前回の簡単なあらすじ。
お腹がすいたから学園中の芝を食っています。このままだと食い尽くされるのも時間の問題。
「で、メンバーを集めたわけだが」
知り合いに一斉送信した結果集まったのは、ジャスタウェイ・ゴールドシップのコンビにミホノブルボン、エルコンドルパサー、オルフェーブル、ヒシアケボノ、そしてナリタブライアンの7名。ここにクロフネとマンハッタンカフェを含めた9人で百人を相手に戦いを挑まなければならなかった。
「最強メンバーが集まったとはいえ、流石に無謀じゃないかな」
「そう日和るなってジャスタ!ゴルシ様もいるし!何より最強三冠が二人もいるんだぞ!?」
「私はまあ無理しない程度には頑張るけど、副会長様が出てくるとは思わなかったね」
「仕方ないだろ。本当ならエアグルーヴに押し付けていたが連絡が取れん。会長も今日は京都に行っているから残った私がやるしかない」
「ふっふっふ。皆安心するとイーデース!最強のエルが居るからにはこんなミッション、チョチョイのプーデース!」
「ワアー!エルちゃん頼もしいねー!」
「大丈夫・・・でしょうか」
「俺が集めておいてなんだが、纏まりねーな、こりゃ」
「あーあー。諸君。時間が無いから手短に説明するよ」
こうして駄弁っている間にもグラウンドの芝は刻一刻とタキオンの薬に感染した生徒たちの腹に収納されているのだ。グラウンドが砂漠化するのに猶予はない。
「――――というわけで君たちにしか頼めない。私の不始末であるのは十分に理解している。だがこの学園の危機、どうか手を貸していただきたい」
「状況は理解しました。しかし、数百人もの生徒を押さえつけることはこの人数では不可能と判断します」
ブルボンが指摘する通り数人規模ならなんとかなったかもしれない。しかしそれが百人規模でいる。それも芦毛の怪物や日本総大将の異名をとる化け物集団だ。抑えられるわけがない。
「それに関してだが、一つ策がある。彼女たちは今空腹の極みにある。それを利用する」
そういうとタキオンは研究室に置いてあった今回の元凶となったニンジンハンバーグのニンジンをクロフネに渡した。
「・・・おい。お前・・・」
「さあ諸君行き給え!学園の未来はその
「・・・」
少女たちはとにかく空腹だった。何を口にしてもどれだけ食べても決してお腹が満たされない。このまま食べ続ければ『太り気味』になるのは火を見るより明らかな行為だということは重々に承知している。しかし止まらない。腹の虫がもっと食料を寄越せと叫んでいる。
食堂も売店も食べれそうなものは全て食い尽くしてしまった。花壇も一時候補に挙がったが管理している人たちを怒らせると怖いので早々にリストから除外した。
だったら何を食べればいい?ふと目に付いたのがグラウンドに生えていた天然芝だった。誰が食べ出したのかはわからない。しかし誰かが食べているということは自分も食べていいものということであり、気づけば芝をむしる手は止まらなくなっていた。
止めないと頭の中ではわかっている。しかしタキオンの薬に脳を侵された体が止まってくれないのだ。薬の効果が切れるまでこの体はただの生態芝刈り機に成り下がるのだろう。
「・・・?」
そんな中で遠くから香しいにおいを感じた。この甘い匂いの正体気づきに芝をむしる手が止まった。
「ニンジンダ」
一人が気付いた。
二人気付いた。
「carrot」
「carotte」
「جزرة」
「당근」
「ニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンバナナニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジンニンジン」
襲撃されることを見越してジャージに着替えたクロフネ達だったが、彼女たちがたった一本のニンジンを携えて外に出た瞬間、一気に空気が重くなった。まだ姿は見えていないが地響きと殺気からこちらに目掛けて突っ込んできていることは明白だった。
「それじゃ手筈通りに頼む。あのアホが解毒剤作るまでなんとかするぞ」
『了解!!』
クロフネの合図と共にジャスタ達は学園中に散らばった。作戦は単純。とにかくニンジンをみんなでパスしまくって時間を稼ぐシンプルなもの。
たった一本。されど一本。空腹の極みにある彼女たちは誰にも渡すまいとこの一本に殺到するだろう。持っている相手が友達だろうと容赦なく奪いに来るだろう。
「ま、乗り掛かった舟だ。
砂煙を巻き上げながらウマ娘の大群が突っ込んでくるのが見えた。さっさとこのニンジンを手放したいが、まだ早い。ギリギリまで引き付ける。
まだ・・・
まだ・・・
まだ・・・
ココ!
