性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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名前のない魔法少女
言葉通り親に名付けられることすらなかった少女。
世情も己の所属する国すらも知らない。何なら家族の温もりも知らければ友情というものも知らない。
『願いを叶えるよ』と現れたキュゥべえに「私などより、もっと貴方様を必要とする人々に奇跡をお与えください」と返した。
それなりに因果を持っているため度々現れたキュゥべえに「私以外にいないのですか?」と尋ね『戦なんかで世が乱れていた時代に比べると少ないね』と言われ、「なら世界中が乱れれば良いのか」と考えた。
きちんと戦争がどういうものか、奇跡の結末がどうなるのか、聞いた上で『貴方達の手伝いをしたい』=願いを持ち精神的不安定になる戦争状態の世界にした。
人々が傷付く様子を直接見た上で、祖国や家族のために銃を持ち戦場をかける兵士達を素晴らしいと慕い、祖国で家族、恋人、子供の帰りを持つ女達を素敵と憧れ、戦争の狂気に呑まれ狂った人間を愛らしいと愛で、前線に出ずに後方で好き勝手命を使う者達を自分には出来ない事をしていると尊敬した。
己を殺しに来た魔法少女にすら、「人を殺すなんて悪事を犯すほどに自分が許せないと思うほど、大切な者を失ったのでしょう。大切な人が居たのでしょう。なんて素敵な人なんでしょう」と本気で思っていた。
一切の差別なく、己が不幸を振りまいたと知りながらも人類に分け隔てなく愛していると言って憚らず、己を殺したい人間はきっと沢山いるのだから目の前の人だけに殺されるわけには行かない。全力で抗い、それでも己を殺す者が現れるまで生き続けるのが今この場にいない己を殺したい者達へと礼儀だと思っていた。
魔女に対して「人々の生きたいという願いを、守りたいという思いを無為にし歪め、魔法少女の生前の願いすらも歪める悍ましい存在」という認識をしている。ただ、稀にその性質が友愛だったりして誰かを守る魔女(例 あすなろの昴・針の魔女)の誕生を感動の涙を流しながら拍手を送る。

「素敵……なんて素敵な愛なんでしょう」by名もなき少女

『お前は一体何を言っているんだ』byごんべえ

どす黒くもその願いの根底は人を想う善意である事を察しているため出会うのが或いは自分だったならと考えたことが一度だけある。そうならなかった今、同情も憐れみもせず、それこそ慈愛の神でもない限り受け入れないだろうな、と思っている。


世界で戦況が動くたび、多くの命が散るたびに因果が絡みつき強化される。
死因は己が意味なく人を殺す化け物にならぬように、とソウルジェムを砕いた自死。誰にも殺せなかった
円環の理がある世界なら砕かないので導かれた。


私にだけ優しい人

「………よおマミ」

「久し振りね、佐倉さん」

 

 見滝原のとあるカフェ。マミが一度弟子入りしたというケーキ職人の店にて集う魔法少女達。

 ごんべえは店主の男と『この前ケーキにケチャップかける娘見かけてさ』『マジか、自前だよな? この店においてるわけ無いし』などと話し合っていた。ごんべえが姿を見せるタイプの人間。魔法少女達の事情を知っているのだろう。だからこの店が貸し切りなのだ。

 

「久し振り………」

「そんな顔しなくても、別に怒ってないわ」

「半殺しにされたんだがな……」

「だって貴方、ごんべえ連れて行こうとしたじゃない?」

 

 確かに、八つ当たりをしようとした時そのままごんべえを攫おうとした。なにせ大量のグリーフシードを持ち、稀にグリーフシードを渡してくる魔法少女までいるのだ。

 彼が側にいる魔法少女はまずグリーフシードが枯渇する状況にはならない。

 そういった合理性半分に八つ当たり半分。そして家族のような彼等に僅かな()()を交えて行動し、殺されかかった。

 

「あんときゃ死ぬかと思ったぜ」

「何言ってるのよ、私は貴方のソウルジェムは一切狙わなかったじゃない」

 

