性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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ごんべえこそこそ噂話
ごんべえは自分が人に知恵と火を与えた神話における神のルーツである自覚はあるけど、崇められるのは好きじゃないよ。
理由を語った相手は数えられるほどしか居ない。うち一人はリズだよ


何も変わらねえ子供のままだ

 織莉子一派は現在市内のホテルに居た。

 

「……………ふぅ」

 

 閉じていた目を開き、ベッドに身を預ける織莉子。

 

(やっぱり、駄目ね……)

 

 鹿目まどかの未来が見えない。詳しく知れれば、人気のない時を襲えるのだが見えるのは自分が鹿目まどかに関わる時の光景だけ。

 何故見えない?

 魔法について誰よりも詳しいであろうインキュベーターは自分にとって敵だ。調べようがない。

 学校ならば平日、帰りを張れたが今は休校。というか多くの魔法少女が自分の目的を知った今、闇討ちは不可能だろう。

 鹿目まどかを守ろうとする。世界を滅ぼす要因を、正義を掲げ。なんて憐れ。

 奇跡にすがったのは自分と同じ。しかし、真実を知らず踊らされている姿は………

 

──違う! 私の成すことは、この星の全ての命を救うこと! あの魔女を誕生させないために……!

 

──そのために、魔法少女にすらなってないただの女の子を殺すの?

 

「………っ」

 

 いや、あの言葉、あの反応。小巻は知っていた。そして彼女の性格なら、それを隠したままにしているわけがない。

 つまり、知った上でインキュベーターの味方をして、鹿目まどかを守っている。どうして……いや、解っていたことだ。だから彼女に声をかけなかった。

 これは正しくないことだ。それでも、世界を救うためになら

 

『「世界を救うためならこの手を汚すと決めたのよ。ああ、学友と敵対してまであたしってなんて健気」ってかあ?』

「っ!?」

 

 内面を読み馬鹿にするような嘲笑が投げかけられる。振り返れば天井に立つインキュベーター……否、ごんべえが居た。

 

「どうしてここが………」

『俺達がちょっと本気になりゃ過去の全ても未来の可能性も見通せるのさ』

「未来の、可能性? 私と同じ……?」

『お前の予知とは違う。それは恐らくだが少し時間の流れの速い平行世界の観測だ。そうだな、街の被害とか、まどかが魔女になる瞬間とか、予知する度にズレがあるんじゃないか?』

「そんなわけないでしょう」

『駄目だなあ美国織莉子。未来を変えようとしてるお前がそれを簡単に認めていいわけねえだろ。考えて心当たりあるふりしたほうが、まだ信憑性があるってもんだ』

 

 クック、と喉を鳴らし目を細めるごんべえ。天井から降りて織莉子の肩に乗り横目で睨む織莉子と目を合わせる。

 

『未来を変えたいお前は俺の言葉に未来予知を行うか、記憶に自信があるなら思い出すとかしなきゃ駄目だろ。何したって未来が変わらないってのは、お前にとって絶望的なんだから』

「……………」

『そもそも未来を予知して結果を変えるなんざ、どんだけの因果がいると思ってやがる。時間逆行がそうそう成せないのと同じで確定した未来を覆すために過去で行動なんざ救国の英雄とか、歴史に興味ないやつでも名前だけはってレベルの王になるとかしかねえのさ』

 

 未来を見たからそれを変えようと動けば、そもそも見た未来がなかった事になる。無かったものを見ることなど不可能だ。

 

『まあ確かに感情ってもんは完全理解は不可能だ。俺達が予想した未来を変えることはあるが、それは確定した未来ではなく予想された未来を変えただけ。だから俺達が見れるのはあくまでも可能性なのさ』

 

 だってのに何で未来を見れるなんて思い上がるかね、と嘆息するごんべえ。

 

『そりゃ数秒先なら、その世界の未来を見るのも可能だろうよ。だが数時間、数日なんて無理無理。身の程を弁えろよ』

「あの未来は、既に過ぎ去った後………変えるも何もないと?」

『そうだな。だがこの世界軸でも起こる可能性は高いだろうな。ほむらが来てる時点で類似世界線ではあるだろうし……まあその割には俺は居ない。いや、重要なのはまどかだしなあ』

 

 考え込むように尾が揺れる。織莉子の頭に飛び乗り、人の頭の上で遠くを見て黄昏れる。

 

『まあつまり俺という結構大規模な因果を持つ奴が居ても人の歴史はさして変わらねえんだろうな。お前ごときがどうこう出来るとは思えねえよ』

「出来ないことはしない理由にはならないわ」

『………格好いいねえ、惚れちゃいそうだ。ただまっすぐ見えもしねえ何かを見てるのは気に入らねえ』

 

 頭の上から逆さまに織莉子の目を見つめていたごんべえは織莉子から飛び降りベッドの枕をクッションに丸くなる。

 

