彼女はなかなかの因果を手にしたね
やめろ
グリーフシードを渡すのかい? 確かにまだ生かしていたほうが因果は育つけど
みるな
砕いてしまったね。あの時に相転移させておくべきだったんじゃないかな、勿体ないよ
のぞくな!
俺のものだ。俺だけのものだ!
入ってくるな! 覗いてくるな! 見てくるな!
どうせお前等には理解できないくせに。
どうせお前等には解らないくせに。
俺の記憶だ。俺の歩んだ道だ。
俺の絆だ。俺の知識だ。俺の成果だ。
何を言ってるんだい? 君だって僕等の一部だろう。精神疾患を患っているだけで、切り捨てたりはしないよ。
ずっと
一人になりたいのに一人になれず。一人のはずなのに一人ではなく。
生まれてきたからには無意味に死にたくない、そんな当たり前の感情を持ちながらも死ねば楽になれるのではと何度も考えて、死んでも渡したくないものが出来てしまった頃には死ねなくなって。
私のせいだ。
私のせいだ
この世の理に縛られず理を支配する側の全能者の声は時を越え、世界を越え、いずれ関係を持つがまだなんの関係もない
たった一人。
反応したのは、してくれたのは一人だけ。
ただの雑音として記録もしない
死なぬ身故に何万年と大勢の中で孤独に過ごし、同じように心を持つ者に触れ合うことが出来たのに、その喜びも別離の悲しみも勝手に覗かれ理解もしないくせに作業の一工程として扱われる。
何百年も何千年も何万年も。
私が望んだように。望んだ以上に。
苦しんでほしかったわけじゃない。悲しんでほしかったわけじゃないの。
ごめんなさい。
私が悪いの。貴方は解ってくれたのに。
ごめんなさい。
私が悪いの。ただ見守るしかしなかったから。
ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい
悲しまないで。泣かないで。苦しまないで。
どうか、どうか……憎しみだけを背負わないで。貴方を愛して、幸せを願う人達も沢山いる。
だから、どうか………自分を赦してあげて。すくわれて良いんだって、気づいて………
「………ぁ…………夢………?」
目を開けると自室の天井が見える。
寝ていたようだ。さやかが魔法少女になったと聞き、ごんべえが飛び出し、不機嫌な様子で帰ってきたごんべえを何を思ったのかタツヤがそのまま連れていき、数日ぶりに一人で寝た。
『悪い夢でも見たか?』
と、何時のまにか部屋にいたごんべえが話しかけてくる。
「………えっと………」
『何を泣いてる』
「………え? あ……」
目元に触れると、確かに濡れていた。夢の影響だろう。
でも、どんな夢だったろう?
とても寂しくて、悲しかった気はするのだが、内容が思い出せない。
「解んない………解んないけど………ごめん。ごめんね……ごめんなさい……」
『……………』
ベッドの上に飛び乗ったごんべえを抱きしめ涙を流し謝罪するまどか。ごんべえはまどかを不思議そうに見て、されるがまま大人しくしていた。
「ご、ごめんね朝から………」
中学生にもなって誰かに抱きつく姿を、それも異性(?)に見られ恥ずかしそうに俯くまどか。ごんべえは気にした様子もなく乱れた毛を整えていた。
「あ、えっと………昨日タツヤは何してたの?」
『抱き着いたまま眠った。俺を甘やかしたつもりなんだろうな』
毛づくろいが終わりブラシを背中に収納するごんべえ。
『そろそろ飯だ。終わったら、病院行くぞ。ほむらが迎えに来る。マミとさやかは病院で待ってる』
「さやかちゃんの事だよね……」
『ああ……』
昨晩契約したというさやか。いずれソウルジェムを穢れで染め死んでしまう魔法少女になったという。
どうしてなったのだろう。ごんべえが苛立ったように出ていって苛立ったまま戻ってきたが、声からして恐らく帰ってきた時点ではさやかに対しての怒りはなかったと思う。
キュゥべえが何か良くない手を使ったのか、或いは何か言われたのだろうか?
