ウマ娘に転生したRTA走者   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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ウマ娘は速い = ACも速い(グライドブースト)
ウマ娘の蹴りは痛い = ACも痛い(ブーストチャージ)
ブルボンファンネル = 本当はソルディオス
競走を求める = 闘争を求める

実質ウマ娘はアーマードコアの新作なので初投稿です。


第一話 異邦のミグラント(渡り鳥)

「がぁぁぁ!また運ゲを外したぁぁぁぁ!!」

 

ウマ娘RPGはあの大人気アプリゲームの派生作品である。

待望のオリジナルキャラクターが作成可能になった上、恋愛に特化したシミュレーションパートではトレーナーとウマ娘だけではなく、ウマ娘同士の百合も実装されるなど多方面へのアプローチを強めている。

そして何より、本作のレースパートはアクション要素を満載した手に汗握る展開が多数待ち受けており、一般プレイヤーはおろか一部のRTA走者や視聴者からも絶賛される屈指の鬼畜ゲーとして有名になった。

冒頭の叫びもまた、そんな一人の慟哭である。

 

>>草

>>草

>>もうトゥインクルに行けないねぇ…

>>これで10時間がパァとかマ?

 

 

動画サイトにRTAの生実況配信を始めて半日近くが経過し、エンディングまで数レースを残すのみという最終段階。ここまで大事に育ててきたプレイヤーキャラのオリジナルウマ娘が、とある成功率50%のイベントに失敗して最悪のバッドステータスである【屈腱炎】に罹ってしまう。

これは治療完了の判定さえ最低でも数ヶ月必要な上、マスクデータによると練習及びレースを実行する度に10%の確率で再発するという悪夢のような症状である。育成中のランダムイベントで発生したなら天運に任せて続行も可能だが、このタイミングだと確実にトゥインクルシリーズまで治療が間に合わないので実質的な詰みだ。視聴者達が沸いたようにコメントを殺到させ煽ってくるが、お前ら人の心とか無いんか?

 

「ごめんよ、シンボリルドルフ…マヤノトップガン…」

 

ここに至るまでウマ娘に因子継承という強化要素を万全にする為、トレーナー編であらかじめ10時間近くを要する通しプレイで先に攻略していた二人には謝罪の言葉しか無い。

そして彼女達を育て上げ、己の分身であった一周目と二周目のトレーナーも周回プレイというゲームの仕様上、現在のウマ娘編では影も形も残らないフレーバーテキストの存在として消え去っているので、現実なら割と酷い話である。

 

 

>>これで8回目か

>>50%を外し続ける自慢の子

>>真ルートにこだわり過ぎ

>>もう一回遊べるドン!

 

 

「今日はもう無理なんで諦めまーす」

 

コメントそのものはありがたいが、今からやり直すと流石に日を跨ぐ上、明日の出勤に響くプレイは社会人としてあるまじき行いなので終了の音頭を取る。

 

総評すればタイムは上々、目立った操作ミスも無し。途中で何度かスキップ中の選択肢をミスって謎のイベントが発生したが大きなタイムロスには繋がらなかった。しかしどうしても最大の壁である屈腱炎イベントのキツさには苦言を述べるしかない。

3年目までに一定以上の戦績と高いステータスが無ければフラグが立たない上級者専用のイベントとはいえ無慈悲にも程がある。

…おかげで不運系RTA走者としてかなり登録者が増えたのは喜んで良いのか悪いのか微妙な所だ。

 

いつもの挨拶で締めを宣言しつつ、コントローラーを動かしてメニューを呼び出して【諦める】を選択する。

 

画面には今作でプレイアブルキャラに昇格したトキノミノルから「本当に諦めますか?」と再確認が提示されるがこれ以上続けても絶対にクリア出来…。

 

 

 

 

 

「ーーーいやワンチャンあるのか?」

 

尚も続行を期待する視聴者のコメントの中で

>>安心沢のイベントに賭けろ

が目に止まった。

 

確かに更なる運ゲーになるが、怪しすぎる彼女のイベントをクリアすればステータスの大幅上昇の他に、どんなバッドステータスでも完治させる選択肢が発生する。

今まではあまりの確率の低さに気にも止めていなかったが、確かにやれる所までやってみても良いかもしれない。

 

「何気にここから先は初プレイか」

 

