ピピピという電子音に目を覚ます。ぬいぐるみだらけの自分の部屋。ぼんやりと思い出す、不気味な空間と不思議な衣装の少女達。
「ふわぁ……また変な夢……ん?」
と、ぬいぐるみの中に見覚えがない…否、夢で見た生き物がいるのに気付く。
『よお寝坊助。いい夢は見れたかぁ』
帰りが遅くなった事を母に指摘される中、まどかは洗面器で体をシャカシャカと音を立て洗うごんべえを見る。母の詢子は反応していない。見えていないのだろう。聞こえていないのだろう。
ていうか勝手に鹿目家のシャンプー使ってる。あのブラシ、お父さんの予備の歯ブラシじゃ……入ってたパックがゴミ箱からはみ出てる。
マミの部屋のあるマンション。4人と一匹はあの後移動し、マミが扉を開ける。
「一人暮らしだから遠慮しないで。ろくにおもてなしの準備もないんだけど」
『弟子も遊びにこないしな。何時来ても良い様に菓子を揃えてんのに。ま、俺はアイツ等と遊びに行ったりするけどなぁ』
マミはポイ、とごんべえを手摺壁から放り投げた。
「ご、ごんべえ!?」
「さあさあ上がって」
「え、放置?」
まどかが叫ぶもマミは気にした様子もなく、さやかは頬を引きつらせる。ほむらは宇宙の真理を受信した猫みたいな顔になっていた。
人数分の紅茶、ケーキが用意され、四人全員が座る。ほむらはテレビ近くのゲームのコントローラーを見つめる。
「わあ、すっごく美味しいです!」
「んん、むっちゃ美味いっすよ!」
『なかなか好評みたいじゃねえか』
まどかとさやかが舌鼓打つ中、ごんべえが帰ってきた。枝や葉っぱが各所についている。
ブラシを咥えマミの膝の上に乗るとマミは枝や葉を取ってやりブラッシングし始めた。結局仲は悪いのだろうか、良いのだろうか?
「キュゥべえ達に目をつけられた以上、あなた達にとっても他人事じゃないものね。ある程度説明は必要かと思って」
「ウンウン、何でも聞いてくれたまえ」
「さやかちゃん、それ逆……」
「不要でしょう。彼女達は魔法少女にならないわ」
さやかとまどかのやり取りを微笑ましく見てるとほむらが切り捨てるように言い放つ。その言葉にさやかはムッと眉根を寄せる。
「何であんたが決めるわけ!?」
「魔法少女にとって縄張りが被るのは本来避けたいことなの。ましてや、手を取り合う意味もない相手と被ったら目も当てられない」
「なっ!!」
「まあまあ、落ち着いて二人共。でも、そうね。私も二人は魔法少女にならないほうが良いと思うわ」
「え……」
「…………」
ほむらは何とも言えない顔でマミを見つめる。その目は、例えるなら空を泳ぐ魚を見るようなありえないものを見るかのような視線を向けていた。
「魔法少女は危険な宿命を背負うもの。それは、決して切り離せないしやめることもできない」
『そんで俺や先輩方はそんな危険な仕事にメスガキを勧誘するのが仕事ってわけだ』
ツヤツヤフワフワの毛並みを取り戻したごんべえはテレビをつけゲームを始めながら首だけ振り返る。テレビ画面ではカウントダウンが始まり、0になると他のキャラ達と同時にスタートした。レーシングゲームだ。
「メ、メスガキって………てか、危険な仕事って言っていいの?」
『先輩方は言わねえみたいだな、聞かれてねえし。俺は言うがな、余程切羽詰まった時じゃねえ限り……ま、契約してソウルジェム作るのが仕事だな。おら、喰らえ赤甲羅!』
「ソウルジェム?」
「これよ。触るのは駄目だからね?」
と、マミは黄色い宝石のようなものを見せる。硝子などとは勿論違う、神秘的で犯し難い何かを感じさせる。
「これが魔法少女の魔力の源にして、魔法少女の証。ごんべえの言ってたように、契約で生み出されるの」
「契約って?」
『契約は契約だ。バナナガード! どんな願いでも叶える代わりに地獄へ来てもら──あ!』
緑甲羅をかわしきれなかったごんべえは慌てて操作に集中し直す。が、マミがスイッチを切った。
『………………』
「続き。今はこっちに集中しなさい」
『へいへい………んじゃ、改めて。俺達は願いを叶えるもの。どんな願いでも一つだけなあ』
「ど、どんな願いでも?」
『お前が、それがどんな不幸を背負うに値する願いだと思うなら好きに願えよ。思わなくても、願われたら叶えちまうのが俺だがなぁ』
