魔法士ゆかり   作:湯ノ川

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異世界へようこそ.3

「……ん?あれは……村、ですかね?」

 

 適当に歩を進めて半時間が経過した頃、幸先よく街道の様な整備された道を発見。更にその道を行く事約二時間。私は遂に人の住まう場所へと辿り着いた。

 

 村の周囲には木の柵が張り巡らされており、村への入口となる場所には、門番の役割だろうか。男性が二名居るのが遠目から分かった。

 

「うーん。何か槍みたいなの持ってますね。普通に入れてくれると良いんですが……」

 

 とは言っても他に何の宛も無い私だ。ここは覚悟を決めて村に向けて歩を進める事にした。

 

「こ、こんにちは……?」

 

「はい。こんにちは。どうされました?」

 

 村の入口に着いた私は、近くに居た男性に声を掛けてみた。先程見えた通り、ここには二人の男性が居て、もう一人は街道の脇で椅子に腰を掛けコチラを物珍しそうに見ていた。

 

 とりあえず日本語で話し掛けてみましたけど、コミュニケーションは問題なく図れそうですね。後は村に入れてもらって……。

 

「えっと……」

 

「……?」

 

 な、なんて言えば良いんですか?!私ー、異世界から来てー、なんて言えないし!記憶喪失?いや流石に無理がある……!

 

 コミュニケーションはとれても、最適な文言が何一つとして思い浮かばない。そうして私がアタフタしていると、

 

「……失礼ですが、ギルドのカードはお持ちでしょうか」

 

 少し訝しんだ様子で門番の人はそう問いを投げた。その様子を見てなのか、もう一人の男性も机に立て掛けていた槍を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。

 

「え、そ、その……」

 

「もしや貴方──」

 

「あれ?何の騒ぎ?」

 

 狼狽する私と、少しピリついた様子の門番を見てなのか、大きな剣を背負った、輝く様な金色の髪を腰まで伸ばした女性がコチラへと歩いてきた。

 

「マ、マキさん!実はですね……」

 

 マキと呼ばれた女性は門番から耳打ちを受け、状況を理解した様だ。

 

「ふーん。この子が?流石に無いでしょ」

 

「ですが目的も何も言わないのです。その様な人間を──」

 

「まっ、ここは私に任せてよ?」

 

「マ、マキさんがそう言うなら……」

 

 今の短いやり取りから、この人が門番二人よりも立場が上である事が分かった。分かってしまった。

 

「私はマキ。よろしくね?私が聞きたい事は三つ。貴方の名前と所属。後はこの村に来た理由。答えられる?」

 

 これは、私もしかして何か疑われている?そうだとすると弁解……の余地も無い感じですかね……。

 

「わ、私は……ゆかり、です。所属……はすいません。分からないんです」

 

「分からない?どういう事かな」

 

「じ、実は私、自分の事以外、何も分からないんです……」

 

「……なるほど?」

 

「この村に来たのは、適当に歩いていたら辿り着いた、としかお答え出来ません」

 

 自分(が元いた世界)の事以外、だ。何も嘘は言っていない。

 

「……聞いた?この子は心配無いんじゃないかな?」

 

「で、ですが──」

 

「あー、そう?」

 

 マキさんとの会話を聞いて尚疑いを持つ門番が反論の声を上げようとした瞬間、マキさんは一瞬で背中のストックから大剣を引き抜き、私に向けて横に一閃振り抜いた。

 

「ッ?!」

 

 声にならない声を上げ、仰け反った私は思わず尻餅を着いてしまった。

 

「この子が問題を起こしたら、私が殺す。それで問題ないよね?」

 

「──ッ!……はぁ。まぁ、マキさんがそう言うのであれば……はい。立ち入りを許可します。ゆかりさん、でしたか?」

 

 暫しの葛藤の末、マキさんの提案を呑んだ門番さんは、へたりこんだ私に手を差し伸べてくれた。

 

「あ、すいません。ありがとうございます」

 

「いえ。許可を出した以上はお客様ですので、良ければこの村を案内致します」

 

「良いんですか?助かります」

 

「では、どうぞこちらへ」

 

 そう言ってもう一人の門番に後を任せるとゆっくりと歩き出した背中を追い、私は村の中へと足を踏み入れた。

 

 ◇

 

「……ねぇ。どう思う?」

 

「どう、とは?」

 

「見た感じ、強そうだとか弱そうだとか。そんなの?」

 

「ん……。まぁ、見ていた感じですが、あれなら特に問題は無い、って感じですかね」

 

「……そっか」

 

 少しずつ遠くなっていく異邦人の背中を見て、私は考える。

 

 あの子今、目瞑ってなかったよね……。

 

 私の振るった剣を、ただ恐れて倒れたのでは無い。私はそんな印象を覚えた。

 

「どうかしました?」

 

「……あの子さ、さっき私の剣先をちゃんと見た上で躱してた気がするんだよね」

 

「まさか、あの尻餅も演技だとでも?」

 

「んー。分かんない。けど、嘘をついてる、って感じでも無かった気がする」

 

「考え過ぎでは?あの動きはただの素人でしょう」

 

「ま、それもそう、かな……?」

 

 何だか、この変哲もない毎日が少し楽しくなる。彼女には、何か流れを変える力がある。私の中に、そんな期待が芽生えていた。

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