてここに」
「それは――」「その人です!」
『えっ?』
「その人がっ……新入部員さんです!!」
◆
「……という訳なんです」
あれから、ライはスクールアイドル同好会の部員の1人『中須かすみ』から事の経緯を聞いていた。元々この部は5人で結成されたものであるが、現在活動している部員は彼女1人のみである。同好会を存続させるためには部員を集める必要があるそうだ。
しかし、新入部員が一人もいない状態が一ヶ月以上続いたので、生徒会長の『中川菜々』に先ほど廃部通知を言い渡されかけたところだったが、かすみがライのことを新入部員だと言い張ったために、話が有耶無耶になり菜々は廃部を一時保留にし生徒会室に戻っていった。
そうして今に至るのだが……
「お願いします先輩! 私を、私たち同好会を助けてください!」
寸前で廃部を免れている形となったが、いつまた生徒会長が廃部を通知しにくるか分からない。その前に何としても部員を集め廃部を考え直してもらう。かすみはそう考えた。
懇願するかすみを見てライは考える。記憶を取り戻すことを最優先としているなら、この話は断るべきだ。他人の手助けをしている余裕は無い。
しかし彼は即答出来ないでいた。理由は彼もまたスクールアイドルという存在に心惹かれ始めていたから。正確には彼女たちの輝きに満ちた眼に惹かれていたわけだが。
自分も何らかの形でスクールアイドルというものに関わることが出来れば、彼女たちが宿している輝きの一端に触れることが出来るかもしれない。それは、記憶を失くし鬱屈とした日々を過ごす彼にとって十分なメリットだった。
「分かった、協力するよ」
彼女の頼みを断りいつも通り過ごしたとしても、これ以上何かが変わることは無い。
そう考えたライはいっその事、この同好会を手伝うことによってそれが刺激となり、記憶回復あるいはそれ以上の何かを得られるかもしれない。そんな期待を抱き悩んだ末、彼はかすみに一旦協力することにした。
「ですよねー、いきなりこんな話されても……って!? い、今なんて言いました!?」
かすみとしてもダメもとで提案したことなので当然断られると思っていた。そのため、彼の返事を聞いて思わず耳を疑う。
「君に協力する。ただし、僕はスクールアイドルについては詳しくない。それでも良ければだけど」
「全然大丈夫です! それじゃあ、これからよろしくお願いしますね。ライ先輩♪」
「ああ、よろしく」
スクールアイドルについて全くの素人、しかも異性であるライを誘うことに抵抗が全く無かったわけではない。だが、今はとにかく数が必要な状態であり、かすみは藁にも縋る想いであった。この機を逃せば次は無いと直感で感じ取り、彼を誘った。
◆
同好会の手伝いをすることを決めたライは今後について考える。いくら手伝うといっても所詮は素人。どうしたものかと悩んでいるとふと昨日の出来事を思い出す。
確かあの時はスクールアイドルなど全く知らなかった彼に歩夢が色々と教えてくれたのだった。彼はそれを思い出し、かすみにある提案をする。
「中須さん。もしよかったら今日この後――」
「かすみで良いですよ? 先輩のほうが年上ですし。むしろ気軽にかすみんって呼んでくれても良いですからね?」
「分かった。それじゃあ、かすみ。今日この後時間はあるかな?」
「あっ、呼び方そっちなんですね……。はい。大丈夫ですよ」
「活動の前に合わせたい人がいるんだ」
「合わせたい人? それってもしかして新入部員ってことですか?」
「それは彼女次第だが……それで、どうかな?」
「はい、行きます! 今すぐ行きましょう!」
「お、おい……」
まさか早くも2人目の部員を勧誘できるとは思っていなかったのでライの提案をかすみを二つ返事で了承し、彼はその勢いに圧倒されていた。
「さあさあ、早くー!」
そう言ってライの手を引きながら、教室へ向かった。その様子を見てライは、彼女は本当にスクールアイドルが好きなんだなと感じていた。
◆