 魔法少女はソウルジェムが砕かれない限り死なない。裏を返せば、その事実を知っている魔法少女相手なら体をリボンで締め千切ろうと手足や心臓を撃ち抜こうと半殺しにすらならない。

 

「いや、あれは……うぅん………うん、まあ。そうだな」

 

 ところでごんべえを連れて行こうとした、に反応した黒髪の少女は誰だろう。まあまたごんべえが親身に寄り添った誰かだろう。

 

「まあいいや、それで織莉子は何処にいやがるんだ? つーか、何でゆまを巻き込みやがった」

『織莉子は正体がバレたからな、今はどっかのホテルに身を隠しただろうよ。家にはいなかった。書斎が荒れてたな。俺の言葉に日記でも探したか……ゆまを巻き込んだのは、まどかから目を逸らさせるためだ』

 

 その言葉にまどかは申し訳無さそうに顔を俯かせる。

 

「ごめんなさい………私のせいで」

「どういうこった?」

「まどかは関係ないわ」

 

 杏子の言葉にまどかが何か言う前にほむらが杏子を睨みながら言う。余計なことを言ってまどかを傷つけるなら、武力行使も厭わないという目だ。その目に杏子はふん、と鼻を鳴らす。

 

「守ってるつもりか? そいつの為に行動してますってか? 出来てねえことやってるつもりの奴見ると、胸の奥がムカムカしやがる」

「キョーコ胸、平気? ゆま、治すよ!」

「…………あ〜、いや。そういうわけじゃ………チッ、しらけた」

 

 流石にゆまの前で魔法少女同士の喧嘩を見せたくなかったのか、今回は杏子から折れた。マミがその光景をニコニコ見つめると気恥ずかしくなった杏子は顔をそらす。

 

「………織莉子さんは、私を魔法少女にしたくないんです」

「まどか!? 無理に言わなくても!」

「ううん……これはちゃんと言わなきゃいけないことだから」

 

 ほむらが止めようとするもまどかは首を振って言葉を続ける。

 

「私、凄い魔法少女になるそうなんです。そして、その結末を織莉子さんは知ってる。未来予知、の魔法らしくって……だから、そうならないようにって」

『素直に殺しに行かなかったのはほむらに殺される予知を見たのと、因果の関係で自分がまどかに関わる瞬間しか予知できなかったからだろ。そうじゃなかったら得たばかりで扱いに苦労しているとしてもやりようはあったはずだからな』

 

 凄い魔法少女、結末、未来予知。その単語に杏子も成程、と察した。要するに最強の魔女が生まれる未来を見たからその未来を無くそう、そう思い行動した。

 その一つ、インキュベーターの目を逸らすために別のそれなりの因果を持ったゆまを紹介したのだろう。

 

「そういえばそんなこと言ってたね。世界を壊す危険な奴と、それを知りながら守る奴。その二人を殺さなきゃって」

 

 ホットケーキにシロップをドバドバかけながら鼻歌を歌うキリカ。

 

「知りながらって……その織莉子さんは何でえっと………あたしかほむらやマミさんとかだよね、守ろうとするの。そのうち誰かが魔法少女の真実を知ってると思ったんです?」

「さあ?」

 

 さやかの言葉にキリカは興味なさそうに首を傾げドロリとしたシロップが絡みつくホットケーキを口に運ぶ。

 

「多分巴か暁美ね。「銃を使ってまで「汚職議員の娘」である私を殺したい人間がいるとは思えない。人を殺してまで守るのは結末を知って、世界を滅ぼそうとしている奴がいるからだ」って考えたのよ」

「ええ、それは無理があるんじゃ……その、あたしはしないけど友達を殺そうとしてる奴を殺してやる、って発想になる真実を知らない魔法少女とか居るんじゃ……」

 

 小巻の言葉にさやかは首を傾げる。

 人が人を殺す。それは多分、自分には無理だ。だが世界を守るために人を殺そうとするなら、友達を守るために人を殺そうとする人間もいるだろうという考えに至らないのだろうか?

