ウマ娘に転生したRTA走者   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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トレーナーの浮気を疑うも本当は無実だったが、信じ切れなかった自分が嫌いになって一人追い詰められてしまうウマ娘ステークス

優勝は、友達に相談してようやく立ち直ったもののトレーナーの隣にはその友達が立っており、もう手遅れだった事を無言の涙で知るゴールドシチーさんは最高に輝いでいるっぺ…。です。


第三話 追憶のハングドマン(刑死者)

ウマ娘は戦うために生まれた存在である。

 

若年であるほどその兆候は強く、特に己が走って競い合う事に関しては他の追随を許さないほど拘りを持つ。

追い抜かれるだけで頭に血が昇り、集中を乱されると暴れる、敢えて併走すれば負けじと本気を出す、そして我慢させるほどに鬱憤を貯めてしまう。

だからこそ、若いウマ娘にとって常日頃のストレス発散は必要不可欠であり、市井にコースを設置し参加資格不問のレースを行うのは同然の帰結だった。

 

……なんて、ゲームの設定がしっかり反映されてるからこの世界は面白い。

 

「どうした、腹でも痛いのか?」

「アハハハッそんな訳無いよねー、食いしん坊のブライアンちゃんと違ってさ」

「なんだと!?」

「おっと、なかなかやるじゃない」

 

心配した相手を煽り、その対価に飛んできた拳をヒラリと避ける。

小学生とはいえそこはウマ娘。風切り音を鳴らしながらの攻撃は下手をすれば大怪我に繋がる威力だ。言葉ほどの余裕は無い。しかし向こうはそう思ってないのか、余裕で避けたと勘違いして悔しそうな顔を浮かべながら、また腕を引き絞り…。

 

「そこまでだ」

「!姉貴…」

「ハングドマンも煽るのは止めろ」

「アハッ」

 

それを止めたのは白い毛玉…ではなく、後に大成するのが確定しているウマ娘、ビワハヤヒデだ。目の前で不満気にするナリタブライアンの姉で、毎週のようにこの場所で走っていたら俺と何度も顔を合わせる内に親しくなり、二人揃って幼馴染と呼べる存在になった。

 

…そんな有名人をピンポイントで引き当てるとかある?と思うが元々ここはゲームの世界だ。ドラマチックでご都合主義みたいな展開は既定路線なのだろう。

特に俺の場合、RTAの都合でシナリオの殆どをスキップして理解していないのでこれからの人生、誰と出会うか全く分からない。

何せウマ娘RPGのシナリオスキップは、アプリ版の高速で文字を送るタイプとは異なり、シーンを丸ごと飛ばしてしまうので判断のしようがなかったりする。

 

「それより二人とも、そろそろレースの時間だぞ」

「ふんッ…ようやくだな」

 

いつものじゃれあいも終わり、二人とも普段見慣れた幼さが残る表情から一変。闘争心に満ちた精悍な顔つきになりコースに向けて歩き出す。

最近よく思うようになったが、やはり才能ある奴ってのは子供の頃から他者とは違う雰囲気を纏っている。

対してこの俺は、軽薄に煽り散らかして…妙に馴染む口調で余裕ぶっているが、内心ではいつ追い抜かれるか戦々恐々してばかり。

転生した直後は、世間をあまり知らずゲーム時代の知識だけでイキって俺は最強だー!なんて考えていたが、よく考えて欲しい。

そも徒競走なんて学生時代にした切りで正しいフォームや練習方法も分からず、ただ高いだけの身体能力でゴリ押すだけしか能がない元一般人がいつまで強くいられるのかって話だ。

無論、速さを求める事自体はRTA走者を自負するだけあって嫌いじゃない。むしろ大好きだ。しかし俺が得意としているのはあくまで最速を目指すための【最適化】であり、用意された環境下でしか本領を発揮出来ない。現実となったこの世界では、やれる事が多すぎて未だ試行錯誤が続いているのだ。

 

ていうか、スキルってどう使うんだよ!