「ライ君、お疲れ様。結構時間掛かってたけどそんなに大変だったの? 先生のお手伝い」
教室に戻るとライの予想通りそこには歩夢がいた。放課後が過ぎ既に帰宅していて当然の時間帯であったが、ライを心配していた歩夢は1人教室に残っていたのだ。
「新入部員ってこの人ですか?」
「えっと、何の話?」
「実は――」
首を傾げる歩夢に、ライはこれまでの経緯を説明した。
◆
「うーん……私もスクールアイドルはそこまで詳しく知らないし、それに私じゃ住む世界が違いすぎて上手く出来ないよぉ」
「そんなことないですよ。歩夢先輩可愛いですし、絶対いけますって! ライ先輩もそう思いますよね?」
「ああ。僕もそう思う」
かすみの問いかけに対してライが賛同すると、彼女は嬉々として歩夢の背中を押し始める。
「ほら、やっぱり~。ライ先輩だってこう言ってるじゃないですかぁ。だから一緒にやりましょ!」
「でも、私なんかが入っても迷惑にならないかな……?」
「大丈夫ですよ。みんなきっと喜びます。ライ先輩なんて特に!」
「……僕?」
突然話を振られたライは思わず自分を指差す。そして、かすみの言葉を聞いて歩夢の顔を見ると少し照れたような表情をしていた。
「そうだな。歩夢に手伝ってもらえると僕も嬉しい。無理強いするつもりはないが、出来れば協力してほしい」
「……初めてだね。ライ君が私を頼ってくれたの」
「そうかな? 歩夢にはいつも付き合ってもらってるし、むしろ頼りすぎていて申し訳ないくらいだ」
「あれは私が好きでしていることだから、それこそ貴方から頼まれた事なんて一度も無かったもん」
そう言われればそうだとライは納得する。いつも何かしら助けられてばかりで自分から彼女に頼ったことは無かった。
「私嬉しいの。貴方の方から頼ってくれたことが……。だから、自信は無いけど貴方からのお願いだもん。私やってみる!」
「ありがとう。歩夢」
こうして、スクールアイドル同好会に新たに上原歩夢が加わった。
一方、かすみは2人の会話を聞き、ただならぬ雰囲気を感じていた。
「あのー、かすみんもいるんですけど……」
「ご、ごめんね? かすみちゃん」
「まったくもう。このかすみんを置いてきぼりにしてイチャイチャして……。もしかして付き合ってるんですか?」
「えっ?」
「ち、違うよ!? 私たちはそういう仲じゃなくて……えっと」
歩夢が横目にライを見る。彼の事情を話すべきか迷っているようだ。それを悟ったライが口を開く。
「かすみ。実は――」
ライはかすみに歩夢と知り合った経緯を話し始めた。
◆
「き、記憶喪失!?」
「ああ。その関係で歩夢はよく僕を手伝ってくれてるんだ」
「そうなの。だ、だからその……お付き合いしてるって訳じゃないの。うん」
歩夢が顔を赤くしながら弁明する。その様子を見てかすみは納得したのか、「なるほど」と言って笑った。
「でも、それならかすみんも手伝っちゃおうかなー! ライ先輩ともっと仲良くなりたいですし!」
「良いのか? 同好会の活動もあるというのに」
「それこそ先輩だって、そんな大変な時期に引き受けてくれたじゃないですか。だから、手伝いますよ。先輩のこと♪」
「ありがとう。かすみ」
「じゃあ、改めてこれからよろしくお願いしますね先輩方♪ それじゃあ今から行きましょう!」
「行くって、何処に?」
「決まってるじゃないですかー。街へ行くんですよ♪ かすみんも手伝いますから、先輩の記憶探し」
「良いのか?」
「もっちろんです! さっきは先輩に助けてもらいましたし。それじゃあ、早速行きましょう!」
「あ、ああ……」
「そんなに不安そうな顔しないでくださいよぉ。大丈夫です! この世界一可愛いかすみんにかかれば、記憶なんてあっという間に取り戻してみせますから!」
そう言うと、かすみはライの手を引いて走り出した。
「ま、待って! 私も行くー」
歩夢もそれに続いて走り出した。こうして3人は今後のことを相談しつつ街へと向かうことになった。ライを取り巻く環境は少しずつ変わっていく……。