性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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お前はもっと早く、死んでおくべきだった

「ちょっとごんべえ! ここで変身してもギリギリ間に合うってなんだったのよ!?」

『間に合ったろ』

「ええ、本当にギリギリにね!」

 

 生意気言うマスコットをグリグリ踏みつけ叫ぶ魔法少女。患者衣着てる割には結構元気。

 

「あ、あの〜……」

「ん? ああ、大丈夫よ。貴方の友達は、ほら無事だから」

 

 恐る恐る声をかけてきたまどかに魔法少女はさやかを見る。ごんべえを踏む足の力は緩めない。

 

「その、さやかちゃんもそうなんですけどごんべえも私の友達なんです」

「…………そう」

 

 魔法少女が足を退けるとごんべえは直ぐにまどかの肩に乗る。ふわふわの尻尾の感触がほんの3日ぶりなのに懐かしく感じる。と………

 

「鹿目さん! 美樹さん! 無事!?」

「魔女は何処だ!」

 

 マミとほむら………あと知らない銀髪の少女がやってきた。ごんべえはその姿を確認すると肩から降り駆け出し……

 

『一緒に居ろつったろーがこのボケ』

「っ!」

 

 ほむらの頭に登り爪を立てる。血は出ない程度だが鈍い痛みに振り解こうとするも離れず涙目になるほむら。

 

「悪かったわよ。最近、見滝原の周りで魔女の気配が増えて」

「ええ、そのくせ姿は見せなくて……」

 

 漸く剥がれたごんべえに説明をするほむら。マミも擁護しごんべえは爪を引っ込めまどかの肩に戻る。

 

『見滝原に魔女の反応が何度もねえ………誘われてんじゃねえ、お前等』

「ああ、私もその可能性が高いと思う」

 

 と、ごんべえに同意したのは銀髪の少女。そういえば誰なんだろう、というまどかの視線に気づいたのか、自己紹介する。

 

「私は朱音麻衣。風見野市の魔法少女で、この街にはある魔法少女を追ってきた」

「魔法少女を?」

「魔女を操り、人を食わせていたそうよ。かなり危険な思想の持ち主だから、早い所対処したいのだけど」

 

 魔法少女が人を魔女に食わせている。

 テレビの魔法少女とは全くの別物だと聞かされてはいたが、そこまでやる奴までいるのかと顔を青くさせるさやかとまどか。

 

「な、なんでそんな危ない奴に魔法の力与えてんのよ!」

『先輩に言え………と、言いたいがまあ俺も請われれば契約したろうな。ぶっちゃけ人間性なんてどうでも良い。それはお前達が良く知ってるだろう?』

「そ、それは………」

「……………」

「まてごんべえ、今のはどういう意味だ?」

 

 それを知ってるさやかとまどかは言葉につまり、それを知らない麻衣は困惑したようにごんべえに尋ねる。

 

『………お前は耐えられそうではあるが、お前を経由してあのガキ二人に知られるのはなあ。かと言って、お前は一人で抱え込めるタイプでもあるまい』

 

 そんな麻衣をじっと見つめユラユラと尻尾を揺らすごんべえ。これは考え込む時の仕草だ、とまどかは学んだ。

 

『まあ、取り敢えず俺や先輩の正式名称はインキュベーター。で、魔女を地球で生み出したのはインキュベーターって事を覚えておけ』

「え? は? ………はあ!?」

 

 いきなり与えられた情報を消化しきれず、しかし聴き逃がせない一言に気付き思わず叫ぶ麻衣。

 

「どういう………どういう事だ!? お前達は、私達魔法少女に魔女と戦ってほしかったんじゃないのか!?」

『俺も先輩もんなこと一度だって言った覚えねえよ。ん? ああ、先輩は魔女と戦う使命を課されるとか言ってるんだったか? だが、それは過去の魔法少女達が自分から言い出した事だ』

 

 麻衣の叫びなど聞き飽きたとでも言うようなどうでも良さげなその態度に思わず固有武器である刀を生み出そうとして、不穏な気配を感じ取ったのかまどかがごんべえを庇うように抱き締める。

 

「や、やめて! ごんべえに酷いことしないで!」

「だが、そいつは! 答えろ、なんの為にこんな事を!」

『大雑把に言えば世界の為だ。昔っから良くあるだろ? 人身御供、生贄、身代わり。大多数の為に少数を利用する。牛一匹の命で何人の飢えが凌げると思うよ』

「お前!」

『その憤りはもっとも。俺達はお前達人類の敵さ』

 

 ケケケ、と喉を鳴らすごんべえ。睨みつける麻衣。

 

「ごんべえ、人類の敵なのに女の子の腕の中だと説得力ないわよ」

 

 マミが呆れたように言った。ごんべえはまどかの腕からスルリの抜けると頭の上に乗る。

 