ケケケ、と喉を鳴らすごんべえ。
『幸福を願えば相応の不幸を背負うってのは、まあ俺の持論さ。魔法少女になった者に安息はねえ。現在
生きてる奴、と聞き顔を青ざめさせるさやかとまどか。察したようで何よりだ、とごんべえは目を細める。
「その……魔法少女を、辞めた人は………?」
『マミも言ってたろ? 辞められないって。辞めた奴なんざいねぇよ。なんだぁ? 一生に一度しか使えないお願いしといてやっぱり辞めますが通じると思ってんのかぁ? おめでたいねぇ、正しく無垢な子供だ。ああ、ガキだったわ』
小馬鹿にしたように喉を鳴らし身を震わせるごんべえ。愛らしい見た目に反して、此奴滅茶苦茶性格悪いとさやかは思った。
『魔法少女になったが最後、永遠の戦いに疲れて自殺するか魔女との戦いに敗れるか………』
と、そこで言葉を区切りほむらとマミを見る。
『まあそう言うわけだから半端な覚悟で願うな。それが、己の人生全てをかけてでも叶えたいってんなら、俺もキュゥべえとしての役割を果たすがな』
「キュゥべえとしての役割?」
『そもそも先輩方は複数に見えて、その実一匹だ。一つの意思を共有する。けど稀に、俺みたいに異なる自我を持つ奴があらわれる。まあ精神疾患だな』
「それは……どうして貴方だけ? それを量産できれば」
『リスクが多い。死にたくないのは俺達も同じだが、そこは本能。消費はできるだろうがお前等と同じように個々で自我を持てば消費される側にゃ回りたくねえってならぁなあ』
「っ! 勝手ね」
『あん? お前等人類への自己評価?』
ほむらの言葉にごんべえは堪えた様子もなく首を傾げる。
『自分達だけこんな目に遭いたくないってのは、自我を個々に持つ生き物に取っちゃ当然だろうが。魔法少女達の縄張り争いは勿論、戦争、強盗、いじめに万引き……己だけが得をすりゃ良いと考えるのは、何も俺達の専売特許じゃねえ』
「得? ごんべえは私達の願いを叶えて、なにか得するの?」
『いい質問だな鹿目まどか。まあ俺等の得ってのは………』
と、その瞬間ごんべえが穴だらけになった。
「ひっ!?」
「な!?」
「……………」
焦げ臭い、硝煙の匂い。生き物が突如穴だらけになるというグロテスクな現象に吐き気を覚える。
「暁美さん………」
「て、転校生。あんたなんてこと………!」
「ご、ごんべえ………死んじゃったの?」
「此奴も言ってたでしょう。意識を共有してるって……また別の体で……」
「それは無理よ。ごんべえは任意で、それも知識しか共有出来ないもの」
髪の毛をかきあげ何でもないように言ったほむらに、マミがそう返した。
「さっき言ってたでしょ? キュゥべえ達は、個々が感情を持てば不利益になる。極めて稀でも、歴史の中に何度か存在した精神疾患者が私達の前に姿を表さないのは、肉体を失ったあと次の体に移れないから……短命なのよ」
「…………な、なら貴方は何で落ち着いてるの!?」
「それもさっき言ったでしょう? その子、死なないから」
ガチン、と金属同士がぶつかるような音が響きごんべえの周囲に歯車のような魔法陣が浮かぶ。ガチンガチンと重苦しい音を立て回転し、それに合わせるようにごんべえの傷が癒えていく。
「ごんべえからすれば、あらゆる攻撃がただの戯劇だそうよ」
『死なねえ俺にわざわざ魔力消費する攻撃してもなあ。無意味無意味! 徒労で終わる、無駄な行為。もうやんなよ、痛えから』
『マミ、パソコン借りるぜ。ゲームやる』
「あら、また格闘ゲーム?」
『いんや。恋愛ゲー』
「そうなの、タイトルは?」
『「屈辱の魔法少女〜白濁に染まる5人の
「死ねよ」
本編後
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マギレコでも魔法少女を誑かす
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たるマギで家族3人でフランスを救う
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たむらの旅につきあわされる