「おわったねー」
「そーだなー」
パリの大通りにて黄昏る二人のウマ娘。とりあえず目についたカフェらしきところに入りテーブルに突っ伏して虚無っていた。
「まけちったなー」
「そーだねー」
ここまで脱力してしまっているのは先日の凱旋門賞でのこと。人気も実力も申し分なかったオルフェーブルが目の前で負けてしまったからだった。二年続けての二着ということもあり、相当ショックだったのであろうがそこは一流のウマ娘。一夜明けて早々テレビ局の取材を普段通りに受けていた。
「はぁっ・・・。御二人ともしっかりしなさい。明日には帰国するんですよ?」
「そーはいってもよ・・・」
「これがせかいか・・・」
届かなかった。現役最強の三冠ウマ娘をもってしてもその頂には辿り着けなかった。世界の壁のその厚さを体感してしまった。
「そう。これが『世界最強』というものです」
「マック様は悔しくないんですか?」
「悔しくないわけありません。しかし今回はアウェーでした。ホームであるジャパンカップにてリベンジは可能です。そこで思う存分雪辱を晴らせば良いのです」
二人よりも先に世界と戦った経験のあるマックイーンだけはこれが当然とでも言いたげだった。
「・・・そうだよね。二年連続で二着っていうのは悔しいかもしれないけど、それでも凄いことには変わりないもんね」
「だな。私たちが将来リベンジかましてやればいいんだもんな」
どうやら心の整理がついたのか二人の顔に生気が戻ってきた。
「そうと決まれば」
「そうだね」
「ええ」
「観光じゃー!!」
「ナンパだー!!」
「パクパクですわ!!って違います!!!」
まあ、帰国まで時間はあるし節度を持った行動を心がけてください。
「ってなわけで!やってきました御存知シャンゼリゼ!」
「オウ!シャンゼ!」
確かにここなら観光もできるし、人通りも多いし、飲食店もあるからみんなの要望はかなえられているけど、一流のレースの観戦の後でテンションがおかしくなっているから変に暴走されると止められるかどうか・・・。
「は!前方30m先に芦毛ウマ娘発見!」
早速ジャスタの芦毛レーダーが反応しやがりました。
「Bonjour fille.私と昨日の凱旋門賞について熱く語りませんか?」
「え・・・え・・・え?」
芦毛の少女がいきなりのナンパで戸惑っていると
「はい、そこまでよ!!」
「ごっふぉ!?」
慌てて追いかけてきたゴルシが強烈なドロップキックをぶちかました。顔面直撃の結構強烈なやつだったがジャスタはそれでも食い下がろうとする。
「ちょっと何するのさゴルちゃん!」
「国際問題に発展しそうなところを華麗にカットしただけですが!?」
「愛に国境はないんだよ!」
「愛で戦争になったこともあるんだよ!」
「望むところ!!」
「その望みを絶ーつ!」
「アイアンクロ―ーーーーー!!?」
ゴルシの怪力で顔面を鷲掴みにされて悶絶するジャスタ。ペシペシとゴルシの腕を叩いて早々にギブアップしているが手を放したら放したで良からぬことをするだろうからもうちょっと折檻を受けてもらいましょうか。
「あ、その制服。日本のトレセン学園?」
「ん?そうだけど、それがどうした?」
「あの、私来年受験するんです。トレセン学園」
「へー」っと感心するゴルシをよそにいまだジャスタはゴルシの怪力に曝され続けて気を失いかけていた。
「それよりももうそろそろ放してあげた方が・・・」
「あーダイジョーブダイジョーブ。コイツは芦毛がいれば勝手に無限増殖するような奴だからな」
「そ・・・そうですか・・・」
トレセンには恐ろしい先輩たちが沢山いる。それはレース場でのことだけだと思っていた少女は考えを改めることにした。
「それよりもよ。来年トレセンに受かったらウチのチームに来ないか?」
「チームですか?」
「そう!!今トレセン学園じゃアオハル杯ってチームレースを開催しているんだけど、私たちのチーム、メンバー不足でさ。貴女さえよければ入ってもらいたいなー」
ゴルシのアイアンクロ―はまだ継続しているものの、積極的に青田買いを狙うジャスタ。でもこんなチームに入りたいウマ娘なんて余程の物好きだと思う。
「っていうかジャスよ。この子、芦毛か?どっちかっつうと黒っぽいけどよ」
「ゴルちゃん。私のレーダーを信頼していないね?」
「・・・そうだな。お前が芦毛を見間違えるわけねーもんな」