「さあ、キックオフだ!
Rock 'n' roll!!!」
自慢の豪脚で蹴り飛ばされたニンジンは空高く吹き飛び大きな弧を描きながら彼女たちの後方に飛んでいく。
目標が進行方向の逆側に飛んでいくもさすがは全国から選ばれた一流のアスリート。すぐさま方向転換し我先にニンジンを掴み取ろうと追いかけていく。
誰も彼もが一目散にニンジンへと手を伸ばす。だがニンジンはいまだ空高くを飛行しており指先に掠りそうもない。こうなれば誰よりも先に落下地点へと先回りするしかない。そんな考えを持つものを嘲うかのように空を飛ぶ鷹が一匹。
「ブエノー!エル、参上!クロフネ先輩ナイスキックデース!」
華麗に空中でひねりを加えながらエルコンドルパサーはニンジンをキャッチした。しかし大きく飛び過ぎたせいか着地する隙を狙うウマ娘がいた。だが
「オオラアアア!!」
「ドスコーーイ!!」
ナリタブライアンとヒシアケボノの二人が間に割って入り強襲をしっかりとブロックしてみせた。
「フッフーン!世界最強のエルを捕まえることができるのは誰にもできませんよ!」
それからもタックルを仕掛けるウマ娘は続出するがエルコンドルパサーは鼻歌交じりに軽く躱していく。これはもうあいつ一人でいいんじゃないか?そう思われた時だった。
やはり日本総大将!スペシャルウィークが来たー!エルコンドルパサーのすぐ後ろに付けてタイミングを見計らっている!
「そのニンジン、もらいましたー!!」
「甘いデース!」
「ふえっ!?」
スペシャルウィークの攻撃を完全に読み切ったエルコンドルパサーはひらりと躱し独走態勢に
やっぱり怖かった!グラスワンダーだー!!
「くっ!かくなる上は!ブルボン先輩!」
エルコンドルパサーはこのままでは危険と視界の端に捉えたミホノブルボンへのパスを選択した。
「ミッション受諾。OPERATION:ニンジンラグビー開始します」
エルコンドルパサーからのパスを受け取ったミホノブルボンはすぐさま校舎に向けて走り出した。
「ふうー。何とか繋ぐことは出来マシタ。だからグラス?」
「何ですか、エル?」
「その薙刀は下ろしてほしいデース・・・」
「・・・フフフっ」
あ、これ許されない奴や。腹切りパターンや。
エルがグラスからの折檻を受けている一方、ブルボンが目指すは校舎の屋上。ここまでならばブルボンのスタミナも持つ上に屋上から階下にニンジンをパスすればいい具合に敵を疲弊させることが可能だ。時間も稼げる一石二鳥の作戦である。だがしかし、イレギュラーというものは存在する。例えば
「ついてく・・・ついてく・・・」
「くっ・・・」
どこまで行っても引きはがせないライスシャワーがいることに。ただブルボンにとっての幸運、ライスにとっての不幸があるとすれば追いついた場所が階段であったこと。さすがにこんな所で体当たりなんてしようものなら双方が大ケガをしかねない。勝負は屋上へ出た一瞬で決まる。
「さすがはライスさん。ですが!」
「!」
屋上まで階段をブルボンは三段飛ばしで一気に駆け上がる。しかしライスも負けじとピッチを上げて食らいつく。そしてその後方からも続々とニンジンに釣られて上がってきている。息を切らせながらもなんとか屋上に辿り着いたブルボンは昇降口付近で待機していたゴルシを発見した。あとはこのままゴルシのいる方へ投げればよかったのだがそれよりも早くライスシャワーが突っ込んできていた。
「ブルボンさん!そのニンジンさんください!」
「っ!?すみません。そのオーダーは拒否します」
倒されながらもブルボンはギリギリのところでニンジンをリリースした。しかしそれはゴルシが居る方とは別の方向に飛んで行ってしまう。
「おいおいおい!何やってんだサイボーグ!パスミスなんてらしくないぞ!」
この高さから下手に地面に落としてしまえばニンジンは粉々に粉砕されるだろう。そうなればミッションは失敗。学園の芝は綺麗さっぱり食い尽くされるだろう。
「くっ!間に合わねえか!」
「させるかあ!」
ゴルシのすぐ横を何かが猛スピードで通り過ぎた。
「よっし!セーーーフ!」
「ジャス!」
自慢の末脚で飛びついたジャスタがギリギリのところでニンジンを掴んでいた。生きてます!ニンジンはまだ生きています!
