「ササラさん。私、魔法士にしようと思います」
私がササラさんにそう告げたのは、五分程度が過ぎた時だった。
「わかりました!それではギルドカードをお借りしますね」
「はい。お願いします」
この世界における冒険者のクラス変更は、この様にギルドでのみ行われるらしい。正確には、外でも出来なくは無いが、この国で定められた法によるとそれは違法行為にあたり、ギルド以外で不正に操作が行われた場合、即座にギルドカードが凍結されるそうだ。
「はい!出来ました!これでゆかりさんは正式に魔法士として認可されました!
「ユニーク、ですか」
「転職条件がきちんと判明していない、特別なスキルを持つクラスの事です。あ、スキルの説明は大丈夫そうですか?」
「あー、はい。それは大丈夫です」
魔法士の魔法や剣士の戦技。そういった習得して使う能力では無く、クラス自体に付随する力の事だ。例えば私の魔法士には魔法使用時の消費魔力が僅かに減少するというスキルが着いている。これはクラススキルと呼ばれ、上位職になればなる程、効果が大きくなる。ユニーククラスには通常のクラススキルとは別に、ユニークスキルが与えられ、破格の性能を持つものが多いそうだ。
「私も何人かですが固有職の人と会った事がありますけど、あー、いえ。なんでもないです」
そう言葉を濁したササラさんの表情は、何処か暗い様に感じた。
「あ!そうそう言い忘れてました!これまではギルドの支給等で必要なかったかもしれませんが、これからは必要な物はご自身で用意して頂く事になります。その際必要なお金はギルドカードに入ってますから、カードの窓から引き出して下さいね!魔蜂の素材は街にも卸す予定ですので、駆け出し冒険者にしてはそこそこな金額になってると思いますよ」
どうやらこの一月で集めた魔蜂、マグナアピスの素材を買い取りと言う形で処理してくれたらしく、その分のお金がこのカードに入っているらしい。
身分証明書兼、どこでもATMという事ですか。"向こう"にもこれがあれば凄く便利だったんですけどね。
「はい。ありがとうございます」
「んー。まぁ私からのお話はこれで終わりですかねー。あ、そうだゆかりさん。この後って何か予定あります?」
「いえ。マキさんも居ませんし、今日はもう宿に戻るつもりですけど。明日からの支払いの話もありますし」
今この村に居る冒険者は私とマキさんの僅か二人。その両名が今もササラさん家のお宿に泊まっている。あの日、一月前に最後の利用者達が村を去ってからはギルドの宿泊施設は利用者が居らず、それから二日程でギルドとしての食事及び宿泊サービスは停止されていた。
「あー、この一月は無料でしたもんね。代わりにギルドから払ってはいましたけど」
「そうなんですよ。だから今日使えるお金が貰えたのは助かりました。これで少しでも女将さんに支払いが出来ます」
この一月、女将さん。つまりササラさんのお母さんにはとてもお世話になった為、少しでも恩返しをしたいというのが私の本心だった。
「なるほど。じゃあ、今夜は一緒に夕飯を食べませんか?ゆかりさん、いつもマキさんと食べるか自部屋で食べてたじゃないですか」
ササラさんの言うとおり、基本は自分の部屋に持ってきてもらうか、マキさんの部屋で共に食事をしていた。正直に言うと、ササラさん家のお宿は夜は酒場も兼任しており、多くの住人が集まる。そのせいか新顔に対する周りの視線が少し怖かったからだ。
「そ、そうですね。⋯⋯分かりました。他の人にも改めて挨拶をば、と思っていましたから、是非ご一緒させて下さい」
「やった!じゃあもうちょっとで仕事も終わるので、少しだけ待ってて貰えます?」
「わかりました」
こうして日は沈み、やがて夜が更けていく。
この先の未来に何が待つのかを、私はまだ知る由もない。