その気になれば髪の毛一本あれば芦毛に限り個人特定までする審美眼持ちのジャスタが実は黒毛でしたなんて凡ミスをするわけがない。
「うーん。少し考えさせてもらいますね」
それが賢明な判断というものだろう。そもそもまだトレセン学園に入学するかも決まっていないというのに「入ります」なんて言えるわけがない。
「ありがとう!そう言ってくれるだけで他に言葉が見つからない・・・!」
「あの・・・」
「色々あったんだよ。色々とな」
「はあ・・・」
感謝の気持ちが溢れて静かに涙を流すジャスタに少女は戸惑っていた。メンバー集めに四苦八苦していたことなど知る由もないから仕方ないが、パリの大通りのど真ん中でいきなり泣き出されては対応にも困るというもの。
「あの、そろそろバスの時間なので私はこれで」
「おう。引き留めちまって悪かったな。入学出来たらゴルシ様特製のミラノ風ドリアを馳走してやらあ!」
「受験頑張ってね!」
「はい!」
別れ際に手を振って彼女を見送ってから少しして、ジャスタはとんでもない過ちに気付いた。
「そういえばさっきの娘の名前聞くの忘れてた・・・」
「安心しろ。少なくともこんな変な先輩がいるようなチームには入りたいって思わねーだろうから」
「そんなチームに入ってくれたゴルちゃんは天使だと私は常々思っています」
「じゃあスノーは?」
「大天使」
「クロさん」
「唯一神」
「そんな扱いしてると
「それは絶対ないから大丈夫」
妙な所で信頼を寄せるジャスタと皮肉が通じずどうにか言い負かしてやろうと考え込むゴルシは暫くパリの街を散策することに
「Bonjour fille」
「さらっとナンパしてんじゃねー!!」
ちょっと目を離したすきにまた別の芦毛のウマ娘に声をかけたジャスタの脳天目掛けてゴルシはこの日一番の強烈なカカト落としを叩き込んだ。
「面白い人たちだったな。トレセン学園、どんな人たちがいるんだろう・・・」
その昔、世界をけん引した母の引退レースだったジャパンカップの縁からもし進学するのであればフランスよりも日本でデビューをしたいと少女は思っていた。そしていつか自分も母と同じこの地で世界最強を示したい。それが彼女の夢だった。
「よし!お家に帰ってからまた日本語の勉強しないと!」
思いを新に少女はカバンから一冊の日本のマンガを取り出した。友達に相談したら日本語の勉強にはこれが良いと薦めてもらったものだ。学校でも少しは習っているがまだまだ翻訳に時間がかかってしまう。日常会話はそれなりに上達したが、それでも少し戸惑うこともまだまだ多い。
「それにしてもバス遅いなー。・・・もしかして」
少し気になってスマホを確認するとそこには
「Merde!!!」
「それではお世話になりましたわ」
「いえいえ。私が力不足なばかりに彼女には辛い思いをさせてしまいました」
「ゴメン・・・。私が不甲斐無かったせいで」
帰国の日になりフランスで面倒を見てもらっていたスミさんが空港までお見送りに来ていた。今度は絶対に勝つつもりでいたせいか、オルフェの落ち込み具合は普段のカケラも見えなかった。しかしスミさんは笑ってオルフェの肩を叩いた。
「フランスにはこんな言葉があります。
「スミさん」
「貴方はとても強いウマ娘です。だからもっと胸を張ってください」
「スミさん・・・!」
もう抑えることができなかった。オルフェは子供の様に泣きながらスミさんに抱き着いた。そばで見守っていたマックイーンももらい泣きしているのか目には涙を浮かべている。
「うおおおおおおおおおおん!!こんなもん見せられちまったら全仏が泣いちまうぜ!なあ、ジャス!?・・・・・・・・・・・・・・・ジャス?」
ゴルシもゴルシで感動のあまり大泣きしていたのに対して、ジャスタだけは全く興味なさそうに新聞を読んでいた。この時ゴルシもマックイーンも誰かに泣いているところを見られたくないから新聞で顔を隠しているだけ。そう思っていた。手が震えているのも、新聞がぐしゃぐしゃになってしまっているのも感動しているからだと。
「ゴルちゃん、マック様、姐さん。今すぐ帰りましょう」
「?」
余りにも冷たすぎる言葉にその場にいた全員がジャスタを見た。新聞から顔を上げたジャスタの表情は笑ってはいるものの、顔全体に無数の青筋を浮かび上がらせて一目でわかるほどにブチギレていた。
チーム名:蘆毛千年帝國(仮)
ダート:未定
短距離:スノードラゴン
マイル:クロフネ
中距離:ジャスタウェイ
長距離:ゴールドシップ