魔法士ゆかり   作:湯ノ川

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命の価値.4

 閑散とした、馴染みの森。私はそこで、今日も今日とてナイフを振るっていた。

 

 昨日はマキさんも居らず、二日酔いによるダウンというのもあり、たまの休日という事で休みを取ったが、流石に二日連続で休みにするのは、身体の訛りにも繋がる為、今日は一人で森へと赴いていた。

 

「……うーん」

 

 と言っても何か緊急の依頼があった訳でも無く、冒険者の仕事の一つ、定期的な魔区の見回りも兼ねた散歩程度のものだ。

 

「……わからん」

 

 ブツブツと独り言をボヤきながらも、この一ヶ月で叩き込んだ流れに沿って、身体を動かしていく。

 

「一体、どうすればいいんでしょうか……」

 

「おーい、ゆかりさーん」

 

「あれ?ササラさん?」

 

 今日の活動は私一人という事もあり、普段よりも起床が遅かったのあるが、今朝は特に用事も無かった為、ギルドにも顔を出さなかったのたが、何か急な用事だろうか。

 

「お疲れ様です。お昼にお弁当でもどうかなー、と思って」

 

 そう言って、おそらく弁当であろう包みを私に手渡し、はにかむように笑うササラさん。どうやら、私の心配は杞憂だった様だ。

 

「……もしかして要らぬ世話でした?」

 

「いえ、ありがとうございます。とても嬉しいです……けど、ここも一応魔区の中ですし、いくら慣れ親しんだ地元の森、と言っても、一人で入るのは危ないですよ?」

 

 私の発言に何か思うところがあったのか、ササラさんはキョトンとした顔でこちらを見ていた。

 

「あれ?私、言ってませんでしたっけ?」

 

「はい?何をです?」

 

「私、一応ですけど冒険者の資格も持っているんですよ。ランク(3)の」

 

「えっ、ランクⅢ?!く、クラスは……?」

 

「上魔法士です。あはは、てっきりお話したとばかり……」

 

 驚きのあまり、空いた口が塞がらない私と、苦い顔を浮かべて気まずそうに笑うササラさん。二人の姿は実に対象的なものだっただろう。

 

 

 ◇

 

 

「そういえば、聞きたい事があるんですけど」

 

 私達は、ササラさんが持って来てくれたお弁当を二人で食べながら、魔物も居らぬ平和な森で談笑していた。

 

「ふぉ……(もぐもぐもぐ)……はい、なんでしょ?」

 

「魔法って、どうやって使うんですか?」

 

 せっかく魔法が使える世界で、魔法を使う仕事に就いたのだ、どうせならアニメやゲームみたくバンバン魔法を使ってみたい。これは昨晩から考えていた事だが、如何せん魔法なんて使ったことが無い。先程からブツブツと唸っていたのもこの事であり、一人で考えていても仕方が無い為、今日の帰りか夜にでもささらさんに聞きに行こうと思っていた為、ささらさんが魔法職だというのは私にとって都合が良かった。

 

「あー、はい。丁度いいですし、簡単に説明させていただきます」

 

 ササラさんが言うには、魔法は習得して初めて使える様になり、魔法を覚えるには経験値、即ち魔法士としての経験を積む必要があるらしい。覚えられる魔法は人それぞれで、魔力の持つ性質、『魔質』との相性によって決まるのだとか。

 

「なるほど。スキルツリー、ですか」

 

 開かれた魔法の"窓"に映るのは、初級魔法から始まり、進化と派生を繰り返しながら伸びていく魔法の樹。それは"向こう"で見慣れた物だった。

 

「すきるつりい?……何です?」

 

「あ、いえ。気にしないで……ササラさん。確かこのクラスって所に何の属性が使えるか書かれてるんですよね」

 

「はい。魔質、つまりは使える魔法の属性はそこで分かります。それが何か?」

 

「……何も、書かれてないんです」

 

「……はい?」

 

 正確には、何か文字は見える。窓に表示されたクラスの欄、そこに映るのは、まるでバグが起きたかのように、酷く文字化けしたものだった。

 

「無属性とかって可能性、ありますか?」

 

「いえ。魔質というのは弱い強いは多少あれど、必ず何かに分類されるものです。後は貫通や防御、切断等、魔法を形造る性質の違いだけです。確かにどれにも分類されない魔法というのもありますけど、それは魔質が無属性になる理由にはならないんです」