『とはいえ、俺達は何も人類を滅ぼしたい訳じゃねえ、むしろ増えてくれないと困る。だから、魔女を狩るのをサポートするし魔法少女を徒に殺す奴には対処する。少なくとも今は味方さ』

「それを信用しろと?」

『人間も狼や熊から家畜守る為に寝ずの番をするだろ? それと一緒だ。家畜自身に戦う力があるから何処に向かえとかいうだけだが』

 

 麻衣はごんべえを睨み、しかしふぅ、と息を吐く。

 

「目的が何であれ、ただ人間に敵意を持って行動するならやりようはあるだろう」

 

 それこそ人の目には見えぬ魔女を世界中にばら撒くとか。

 

「先程の発言からして、こちらが知った上で敵対するのは損でなくても、こちらがショックを受けすぎるのは避けたいらしい。何より、そちらの魔法少女達はその言葉を聞いた上でお前の味方のようだ」

 

 と、マミと小巻を見る麻衣。

 

「今は一先ず見逃してやる。事が済んだら、改めて問わせてもらおう」

『他の二人連れてこねえなら良いぞ』

 

 刀を消して踵を返す麻衣。ごんべえは特に意外に思ってもなさそうだ。最初の発言通り、彼女なら受け止められると思っていたのだろう。

 

『とりあえず俺達も帰るか。悪いな小巻……』

「いや、まあ良いけど………それより、マミって誰?」

「私だけど」

「あんたの携帯、今私達の病室にあるから取りに来て」

「ごんべえの? って、ああ。そうね……今は連絡くるんだもの。私が持ってなきゃ駄目よね」

「………………」

 

 

 

 

 

「それで、何時まで私についてくるのかしら?」

 

 帰り道。一同は別れ、ほむらは自宅にて手製の爆弾を作っていると不意に振り返り影の向こうに声をかける。

 

『お前にちょっと聞きたいことがあってな』

「私に?」

『今回の件の黒幕、心当たりないか?』

「…………いえ、残念だけどないわ。こんな事初めてだもの」

『初めて………初めてねえ。少なくともお前は、一ヶ月前はただの眼鏡と三編みの似合う少女漫画の磨けば光る委員長みてえな見た目のただのガキだったはずだがな。一体どこで契約したのやら』

「………地球にも貴方が知らない事だってあるわ」

『俺達が誤差なく情報を共有できる範囲はお前達の概念で言えば1067光年なんだがな。それも、1秒でという補足をつけてだが』

「…………は?」

 

 規格外。言葉通り、人間の規格の外の言葉に固まるほむら。ごんべえは予想通りだ、とでも言うように息を吐く。

 

『その反応からして、お前が認識しているつもりの世界は惑星規模。「お前の世界」はこの街が精々ってところか。つまりこの世界にはお前が魔法少女になった要因はなし』

 

 ユラユラと尾が揺れる。まどかやマミならこれが苛立っている時の揺れ方だと解ったろう。

 

「何が言いたいの?」

『文武両道の転校生。どんな問題もスラスラ解ける、とか聞いてたから頭いいのかと思いきやさてはお前別に頭良くねえな? 大方知ってるだけか。魔女退治に、訪れるであろう何かへの対策で忙しいのに………さて、一体何度やり直したのやら』

「───っ!」

『ただまあ、この予想はずっと前に立ててた。お前に穴だらけにされた日からな。まどかへの執心、さやかの理解……確信に至らなかったのは俺とマミへの不審だ。だが、存外俺も優しかったらしい』

 

 揺れる巨大な振り子を見つめながら、ごんべえは狼狽えるほむらを無視して続ける。

 

『その可能性はあった。むしろ、まどかやタルト、フローみたいな規格外はともかく普通のガキじゃ、どんなに頑張ってもそれしかあり得なかった。こんな事は初めて、その台詞で漸く確信に至った。無意味な旅を続けたものだ………お前は「鹿目まどか」を救えやしないのにな』

「救うわ。私が、まどかを救ってみせる………」

『………「救う」……あぶない状態、苦しい状態、悪い環境、貧しい境遇などにある者に力を貸し、そこからのがれるように助ける』

「…………?」

 

 辞書の文をそのまま引用したかのような説明をするごんべえ。ほむらが訝しむも、無視する。

 

『まどかは確かに先輩に狙われてる。それを危ないと取ることもできるだろうさ。だがなあ、どうにも俺はこの言葉が当てはまるとは思えねえ。そうならないようにするなら、「守る」だろ、この場合。ああ、()()()を守る事なら、そりゃあ、可能かもなあ』

 

 救えぬと言いながら守れるといい、何が言いたいのかさっぱり解らない。問いただそうとするも、それを知れば何かが壊れてしまうような恐怖を感じ声が出ない。

 

『だが、そうかなるほど………だからまどかは………』

「っ……ぁに…ぉ……な、にを………貴方は何を知ってるの!?」

 

 まどかの名が出て、聴き逃がせぬと漸く声が出る。

 

