『おぉおぉ……まだ生きてやがる。幸運、或いは不運なのかねぇ』
倒れた車体の窓から覗く奇妙な影。猫のようなシルエットのくせに耳から何かが垂れている。
『まあ、直ぐにパパとママの所に逝けるだろうよ。残念、死体とは契約できねぇから俺は行くぜ』
「ま、って……たす、けて………」
『……そいつは願いかぁ? だとしたら、俺は断る事が出来ねぇんだよなあ』
クルリと身を翻したその生き物は、しかし少女の言葉に立ち止まりユックリと振り返る。
「死にたく、ない………」
『ここで死んだ方がマシだぜ? あの世なんて非科学的なもんがあるか知らねえが、あったらパパとママにまた逢える。ここで俺の手をとりゃ、それも叶わねえ』
「死に、たく………」
『そうかい……地獄へようこそ、クソガキ。俺に感謝なんて気持ち悪いことするんじゃねえぞ』
「助けて、くれる……の?」
『助けねぇよ。力を貸すだけ。お前はお前の願いで勝手に助かるだけだ……』
鹿目まどかと美樹さやかは綿に髭をはやし虫のような羽をはやした不気味な生き物達から懸命に逃げる。いや、生き物なのかすら怪しい。
「何なのよアイツ等!? ていうか、ここは何処なの! あ、夢か。夢よねこれ!?」
囲まれ、現実逃避するかのように叫ぶさやか。
ことの発端は、CDショップの買い物中。何者かの声を聞いたまどかが走り出し、さやかが続き立入禁止の場所で、転校生の暁美ほむらに襲われている白い生き物を見つけ、その生き物を助け走っているうちにこの不気味な空間に迷い込んだ。
シャキンシャキンと謎の生き物が手に持つ鋏で不気味な音を奏でる。逃げ場はない。人一人簡単に寸断しそうな武器が、無力な少女達に近付いていく。と……
「え、なにこれ!?」
突如降り注いだリボンが二人の周囲を囲い、強く輝きその光が妙な生き物たちを吹き飛ばした。
「危なかったわね。でももう大丈夫………」
と、その言葉に振り返ればまどか達と同じ見滝原中学の制服を着た少女。その肩には、まどかの腕の中にいる傷ついた生き物そっくりな生き物がいた。
「あ、貴方は……」
「そうそう。自己紹介が必要よね? でもその前に……」
と、少女が足を滑らせながら回転し、黄色を基準としたクラシカルな服装へと変わり、大量のマスケット銃を召喚し残りの謎の生き物を一掃した。
「すごい………」
まどか達が見惚れていると少女はまどか達のすぐそばに移動し、肩の生き物がまどかの腕の中の生き物に気付く。
『ああん? 先輩じゃねえか、ここは俺の担当区域なんだがなあ』
目を細め弧を描かせる生き物。まどかの腕の中の生き物は無表情のまま少女の肩の生き物を見据える。
『これ程の才能を持つ少女を放置してたようだからね、職務怠慢がすぎるんじゃないかい?』
『働き者でご苦労さまですこと。俺にゃ俺の考え方があるんだよ。将来の危険性とかなぁ』
グイ、と伸びをする少女に付いていた方の生き物。会話的に、後輩なのだろう。
『役目を忘れたわけじゃねえよ。願いがあるなら叶える。ねえなら叶えない……そこに干渉される覚えはねえ』
『…………まあ、それもそうだね。役目を忘れていないならいいんだ』
まどかの腕の中の生き物はそう言うとスルリと腕の中から抜け出て何処かへ去っていった。
「さて、貴方からも色々聞かせてもらいたいのだけどね?」
「…………」
元の、現実の景色に戻ると、少女は振り返りその場に現れたほむらに声をかける。
「話す事なんて何も無いわ」
「そう? キュゥべえを嫌ってるなら、この子達のためにも話しておくことがあると思うんだけど」
「…………貴方、まさか………」
『ハハッ。なるほどなるほど、お前も知ってる側か。んでその態度、真実を知ってるのは自分だけだから自分一人でなんとかする! ってかぁ? かぁこいいねえ。俺が人間のメスだったら抱かれにいった──ぷぎゅう!』
少女は笑顔で肩の生き物の尻尾を掴むと顔面を壁に叩きつけるようぶん投げた。
「!?」
「ええ!?」
「ちょ、可哀想ですよ!?」
ほむらとさやかが目を見開きまどかが慌ててべしゃっと床に落ちた生き物を抱える。
『へいへい、些かからかいが過ぎた俺も悪いなぁ。しっかしすぐに暴力に訴えるたぁ、だから友達も彼氏も出来ねぇんだよ』
「あら、次は鉛玉がお好みかしら?」
チャキ、と銃口を生き物の額に押し付ける少女。肩に乗せてたのに、仲悪いの?
「今は真面目な話がしたいの。あなたが嫌われようとどうでも良いけど、あなたが居る部屋に入りたくないって言われたらベランダから投げ落とす手間が増えちゃうでしょう?」
「な、投げ落とすんですか?」
「平気よ、この子死なないから」
「そ、そういう問題なのかなぁ………」
さやかの言葉に笑顔で答える少女にまどかは引きつった笑顔を浮かべた。
「巴マミ、貴方は………」
「あら、貴方には自己紹介は必要ないみたいね。二人には改めて、私は巴マミ。その子は……」
『キュゥべえ科キュゥべえ属キュゥべえ目のごんべえだ! よろしく頼むぜ、鹿目まどかに美樹さやか、そしてイレギュラー暁美ほむら。マミんちにゃケーキが沢山あるぜ。いつ友達が来ても良いようにな』
まどかの腕から抜けると再びマミの肩に飛び乗るごんべえ。ほむらは二足歩行のゴキブリでも見るかのような目で見ていた。
『まあ友達なんざ来ねえし体重も増やしたくねえからほとんど俺の餌になるんだが。喜べよ、マミの部屋でケーキ食うのはお前らがは──きゅぷ!!』
マミは笑顔で床に叩きつけて頭をグリグリ踏みつけた。
ごんべえ
精神疾患を患っている個体。別に原作知識がある訳でも、他の人生を過ごした記憶がある訳でもない。
精神疾患故に人間の娯楽に興味を持ちマミのパソコンを勝手に使い得たネットの小説の知識に照らし合わせて転生者を自称したりするが、前世は多分鹿だったと言ったり割と適当。
マミが体重図る際に肩に乗ったりして風呂に沈められたり弁当を勝手に食って冷凍庫にしまわれたり日常的に罰を受けてる。最近マミはそのグニグニしたふみ心地が癖になりベッドで踵置きに使われている。
本編後
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マギレコでも魔法少女を誑かす
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たるマギで家族3人でフランスを救う
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たむらの旅につきあわされる