 

完全に宝の持ち腐れになっている未開封の才能に何度舌打ちしただろう。そもそも一息入れたら回復とか、最後の直線のみ加速力が上がるとか、他者と距離が離れていると発動とか、原理が分からない。

 

だから現状、俺がやれるのは普通の人間と変わらずただ愚直に走るだけ。やる事は変わらない。

要はいつも通りレースを走って、勝って、優勝賞品の特選にんじんを頂く。

 

たかが、にんじんと侮るなかれ。

この世界で恐ろしい程の年月と熱意を掛けて品種改良されたにんじんの一部はコストを度外視した高品質化を辿り、最早食べられる宝石ともいうべき逸品に達している。その末端価格は少なくとも6桁を下回らず、市場にも滅多に出回らないが、ここのレースだけはまだブランドとして確立していない専門農家が好意で協賛しており、あっさり優勝賞品として進呈される。

それを転売するような形で処分するは大変心苦しいが、親を養う為には致し方ないと許して欲しい。ゲームの時も3点方式張りに資金集めに使っていた手段だ。

 

「…さて、と、じゃ一丁行きますか!」

 

 

 

 

 

 

『さぁ今週も始まりました、ふれあいレース1600m。大人も子供も仲良く走りましょう!』

 

1番 ジライゴチョウ

2番 ポールオブライエン

3番 ビワハヤヒデ

4番 ナリタブライアン

5番 ハングドマン

 

手書きの黒板に記されたウマ娘達。

市民運動場を活用しての民間レースはURA本家が開催する規模とは大きく異なり、費用の掛かるスターティングゲートを設置する訳にもいかないので、コースの幅を広く開ける関係で出走バ数は少ない。

横一列に並ぶウマ娘達の殆どが同世代の中、2番のポールオブライエンだけが二回り近く体格が上回る高校生だった。

 

「……」

 

あまりに大人気ない出走。参加者不問というルールには抵触していないが子供達の微笑ましいレースを期待していた父兄や一般人達は、空気が読めない闖入者に冷ややかな視線を浴びせている。

そんな彼女が我関せずと横目で捉えるのは5番ハングドマン。黒毛の目隠れに白いメッシュが入る以外、特に個性も覇気も感じられない普通のウマ娘を何故か親の仇のように観察していた。

 

やがてホイッスルによるスタート準備の合図が鳴り、各々がフォームを構える。

 

空気が静止し、時間だけが秒を刻む刹那。天高く響くピストルの空砲で全員が駆け出す。

 

ハナを切ったのは意外にも1番ジライゴチョウ。グングン加速して他者を引き離す。突出した行動にギャラリーが湧くがそれは正しく【掛かった】状態だ。

幼くとも才が光るビワハヤヒデとナリタブライアン。レース常勝のハングドマン。そして明らかに格上のポールオブライエン。そんな中に突如放り込まれた一般ウマ娘のジライゴチョウはそこから逃げ出したい一心で全力の逃げを敢行している。

いわゆる破滅逃げ。しかも1600mもの距離を駆け、ゴールまで持つようなスタミナが小学生にあるはずも無く半分も行かない内に、ヨロヨロとコース外へと離脱してリタイヤだ。

 

そこからは先行するビワハヤヒデとハングドマンが並び、その後ろに差しのナリタブライアン、最後方からポールオブライエンが全体を睨む体勢でレースは推移する。

 

先頭で全体のペースを握るのはビワハヤヒデ。彼女の作戦は二択。速度を上げリードを広げるか、それとも距離を維持したまま脚を貯めて最後に突き放すのか、悩みどころだ。

ハングドマンはその真後ろに付き、いつでも状況の変化に対応出来るようにしている。やや離れてのナリタブライアンは、来たるべき仕掛け時に備えて闘志を燃やす。

そして追い込みの位置にいるポールオブライエンは、健気に走る三人を静観しながら今回出走した理由を思い出していた。

 

ーーー週末の民間レースに君臨する黒いウマ娘。

 

地方トレセン学園に通う彼女がソレを知ったのは妹からのSOSからだった。

入学後、あまり芽が出ず成長に悩んでいた彼女は家族の期待に応えられない自分を恥じて近況報告を意図的に怠り、実家にすら帰らず寮で過ごす毎日。

メイクデビュー戦での一位以降、レースでは入賞出来ずに燻っていた彼女の元に届いたのは、可愛くもプライドが高い実の妹がどれだけ挑んでも勝てない相手が居るので倒して欲しいというメールだった。

