性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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大丈夫、あいつはやる奴だからさ

「……………」

「ごんべえさん、何か今日小巻機嫌悪くないっすか?」

 

 病室に備え付けのテレビでゲームをしながら晶はごんべえに話しかける。

 

『知り合いに魔法少女が居たんだが、その事実を隠されていてな』

「………ひょっとして、美国さん?」

『知ってたのか?』

「いや、小巻が秘密にされてて不機嫌になるのあの人ぐらいしか思いつかなくて」

 

 その言葉にごんべえはふーん、とさして興味なさそうに返す。あいつの事解ってる、みたいな言い方だったし、さりとてキュゥべえの記録から見る限り普段から仲がいいようにも見えない。仲良くなりたいけど素直になれない、ツンデレと言うやつだろう。

 

『ま、そのうち踏ん切りがついて自分から向かうさ』

「小巻ってそういうところあるっすからね〜」

『俺は俺で探ってみるかな……』

 

 と、その時小巻が顔を上げ窓の外を振り返る。ごんべえもまた同様に外を見た。

 

『魔女の気配……』

「みたいね」

 

 輝くソウルジェムを片手に忌々しげに呟く小巻。よりによって、こんな場所に……

 

『……!』

「わ、なに!?」

 

 突如ごんべえがヴーと音を立て震え思わず叫ぶ小巻。

 

『携帯だ』

 

 と、背中を開き携帯を取り出すごんべえ。通話をオンにすると慌てた声が聞こえてくる。

 

〘ママ、マミさん! マミさん大変です!〙

『まどかか? 落ち着け、一体どうした』

〘え、あれ? ごんべえ……? マミさんの所に帰ってたの?〙

『………あ〜。そういやこれマミの携帯だったか。どうせ連絡に使わないと思って借りっぱなしだった』

〘ええ〜……そんな、酷いよ………って、そうじゃなくて! 病院にグリーフシードが! 今さやかちゃんとキュゥべえが!〙

『はあ!? キュゥべえ!? 何で先輩が!』

 

 まどかから出た単語にごんべえは思わず叫ぶ。いやまあ、名指しの命令が来た時点で、接触の機会は伺ってると思っていたがほむらは何をしているのか。

 

「病院って、見滝原総合病院かしら?」

〘え? えっと……〙

「早く答えて!」

〘は、はい! 見滝原総合病院の駐輪場付近です!〙

「行くわよごんべえ!」

『え、俺も?』

〘え、あ、あの──!〙

 

 首根っこを掴まれ引っ張られるごんべえ。携帯がベッドに落ちる。晶はその携帯を取ると電話向こうの相手を安心させる為に電話に出る。

 

「そっちに魔法少女向かったから、もう安心だよ」

〘え? ………え?〙

「大丈夫、あいつはやる奴だからさ」

 

 彼女が向かったなら、もう安心だ。

 

 

 

 

 遡ること数分前。

 さやかの幼馴染である上条恭介の見舞いに来るも、時間が合わず面会できなかったさやかは付き添ってくれたまどかと帰る事にした。

 

「にしてもほむらの奴薄情だよね〜。ついてきてくれたっていいのにさ」

 

 転校生として上条に紹介しておこうとほむらを誘ったのだが、来なかった。前回4人一緒に出かけて、プリクラも撮って、仲良くなれたと思ったのにと拗ねたように言うさやか。

 

「ま、まあでも流石にあったことない男の人に会ってって頼むのもどうかなあ、って……」

「あー………まあ、それもそっか………ん? どうしたのまどか?」

 

 と、さやかはまどかがある一点を見つめているのに気づく。

 

「あ、あれ………なんだろ?」

『グリーフシードだね』

「へ? わ! ご、ごん………じゃ、ない? キュゥべえ?」

『見て直ぐ解るものなのかな? 僕と彼は全く同じ姿のはずなんだけど、ごんべえの契約者の大半は何時も一目で僕達の違いに気づく』

 

 と、感心しているのか呆れているのか一切解らぬキュゥべえ。ごんべえだったら声色や纏う空気で察しやすいのにキュゥべえは何時だって何処か親しみを覚えるような声色しか使わない。

 

「何でここに……」

『不治の患者なんかは奇跡を求めやすいからね、僕等としては契約者を探すのにもってこいの場所なのさ』

「弱みに付け込んで、人を電池にしようっての!?」

『その結果この宇宙の寿命が伸びて君達人類も安心して過ごせるんじゃないか。その憤りは理不尽だ。何より、奇跡を提示したからって受け取るのは君達なんだよ? なら、それは僕等の責任じゃなく君達の問題じゃないか』

 

 何故怒っているのかまるで解らないと言うように首を傾げるキュゥべえ。言葉は通じているのに、話が通じていない。

 

『それより、あのグリーフシード。不味いね、そろそろ孵る。もうすぐ結界も出来上がる』

「まどか、マミさんとほむらの携帯!」

『そんな暇はなさそうだね』

 

 と、グリーフシードが強い輝きを放ちさやかは咄嗟にまどかを突き飛ばす。

 

「まどか! 私はこいつを見張ってる。マミさんかほむらが来たらよろしく言っといて!」

『僕も誘導手伝うよ!』

 

 光に飲まれながら叫ぶさやか。キュゥべえもその後を追うように光に飛び込む。

 