朝食も取り終わり少し立つとインターホンがなる。玄関に向かうとほむらが立っていた。
「行きましょう」
「………え、あ……う、うん」
『コミュ障かお前は』
「まどかはそんなものじゃないわ」
『お前に言ってんだよ』
「?」
ごんべえの言葉に首を傾げるほむら。ごんべえはまあいい、とまどかの肩に乗った。
「てなわけで、魔法少女になりました………はい」
不機嫌そうなほむらに若干怯えながらさやかが昨夜の出来事を説明する。説明を聞きながらほむらのさやかに対する圧力も消えていき、まどかは何も出来ない自分に俯き、小巻は拳を強く握る。ごんべえは小巻を見る。
『お前のせいじゃないさ。責任は魔女使い。この中であるとするなら、魔女使いが病院を狙う可能性を考慮しなかった俺だな』
「私が全部ぶっ飛ばせてればその子も契約しなかったでしょ。実際魔法少女の真実知って、その子は躊躇ってた」
「魔法少女の真実? まだ、あるんですか?」
「あれ、この子はまだ知らなかったんだ……」
因みに場所は小巻の病室。当然晶も居る。マミは病院の屋上から透明化したリボンを張り巡らせ魔女や魔法少女の襲撃に備えている。
「まどか、それは………」
『何時までも隠してたって良いことはねえ。これを機に言っちまった方が良い』
さやかが躊躇う中ごんべえがほむらを見ながら言う。ほむらが立ち上がりなにか言おうとする前に、ごんべえは続ける。
『それとも、誰かがそうなってから実は、とでも教えるか?』
「誰も、あんな風にならせは……」
『その気持ちは立派だが、事前知識無しでベテランになってから言え。お前必要なら、全てが終わったあと街から出ていくとか考えてんだろ? まあ、その頃にはまどかの因果も落ち着いてるかもしれねえが積極的に契約する必要がなくなるだけだ』
「因果が………? それは、どういう……」
『こういうのは自分で気づけばショックが少ない』
ほむらの言葉にごんべえは晶の背中に隠れる。睨みつけるほむらだったが欠伸をし取り合う気を見せない。
「………教えて、ごんべえ」
「まどか!?」
「ちょ、やめときなって!」
「ごめんね、ほむらちゃん、さやかちゃん。でも、私知りたいの。知らなきゃいけないと思うから……」
だから、話してごんべえと真っすぐ視線を向けるまどか。ごんべえは晶の背中から出るとまどかの前まで歩く。
「……後悔は、しないよ」
『すりゃいいさ。万全の答えを用意できる奴なんかいないんだからな』
そして語られる、魔法少女の真実。
ソウルジェムこそ魂そのものであり、肉体は最早外付けのハードウェア。グリーフシードを孵す栄養となる穢れに染まりきった時ソウルジェムはグリーフシードへと変わり、その魂を焼き尽くし宇宙の寿命を伸ばす。
魔女とはその際に魂の燃えカスに膨大な感情エネルギーが付着したもの。魔女となった魔法少女の絶望を振りまく呪い。
『一人でいることを望めば結界に入ってきた者を問答無用で殺す。家族を求めれば
「…………平和な世界になりそうね」
『あのガキはキリスト教だ。その教えに従うなら人間誰しも罪がある。タルト自身そう思わなくとも、それまでの経験が、最期の願いがそうさせる。ましてや、一度も誰も傷つけなかったと言い切れる奴がいるのか?』
「「「…………」」」
皆思い当たることがあるのか、黙り込む。
『心当たりがあると思えるあたり上等だ。ま、つまりそういうことさ。魔女は魔女。生前どんな善性の人間だろうと、人を殺す』
「…………ごんべえは、それを知ってても、教えたとしても契約してたの」
『………ああ』
「どうして……皆、皆魔女になっちゃうんでしょ!? どんなに人を救おうとしても、最後には人を殺す存在になるなんて……そんなの、そんなの酷すぎるよぉ………!」
『人の身で叶えることが出来ないどんな奇跡でも叶えてやれる。その対価としては、俺も釣り合うとは思っている。だが、お前達は何時もそれだ。祈って願って、都合のいい神様が現れてくれると思ってんのか?』
「ごん、べえ……?」