「ふう。一時はどうなることかと思いましたが、ミッションクリアです」
「ああ・・・ニンジンさんが・・・」
寸での所でニンジンを取り逃してしまったライスはひどく落ち込んでいた。必死の思いで階段を駆け上がったと思えば徒労に終わったのだ。これからまた階段を下りて鬼ごっこの続きです。大変だけど頑張りましょう。
「?」
そんな友の背中を見送っていたブルボンは扉の影に何か落ちているのを見つけた。少し前にゴルシ達が使っていたドローンだ。あ、それ精密機械だから貴女は触らない方が。
「Hey!ゴルちゃんパス!」
「オーケーミスター!」
「誰がMrだ!」
ボケとツッコミを交わしながらジャスタとゴルシは息の合ったパスワークで後続を翻弄していた。
「え?お前この前好きなキャラ、ミスターだって言ってたじゃん」
「
かれこれ二十分は過ぎただろうか。時計を確認する暇もなくニンジンをつないでいるが未だにタキオンからの連絡は来ない。そろそろスタミナ切れが心配される頃合いだが大丈夫?
「はあーっ・・・はあー・・・。ヤバい。そろそろ限界」
「だらしねーぞジャス!お、前方に芦毛のウマ娘を発見」
「このニンジンを食べて私と契約しない?」
「何やっとんじゃーー!?」
危うくニンジンを渡しそうになったところをゴルシのドロップキックで回避することに成功。本当にコイツ芦毛だと見境無いね。
「でもそろそろ体力が限界なのは本当なの。後はお願いしたいんだけど」
「お前、来週にはフランス遠征なんだぞ?そんなワカサギみたいな体力で通用すると思ってんのか!?」
「付き添いだからね!?実際レースに出るわけじゃなくてオルフェの姐さんの練習相手するだけだよ!?」
「それでもそのメダカ以下の体力は問題だろ?」
「ゴルちゃんからぐうの音も出ない正論を言われるとは・・・」
そろそろ次のプレイヤーのオルフェーブルとの合流地点なんだけどスタミナ持ちそうですか?
「なん・・・とか・・・持たせる・・・!」
「よーし。その意気だぜジャス!ラストスパート!」
「お・・・おう・・・!」
さあ最後の直線!最後の気力を振り絞るジャスタウェイ。その後方から芦毛のウマ娘が突っ込んできているぞ!
「え?」
「スキありですわ!」
マックイーンだマックイーンだ。メジロのマックイーンがやって来て
「ホヤあそばせ!!」
「ぶっ!?」
「ジャス子ー!?」
フェイスクラッシュ!!プロレス技のフェイスクラッシュをジャスタウェイにブチかました!!
パスを通せず、ニンジンはマックイーンの手に渡ってしまった!これにてゲーム終了か!?
ピー!
「メジロマックイーン、危険行為によりイエローカード!」
ゴルシがホイッスルを吹いてマックイーンにイエローを叩きつけた。まあいくらなんでも顔面強襲はやり過ぎです。度が過ぎてますね。
「で、ですがこれとは話は別で・・・」
「ほう。ニンジン強奪する為だったら何をやってもいいと?それじゃあコッチもレッド出させてもらうぜ?」
「ふ、ふん!そのようなもので私が怯むと思いますか?」
「なおレッドのペナルティとして今回の事、メジロ本家に御報告しますがそれでもよろしいでしょうか?」
「ぐっ・・・それは・・・反則ですわ」
反則したのは貴女です。
「ハイハイ、さっさとニンジンはこっちに渡しな。で、大丈夫か?ジャス」
地面に倒れ伏してピクリもしないジャスタにゴルシは声を掛けた。受け身もまともに取れずに顔からいったけど息しています?
