性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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思い上がるな原始生命

「………………」

『派手に死んでるな。ソウルジェムは、駄目だなこりゃ』

「ソウルジェムさえ無事なら、生きてたかしら」

 

 目の前に転がる少女の死体。頭を巨大な爪で割かれたかのような傷は、小巻も良く知るものだ。言葉通り、身を以て。

 

「微かに残る魔女の魔力。死体を消せた筈なのに、何で態々結界から出したのかしら」

『見せしめかもな。此奴は美緒、風見野市の魔法チームの一人だ』

「チーム。そういうのもあるのね……」

『魔女の数が多けりゃな。先日、魔女や使い魔を操り人を食わせてグリーフシードを手に入れてた魔法少女と戦闘、その際魔女使いは一人殺して逃走した。見滝原にな』

 

 魔女に人を食わせる、その悍ましい所業に小巻は顔を歪ませる。よりによって見滝原に来るなんて、もしも晶や小糸達に何かあったら…………

 

「……………」

『どうした?』

「いや、他の街に行ってよって考えちゃってさ。私、本当に人間やめちゃったのね」

 

 自分の大切な誰かが居ない街に行けと、そう思った。()()()()()()()()()()()()()()()()と、そう考えた。何とも冷たい考えだ。石ころになった自分にはお似合い、そう皮肉げに笑うとごんべえが頬を引っ掻いた。

 

「いったあ!?」

『馬鹿かてめえ。人間をどんだけ高尚な生き物だと思ってんだ』

「どういう意味よ」

 

 ムッとした小巻に対してごんべえは目で弧を描き声だけは嘲るように笑う。

 

『単体でも存在するお前等の想像する「世界」も「一生」も、狭く短い。特に「世界」はお前の想像以上に広くて、お前の認識より狭い。ネットだテレビだで世界の広さを知ったつもりかもしれんが「お前の世界」はお前の周りだけ。世界を広げるのは出来るが、「本物の世界」を意識出来るのはそれこそタルトやフロー………ジャンヌ・ダルクやナイチンゲールみたいないわゆる偉人、嬴政とかギルガメッシュ、信長みてえな王だのと呼ばれる部類だ。そいつ等だって、厳密には「自分の世界」が広いだけ、世界の全容を知る訳じゃねえ』

「………………」

 

 昔を懐かしむように虚空を見つめ尻尾をユラユラと揺らすごんべえ。

 

『思い上がるな原始生命。生物単体が認識出来る世界は周囲だけ。その外は自分に何の因果もない世界……新聞を読んで可哀想だとは思うだろう、だが行動に移すか? もしそうなら、人間は剣など作らねえし猟銃は猟銃のまま、短く運びやすくも、でかく鉄を貫く無駄な威力も手に入れたりしてねえ。そこそこ発展してるこの星ですらそれだ、現在進行形でどれだけの同じ星の同じ姿した文明がこの宇宙で、住む場所の違い程度で殺し合ってると思っている』

「………ようするに、人間は最初から年がら年中「自分の世界」の外なら傷付けても傷ついてもいいと思ってる愚かな生き物なんだから、誰かが傷付くことを黙認した程度で人間やめたとは言えないって事? 回りくどいのよ、あんた」

『その方が知能も上がるだろ、万年2位』

「だから余計な事言うなっての!」

 

 尻尾を掴みブンブンごんべえを振り回す。と、不意にその手を止め振り返る。

 

「失礼、少しよろしいでしょうか」

「………何?」

「そちらの少女を殺したのは貴方ですか?」

 

 振り向いた先にいたのは3人の少女。普通の格好ではない。軍服、侍……赤ずきん?

 因みに髪は金、銀、茶だ。茶髪って何となく銅にも見えるし金銀銅でも良いかもしれない。

 

(てか私、死体見たのに結構冷静………いやまあ、自分が実は死体動かす石ころって聞かされればこんなもんか……)

 

 とはいえ、冷静なだけだ。これを行った下手人に怒りはある。その怒りを、彼女達に向けぬよう大きく息を吐いてから返答する。

 

「私じゃないわ。来た時には、もう………」

「そうでしたか、それは失礼しました」

「あっさり信じるのね」

「キュゥべえと共にいる貴方を、元々疑ってはいません」

『はっ。俺がお前等魔法少女達の味方と思ってんのかよ』

 

