「それで、さっきの話なんですけど」
営業を開始したばかりのギルド内には、既に何人かの冒険者が顔を出しているものの、この村に滞在している冒険者の全体数が少ないからか、建物内はまだ静かな様子だった。
「うん。あー、冒険者の説明からした方が良い?」
「いえ。それはちょっとだけ聞いてます。ギルドで発行してる依頼を受ける人ですよね?」
「んー。まぁだいたいそんな感じかなー。今のゆかりにはね、
「それで冒険者、ですか?」
「そゆこと」
ギルドカード。国が発行、及び管理をしている特殊なカードで、一度カードに登録を行えば自動的に更新されていく魔法が込められているらしく、本人以外が扱う事は本人の許可なく出来ない代物だそうだ。
「この村を出るにしても必要になるだろうし、残るなら残るで手に職付けとけば楽でしょ?他の職業はマスタリーが居ないから就けないからね」
ギルドカードを発行するには何か職業に就く必要があるらしく、その職業に就くには
「つまり手っ取り早くなれるのが冒険者って訳なのさ」
「なるほど......」
「それにほら、あそこ見てみ」
マキさんの視線を追うと、先程からギルド内に居た冒険者達が大きな荷物をまとめていた。
「あの人等、この村を離れるらしくてね?するとこの村に残る冒険者は私一人になるのさ」
「えっ......」
少ないとは思っていましたが、そこまで人が居ないとは......。
「だから私も教えられる事は教えるし、依頼の数は少ないとはいえ、二人でやる分には十分稼げると思うし!どう?一緒にやってみない?」
確かに、このままダラダラ過ごしていても何も得られないのは事実。マキさんが面倒見てくれると言うのだから、その厚意に甘えるのも良いだろう。
「......分かりました。やります、冒険者。よろしくお願いしますね?マキさん?」
「ッ!うん!これからよろしくな!ゆかり!」
こうして私は歩き始める。
多くの未知が待つ、剣と魔法の世界を。
◇
「......来ましたか」
鐘の音が鳴り響く聖堂に、二つの影があった。
「これも運命、という事でしょうか」
片や膝を着き、神へと祈りを捧げていた。
「どうします?連れてくる事も出来ますよ?」
片やその傍らに立ち、少女を見つめていた。
「......いえ。"今"の彼女ではダメでしょうから」
「私にはよく分かりませんが、貴方が言うならそうなのでしょうね」
「......今は待ちましょう。あの人が強くなる、その時まで」
「予言の子、でしたか?本当に貴方が言う様に強くなるのでしょうか?」
「あの人は強くなりますよ。だって───」
私の大好きな─────だから。
その想いは音には成らず。その想いは、少女の中だけで響いていた。