「鼻血出てんじゃん。とりあえずジャス保健室に連れて行くわ。姉御、後は頼みます」
「おう。はあ・・・フランス遠征前だってのに何させられてんだか」
ゴルシからニンジンを手渡されてオルフェーブルはため息をついた。凱旋門も近いってのにこんなことしていて大丈夫なんだろうか。
「まあタキオンが言うにはあと十分ってところか。オイ!」
オルフェーブルにビビッて遠巻きに見ていたウマ娘たちに彼女は発破を掛けた。
「遠征前の肩慣らしだ。手前らド三流ウマ娘が束になったところで私に指一本触れられないってこと、改めて思い知らせてやるよ!」
元来ウマ娘というものは闘争心というものは高い方である。それをこんな風に挑発なんかされたとなると、だ。
「新人戦後に四連敗しておいてどの口が言うんだ!?」
「三冠獲ったからって調子に乗ってんじゃねーぞ!?」
「阪神大笑点やっておいて自分は一流アピールですか!?」
「フランスに行ったところであんたまた迷惑かけるでしょう!?」
ブチッ
「さっさと掛かってこいや万年着外共が!!」
「「「上等だ、コラ!!」」」
売り言葉に買い言葉。まあまだニンジンを守り通すってところは忘れていないみたいだけど、ジャスタとマックみたいな流血沙汰だけは気を付けてください。
それからというもの、カフェやクロフネ、アケボノにパスを回しながら時間を稼ぐも一向にタキオンからの連絡が来ない。約束の時間を過ぎても音沙汰のないタキオンに焦れたカフェが準備室へと辿り着くと、呑気に窓際で紅茶を啜りながらニンジンラグビーをしているクロフネ達を見て不敵な笑みを浮かべていた。それを見たカフェはというと。
スパン!
どこからか取り出したハリセンでタキオンの頭をぶっ叩いた。
「何をしているんですか、貴方は・・・」
「痛いじゃないか、カフェ。見てわからないかい?観察だよ観察。私の薬の効き目がどうなっているか
スパン!スパン!
目にも止まらぬ速さのハリセン攻撃がタキオンを襲った。二発も入ったのはカフェの『オトモダチ』も殴ったから。ま、怒っているよネ。そりゃ。
「私たちが必死で貴女の尻拭いをしているというのに、貴女というヒトは」
「おおおお落ち着き給えよカフェ。鎮静剤はもう出来ているのだが、おかしいね?」
「おかしいのは貴女の頭の中でしょう?」
「心外だね。とっくの前に鎮静剤を
・・・・・・・ん?
「予定では屋上に放置されている
・・・・・・・・・・・んん?
「ちょっと彼女と連絡を取ってみようか。もしもし」
『おう。タキオンか?ヤベー事になったぞ。ドローンがぶっ壊れてら』
やっぱり触っちまっていたのか、
『修理してなんとか飛ばせるまでにはなったが、薬の投下は無理だな。時間が足らねーわ』
薬を散布できなくちゃ意味ないじゃん。どうすんの、コレ。
『あと、ジャスタ保健室に連れて行ったら副会長もいたんだけどよ。会長予定が早まってそろそろ御帰還するそうだぞ?』
ルドルフ帰ってきたところでこの惨状、どう落とし前つけるんだろうね。
「・・・。カフェ。焼き土下座で許してもらえると思うかい?」
「出たとこ勝負ですね。それよりもこの騒動を鎮静しないと、それ以上のことをしないといけませんね」
一方のグラウンドではまだ勝負の駆け引きが続いていた。ニンジンの保持者はオルフェだが、長時間の運動で体力の底が見え始めていた。
「あのマッド何してやがるんだ!時間とっくに過ぎてんだろ!?」
タキオン側の事情を知らないオルフェは必死に逃げ回っていた。パスを渡そうにも味方が近くにいないので渡すに渡せずにいた。
「っていうかコイツ等、体力どんだけ有るんだよ。淀を十周ぐらい余裕で駆けてるはずなのにどんなドーピング使ったってんだ!?」
一時間近くぶっ通しで走っているのに衰えが見えないってやっぱりあの薬変なモノ混ぜていたんじゃない?