 

「友達の居ないアイツにそんなこと解るわけないじゃない」

「ええ〜……」

「誰かのために誰かを殺すことを理解できないから、世界の滅亡を目指す頭の可笑しい奴が居る、の方が彼奴にとっては現実的なのよ」

 

 ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らす小巻。ズカズカとハッキリ物を言う彼女の言葉は、そんなバカなと思うのに妙な説得力があった。

 

『違いない』

 

 と、ごんべえも肯定し説得力が増した。

 

『本来アイツの「世界」は「家族とそれを取り巻く環境」……文字通り人間を環境を構成する一部としてしか見てねえから、友達を庇うってのを理解できない』

 

 どれだけ人気だったか知らねえがボッチだボッチ、と嘲笑うごんべえ。

 

『本来の「世界」である家族を失ったバカは「父の世界」と思い込んだこの世界すべてを守ろうとした。正義を翳し、友人を守る事が理解出来ねえバカは止められねえだろうな』

「その………やっぱり、殺そうと、思ってるの……えっと、織莉子さんを」

「それは………」

「言って聞かせてわからねえ、殴っても解らねえバカとなりゃ、後はこ……」

「殺さないよ!」

「ゆま?」

「織莉子はね、おとしまえ? つける……つけさせるの。おとしまえはごめんなさいでしょ? 死んじゃったらごめんないできない。ね、キョーコ」

「あー………えっと………そう、だな………」

 

 ゆまの言葉にたじろぐ杏子を見て、ごんべえは首を傾げる。

 

『そんなに似てるかねえ。お前の妹はもっと馬鹿だったろう』

「っ! てめぇは……本当に性格悪いな!」

『知ってる』

「安心しろよ。少なくともアタシは、此奴をゆまとして見てるつもりだ。妹の代替品なんて考えちゃいねえよ」

『それに俺が安心しなきゃいけない意味はわからねえがいい心意気だ。どこぞの間抜けにも気付いてほしいもんだな』

 

 と、ごんべえが誰かを嘲る。

 ごんべえが人を嘲るのは何時もの事だから誰も気にしない。

 

『ちなみにマミは必要なら殺すつもりでほむらは積極的に殺すつもりだ』

「ええ、止まらないならそうするわ」

「まどかを殺そうだなんて危険な考えを持った奴を生かしておく道理はないわ」

「………極端ですね、貴方」

 

 ほむらの言葉にリナが呆れたように言う。

 

 

 

 

「ほむらちゃんは、なんで………」 

『そこで言葉を区切るなよ』

 

 タツヤが先に入っていたので現在は二人きり。

 湯船をスイスイ泳ぐごんべえは遠くを見つめるまどかに呆れたように声をかける。

 

「………ごんべえ、私ね。ほむらちゃんはすっごく優しい人だと思ったの。だから、私やさやかちゃんが魔法少女なんかにならずに済むようにしてたんだって……」

『……………』

「でも、違うよね。ほむらちゃんは………()()()()()()()人。私だけを、助けようとしてる」

『…………』

「何でだろう。ねえごんべえ、私って昔ほむらちゃんに会ったのかな?」

『会ってねえよ』

「前はごんべえが会ったことあるか、って聞いてきたのに」

 

 ムッと顔を半分沈めブクブク泡立てるまどかを見てごんべえはまどかの肩から頭へと駆け上がり肉球で頭をペシペシ叩く。

 

『確かに聞いたがあれは確信を持った確認だ。友達を忘れちゃった、なんて気にする必要はねえ』

「じゃあ、なんでほむらちゃんは………」

『さて……少なくとも、あいつはお前のためなら人を殺すし国だって敵に回すだろうさ。ああいう手合は少なくない。止まるわけにはいかないと思い込んで止まれなくなる……最後に周りを盛大に巻き込んで破滅するか、止めてくれる誰かに出会って止まるかだ』




ごんべえの名付け親
国や時代によって名前を変えるごんべえの名前は時に自分でつけたり(例・インク、フラン)するがたまに人につけられることもある。
ごんべえの名をつけたのはとある男。
故郷の星を何でも作れるくせに何もないと皮肉った彼に田舎者という意味で名付けた。
反省の証を送り返した血縁に嫌がらせを二人で考え血で手紙書いて送った。
人の心を理解するごんべえが後の世にて怨霊だのなんだのと騒がれるぞと二人で笑いあった。

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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