異世界へようこそ.1
あぁ……。私、死ぬのかな……。
身体中が痛みに悲鳴を上げ続け、最早どこが痛みどこが無事なのかすらも分からない。横たわる私の手を握り、何かを叫ぶ後輩、紲星あかりの目からは、大粒の涙が幾つも零れ落ちていた。
泣かないで下さい……。貴方は、笑っている方が可愛いんですから……。
その隣りにはボールを抱えた小さな少女と、青ざめた顔で携帯電話を耳に当てた女性が立っていた。
良かった……。怪我はなさそうですね……。
次第に、指先の力が抜けていき、強烈な眠気に襲われて、意識を保つのも困難になっていく。
あかりちゃん、ごめんなさい。あの日の約束は、守れそうにありませんね……。
それを最後に、思考は薄れて消えていく。この瞬間に私、結月ゆかりは死んだのだ。この魂は、人々の住まう世界を離れ、永き旅路の輪廻を巡り、そしてまた何処かの世界で新たなる生を授かる事になる。そのハズだった。
──あれ?
何も見えず感じない。無限に広がる暗闇の中、けれど私の自我は確かにそこに存在していた。
私の名前は結月ゆかり。あの子は紲星あかり。落としたボールを追いかけて車道へと飛び出した小さな女の子を咄嗟に庇って、そのまま車に轢かれて、死んだ。うん。ちゃんと覚えている。
自我はあり、記憶もある。どうして?私は死んだのだから天国に連れて行って貰えるのでは?それにしても、エンディングロール手前で画面の暗転。そこで止まるなんて、まるで──え?マジ?
私はこの現象を良く知っている。世のゲーマーなら誰もが経験した事があるだろう。時に熱い冒険の始まりを告げるタイトルコールで。時に涙を流す名シーンの最中で。幾人ものプレイヤーを苦しめ、そのモチベーションを一気に削るその現象に、私も何度も出くわした事がある。
つまるところ、私の天国行きはフリーズした様だ。
え、えぇ?いや、ここが既に天国という可能性、いや無いか。ならば地獄?それこそ有り得ない。ゆかりさんが地獄行きだなんてある筈がありませんもんね。
そんな風に考えていると、不意に淡い光が何処かから差し込んだ。
お?あー。なるほど。処理に時間が掛かるタイプですか。やっと来たって訳ですね?
その光は拡がっていき、私の視界をも白く染めて行く。
何も感じ無いのに視界だけはあるんですか。難儀なものですね。
そして、光が一層強く世界を照らし、私は思わず目を瞑った。
さ、流石に眩し過ぎやしませんかね……?
光が消え、次に目を開いた私が見たのは、雲の上の楽園でも、マグマ煮え滾る地底でも、ましてや閻魔様の居る部屋でも無く、三百六十度目一杯に広がる沢山の木々だった。
「ふぁ……」
天国に行くつもりであった私を包み込む森の中で、一度大きく息を吸い込み、己の限界まで声量を絞り出して、ただ一言そう叫んだ。
「ふぁっっっきゅーーーぅう!!!」