回数をこなす為にリセットばかりしていた弊害だな。

そもRTAの基本はチャートと呼ばれる理想プレイをどれだけ正確に再現するかと、ミスした場合のリカバリーをスムーズにこなす冷静さが必須となる。

ツールアシストがあるTASとは異なり、あくまで人力かつクリアまで動きを止めないRTAはアクシデントに見舞われやすく、失敗を全く起こさずプレイするなど不可能に近い。

 

…まずは何事も完走する事を目指すのが本当のRTA走者では無いのか。

最近の俺は増えた視聴者の要望に答えるあまり、基本を忘れていたようだ。

 

コントローラーを再び操作し、小さな可能性に賭けて【諦めない】を選択。

 

長話を挟んだのでタイムは既に超過しているが関係無い。ゲームに真っ直ぐと向き合い、再開しようとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ最速を目指すRTAはーじーまーるーよー。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそんな幻聴を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…会長。その、大丈夫なのですか?」

 

中央トレセン学園。

季節外れの雷雨に襲われ、窓を叩く雨音以外聞こえない嵐の静寂に包まれた生徒会室に詰める副会長のエアグルーヴは、普段と変わらぬ様子で仕事を熟す親愛なる会長、シンボリルドルフに恐る恐る言葉を投げ掛けた。

 

「問題ないよ」

 

素っ気ない返答。

それだけ切り取るなら仕事に忙殺される場面でたまに見る反応だが、今回はあまりにも事態が異なる故にその姿には違和感を覚えてしまう。

 

「差し出がましいようですが…今日くらいはお休みしても良いのでは?事情を知る者ならば文句は出ないはずです」

「必要ない」

「し、しかし…」

「…エアグルーヴ。君の優しさはありがたいが、この仕事も後回しにして良いものでは無いんだ」

 

だからと言って…。

 

喉まで出掛けた言葉を飲み込んで無理やり「差し出がましい言葉でした」と呟いてからエアグルーヴは自分の席に着いて自分に割り振られた仕事を再開した。

 

そこから暫くはカリカリとペンを走らせる音と紙を捲る音だけが部屋を支配し、時間だけが無常に刻まれる。

そして本来なら夕日が拝めるような時間帯に差し掛かった辺りで、凄まじい速度で廊下を駆ける音がしたかと思えばバタンと力強く生徒会室のドアが開け放たれ、そこには息を散らせた様子でシンボリルドルフを睨むトウカイテイオーの姿があった。

 

必死に息を整えているのは全速力で走ったせいだろう。制服を濡らす大量の水分は雷雨の中を駆けた証拠。しかし顔から流れる、目元から滝のように溢れる水は雨だけの跡では無い。

 

「……何してるのさ、カイチョー」

「生徒会の仕事だよテイオー」

「……それは、いま、ひつよう、なの?」

「無論だとも」

 

しっかりと返事をしているが、その突き放すような口調に苛立ちを覚えるテイオー。

今なお顔を上げずに書類に目を通しているシンボリルドルフに近づくと、普段の愛くるしい慣れ親しみなど何処にいったのかという乱暴な勢いで机越しに胸倉を掴んで強制的に顔を合わせた。

 

「……知らない筈、ないよね」

「………」

「どうして病院に来ないの、どうして普通に過ごせるのさ…!」

「…仕事が」

 

「トレーナーが死んじゃったんだよ!!」

 

「ッッ!」

エアグルーヴは止める立場でありながら、その沈痛な表情に打たれて顔を伏せるしかなかった。シンボリルドルフと比べて一回りは小さい背丈のトウカイテイオーだが流石はウマ娘というべきか、そのパワーは凄まじく今にも締め落とさん勢いで肉薄している。

 

「…承知している」

「だったら何でさ!突然、心臓発作が起こって苦しんでたんだよ!?病院でも呻きながら戦ってたんだよ!生きたいって!」

「………」

「みんな集まってた!スズカもヒシアマゾンもマヤノだって!チームのみんなが励ましてたのにどうしてカイチョーは居ないのさ!!」

 

怒り任せに言葉を捲し立てるがボロボロと流れる涙は止まる事を知らず、我慢しようとしても未だ幼い心根のトウカイテイオーは鼻水すら垂らして感情を爆発させる。

普段なら決してしない尊敬する会長への罵詈雑言。敢えてそれを無言のまま受け止め、今の天気のように嵐が過ぎるのを待つシンボリルドルフ。

 

