強化合宿二週目。
クラシック組は秋に向けて幾つかの組に分かれて練習を行っていた。一つはクラシック三冠の最後のレース『菊花賞』に向けて只管遠泳と砂浜タイヤ引き。逆にマイラー路線はスピードとパワーの向上で砂浜ダッシュ。中には夏シーズンのレース出場に向けて調整を行うなど、それぞれの目標に向けてトレーニングをこなしていた。
「よし、もう一本!」
そんな中、昨夜睡眠の邪魔をされていた芦毛の少女は砂浜を軽快に走りこんでいた。ダービーで五着に敗れてから王道クラシック路線を諦め中距離~マイルに絞ったトレーニングに集中していた。狙うは秋のGⅠ天皇賞。世紀末覇王ことテイエムオペラオーやメイショウドトウといった優勝候補がいるが、それに競り勝つだけの実力を彼女は持っている。その為にもこの合宿で更なる飛躍をしないといけなかった。何よりも愛する妹たちにみっともない姿はもう見せたくない。自然とトレーニングに熱が入る。ギリギリまで自分の体を苛め抜かなければ強豪・古豪が揃う天皇賞を勝つことなど不可能なのだから。
「おー。やってるねー」
「オルフェか。何しに来た?」
いつものマスクを着けながらオルフェーブルは芦毛の少女にスポドリを差し入れた。夏真っ盛りの海でマスクはどうかと思うが、コイツに限ってはマスクは常時着けていてほしい。マスクが封印アイテムというのは如何なものだが、実際コイツがマスクを外すと危険どころじゃ済まなくなるから仕方がない。
「ん?メールのこと。今だいじょうぶ?」
「・・・・・・後二本」
「じゃあそこの海の家で待ってる」
「・・・オーケー」
彼女が指した方には幾つかの海の家が並んでいた。もうすぐ昼時になるからだろうか、一般のお客さんもやってきておりどの店舗も盛況だった。そんな中でオルフェーブルは適当に目に入った海の家に行くことにした。お店の名前は『海の家 黄金船』。そう。此処は。
「ラッシャーセー!!!」
「お好きな席へどうぞー!!!」
ゴルシが臨時店長を務める海の家なのだった。
「何してんの、あんた達・・・」
「バイトですよ、バイト」
接客係のジャスタがキンキンに冷えたお冷を運びながら答えた。フランス遠征に付いていくとして宿泊費や交通費は学園が出してくれるがそれ以外、例えば現地で遊ぶお金は当然支給されない自腹である。そう簡単に行ける場所じゃないし、それなら沢山遊びたいじゃん?
「というわけでこの夏一杯はここでバイトです。あ、注文聞きますね?」
「いや、注文も何も・・・」
オルフェーブルがテーブルのメニューを一瞥するも、そこには『焼きそば 500円』と『かき氷 500円』だけ。選択肢そのものがない。お値段もちょっと高いし。
「500円ってちょっとボッてない?」
「これでも単価抑えてますよ?」
「まあ、とにかくお腹減ったし・・・焼きそば一人前で」
「注文入りましたー!ソバ一丁!」
「ソバ一丁!」
オーダーが入って厨房が俄かに活気づく。ねじり鉢巻きを巻いたゴルシが手際よく焼きそばを作っていく。具材はシンプルにキャベツに豚バラ、ニンジン、、もやし、そして天かす。
「何か変なもの入れていると思ったけど、割と普通だ」
「ゴルちゃん、焼きそばに関しては譲らないところがありますから」
「ラーメン屋の頑固親父みたいな?」
「あ~そんな感じですね」
「ハイ!焼きそばお待ちどお!」
ちょっと会話をしているとゴルシの焼きそばはいつの間にか完成していた。焦げたソースが鼻腔を擽るなんとも美味しそうな焼きそばだった。
「・・・美味い」
「ふふ~ん。どうよ姉御?」
「正直驚いた。ちょっと見直した」
「決め手は隠し味よ!もちろんこいつは企業秘密!」