『お前が俺達を非道と罵るのが正しいように、お前の行動を止めようとするさやかにマミや小巻とリナ達、んでまあほむらだって正しいのさ。つまり俺達は間違っている』

「そんな事、解っているわ」

『いいや解ってない。お前は何も解ってない。救済のために手を汚す? なにかのために〜なんざ言葉を付け足す奴はそれが悪いことだと解っていても悪い事してるとは思っちゃいねえのさ。『これは君達人類にとっても得のある取引なんだよ』とか言ってる先輩と同じだ』

 

 憎むべきインキュベーターと同じと言われ顔を歪める織莉子に、しかしごんべえは気にしない。

 

『何が違う? 言ってみろ。全宇宙のためにとかほざいて年端も行かぬガキ共を生贄にする俺等と、世界のためにと騙って一人の少女を犠牲にするお前。救われる数が多いのは、俺等な』

「………………っ」

『言い返せないか? まあそうだろうよ』

 

 ここで感情的になれないのは、彼女に救いたいものなど居ないからだ。感情的に、救いたい人がいるのとでも言えばごんべえもまた違った反応を返したであろうが、今はただ冷めたような、憐れむような視線を織莉子に向ける。

 

『お前は別に世界を救いたいわけじゃない。父親の世界を支えるために何もかも切り捨てて、何もかも失って、生まれた意味なんてもんを求めなきゃやってけねぇだけだ』

「私は、世界を……!」

『世界を救いたいだけのバカはそんな目をしてねえよ。もっと淀んで、間違いだと解っていても『これで皆が幸せに!』とか本気で思って真っ直ぐ闇を見つめてやがる。世界を救うって言うにはお前は力も覚悟も狂気も足りねえ』

 

 織莉子の言葉に、真っすぐ見返し呟くごんべえ。

 

『ま、別に良いさ。止めるのは俺の役目じゃねえ。まどかを殺させたくないマミやさやか、悪事を見過ごせないリナ達。んでお前を止めたい小巻の役目だ』

 

 ごんべえはベッドから飛び降りると窓際まで駆け上がる。

 

「貴方が言っていた、お父様が汚職していないって、どういうこと?」

『パパの日記でも読むんだな。お前の親父が如何に臆病か良く解る……父親を知ることが、救いになるとは思えないが』

「……………」

『お前、自分が周りより大人だと思ってんだろ』

 

 と、唐突にごんべえは話題を切り替える。

 

『母親を失った時、私が支えなきゃとでも考えて、子供でいられないとか考えたろ』

「だったら、何だというの」

 

 心の奥底をすべて見透かすかのような上位種に、織莉子は恐怖を隠すように敵意を鎧い睨みつける。

 

『逆だ馬鹿。お前は母親を失ったその日から、父を支えるために子供じゃなくなると考えた日から、何も変わらねえ子供のままだ』

 

 そう言って窓を擦り抜けるごんべえ。飛び降りて、その姿は見えなくなった。

 

 

 

「やあ美国君、奇遇だね」

 

 公秀に親しげに声をかける恰幅のいい老人に、公秀の目が鋭く細まる。

 

「どうも、八重樫先生」

 

 八重樫健三郎。議員の一人で、公秀とは政敵とも言えるだろう。

 

「はっはっは。そんなに邪険にしないでくれたまえよ。今は袂を分かったとはいえ、君の父上とは長らく戦友だったからね」

「…………」

「あの鼻垂れ坊主だった君が今や私の席を脅かしているのだから、いやはや美国の血は恐ろしいな」

「三枝君、車の用意をしてくれ」

「承りました」

 

 公秀が血による才能に否定的だと知っての発言なのだろう。とっとと話を切り上げようと秘書に声をかける。

 

「では失礼します八重──」

「しかし久臣くんは残念だったね。危うく()()()()()()()()()()()()()()()ところだった」

「………」

 

 久臣……弟が市議から国会議員を目指し始めた時、臆病な彼は自分の手を取らなかった。誰の手を取ったか知っている。知っていることを知っているだろうに、この発言。

 

「あの娘さんも可哀想に。ええと……ああ、織莉子君だ。あの子には才能がある、是非将来は政をやってもらいたいものだね」

「やめて頂きたい。皆好き勝手言っているが、彼女は父を亡くして傷ついているただの中学生です」

 

 

 

 三枝の運転する車に乗り、外の景色を眺めながら嘆息する公秀。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ、まあ……いや、少し疲れた。あの狸も、寿美も、何故織莉子君を子供じゃないなどと思うのか」

 

 先程あった政敵も、身内である妹も姪の織莉子を特異と見るのか。

 

「他の子と違うとしたら、あの子は頭がいいだけだ。大人か子供かで言えば……あの時から、子供のままだ」

 

 だからこそ、解らぬのは魔法少女殺しの犯人であるという事実。あの宇宙人はほぼ確信していた。人間より遥かに永い時を生き、高度な文明を持つ者の見解。まず間違いないだろう。

 あの宇宙人が隠している何か。魔法少女のエネルギー回収を邪魔している、というような発言だったが魔法少女を使ったエネルギー回収の際に何が起きている?