やがて体力を使い切ったテイオーは、カクンと操り人形の糸が切れたように倒れ込むがその表情は変わらず悔しさと悲しみに満ちて今にも決壊しそうだった。

 

「…エアグルーヴ、すまないがテイオーを保健室へ。…今の私では火に油を注ぐようなものだからな」

「…はい」

 

もはや反論する体力すら残っていない体を持ち上げてあやすように抱き締める。チラリとシンボリルドルフの方を覗き見るが、流石に気丈…に勤めていた彼女も辛い所があるらしく、作業を止めて窓の外を眺めている。

 

今は何を言っても無駄か。

 

親しい相手の死とは、うら若い年頃が多い学園のウマ娘にとって未経験が多い分、反応も大きく異なる。

特に今回亡くなったトレーナーは、新任でありながらシンボリルドルフを始めとしたウマ娘達をG1常勝に導いた立役者であり、年齢も彼女達と近い事からまるで兄のように、時には…推奨されはしないが恋人のように親密に、影に日向に支えてきた精神的柱でもある人物だ。

 

そんな人間と突然、前触れもなく二度と会えないという事態に気を乱さないなんてあり得るのだろうか?無論、自分以外の胸中全てを理解するなど不可能だが、皇帝と称され、自他共に厳しいシンボリルドルフが唯一幼い笑顔をトレーナーに見せていたのをエアグルーヴは知っていた。

だからどうしても今の態度に納得がいかない。

しかし、今は自分も気が動転している。

 

後日、改めてその真意を知りたいと思ったエアグルーヴは消沈するトウカイテイオーを抱えながら生徒会室を後にした。

 

 

 

 

「…悲しく無い筈がなかろう」

 

人気が無くなった場所で。

一人きりになったシンボリルドルフが言葉を紡ぐ。

 

見上げる空模様はいつの間にか大人しくなり、曇天に包まれながらも雨粒は降ってこない。薄暗い雲のベール越しに届く日差しだけが彼女を照らす。

その表情は気丈で凛々しく、皇帝を名乗るに相応しい威風堂々といった雰囲気を放っている。

 

ーーーただしそれは一眼見た場合である。

 

「トレーナー君…」

 

全てのウマ娘に幸福を。

そんな夢物語を否定せず、常に真摯に向き合ってくれた恩師。シンボリ家という名家故のしがらみから寄り添うという形で共に立つ事は出来なかったが、始まりのメイクデビューから数えて短くない時を過ごし、轡を同じにした繋がりは見ず知らずの他者が思うより強固なものだと確信している。

 

そんな彼が死んだ。

本当なら行かないでと取り乱して泣き叫びたい。

しかしそれで道を歩むのを辞めてしまったら、夢は夢のまま終わりを迎えてしまう。

 

「それだけは、避けねばならない」

 

その点においてシンボリルドルフは大人だった。世の中には神の悪戯のような不条理が存在し、ふとした拍子に今まで積み上げてきた物が崩れ去るのを知っていたからこそ、無二と呼んでも差し支えないトレーナーとの死別も、心の何処かで覚悟を決めて己を補強した。

 

来て欲しくは無かった現実を前にして、何とか平静を保つ程度には。

 

「でも、これで終わりじゃない…」

 

皇帝の仮面が剥がれる。

 

「私はまだまだ走り続けるさ」

 

その言葉は、光輝に満ちた明日への願い。

その瞳は、暗く昏く澱んだ妄執への誓い。

 

誰にも見せてこなかった内側と外側が混じり合い、自らの立脚点を再確認するも纏う雰囲気は汚泥のようにベトついている。

 

やがて彼女は不意に机へと向き直ると一枚の書類を取り出して目を通す。

それは何の変哲もない、今日の天気のような気象時に避難などのマニュアルを記した確認用の紙だ。

おさない、かけない、はしらない。

そんな当たり前の言葉と共に起こすべき行動についてフローチャートが記されているだけ。

 

だが、それを見てシンボリルドルフは笑った。

心の底から笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャートはちゃーんと把握しましょう。なんてね」

 

そして世界はフィナーレを迎え。

 

電源を落としたような暗転の幕に覆われたかと思えば

 

 

 

一人(神様)のカーテンコールが響き渡った。

 

 

 

 

 

次回 イレギュラー

 

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