オルフェーブルが素直な感想を言っていたところで新たなお客さんが来店した。
「ラッシャーセー!!!」
「お好きな席へどうぞー!!!」
「うるさっ!?えーとメニューは・・・なんじゃこりゃ」
お品書きが焼きそばとかき氷のみというシンプル過ぎる内容に眉をひそめる少女。
「でもまあ味は保証できる」
「これで不味かったらヤバいだろ・・・。店員さん、焼きそば一つ」
「注文入りましたー!ソバ一丁!」
「ソバ一丁!」
「まあ元気があるのは良いことだ。ウン」
元気が有り余っているともいえるがそこは気にしない方向で。
「で?」
「ん?」
「だから何か話があるんだろ?」
「ああ。うん。まあタイミング的にも丁度良いか。ジャス!ちょっとこっち来な」
「今手が離せま
「来な」
「少々お待ちを!」
従業員がろくにいないせいでクッソ忙しいが、オルフェーブル姐さんに逆らうと後が怖い。さっと別のお客さんの会計とテーブルの掃除を終えるとジャスタは二人の元にやって来た。
「はい、何でしょう?」
「ジャスはこの前の話覚えてるか?」
「えっと凱旋門賞のことですか?」
「おう。それとお前さんがアオハルのメンバー探してるってやつ」
「ええ。覚えてます」
「このヒト」
「え?」
「は?」
ジャスタもそうだがオルフェの隣にいた芦毛の少女も急な話すぎて付いていけてなかった。
「クロさんなら今フリーだし、問題ないだろ?」
「確かに俺はまだどのチームにも所属していねーけど、理由があるんだよ」
「理由・・・ですか?」
「そう。まあ、コイツを見てくれ」
クロさんが取り出したスマホを見せてもらうと、そこには何人ものウマ娘がいた。やけに芦毛が多いのが気になるが。
「妹だよ。コッチがアップでコレはカレンチャン。こっちは」
「ホエールキャプチャだね。オープンで私が負けた」
「え!?姉御が負けた!?」
「今やったら絶対に私が勝つけどね」
「ああ?次も俺のホエールが勝つに決まってんだろ?」
「おお?フランス遠征前に叩きのめしてやろうか?前菜には丁度いいな」
「あの、ケンカは止めてくれませんか?周りのお客さんの迷惑になりますので」
「「ああん?」」
「あの・・・お店の外でお願いします」
不良二人に睨まれてジャスタは引き下がるしかなかった。さあ、どうする?
「おーい、ジャス!上がったぞ?」
「助けてゴルちゃん!あの二人どうにかできる?」
「あの二人?」
ゴルシが厨房から店内を覗くと超至近距離でメンチを切りあう二人の姿があった。このままじゃお客さんが驚いて商売上がったりだ。
「しゃーねーな。こういうのはアタシに任せな!」
「頼もしすぎる・・・」
「ヘイヘイお客さん達。店内での暴力行為は御法度だぜ?」
「ゴルシか。ちょっと待ってな。直ぐにこのシスコンを黙らせてやる」
オルフェがバキボキと両手を鳴らせば、
「誰がシスコンだ。俺は妹大好きウマ娘なだけだ」
負けじとクロさんも首をゴキゴキと鳴らす。一触即発とはよく言ったものでちょっとした刺激で殴り合いにまで発展しかねない。
「そうかい。じゃあ―――――表に出なあんた達。この勝負、このゴルシ様が仕切らせてもらおうか!」
「ゴルちゃん!?」
ゴルシがケンカを仲裁するなんて考えた時期がジャスタにも少しはありました。でもですね、彼女は面白いと思ったことにはとことん首を突っ込む性質なんですよ。絶対後で副会長あたりが飛んできて雷落とされますよ。
騒ぎのせいでお客さんもいなくなったし、とりあえずジャスタはお店の看板を『営業中』から『準備中』に変更してから三人の後を追うことにした。
チーム名:蘆毛千年帝國(仮)
ダート:未定
短距離:スノードラゴン
マイル:未定
中距離:ジャスタウェイ
長距離:ゴールドシップ