何でも妹は実力では絶対に勝てないと判断し、みんなのレースなのだから偶には勝ちを譲るべき、と主張して譲歩を引き出そうとしたが、そのハングドマンとかいう小学生のウマ娘は「もしかしてビビっちゃった?ギャハハっ!」と煽り、歯牙にも掛けなかったらしい。

そんなメールは長文で愚痴や悪口で埋め尽くされ、どれだけ相手を憎んでいるのかが文面だけで伝わるほど。

最後にトレセン学園生に在籍する自慢の姉なら仇を討てると懇願されて、ポールオブライエンは決心した。

 

これはあくまで妹のため。

決して弱い者虐めをしたい訳では無い。

むしろ、調子に乗った子供に対する躾なのだ。

 

そんな思いで出走し、コースを駆けているとレースも残す所600m。上がり3ハロンと呼ばれる局面が動きやすい地点に差し掛かり、まず飛び出したのはナリタブライアン。超ロングスパートで捩じ伏せる作戦だ。

 

(馬鹿な奴。そんなの保つ訳無いじゃない)

 

所詮はただの小学生。注目すべきはハングドマンのみ。そんな思いで先行を許すが、この時点でやや息が上がっている自分に違和感を持てないポールオブライエンは脚を溜めたまま様子を見る。

 

そして先頭が第4コーナーに入った瞬間。外に膨れながらも急襲するナリタブライアン。そうはさせないとビワハヤヒデが後方を確認しながらブロックする。

 

「姉貴ぃ!」

「ブライアン!」

 

身を削るような物理的な接戦。ギャラリー達も自然と歓声に力が入る。その隙間を縫ってハングドマンが前に出ようとするがライバルである姉妹が見逃す筈もない。示し合わせたように1段階加速して出鼻を挫いた。

 

そんな絶好の機を狙ったのがポールオブライエンだ。

団子状態になった3人を他所に大外から駆け上がり一気に突き放す。

 

(貴様も!周りの連中も!!私の邪魔をする者は皆どけばいい!!)

 

最後の直線に飛び出してしまえばもう勝ちは揺るがない。そもそも身体が育ち切っていないウマ娘程度が、名誉あるトレセン学園生を無視して走るなど愚の骨頂。本物の力を見せてやると自慢の末脚を見せる。

 

開けた視界。遠ざかる足音。

久しぶりに感じる一位への予感に、自分が誰を相手にしているのかも忘れて悦に入った。

選ばれし者だけの玉座に、勝者の愉悦を讃えて私の強さを証明してみせる。幼い頃から夢見た闘争の果てに勝つという至高の喜びを思い出し、自然と上がる口角から笑い声を漏らして。

 

 

 

「ーーーま、そんな訳無いよねぇ」

 

「!?」

 

 

黒いウマ娘が、蹂躙する。

姉妹によるブロックを、ポールオブライエンが飛び出して動揺した僅かなタイミングを突いて抜け出していたハングドマンは、片目だけを向けて独り言のように呟く。

 

「困るなぁ…俺も混ぜてくれないと」

「貴様…何を!」

 

言葉以上の怖気を感じ、平衡感覚が狂う。

並ばれた?大人の自分が本気で掛けたスパートに?

緩んだ口を閉じて歯を食い縛り、ここに来て本気を見せるポールオブライエンだが、その黒いウマ娘はピッタリと横に付けて離れない。そんな筈はない。自分は本格化を迎えたウマ娘なのだ。今は不調で勝てないがトレセン学園に選ばれたエリートの自分が、小学生相手に苦戦するなどあり得ない。

 

だが、ゆっくりと。這い出るように。分からせるように。ハングドマンが徐々に前へと進んでいく。そんなのは物理的にあり得ない。だって自分は大人で、身体的にも実力的にも上の存在で…。

 

「貴様は…!貴様はいったい、ナニモノ…」

 

声を枯らし、沈んでいく自分を自覚しながら彼女は気付いた。

力を入れてももつれるばかりの両脚。当然残っていると思い込んでいたスタミナが既に切れている事に。

このレース。ジライゴチョウが破滅逃げで早々に沈んでから錯覚していたが、全体のペースは非常に高速化していたのだ。それを逆手に取って先頭を走るビワハヤヒデを抜かずに加速して全員のスタミナを消耗させた奴がいる。

 

ポールオブライエンは疾駆する黒い後ろ姿に恐怖した。

これが子供の戦術なのか?