突き放すような、非難するようなその言葉に、まどかは顔を上げごんべえを見る。ごんべえは窓から覗く空を見つめていた。
『まあ、だからといって受け入れろとは言わねえよ。価値観なんざ人それぞれ。世界には他にも不幸な人がいるんだから我慢しろってのは道理が合わねえ』
「………ごんべえ達は、何で宇宙の寿命を伸ばそうと思ったの?」
『あの頃の先輩達に生存欲求は既になかった。無かったが、当時の宇宙でどうにか出来るとしたら自分達だけで、宇宙を見る限り生命は繁栄を望んでいるから、守ってやろうと上から目線で思ったのさ』
まるで神気どりだ、と明らかに気に入らないといった様子で尾を揺らすごんべえ。
「じゃあもし、宇宙全ての……ううん、半分以上が知性を手にして、誰かを犠牲にしてまで生きたくないって言ったら」
『止まるだろうな。だが広がり続ける宇宙で、知性体に進化するより新種が増えるほうが早い。特に知性もないそいつ等が望むのは、生命らしく増えることだろうよ』
まして己になんの関係もない遠い星の生命が犠牲になり自分達の未来が保証された知性体が、誰も犠牲にしないでなんて言うとは思えない。
「で、でもさ。あの後調べてみたけど宇宙は膨張して最大エントロピーが増加する? ってなってたんすけど」
「1光年先を一年前の状態でしか調べられない地球人の仮説でしょ、それ」
晶の言葉を小巻がバッサリ切り捨てた。ごんべえもそのとおりだ、と小巻の言葉に頷いた。
『宇宙は確実に死に向かっている。現状だと後210,018,049年後におわ………いや、今10万年ほど伸びた』
世界の何処かで魔女が生まれたのだろう。しかし10万年。本当に感情エネルギーというのは凄いらしい。
「ごんべえは、皆を見守って、何も感じなかったの? どんなに辛かったか、解ってあげようとしなかったの……?」
『……………え?』
と、ごんべえはまどかの言葉に困惑していた。しかしそれは訳が解らないというより、思いがけない言葉を聞いたような。だが、彼の性格からして聞き慣れたはずの問いかけだろうに………。
『それは、その言葉は………何処かで…………まどか、お前は…………』
「ごんべえ……?」
ピリリ、と鳴り響く電子音。小巻の携帯だ。
「ちょっとごめん。何、今取り込みち───」
〘魔法少女殺しと優木だ! 襲撃にあってる、これたら来てくれ!〙
それだけ言うと連絡が切れた。小巻は直様窓に手をかける。
「ま、待って! 私も行きます! あいつ、恭介を狙ってるんですよね!?」
「どうなの、ごんべえ……」
『願い的に、ムカつくから殺そうとするだろうな。殺したいほどムカつくってわけじゃねえ。魔法少女が近くにいるのにわざわざ襲いに来るとは思えない』
「だってさ………」
「で、でも………」
ついてこようとするさやかに小巻が言外についてこなくていいと言う。ごんべえは小巻の肩に飛び乗り窓の縁付近に触れると透明化していたリボンが現れる。
『念の為マミ、ほむらはこっちの襲撃に備えろ。さやかはまどかを守れ。恐らく敵の狙いはまどかだ』
「な!?」
「わ、私?」
『今回の件は万全な戦力を蓄えるため。裏を返せば、ここで邪魔できりゃ動きを制限できる』
ごんべえの言葉にほむらも立ち上がり、しかしごんべえがほむらに視線を向ける。
『お前はここでまどかを守れ』
「敵はまどかを狙っているんでしょう? なら、確実に………」
『お前はまどかの為に敵を殺し尽くしたいのか?それとも守りたいのか? 同じようで、全く違うぞこの2つは』
「…………」
『行くぞ小巻』
「ええ!」
『マミも、ここは頼んだ』
ごんべえの言葉に答えるように、視覚化したリボンが風も吹かずに揺れた。小巻は窓から飛び出すと空中に障壁を生み出しそれを足場に宙を駆けていった。
本編後
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たるマギで家族3人でフランスを救う
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たむらの旅につきあわされる