不気味なオルゴールのような音が響く。
何処か聞き覚えのあるようなそれは、人形劇の開演を思わせる。
それを証明するように舞台扉が開いていき世界を塗り替える。魔女結界が重なり、上書き。それはより強い魔女が現れたということ。
カタカタと音がなる方向を見れば糸に吊るされるように蠢くピエロ姿の操り人形。
Puppenspiel
操り人形の魔女は人形のような身を震わせ吊り手から無数の紐糸を伸ばしてくる。
「うわわ!」
「さやか!」
さやかの腕に絡みついてきた糸を杏子が切り、抱えて後ろに飛ぶ。ゆまを回収し仁美を守っている結界内に入る。
「つぅ……」
「さや……」
「さやかさん!」
すぐに仁美が駆け寄り抑えている腕を見る。切られた糸が、腕の形を歪めるほどに食い込んでいた。
「だ、大丈夫………切られたらもう動かないみたい」
肉に食い込んだ糸を抜きながら傷を癒そうとするさやか。その腕を杏子が掴み持ち上げる。
「いたた! ちょっ、何!?」
「キョーコ?」
「な、何をなさるんですの!?」
親友に乱暴する杏子に食って掛かる仁美と杏子の突然の行動に困惑するゆま。杏子はふーん、と傷口を観察する。
「皮膚は切れてるけど、手袋……魔力で編まれた布は切れてねえ。直接的な攻撃力はねえみたいだな」
「え、あ………本当だ」
「もう治していいぞ。幸い、グリーフシードはたんまりだしな」
織莉子が回収したのはあくまで箱に保管していたもの。沙々が操り杏子達が倒した魔女の落としたグリーフシードは残っている。そのうち1つを投げ渡す杏子。
連戦と今の傷を癒やしたぶんの魔力を回復しながら、操り人形の魔女を見る。
「弱い魔女なら、ここで………」
「どうかね、あそこで縛ってる魔女の結界塗り替えたんだ。そこそこの強さは持ってるだろ。おまけに魔法少女の時の固有魔法を考えりゃ、面倒くさいタイプの………あ」
と、杏子が結界の外に目向ける。ハリボテだらけの魔女結界、そのハリボテのモリで震える京が居た。織莉子はいない、置いていかれたのだろう。
「な、なんで………沙々ちゃん? ま、魔女に………いや、いやぁ………!」
操り人形の魔女が気づくのも時間の問題。さやかが飛び出そうとすると杏子が止める。
「助けんのか? 敵だろ、あいつ………」
「でも、仁美に手を出そうとしてた奴を止めてくれてた」
「……それが理由か? つくづくあまいねえ」
馬鹿にするように笑う杏子はヒュンと風音を響かせ槍を構える。
「マミの弟子ってだけはあんな。今はお互い喧嘩してる場合じゃねえし、さっきの嘘の詫びとして手伝ってやるよ」
ゆまは回復要員。さやかと違い、遠距離でも可能。仁美の護衛とさやか達のサポートために結界内に残し、飛び出した。
『見つけた、あれだ』
群の魔女と使い魔の猛攻を避けるほむらの頭に乗ったごんべえは使い魔の群の中から使い魔と同じ姿をした一匹に前足を向ける。
「根拠は?」
『群の魔女は本来何もしたがらねえ。周りの使い魔に合わせるだけ。だから、回避も攻撃も毎回遅れる……』
まあ、それ自体は何匹もいるのだが。
『あの個体だけが毎回僅かに遅れてる』
「そう…」
カシャンと音がなり、世界から音が消える。色も消えた。
何もかもが止まった白いその世界で動けるほむらとごんべえ。ほむらは取り出した手榴弾を使い魔の隙間を縫い魔女の近くまで投げる。
再びカシャンと言う音がなり、世界が動き出し轟音とともに炎が魔女と使い魔を焼き尽くす。空間が歪み、結界が解けていく。
『優木沙々が魔女化した。急ぐぞ』
「佐倉杏子もいるのよ? そう急ぐ必要は…」
『だからだよ。あの手の魔女は、複数の魔法少女が居るから厄介なんだ。ましてや、杏子みてえに口では殺すだ何だと言うが実際は殆ど出来ない奴は』
結界が完全に消え、直ぐに近くの別の結界、さやか達が居るであろう結界に飛び込む。
『ほらな?』
パペットのような使い魔を倒しながら最奥に到着すると武器を振るう杏子とさやかの姿が見える。ただし、相手は魔女ではなくお互いだ。
「っ! 貴方達、こんな時まで何を──!!」
「ほむら? きちゃ駄目!」
『
「っ!?」
ほぼ反射的に時間を止めるほむら。その眼前に、数本の糸が伸びていた。よくよく見れば、さやかの体にも巻き付いている。