「っていうか誰か味方いねーのか!?」
「ニンジン!!」
「しまっ!?」
パス相手を探していた一瞬のスキを突かれてオルフェーブルはタックルを食らってしまいニンジンを落としてしまった。なんとか拾い上げようと手を伸ばすも体勢を崩した状態では届くはずもなく、我先にと一本のニンジンに群がるウマ娘に阻まれてしまう。このままではニンジンは奪われて
「ひぃいいい!間に合いましたー!!」
「お前は・・・誰だっけ!?」
「スノードラゴンですー!!」
間一髪のところでスノーがニンジンを奪取、あわやゲームセットになるところをギリギリで防いだ。
「ニンジン!!」
「シップさんから話は聞いていますけど、恐いです!これからどうすればいいですか!?」
「私もわからん!!」
「そんなー!!?」
とにかく逃げ続けるしか今のところ策はないんだけど。
『あーあー。今から解毒剤の散布に移る。第一グラウンドに向かってくれたまえ』
タキオンが校内放送で呼びかけを行った。ドローンでの散布はできないけど、別の方法でも確立できたのか?
「よし。少しだけ時間は稼いでやる。お前は急いで第一グラウンドに向かえ!」
「オルフェーブル先輩・・・」
「行け!」
「ハイ!」
「ふん。まさかまた
第一グラウンドに先回りしていたブライアンは駿大祭の時に使っていた大弓で上空のドローンに標準を合わせていた。タキオンからの指示だともうすぐニンジンを持ったウマ娘がやって来るからそのタイミングに合わせてドローンを撃墜させて解毒薬を散布する計画らしい。
ゴルシが応急処置でなんとか飛ばせる状態にまでになったせいか、一ヶ所にホバリングさせるのは難しいみたいだが、そこはゴルシがなんとか操縦してバランスを取ってくれている。
チャンスは一度キリ。だが、ブライアンはそれほど緊張していなかった。あの祭りの時もそうだったように外す気など元から持ち合わせていない。
「そろそろ頃合いか・・・」
グラウンドに向かって数百人が走って来る気配を感じたブライアンは改めて弓に矢を番えた。ギリッと引き絞り、何時でも撃ち落とせる準備を整えた。
「ブライアン、こんな所にいたのか」
「姉貴か。悪いが今は話しかけないでくれないか?」
フラリとブライアンの前に現れたのは彼女の姉、ビワハヤヒデだった。頭を抱えてどこか辛そうだけど大丈夫ですか?よく見れば、少しお腹も出ているけどあなたが太り気味とは珍しいですね。
「トレーニングをしていたら少しの間バナナ気を失っていたようだ。今も気を抜くと理性を失いそうになる」
あれ?今何か変な事言いませんでしたか?
「そういえば少し前に面白い論文バナナを見かけてね。なんでもバナナのDNAとヒトのDNAの約50%は同じバナナだという研究結果バナナが出ているんだバナナ」
理性吹っ飛んでいますよね?お姉さんの理性大気圏外にまで飛んで行っちゃっていますよね!?
「ああ・・・もうダメだ。ブライアバナナン。今すぐ逃げるんバナナだ・・・!私にはもう、お前が・・・」
「姉貴・・・!」
「バナナにしか見えない!!いただきます!!」
「ヤメロ姉貴!正気に戻―――――きゃああああああ!!!?」
錯乱したハヤヒデに襲われたブライアンが矢をドローンに命中させることができるわけもなく。
それはつまりスノーが無事にここまで辿り着けても誰も助からないというわけで。
あ、コレもしかして詰んだ?
「おいおいおい!
屋上からドローンを操縦していたゴルシはブライアンがハヤヒデに襲撃される一部始終を目撃していた。これでまた保健室送りになってしまったが、もうまともに動けるメンバーは残っていない。解毒剤を散布する方法もなくなり絶体絶命だった。
『ううん、これは想定外だね。もっと穏便に片付けられると踏んでいたんだが』
ケガ人発生した時点で穏便も何もないのだがもはや詮無き事。
『仕方ない。時間はかかるが一人一人に直接解毒剤を注射するしか・・・・・・いや、待て。まだ手はある。手はあるぞ。ゴールドシップ君』
「え?これから入れる保険でもあるのか?」
『ここに時間を巻き戻せれる謎の技術で作られた目覚まし時計が
スパン!
痛いじゃないかカフェ!?コレ、地味に痛いんだよ!?』
『現実逃避をする暇があるのでしたらさっさとみんなを元に戻しなさい』
「ていうか、あれ本当に解毒剤なんか?ドロドロした緑色の液体だったんだが」
『それなら問題ない。アレはロイヤルビタージュースを煮詰めてそこに各種化学調味料を加えた人体に優しい薬だ』
貴女が手を加えただけで十分危険な代物に変身するんだけど、それで本当にみんなは正気に戻るの?
