「うぅ、頭が⋯⋯」
ササラさんに誘われた夕飯は、私の知らぬ間に村人の大半が集まっての宴会に変わり、その流れで改めて挨拶を行なった私は、その場の空気に流され遅くまで皆とお酒を飲み交わしていた。その結果生まれて初めての二日酔いに陥った私は昼遅くにのそりと起き、机に突っ伏していた。
「こんにちはー、って。大丈夫ですか?」
「あぁ、ササラさん。おはようございますぅ」
「あー、はい。もうお昼ですけどね」
元々向こうでも普段から飲んでいた訳では無い為、お酒に対する耐性はそこまで強くない。けれど友人達との飲み会等ではそこそこ飲めていた、と思っていたのだが。
あれはフルーツ系のワインなんですかね?凄く美味しくて飲み過ぎちゃいました。
まぁその甲斐あってか多くの人から飲みっぷりを褒められ、それをきっかけに色々な人と仲良くなれたのは僥倖だったと言えるだろう。
それに、気になる話も少し耳に入っていた。
「もぅ、今日が
「あはは、気を付けます」
少し頬を膨らませて、可愛く怒るささらさんに思わず笑がこぼれた。
今日は休日ではあるが、元々冒険者はギルドからの特別な要請等が無ければ自由に休勤を選べる。この一月はマキさんが適当な日に休みを作っていた為あまり関係は無かったが、これからは私も自分で休みを作って自由に休めるのだ。
「そういえば、マキさんって今居ます?」
「いえ、さっきお母さんに聞いたんですけど、昨日のお昼くらいから戻ってきてないみたいです」
「そうですか⋯⋯」
昨日の昼頃、用事があると告げ私と別れ村を発ったマキさんは、まだ村に戻ってきていないらしい。今日はもうダラダラするモードに入ってしまっている為、マキさんの不在は私にとって、丁度良いと言えば丁度良かった。
「ゆかりさん、今日はもうお休みですよね。良かったら私とお話しません?」
「あー、良いですね。ササラさんとゆっくり話す事もあまりありませんでしたし」
この一月、ササラさんと話す機会自体は多かったが、互いに仕事上での関係であった為、あまり踏み込んだ話はしてこなかった。
「じゃあ何か煎れてきますね。何がいいですか?」
「ありがとうございます。ではお茶をお願いします」
「わかりました~」
今頼んだお茶はこの世界における最も親しまれる飲み物で、一般的な庶民から貴族まで、多くの人が慣れ親しむ物だそうだ。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます。ん?それは?」
戻って来たササラさんの手には二杯のコップ。その小脇には一冊の本が抱えられていた。
「あぁ、これはですね。昨日ゆかりさんが気にしてたやつですよ」
「昨日の⋯⋯?あ、例の御伽噺ってやつですか?」
「ですです」
昨日の夜会。そこで色々な話を聞いたが、ただそれだけが気に掛かっていた。
「話すよりも実際見てもらった方が早いかなー、って。簡単な本なのですぐ読み終わりますよ」
「⋯⋯"ユキナの迷い子"」
『ユキナの迷い子』
ある日、まだ日も登りきらぬ時、一人の少女が村にやってきた。彼女は自身の名は言えても、他の事は何も分からないと言う。村の人間達は、気味悪く思いながらも少女を迎え入れた。少しづつ、村の人間達とも交流を深めていく少女だったが、少女は忽然と姿を消した。帰る場所を思い出し、村を飛び出したのか。それとも、人ならざるモノに攫われたのか。それは誰にも分からない。やがて、村の人間達の記憶から、少女の姿は消えていく。まるで少女など、初めから居なかったかのように……。
それは、聞き分けの無い子供や、帰りの遅い子供を叱る為に聞かされる。そんな幼稚な子供騙し。誰も気にも止めやしない。されど誰もが知る話。そんな話に、私は強く引かれた。
やっぱりこのお話、何だか似ている様な⋯⋯?
その話は誰でもない、私の境遇に少し似ている様に思えた。それに───。
「ゆかりさん?どうかしました?」
「あ、いえ。なんでもありません。……変なお話ですね」
ユキナ、この名前を聞くのも久しぶりですね。
それは、私ともう会えぬであろう
偶然、ですよね。だって───。
この世界に、あかりちゃんが居るはずありませんから。
■
「⋯⋯また、あの夢か」
最近、同じ様な夢を見る。こことは違う。似ても似つかない不思議な世界。その世界では魔法が存在し、人々は魔物との戦いを強いられていた。その世界で、"私"は聖女として生きていた。多くの人に慕われ、支えられながら、長く何かを待っていた。それが何なのかを、"私"は知る由もない。
「一体、何を待っているのやら。まぁ、どうでもいいか」
所詮は夢。夢はやがて薄れ、そして私は目覚める。そうして嫌でも現実を突き付けられては、いつも通りの変わらぬ日々へと帰ってくる。
それが私、紲星あかりの日常だ。