 リーダーであろう金髪軍服の言葉にごんべえはケケケ、と小馬鹿にしたように笑う。いや、実際馬鹿にしているのだろうが……。

 

「もしや、貴方はごんべえですか?」

「知ってるの、こいつの事?」

 

 肩に乗るごんべえの頬に人差し指をグリグリ当てながら尋ねる。

 

「ええ、噂程度であった事はありません。何でも、キュゥべえの仲間で性格と口が悪いと」

「確かにムカつくし嫌なやつだし性格も口も悪いけど、悪い奴じゃないわよ」

『………』

「いったあ!? 噛むなこの馬鹿!」

 

 クワッと開いた口で指に噛みつくごんべえを引き剥がそうと腕をブンブン振り回す小巻。遠心力で飛ばされたごんべえはコンクリートの壁の凹凸に爪をひっかけると器用に上り壁掛けの室外機の上に飛び移る。

 

「降りてこいコラー!」

『知ったかぶるなメスガキめ』

 

 地上で叫ぶ自分を見下ろしふん、と鼻を鳴らし背を向け馬鹿にするように尻尾を垂らすごんべえにぐぬぬ、と呻く小巻。

 

「………あの、それで少し話を伺いたいのですが」

「え、ああ……そうね。ごめんなさい、全部あいつが悪いわ」

 

 親指でごんべえを指し責任転嫁をする小巻。ごんべえは顔だけ覗かせ魔法少女達を見つめる。

 

「それで、何が聞きたいの?」

「我々は風見野市で活動している魔法少女です。優木沙々を追ってきました。その子は、優木に強い憎しみを持っていました。先走る可能性を考慮しなかった私の不徳で先行させてしまい」

「だいたいごんべえが言ってた通りってことね。私は魔女の気配を感じてここに来たの」

「やっぱり優木の仕業か!」

『取り敢えず死体はきちんと隠しとけよ。この町で見つかったとなると色々面倒だからな。小巻が動けなくなる』

「言い方ってもんを考えなさいよ馬鹿」

 

 憤る銀髪に興味なさそうに小巻の肩に飛び降りたごんべえ。小巻が呆れたように指でグリグリすると口を開いたので慌てて指を引っ込める。

 

「それと、これは多分その優木って奴の仕業じゃないわ」

「と、言いますと?」

「つい先日、魔法少女に襲われたのよ。多分、傷口的にそいつ………まあ、その優木が刃物を持った魔女を連れてる可能性もあるけど」

「魔法少女に? 縄張り意識が高いということですか?」

『見滝原は殆どが巴マミの縄張りだ。マミを知らねえ新入りが少しは居るだろうが、縄張り意識というよりは魔法少女同士優劣をつけたいタイプだな』

 

 誰に示すためだ、と小巻はごんべえを睨むがここで口に出して彼女達と軋轢を生むのを避けるために口にはしない。

 

「殺すまでやるのか、そいつは……」

『元々は多少傷つける程度だったが、此奴が魔法少女じゃなかったら死ぬレベルの傷を負ってな。魔法少女に成りたてのアイツは殺しちまったと思って吹っ切れた可能性がある』

「それは、危険ですね……」

「じゃあ美緒は優木とその魔法少女を同時に相手したってのか?」

『あるいは、アイツと優木のコンビかもな』

 

 その言葉に顔を険しくするリーダーと侍女。そして、顔を青くする茶髪の少女。ごんべえは彼女達の反応を見比べる。

 

「そういう事なら、我々も手を組みませんか?」

「同盟のお誘い? まあ、私としては願ってもないけど」

「その魔法少女の戦闘スタイル、固有魔法などを教えていただけますか。こちらも優木の固有魔法、我々が把握している魔女の情報を教えます」

「ええ、じゃあ手を組みましょうか。私は浅古小巻」

「人見リナです。至らぬ身ですが、風見野市の魔法少女チームのリーダーをやっています」

「朱音麻衣だ。宜しく頼む」

「さ、佐木京です」

 

 お互い自己紹介し、持っている情報を伝え合う。

 

 

「なるほど、速度低下ですか」

「ごんべえが言うにはね。私からすればただ速いだけだったけど」

「しかし、空間影響ではなく対象選択だった場合、厄介になります。優木の手持ちが全員我々より速くなると言うことですから」

「………………」

 

 その事を想像したのか難しい顔をする麻衣と顔を青くする京。

 