『・・・・・・・』
「そこは黙るなよ!」
『仕方ないじゃないか。理論上は問題ない。理論上は』
『その理論でこの惨事になったこと忘れていませんよね?』
『忘れてなんかいないさ。今もこうして身を粉にして働いているじゃないか』
『だったら今すぐグラウンドに行ってニンジンを受け取りに行きなさい』
『はっはっは。忘れたのかい、カフェ。私はすでにケガを理由に現役を引退した身だよ?そうでなければこんな所で油を
スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!スパン!
ちょっ!?ヤメ!?痛い!ごめんなさい!私が!私が悪かったから!カフェ!?ねえ!?痛い!止めて!』
通信機の向こうから延々と聞こえるタキオンがシバかれる音と悲鳴にゴルシはそっと通信を切った。学園の頭脳が機能しないとなればもう頼れるのは自分しかいない。
「落ち着け、私。追い詰められた時にこそ冷静になれ。それが主人公ってもんだろう!」
この小説の
「状況は至ってシンプル。タキオン特製ジュースをあいつらの頭上に降り注げばなんとかなるはずなんだ。じゃあどうする?クッソ!考えが纏まらねー!」
そう都合よくいいアイデアが浮かんでくるはずもなく、刻一刻と時間だけが過ぎていった。
何かないのかと屋上から辺りを見回すと、この非常事態でありながらグラウンドを黙々と走り込みをしている鹿毛のウマ娘がいた。
「ひー・・・ひー・・・だ・・・誰かー」
息も絶え絶えにスノーはなんとか第一グラウンドに辿り着いた。オルフェの尽力もあって無事にここまでやってこれたが、肝心のスナイパーは再起不能にされている。
「もう・・・ダメ・・・」
ついにスノーは力尽き倒れ伏してしまう。彼女の手から零れ落ちたニンジンはコロコロと転がっていく。
「ニンジン!!」
誰しもがニンジンに向かって最後の気力を振り絞り駆けつける中、そのニンジンを最初に手にしたのは。
「む?なぜ、こんな所にニンジンが?いや。そんな事よりも君は大丈夫か?けがはしていないか?」
我らが生徒会長、シンボリルドルフ様だった。長距離の移動で凝り固まった体を解そうと軽くグラウンドで走り込みをしていたところ偶然、スノーが倒れたところに出くわしたのだ。
「か・・・会長・・・さん?」
「ああ、そうだ。急いでいたようだったが、何があった?」
「そ・・・それが・・・」
スノーが説明しようと口を開くが言葉がうまく出てこなかった。保健室でエアグルーヴの看病をしていたら瀕死状態のジャスタを担いだゴルシに急遽代役を頼まれただけで詳しい説明もされずに保健室から連れ出されたのだ。現状第一グラウンドに向かえと言われてここまで走ってきただけで、これからどうすればいいのかも皆目見当がついていない。
「そ・・・そうか」
「はい~・・・」
『あーあー!会長!スノー!聞こえているか!?こちらゴールドシップ!こちらゴールドシップ!いま第一グラウンドの上空にドローンを待機させている!その中に解毒剤が入っているんだ!タキオンからの話じゃ吸引すればいいだけみたいだからとにかくドローンを破壊するなりして解毒薬を散布してくれ!』
「ドローン?ああ、あれか」
ゴルシからの緊急連絡にルドルフが上空を確認すると確かに一台のドローンがフラフラと飛んでいた。あれを撃ち落とせば皆元に戻せるはずなのだ。問題はどうやって落とすかなのだが。
ドゴーン!!
何か校舎の方から物凄い爆音が響いてきたが一体・・・。
「くっそ!アケボノもやられた!お前ら!早くそこから逃げろ!!
怪物が来るぞ!!!」
体中ボロボロになったクロフネが叫びながらこっちに走ってきたけど怪物?まさか・・・
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
この地獄の底から鳴り響くような
「ニンジン・・・ミ~ツ~ケ~タ~~」
オグリだ!オグリだ!!空腹のあまり完全に目がイっちまったオグリキャップだ!!
「あわわわわわわわ・・・・・・」
「あの状態のオグリにゃ正気も勝機もねえ!急いで逃げ
「ジャマダ」
ぐあああああああああああああああ!?」
「クロフネ先輩ーー!?」
満身創痍だったクロフネにオグリは躊躇なくとどめを刺した。コイツ、怒り喰らうイ○ルジョーよりも見境なく襲い掛かってやがる!
