ラブライブ! Rainbow Colors 作:isizu8
現在、かすみの提案で疎遠になったメンバーの一人、桜坂しずくの勧誘のため、演劇部が練習場としている劇場ホールに訪れている。今は練習中なので、見学しつつ活動が終わるのを待ち、彼女に声を掛けるだけなのだが……。
「うっ……ぐすっ」
その間に歩夢は演劇に魅入っており、感動のあまり涙を流している。こんな状態の彼女では声を掛けに行くのは難しいだろう。そして、かすみは……。
「や、やっぱり明日にしませんか? まだちょっと心の準備がまだ出来てなくてですね……」
しずくと顔を会わせることへの気まずさなのか、足が竦んでいた。
「二人はそこで待ってて。僕が呼んでくるから」
見かねたライがそう言い残し、舞台裏まで向かおうとしたが、かすみがその手をつかんで言った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいライ先輩。先輩が単独でしず子を呼び出したら、色々まずいことになっちゃいますよ!?」
「……?」
かすみは何を言っているのだろう? とライは一瞬思ったが彼なりに意図を理解した。おそらく彼女は、しずくと友達というわけでも、ましてや顔見知りですらない自分がいきなり会いたいなどと言えば不振に思われる……と。
しかし学年、性別が違うとはいえ自分もここの生徒だ。男性恐怖症であるという情報も無いし、まさかいきなり怖がられるなどということは無いだろう。とライは考えていた。だが……。
「あ、あの! わっ、私に何かご用でしょうか……!?」
そのまさかが起きてしまった。しずくに取り次いでもらえるよう他の演劇部員に声を掛けた結果、その部員は慌てて彼女を呼びに行き数分後、入れ替わる形で慌てた様子のしずくが現れたのだ。
◆
「もぅ、絶対こうなると思ってましたよぅ」
「……済まない」
結局はかすみの忠告通り、ライ一人で声を掛けた結果あらぬ誤解を招いてしまった。あの時彼が声を掛けた演劇部員の一人が何故か告白の呼び出しと勘違いして、その部員から説明を受けたしずくが慌てた様子で現れたのだ。
そして合流した歩夢とかすみのフォローもあり何とか誤解は解け、今に至る。
「変に騒がせてしまって悪かった……」
「い、いえ! お気になさらず。元はと言えばこちらの誤解だったわけですし」
勘違いからか恥ずかしさのあまり顔を赤くして、しずくが答えた。
「では改めまして……私は1年の桜坂しずくと申します」
「皇ライだ。宜しく」
「上原歩夢です。宜しくね。しずくちゃん」
「よろしくお願いします。……かすみさんは久しぶりっていうかごめんなさい、ですね……」
しずくはかすみに向かい合い申し訳なさそうに言った。
「……しず子、どうして同好会に来なくなっちゃったの?」
「かすみちゃん!? 急にそんな……」
「いえ、大丈夫です。ホントは、ちゃんとお話ししておかなきゃいけなかったことですから」
いきなり話の本題を切り出すかすみを歩夢が窘めようとしたが、それをしずくが止め、語り始めた。
◆
しずくは昔から演劇が好きだった。そして、それと同じくらいスクールアイドルにも憧れがある。これからスクールアイドル活動に力を入れようとしている虹ヶ咲学園であれば、3年間それだけに本気で打ち込めると思い編入してきた。
しかしせつ菜が導く理想に対し、自分の提案を上手く伝えられないことに悔しさや自身の未熟さを感じ、それを乗り越えるため演劇部で表現力を磨いていた。
「では、演劇部にいるのは、スクールアイドルを辞めたいからと言うわけではなく……」
「はい。だってスクールアイドルがやりたくて虹ヶ咲に編入してきたんですから! その気持ちはそう簡単には無くなりませんよ」
ライの言葉にしずくが答える。嘘偽りの無い表情だ。
「だったら戻ってきてよ~! 今、同好会の危機なの!」
しずくの真意を知り、かすみがホッと胸をなでおろす。そして、現在の状況を彼女に伝えた。
「えっ、どういうことなんですか?」
「実は――」
ライはこれまでに経緯をしずくに話した……。
◆
「――という訳で、同好会はこのままだと解散になるんだ」
「そんな……」
ライの説明を聞き、しずくの顔が曇る。
「私が勝手をしていたからですね……本当にごめんなさい!」
しずくは頭を下げ謝罪する。
「気にしないで、君にも事情があるのだから。けど、もし良かったらまた戻ってきてくれるかな?」
「はい。戻らせていただけるのなら! 少しですけど、自信が付いてきたところなんです。私のパフォーマンスを皆さんに見てもらいたいです」
「ふふっ、よかったねかすみちゃん」
歩夢がかすみに笑いかける。
「よ、よかったですけど、かすみんまだちょっと怒ってますけどね!? でもでもっ、しず子とは同じ学年だし、いないとさみしいし……だから、今回は先輩たちに免じて許してあげます」
「かすみさん……ありがとうございます!」
◆
「(これで、同好会は3人か……)」
廃部を免れるための一時的な加入だと思っているからか、ライは自身を頭数に入れてはいなかった。
「とにかく、この調子で廃部阻止のために頑張ろう」
『おー!!!』
「……」
声を上げる三人の様子をライが見ていると彼女達の視線が彼に集まった。
「ほーら、ライ君も一緒にっ!」
「えっ? いや、僕は別に……」
「ふふっ、こういうのは皆でやった方が楽しいんですよ!」
「そういうものなのか?」
「そうですよ! ですから一緒にやりましょう? 先~輩♪」
結局、押し切られる形で参加する事になってしまったライであった。
「お、おー……」
『おー!!!』
◆
一方そのころ、生徒会室では……。
「あの時はただの悪あがきだと思ってましたが、あれから2人も……」
生徒会室で菜々が一人つぶやく。
彼女は演劇部の視察のため講堂まで訪れていた。用事を終え、生徒会室に戻ろうとしていた矢先、偶然しずくと話しているライ達を見かけたのだ。そのため、一部始終を目撃しており予想外の出来事に内心で驚きながらも生徒会室に引き返したのだった。予想外の出来事とはライの入部についてである。
彼の同好会入部の件はかすみの嘘である事は気付いていた。生徒会長である菜々も彼の虹ヶ咲編入の際、顧問から事情は一通り聞いていたからだ。かすみが頼み込んだとしても、自身の記憶捜索を優先するため当然断るだろうと思っていた。
しかし、どうしたことか? 彼は翌日以降も同好会にいるし、しかも歩夢という新入部員まで加わっている。さらには一度同好会を離れたしずくまでもが戻っているではないか。
「(彼が入ってから状況が変わっていってる……もしかしたら今度こそ……それなら、私もっ!)」
菜々の内に秘めている、既に捨て去ったはずの自分が心の中で希望を抱く。
「何を今更……もう、決めたじゃないですか」
しかし生徒会長である菜々はそれを否定した。
「今の私は中川菜々です。優木せつ菜は、もう……いないんですから……」
菜々は自身に言い聞かせるように弱々しく、そう呟いた……。