「さ、さやかちゃん? キュゥべえ?」

 

 光が収まると、さやかとキュゥべえの姿は何処にも無い。結界に取り込まれたのだろう。

 直ぐにマミに連絡したらごんべえが出て割と酷いことを言ってたが、聞き覚えのない誰かが変わって、また変わったと思ったら安心だとそう言われた。心の底からその人を信じているのがわかる、そんな声だった。と………

 

「待たせたわね」

 

 そして、現れた魔法少女と思われる少女。恐らく年上の彼女はまどかを安心させるように頭を撫でる。

 

『うわ、かなり不安定。こりゃ下手な魔力は使わんほうが良いな……』

 

 結界の入り口を見て彼女に掴まれているごんべえがそう言った。その言葉に魔法少女はそう、と目を細める。

 

「仲間の位置は分かるんでしょう。最短ルートで案内しなさい」

『あいよ。まどか……』

「な、何?」

『ここで待ってろ』

 

 ついていこうと思ったまどかだったが、こんべえによってそれは止められる。

 

「で、でもさやかちゃんが……」

『お前が来ても何も出来ねえよ』

 

 ぽむ、と肉球でまどかの頬を叩くごんべえ。 

 

『ていうかぶっちゃけただの邪魔だしなあ』

「余計な一言ばっかだけど、このバカの言ってることは正しいわ。本来電話する筈だったマミって奴を連れてきてから一緒に入りなさい」

 

 魔法少女はそう言うとごんべえを再び掴み肩に乗せ結界内に入っていった。

 

 

 

 さしずめお菓子の魔女と言ったところか。巨大な病院器具の森を超えれば大量の巨大お菓子。そして、それを超えた先にはケーキの地面や山。

 中心に近づくに連れ不快になるほどの甘ったるい匂いが立ち込める。その中央、開けたケーキの大地に乱雑に存在するお菓子の一つ、巨大ドーナツの影からグリーフシードを見張るキュゥべえとさやか。

 

『まずい、結界内で誰かが魔力を、魔女が孵る!』

 

 と、キュゥべえの言葉どおり、グリーフシードが再び光り輝き、キャンディの包み紙のような頭をした小柄な魔女が現れた。

 

「あ、あれが魔女? なんか、可愛い………」

 

 などと思っていると魔女がさやかを見る。思わず手を振ってみると、魔女が小さな口を大きく開け………

 

「………は?」

 

 ヌルリと飛び出したピエロのような顔をした黒く長い体に赤い斑点模様を持った異形。ギラリと鋭い牙がさやかに迫り……

 

「何がギリギリ間に合うよこの馬鹿!」

 

 ガギィ! と巨大な盾が魔女の前に現れ牙を止める。ガリガリと削るような音が聞こえるが、その頭にポールアックスが叩きつけられ巨体が吹き飛ぶ。

 

「■■■■■■!!」

 

 ドゴォ、と音を立て壁に激突する魔女。頭が大きく凹んでいる。魔女に骨格があるのか知らないが、頭蓋骨が陥没している。と、思いきや開かれた口から無傷の魔女が脱皮するように出てきた。

 

「再生持ちか、厄介ね……」

 

 ポールアックスを持った魔法少女はそう呟きながらポールアックスを振るうと盾が浮かび上がりポールアックスと一体化する。

 

「だ、誰? ねえキュゥべえ、あの人も魔ほ───」

『……ん?』

「ぎゃああああ!! 共食いしてる!?」

 

 キュゥべえに尋ねようと振り返れば、キュゥべえをその鋭い牙で噛み千切りながら捕食するキュゥべえの姿が……。

 

「て、もしかしてごんべえ?」

『そうだよ。ま、それより応援でもしてやれよ』

 

 同族を平らげきゅっぷ、とゲップするごんべえ。キュゥべえは意識を共有していて、体は替えの利く器に過ぎぬと聞いていても目の前で食い殺される光景は、なんとも言えない不気味さが。

 

「はああああ!」

 

 巨大化させた盾で叩き潰すもヌルリと口からまた新しく飛び出し無傷。

 

「ああ、もう! 面倒くさい!」

 

 決定打に欠ける魔法少女を、最早餌だと判断したのかベロリと舌舐めずりする魔女。大きく口を開け、魔法少女を飲み込もうと迫り………

 

「ま、もういいけど」

「!?」

 

 ゴン! と何かにぶつかり魔女は痛そうに仰け反る。何時のまにか紺色の障壁が魔女を包み込んでいた。

 

「もう脱皮する機会は与えない」

 

 クッ、と魔法少女が左手を握るような動作を取ると障壁が縮んでいき中の魔女も必然的に体を小さく丸める。口を開く事すら出来なくなり、漸く縮小も止まるがもはや一ミリだって動く隙間がない。 

 

「粉々にしてやるわ!」

 

 そう叫び、ポールアックスを振り下ろす。宣言通り障壁を砕き中の魔女の体を爆散させた。

 結界の景色が揺らぎ、陽炎のように不透明になっていく。魔女が倒されたのだ。魔法少女は患者衣に姿を変えるとグリーフシードを拾う。

 

「そこのあなた、大丈夫?」

「は、はい! 大丈夫です!」

「そう、良かったわ」

 

 さやかの元気な返事に、魔法少女は微笑んだ。

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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