 

「なら、これは一体……?」

 

「分かりません。"進化の路"はきちんと表示されてるんですよね?」

 

 進化の路というのは、おそらくスキルツリーの事だろう。何だか取って付けたような名前だ。

 

「はい。そっちは問題なく。でも全てロック……鍵が掛かってる?って言うんですかね」

 

「はい。未開放の路はロックが掛けられていて、条件を達成する事で解放されていくので、そっちは正常ですね」

 

 それから少し考える様な素振りを見せた後、ササラさんは何か思い立ったように、勢いよく立ち上がった。

 

「ごめんなさい。少し調べたい事があるので、先に戻りますね。それと、魔法士のレベル上げは、魔法を使うのが一番手っ取り早いです。オススメは……身体強化、ですかね。これは進化の路に含まれない魔法なので、レベルは関係なく使えます。効果はその名の通り、魔力で自分の身体を強化するものです。部屋の中でとか、周りを気にせず何処でも使えますから、出来るだけ長い時間使いっぱなしにすると、あっという間に経験値が貯まりますので。それじゃあ、お先ですっ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 自分の言いたい事を言い終えて満足したのか、私がそう言い終わる頃には、とんでもない速さで駆けて行くササラさんの背中が、少し遠くに見えていた。

 

 なるほど。あれが身体強化ってやつですか。確かに使える様になると便利そうですね、あれ。めちゃくちゃ速かったですし。

 

 「……あれ?」 

 

 私がササラさんに聞きたかったのは、『魔法の使い方』では無く『魔法』の使い方だ。レベルを上げて使える魔法を増やすだとか、そういうのは"次"の話であり、私が問うていたのは"魔力"の使い方の方だ。

 

「うーん、"窓"も魔法な訳ですし、これにも多少の魔力は使用されている、んですよね……?だったら……」

 

 改めて、自身や対象のステータスを閲覧する魔法を展開する。そして開かれた窓をそのままにし、意識の自身の内側へと集中していく。目を瞑り、音さえも遮断し、自身の五感は全て消し去り、ただそこに立ち尽くす。全てが闇に飲み込まれたかの様なこの感覚、……正確には、これに近いものを私は知っていた。

 

 ……これは、こっちに来た時に感じた……。あっちで死んで、転生?転移?した時と同じ……?

 

 全ての感覚が死に絶える闇の中で、私の意識は、遂に私の根源、魂へと辿り着いた。

 

 ……あ。私、分かっちゃいました。

 

 揺らぐ生命の炎。暗闇の中で、それだけが絢爛と煌めく。

 

 この炎。私が"あの時"見たのは、この光だったんですね。

 

 心臓が大きく跳ね、徐々に五感がその働きを取り戻していく。その瞬間──。

 

「ゴホッ……、ハァ、ハァ……。私、いま……息してなかった……?」

 

 どれくらいの時間、そうしていたのかは分からないが、開かれた視界は酷くボヤけ、頭を揺さぶられる様な耳鳴りと共に訪れた眩暈に負け、私はそこにへたりこんだ。

 

「あれは……、……あぁ、なるほど。これが……」

 

 私の身体がようやく正常に動き始め、私の五感は、今までは理解すら出来なかった"それ"を、まるで最初から知っていたかの様に、ハッキリと知覚した。この世界における、酸素と同じくらいありふれたもの。

 

「魔力……!」

 

 これは、未だ魔法も持たぬ魔法士が、始まりの扉に触れた。それだけの事。未だ開かれぬ扉の先に何が待つのか。彼女はそれを、知る由もない。

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 大きな鐘の音が鳴り響く。人々には大聖堂と呼びれる地。そこには二人の女性の姿があった。

 

「どうされまー、って、分かりきった話でしたね。順調、という事ですか?」

 

「ふむ……。近々一度、様子を見てきて貰う事になるかも知れませんね」

 

「おや、予定よりも随分と早いのでは?」

 

「本題に入る前の、言わば序章(プロローグ)です。それに、貴方も気にはなっているのでしょう?」

 

「まぁ、本音を言えばそうですね……。分かりました。近々、遠出の準備をしておきます」

 

「はい。お願いします」

 

 

 あぁ。親愛なる───。

 

 

 貴方と出会うその日を、私はずっと夢に見ています。

 

 

 そう。"あの日"から、ずっと……。

 

 

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