「ねっ、ねえリナちゃん。作戦、考え直そうよ。敵が沙々ちゃんだけじゃないなら危ないよ!」

「はい、なので今考えているところです」

「そ……そうじゃなくてさ……風見野に戻ろうよ! 風見野でゆっくり話したほうがいいよ」

 

 そう提案する京に目を細める小巻。

 

「ま、私は病院から抜け出してる身だから、今日はもう帰るわ。見捨てて逃げても、文句はないわ。ここは「私の世界」だもの」

『クク……』

 

 小巻の言い回しにごんべえが笑うと小巻の頬が気恥ずかしさに赤く染まる。

 

「見捨てるなどしません」

「そう………ま、そういうわけだからこれ、私の連絡先。必要になったら呼んでね」

 

 

 

 

「あのチーム、結構バラバラね」

『訓練した軍隊じゃねえ、あんなもんだろ。何より世界が狭く深い人見リナに、広げてもそこそこ長く居なきゃ戻るであろう極一般的な朱音麻衣、んで世界が狭く広げることすら出来ねえ佐木京。殺された二人がどんな「自分の世界」を持ってたかはしらねぇがリナの「正しい世界」に賛同するまともな価値観は持ってるからまとまってた』

 

 小巻とごんべえは病室に向かいながらそんな話をする。小巻はあくまでチームとしてみており彼女達自身は見下しはしてないがごんべえはやはりと言うか、人間相手故に馬鹿にしている。

 

『願いが願いだ。罪のい……』

「それは彼女達のプライベートでしょ。いいわよ、別に言わなくて」

『そうかい……ま、己が願ったものが一生に一度の自覚もない奴等とは、手を組む意味はねえと思うがね。少なくともキリカ相手に何処まで出来るか』

「あんたの先輩のせいでしょうが」

『そうとも。気持ちは解るが文句は何度でも言いたい悲しい事実だ』

 

 ごんべえははぁ、とため息を吐きながら小巻が開けた窓から病室に入る。

 

『もう一人ぐらい戦力を追加したらどうだ? 同じ学校だし、誘いやすいと思うぜ』

「同じ学校?」

『美国織莉子だ……何だ、知らなかったのか?』

「…………は?」

『ん?』

 

 唐突に出た名に、窓に足をかけたまま固まる小巻にごんべえは不思議そうに振り返る。

 

「………アイツが、魔法少女?」

『何だ知らなかったのか』

「いや………いやいやいや! あり得ないわよ! だってアイツ、キュゥべえが見えてなかったじゃない!」

『んん? ああ……本当だ、カフェで見えないふりしてやがる』

「……記憶共有してるって言ってたわね……何で、もっと早く気づかなかったのよ」

『いや魔法少女の誕生やチーム組んだならともかく、魔法少女同士がただ話しただけなんて優先度の低い情報は検索しねえと出ねえよ』

 

 小巻の言葉にごんべえが面倒くさそうに返す。言われてみれば、複数の思考、複数の体を持っていても常に同じ事を感じ、記憶するのは不可能だろう。

 

「てか、だとしたらなんで見えないふりしたのよアイツ」

『魔法少女であることを隠すためだろうな。魔法少女に対抗できるのは魔女か魔法少女。いや、過去人間が魔法少女を殺していた時期もあるが徒党を組んでだし……まあ要するに、お前が近くにいると止めるような事をしてんだろ』

「………………」

『……………』

 

 ごんべえと小巻がお互いの目を見つめ合い、しばしの無言。

 

「………だとしても、あの黒カマキリを匿ってるのはアイツじゃないでしょ。徒に人を傷付けるやつと仲良くするとは思えないわ」

『まあ願いが願いだしなあ。人間を余程高尚だと思ってやがる。無意味に人を傷つける事はしねえだろうよ、無意味には………』

「いちいち引っかかる言い方するわねあんた………と」

 

 不意に眠っている晶が呻く。起こさぬように、小巻はそっと己のベッドに戻る。

 

(逆に言えば理由があれば人を傷つけるって言いたいみたいだけど、ならその理由は何よ)

《俺が知る訳ねえじゃん……》

(父親の復讐……は、するタイプじゃないか。考えすぎよ)

《……今の所、動機は俺にも浮かばんしな。疑わしいだけで後を追ってちゃ時間を無駄にするだけか》

 

 ごんべえはくわ、と欠伸をすると空になったバスケットに入ると丸くなり眠りについた。

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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