「ニンジン・・・ヨコセ・・・」
もうオグリの目にはルドルフが持っているニンジン以外映っていないようだ。いやオグリだけじゃない。
「ニンジン」「ニンジン」「ニンジン」「ニンジン」「ニンジン」
タキオンの薬に侵されたウマ娘たちがグラウンドに集結していた。ルドルフとスノーの周りを取り囲みもうどこにも逃げ場は残っていない。完全包囲されていた。
「かかかか会長さんー!!」
「落ち着くんだ、スノードラゴン。こんな危機的状況でも冷静沈着でなければならない」
さすがは百戦錬磨のシンボリルドルフ。絶体絶命のピンチでもまったく狼狽えていない。
「すごい・・・全然動揺していない・・・」
「だが、この状況。
・・・・・・・・・・・・・・
ルドルフがボソッと呟いたしょうもないダジャレに場が一瞬凍り付いた。
「ふっ。スキありだ!!」
「!?」
全員が呆気に取られたスキをついてルドルフは手にしていたニンジンをドローンへとぶん投げた。ウマ娘の剛腕で投擲されたニンジンはドローンに直撃、破壊されたことによってタキオン特製の解毒剤がグラウンド中に撒き散らされた。
「あれ?私は何を・・・」
解毒薬を浴びたウマ娘たちは一様に目に正気を取り戻していった。一時は学園崩壊の恐れもあったがなんとか阻止することに成功したようだ。
「当面の危機は去ったようだな」
さっきまでの狂気じみた殺気はなくなったが、この事件はまだ終わっていない。真犯人には然るべき報いを受けてもらわないと学園の秩序の問題となる。既にだいたいの目星がついている会長はその犯人が立て籠もっているであろう教室を睨みつけていた。
「ふぅ・・・。何とか治まったようだな」
屋上から様子を窺っていたゴルシは緊張から解放されたからかその場に尻餅をついた。私物のドローンが壊されてしまったが、その辺はタキオンに損害賠償として請求すれば取り返すことは可能だろう。
「さて、恐い副会長様に見つかる前に撤収するとしますか」
保健室で休養していたがいつ復活して今回の事件の共犯としてしょっ引かれるかわからない。ちゃっちゃと後片付けを行い、屋上を後にしようと扉に手を掛けたところだった。
「ゴールドシップ。今回の騒動に貴様も一枚嚙んでいるな?」
女帝様が既に待機されていた。
「いやいやいや!どちらかって言うと今回ばかりは私も被害者だぜ?」
「ほう。そうだったのか?」
「そうそう!ぜーんぶタキオンが悪いんだって!」
今回の事件を全部タキオンに擦り付けようとゴルシは画策した。実際ココまで酷くなるとは予想もしていなかったからだ。中止も考えていたし。
「そうか。タキオンか」
「そうそう!」
「と言っているが、本当なのか?」
エアグルーヴに促されて出てきたのは顔を包帯でグルグル巻きにされた透明人間っぽいウマ娘。かろうじて頭頂部からウマ耳が生えていて制服を着ているから認識できるけど、傍から見たら不審者なコイツは。
「ええ。タキオンさんの指示で私とゴルちゃんでクスリをバラ撒きました」
「ジャス~~!?テメエ裏切ったな!!」
ジャスタウェイだった。
「ゴルちゃん。今回の被害をよく考えて。下手にはぐらかすよりもさっさと自首した方が絶対得だよ」
「
誤魔化すよりも素直に謝った方が吉と思い至ったゴルシはさっさと頭を下げた。
「今回の件でどれだけの被害が出たのかはわからんが、それ相応の罰は覚悟しておくように」
反省文程度で許してもらえれば御の字だと思うが、判決がどうなるかはまだ先みたいだ。
翌朝。生徒会室に連行された
しかしそれを見越していたからかタキオンが散布した薬品の影響で一日で芝は復活した。あまりにも手抜き過ぎたので追加で清掃業務も課せられることとなった。欧州遠征が白紙にならなくてよかったが、もう二度とこの科学者には関わらないでおこうと心に決めた二人だった。
チーム名:蘆毛千年帝國(仮)
ダート:未定
短距離:スノードラゴン
マイル:クロフネ
中距離:ジャスタウェイ
長距離:ゴールドシップ