ある日静かな森の中。二人の声と昆虫の羽音が、やけに煩く響いていた。
「二体そっち行ったぞ!」
「任せてください!」
前に立つ仲間からの声を受けて、ホルスターからナイフを引き抜いた私は、巨大な蜂の魔物と対峙していた。手前まで来ていた
「ふぅ。まっ、こんなもんか。お疲れ、ゆかり」
「はい。お疲れ様です、マキさん」
剣と魔法の世界で、まだ見ぬ"憧れ"を目指して冒険者への道を選んだ私は、今日も今日とて森での狩りを続けていた。
私がこの世界にやって来てから、早くも一月が経とうとしていた。
「お疲れ様です、ゆかりさん。魔蜂の針が十本、魔蜂の羽が十枚、納品を確認しました。これで課題はクリアとなりますので、今日で"冒険者見習い"を卒業、晴れて正式な冒険者となります。おめでとうございます!」
今日の狩りが終わり、マキさんと別れた私は報告の為にギルドを訪れていた。
「ありがとうございます、ササラさん」
この世界に存在する、人類及び全ての生命に対し、明確な敵対関係にある存在『魔物』。それははるか昔、悪魔達の率いる魔族と、女神の加護を受けた人類や亜人達の連合軍がぶつかった戦争の影響で、大量の魔力が世界中に溢れた事で自然発生する様になった、言わば戦争の爪痕、魔族の忘れ形見だそうだ。魔物は何度倒されても周囲に魔力が存在する限り、時間の経過で湧き出てくる。その魔物を適切に処理し、人類の支配権を維持する事が冒険者の主な仕事となる。
倒された魔物は命が尽きた時、魔物という存在を構成している粒子へと姿を変え、空気中に解けていく。それは魔素と呼ばれ、この世界に生きるモノの殆どが、その魔素を自身の身体に取り込む事で、身体能力や基礎能力を鍛える事が出来るのだ。その際、魔物の体の一部が素材として形を保ったまま残る時があり、今ささらさんに渡した針と羽もそれだ。
「どうです?この一月で経験値も溜まったんじゃないですか?」
この一月の間、ササラさんやマキさんからこの世界について、この世界の言葉や文化を学びながら、暇を見つけてはマキさんと共に森へと足を踏み入れ、魔物を狩っていた。その分の
「えっと、あー、はい。
この世界の、ほとんどの人が自然と覚える基礎魔法、窓。物体に指を添えて横になぞるように動かす事で、その物体の基本情報を知る事が出来るという便利な魔法で、何も触れずに空を切ることで自分自身の情報がひと目で分かるようにもなっている。向こうの世界で言うところの、ゲームのステータス画面の様なものだ。
そしてそれは、私が冒険者見習いから、次の職へと進める事を示していた。
「まぁあの頻度で森に潜ってたらそうなりますよね。それじゃあ、さっそく昇格しちゃいます?」
「そうですね……はい、お願いします!」
「分かりました!一応、どの
「いえ、それはまだなんですよ……」
冒険者と一括りに言っても様々なスタイルが存在する。剣が得意な人。槍が得意な人。魔法が得意な人。それらを適切に区別し、得意な分野を伸ばして行く為の手段がクラス分けだ。剣が得意な人は剣を使用した
簡単に言うと、スキルツリーですよね、これ。槍使いが剣術を幾ら鍛えても無駄って話ですか。
「ゆかりさんの適正は……あー、そうでしたね……」
「そうなんですよね……」
話は約一月前。私が冒険者になると決めた、その日にまで遡る……。