 まあ良くないことなのだろう。それを止めることを、正義としているのだろう。

 

「…………」

 

 そのために人を殺す。正義をかかげ悪事を成すほど子供っぽいことはそうはあるまい。

 

「ままならないものだ、この世は」

 

 久臣が自殺した時、織莉子を引き取るべきだったのだろうか? しかし下手に弱点を作れば付け入れられ、現状より最悪になっていたかもしれない。織莉子の願いも望まぬものに変わっていたかもしれない。

 考えて考えて、あの時こうしていれば、こうしていたらとこの歳になっても頭に過る。後悔しない行動など、どこにもないのかもしれない。

 余計なことを考えず、将棋でも指したい気分だ。




 因みにリズはインク(ごんべえ)と契約したわけではなく、キューブ(キュゥべえ)と英雄探しの途中、胎盤の魔女を倒したら出てきてインクの方が強い魔法少女を見つけるのうまいから、とキューブが押し付けた結果。
 出会った当初は仲が悪かった。どっちも年端のいかぬ少女を地獄に叩き落とそうとしてるからね。同族嫌悪してた。
 当時リズと居た魔法少女が死んだ際には巻き込んだのはお前だろうと言った。言い返さなかったリズに舌打ちした。
 泣くぐらいなら諦めろと言いつつも契約に必要な自分が側に居たのは奇跡だけ聞かされ契約する少女が出ないようにだけではない。
 お互い常に相手が地獄に堕ちると考えており、インクはまあ不死だから会うこともないだろう、リズは地獄でまで貴方といるなんて嫌と良く言い合っていた。
タルトの前のとある魔法少女にお二人はどんな関係なのかと尋ねられ
『私達はお互いが地獄に堕ちると信じながら
地獄にお互いを見つけぬために探し合うの』とか言って『フラン様も探してくれる前提……あれ、これって惚気けられてる?』と戦慄させた。
 ある少女との出会いが二人を変えた。結果
『そこに貴方が来るのなら
私はどんな地獄だって耐えられる』
 というほぼ告白を……。
 お互い最初は相手が自分の事を嫌いだろうと会話をあまりしなかったが、実はリズは「裏切りの英雄の孫」としてではなく「英雄を欲する愚かな少女リズ」として自分を詰るインクをそこまで嫌っておらず、インクもインクで『戦乱で生まれた被害者が加害者になった』よくある光景に、別段嫌悪があったわけではない。諦めたほうがまだ幸せになれるだろうと思っていた。
 馬鹿な行為だと思いつつもついていったのは上からの命令だけではなく(本人は認めないだろうが)一人(キューブは一緒にいても数えないものとする)にできなかったから。


ごんべえの神様論
『例えば俺は人間共に知恵を与えた。大概のことは何でも出来る神のような存在だ。で、それを言ったらどうなると思うよ』
「………焼かれる」
『だろうな。神を騙るから? いいや、俺が人類を嫌ってるからだ』
「……………」
「むにゃ、天使様の尻尾〜、ふわふわ〜」
『俺が人類を嫌ってるからだ。だがお前等の想像する神はお前ら大好きだろ? 過去の例に合わせりゃ10人の魔法少女が願ったエジプトへの災厄。本人達も心病んで魔女になったそれも、人類大好きな神様が起こした奇跡。正義執行、悪への罰。ちなみに異教徒は人類に含まれない』
「神が行ったことは、何もかも正しくなる、と?」
『俺が神だったら、俺達が隠して、騙して、殺して、燃やして、堕とした行為(なにもかも)が正しかったことになる。世界の彼方此方で、そうなってる村がある。気持ち悪くてしかたねえ。だから俺は神であっちゃいけねえのさ。神は神でも魔神とか悪神ならまだいいが』
「魔神……そうね、貴方にぴったり。いずれ地獄の底に繋がれたとしても、私もそこに堕ちて会いに行くわ」
『俺が大人しく捕まったままでいると思ってんのか?』



仮面生徒会の逆襲の世界にて

 テスト勉強のために集まった聖書研究会と帰宅部。リズはふと、窓の外を見つめる。ペレネルと話している世界史顧問であり人類発展装置開発部顧問ごんべえがその視線に気づき振り返り、片手(前足)を上げてくれた。
 図書室の皆も教科書に夢中。
 二人だけがお互いに気付いている。

(ごんべえ先生が居たんですね)
(ごんべえ教諭がいたのね)
(リズ先輩、どうして窓の外見てぼーっとしてるんだろう? あ、ごんべえ先生!)

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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