魔法士ゆかり   作:湯ノ川

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命の価値.1

「チッ。不味いなこりゃ……」

 

 夜の帳。森の静寂。それを切り裂く、周囲を取り囲む獣達の喧騒。それに紛らわせる様に、私は小さく舌打ちをした。チラリと後ろを見ると、怯えた表情でへたり込む、二人の少女の姿があった。

 

 私が所属しているクラン、戦乙女(ヴァルキリー)ギルド評価値最高(トップクラン)とも呼ばれる大手クランとは言え、今回私に回された依頼は、もっと楽に終わる筈だった。クラス(2)冒険者なら誰もが通る道。クラス(1)や学生の研修等の引率の仕事。基本は見守りながら、危険があれば極力命を優先して退る。そんな簡単な仕事のハズだった。本来ならおかしな髪留めをした親友(・・)と適当な話をしながら飯でも食べている時間だ。

 

 私一人なら、何とかこの包囲を抜けて逃げ切れる。だが、今の私は一人ではない。

 

 はぁ……。どうしてこうなったんだか……。

 

 小さくため息を吐き、飛び掛って来た魔物に向けて剣を振るう。するとその身体は黒い粒子へと姿を変えていった。

 

 コイツら、一匹一匹は雑魚の癖に、如何せん数が多すぎる。それに……。

 

 魔物には、種を識別する能力があり、仲間がやられた時には逃げるか襲ってくるか、大体がその二択なのだ。だが、私達を取り囲む無数の魔猿(エイプ)は、そのどちらを取るでもなく、ただ叫び声を上げながら、喜ぶ様に飛び跳ねていた。

 

 ……楽しんでる、のか? この状況を……? 

 

 幸い、同時に襲って来るのはせいぜい三体程度な上、連携を取って来る訳でも無いので対処は容易い。だが、先程までここ居た(・・・・・・・・)数名は、私の静止を振り切り、包囲の突破を目指し、断末魔と共に群れの中へと消えて行った。

 

 クソが。アイツらが馬鹿みたいな特攻して無けりゃ、この子らもここまで怯えちゃ居なかったろうに……。戦場において最も怖いのは、有能な敵よりも無能な味方、って事か。

 

 心の中でボヤきながら、飛び掛って来た魔猿を切り払う。スキルの使用を極力抑えている為、継戦自体にはまだ余裕があるが、二人を庇いながらとなると、処理速度が間に合わない場合がある。その際にはどうしてもスキルを使って処理する必要がある。スキルを使う毎に魔力は減り、魔力がゼロになると、生物は魔力の急速回復の為に休眠状態(省エネモード)へと陥る。一度そうなると、最低五分は指一本動かせなくなるだろう。

 

 魔力切れ(マインドダウン)だけは避けなくちゃいけない。私がここで倒れたら、この子ら諸共……。

 

 長い付き合いになる大剣(相棒)をしっかり握り直し、中段に構えてながら息を整えてそう呟いた。

 

「はぁ……。ホントに、どうしてこうなったんだか……」

 

 

 

 話は、少し前に遡る──。

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