『急に元気だな。なにか良い事でもあったか?』

「はぐらかさないで!」

『…………憐れだなあお前。どうしようもなく、憐れでならない。俺が人の姿をしていたら抱き締めたくなる』

 

 並べられた爆弾の一つを前足で弄りながら、ごんべえはほむらを憐れむ。

 

『俺がお前に言えることは一つだけ。お前はもっと早く、死んでおくべきだった』

 

 それだけ言い残すと、ごんべえはほむらの部屋から去っていった。

 

 

 

 

「ごおべ、ごおべ……おふろ、おーふろ!」

『わかったわかった。尻尾引っ張んな……先に行ってるぞ』

「うん……」

 

 尻尾を引っ張るタツヤの首に絡みつくように肩へと乗りタツヤがパタパタお風呂へとかけていく。まだ3歳のタツヤを一人で風呂に入れるわけには行かないのでまどかも直ぐに風呂に向かう。

 

 

 

 

「ごんべえ、あの後何処に行ってたの?」

『少し調べ物だ………』

「ふうん?」

 

 ごんべえの泡を洗い流しながら小首を傾げるまどか。

 明らかに何か隠してるし、これは………ひょっとして何かに怒ってる?

 

『まどか、お前はほむらと何時出会った?』

「へ? え〜っと………転校したその日、だけど。あの、ほむらちゃんをね、保健室に案内する事になったんだけどほむらちゃん保健室を知ってたみたいで。あ、だからって別に私が何もしなかった訳じゃなくて………あ、いや。うん、何もしませんでした……」

『………それ以前にあった記憶はあるか?』

「…………笑わないで聞いてくれる?」

 

 まだ話も理解できないであろうタツヤにも聞かせたくないのか、ごんべえを抱え耳に口を近づける。

 

「その、夢の中であったような……」

『夢……?』

「な、なぁんて! あはは、何言ってるんだろうね」

『夢、ね……』

「…………ごんべえ? あの………もしかして、これってその、予知夢だったり? あの恐ろしい光景が、現実になるの?」

 

 と、まどかが不安そうに訪ねてくる。

 

『俺はその光景を知らねえが、それは確かに訪れる未来だろうよ。だが、既に過ぎ去った過去』

「み、未来なのに過去?」

『ただの夢だ』

「………そう、なのかな? でも、ほむらちゃんはあんなに必死で………私、なにかしてあげなきゃって」

『それは何故だ? 苦しんでる人がいたからか? それとも、相手がほむらだからか?』

「それは………あれ………どっち、だろう?」

 

 夢の中の自分は、必死だった。でも、何故?

 見ず知らずの人の為に彼処までするだろうか?

 

『するだろうな』

 

 するようだ。なら、そうなのか?

 いや、違う気がする。夢の中の自分は、確かにほむらという個人の為に必死になっていたと思う。

 夢の中では知り合いだった? どんな?

 混乱しているとごんべえが頬に肉球を当てる。

 

「まろか〜?」

 

 タツヤも真似してごんべえと反対の頬に手を当てる。

 

『お前は夢で、どんな友達だったか覚えてないんじゃない。知らねえんだ』

「う、うん………」

『それで? 今のお前は、暁美ほむらの友達か?』

「うん」

『即答か………だからこそ俺は、ほむらに苛立ってんだろうな』

「え、ほむらちゃんに怒ってるの?」

『未来を知った気になったガキを見るほどムカつくことは……………未来を知る?』

「ごんべえ?」

 

 ユラユラ尻尾が揺れる。さっきまではイライラしてる時の動きだったが、今は考え事をする時の揺れ方だ。

 

『あ〜………つまり、なるほどそう言うことなのか? 情報が足りねえな』

 

 ザバッと湯船から飛び出すと窓まで駆け上がる。

 

『ちょっと仕事だ。行って来る』

「う、うん。いってらっしゃい………気をつけてね」

「ごおべ、いってらさ〜い」

 

 

 

 美国公秀。

 衆議院議員。汚職を行った美国久臣を弟に持ち、世間は関係なくても責任を求めようとする中立ち回り同情的な感情を向けさせたやり手。

 仕事を終え、自宅に帰る。電気は既に消えている。

 

「……………」

 

 だが、気配がする。何者だ?

 政敵は多くいる。だが、直接手を出すなどリスクを犯すものなど心当たりが少ししか無く、その一部の動きにも注視していたはずだ。

 そっとリビングのドアを開ける。

 

『ふぃ〜、ひっさびさの酒だ。マミじゃ酒買わせられねえからなあ』

 

 珍妙な白い生物が冷蔵庫に入れていたハイボールを勝手に飲んでいた。




『あとほむら(お前)が好きだ。お前が「鹿目まどか」を救えないと気づいてほしいから小説を書いた。「鹿目まどか」を救えぬまま幸せを妥協するしかない状況に陥って長生きして欲しかった』

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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