ターフを支配し、自分の戦場へと引き込む厚顔の走り。

そんなのはまるで、絶対的な皇帝みたいで…。

 

「まだまだぁ!」

「諦めてたまるか!」

「!」

 

それでも二人の挑戦者は止まらない。

足を緩めた彼女を本当に意味で置き去りにして、ハングドマンに食らいつく。

負けると分かっていても、闘争心に火さえ灯れば勝負を諦めないと。純粋さを薪に変え、全開超えの走りに焚べる。

 

だからだろう。

ハングドマンも必要以上に駆けて行く。

 

幼い3人のラストスパートは、何故か自分が憧れた中央URAの競走バに似ている。

 

ーーーあぁだから勝てないのか…。

 

いつの間にか、自分は地方のウマ娘だからと、真の実力者が集う中央には劣る存在だと自分に蓋をした。

だから成績が振るわなくとも死に物狂いで鍛える事もしなかったし、家族に黙ってやり過ごそうとしてばかり。

 

レースを走るウマ娘としての最低条件である本気の走りを忘れていたから。

 

遠ざかる黒い姿が一位を取る姿を眺めながら、ポールオブライエンはどこかスッキリした気分で残りを走り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達の幼馴染は強い。

とにかく強い。

 

数年前、たまたま家族で訪れた運動場の民間レース。そこで初めて彼女を見かけた時、姉妹揃って固唾を飲んだ。

走るのが大好きで、しかし速すぎたせいで競り合ってくれる相手が互いの姉と妹しか居なかった私達の前にハングドマンは現れたのだ。

 

当時からその走りは圧倒的で、遠目に見ただけで他とは一線を画すのが分かるほど。

レース終了後、賞品のニンジンを大事そうに抱えて帰り支度をしている所に、ブライアンを連れ立って興奮気味に押し掛け、勝負を挑んだのが懐かしい。

始めは乗り気では無かったようだが、自己紹介をすると一瞬ビックリした顔を浮かべてからはスンナリと話は進んだ。 

 

それからは毎週末、この運動場で待ち合わせしてはレースを走り時間があれば3人で練習を繰り返す日々。どうやら学区が違うので平日は全く会えないのだが、それでも全力で競え合える存在は大変ありがたく、特にブライアンは良く懐いている。

 

しかし強いからと言って、相手を小馬鹿にする言葉が許される筈もなく、どれだけ注意してもあの浮いた口調が止まらないのは困り者だ。

そのせいで大人にも誤解されて無闇に自分の評価を下げる所はあるが、走りはとても真摯で、特に誰に教えられるでもなく洗練されていくフォームや足運びは、ただ前に進めば良いと愚直に考えていた私達を大いに反省させるものだった。

そしてあぁ見えて面倒見も良い。特に自分の影を見て怯えてしまう臆病な…意外な悪癖があったブライアンを根気強く勇気付けて解消してくれたのも記憶に新しい。

私自身も体の発育が早いせいか背が高く、同年代から怯えられて落ち込んでいた時期も、ハングドマンは動じるどころか「で、それで何か問題?」とそんなのは悩む必要がないとスッパリ切り捨てて走りに誘ってくれる。

 

そこから何年も遊び相手として付き合う内、おかしな話になるが私達姉妹にとって人間の兄がいればこんな感じなのだろうという信頼に繋がった。

 

それでも…毎度一位を取られて悔しく無いのかと言われれば、否と答えるが。

 

充実した毎日。成長していく私達。ただ少しだけハングドマンの肉付きが痩せているような気がするがキチンと食べているのだろうか?

 

そろそろURA中央トレセン学園入試の時期だけに体調不良だけは気をつけて欲しい。アレだけの才能があれば間違いなく入学出来るので、そこからはもっと一緒に居られる筈だし少し気を遣って上げよう。親元を離れての寮生活は心細いが、お互いウマ娘として産まれたからには最速を目指してこれからも万全な状態で切磋琢磨していきたい。

 

 

 

 

ーーーそんな当たり前だと思っていた未来は、数年後の再会まで繰り越されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

次回、パルヴァライザー

 

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