『肉体を操ってくるタイプだな。性質は支配ってとこか……』
「………仲間割れしていたわけじゃないのね」
ほむらはそう言うとナイフを取り出しさやかに絡みついた糸を斬っていく。そして、さやかを移動させ魔女に手榴弾を投げつけてから時間を動かす。
「……………え?」
「はあ?」
気がつけば解放されたさやかに、爆炎に包まれる魔女。事態の急激な変化をすぐには理解できず放心するさやかと杏子。ほむらがファサリと髪をすくおうとすると
『勝ち誇るな、まだ終わってねえ』
「え? っ!!」
ごんべえの言葉に困惑するほむらは、真っ先に反応したさやかに押し飛ばされる。二人がいた空間を無数の糸が通り抜ける。
「な!?」
ピエロ人形は明らかに砕けている。だが、吊り手は多少煤がついた程度。
「あっちが本体か…………!」
「ほむら! さっきの爆弾で──っ!?」
近付けば近付くほどに糸が到達する時間が短くなる。近接戦は不利と判断してほむらに爆弾を使ってもらおうとするさやかだったが、操り人形の魔女は見えにくいはずの糸の姿が視認できるほどの量を身に纏う。
「っ! 避けろ!」
小細工抜きの物量勝負。高速で放たれた糸は威力が増し、地面を浅く切り裂くほどの凶器となって迫る。
「ちっ!」
「くっ!」
「っ!」
杏子は鎖で壁を作りほむらは回避。さやかはマントを広げ盾代わりにする。魔法少女の魔力で形成された布すら僅かに切り裂くが大事には至らない。糸も、絡みついていない。
「いやぁ!!」
「っ!?」
反撃しようとした魔法少女達の耳に響く悲鳴。見れば京の体に糸が絡みついていた。肉に文字通り食い込んだ糸がピンと張り、京の体が跳ねる。
『■■■■■■■■』
「や、やだ! やめて、やめてよ沙々ちゃん!」
そのまま片手をさやか達に向けると無数の人形が現れ襲いかかってくる。
『人形使いが人形にされる、か。よく見る光景ではあるが、不味いな』
「え………ひっ!?」
何時の間にか杏子の結界内に入り込んだ上半身だけのごんべえがキュゥべえを喰いながら呟く。体は操り人形の魔女の全方位攻撃に巻き込まれたのだろうが、その異様な光景に仁美も思わず叫ぶ。
「ごんべえ! へーき、治すよ?」
『安心しろ。俺は不死身だ』
歯車が2つ現れ音を立てまわる。それだけでごんべえの体が修復される。仁美はチラリと杏子の結界の外を見るとごんべえのと思われる肉片が残っている。
逆行、ではないのだろう。さやかの回復の際の魔法陣が音符であるように、彼を治す力の大本の象徴のようなもの。
「貴方は、なんですか?」
『先輩から聞いてたろ? お前ら騙して宇宙の肥料にする正義の味方さ』
クック、と喉を鳴らす目に弧を描かせるごんべえ。その様子を見て、先程までのキュゥべえとはまるで違うと判断する仁美。
「………不味い、とは?」
『無理やり魔法を使わされて、戦わされて………魔女がもう一匹産まれる』
そう言ってごんべえが見つめる京のソウルジェムは無理やりやらされる戦いの恐怖、体に食い込む糸の痛み、魔法少女の真実など、様々な要因で黒く暗く染まっていく。
「痛い……痛い、よぉ……なんで、こんなぁ………!」
人形のみならず、京も戦わされるが加減のない力で振るわれた拳も蹴りも、京自身の体を壊していく。
「くそ! 糸が多すぎる!」
「人形も邪魔して、魔女に近づけない!」
さやかも杏子も京をあまり傷付けぬよう戦っているが、ほむらはいっそ京ごと消し飛ばそうかと隙を伺う。が、一足遅い。
「私、は……ただ
「っ!!」
魔法少女の魔女化を目撃したことによる、連鎖反応とも言える魔女化。
京のソウルジェムが砕け、新たな魔女が産まれる。力では操り人形の魔女に劣るのか、結界の塗替えはない。
『■■■■■■■!!』
Aschenbrödel
毒々しいまでのピンクのドレスを纏った人型。ティアラを乗せた黒ずんだ金の髪は退廃的で、顔の部分にはぽっかり穴が空き向こう側は見えず闇が広がっている。
プッペンシュピール
人形劇の魔女。その性質は『支配』。
吊りタイプの操り人形。ピエロ人形は実は使い魔で吊り手が本体。糸自体も攻撃力はあるが魔法少女の素肌を傷つける程度。勢いをつければ多少斬れる。
本質は糸を絡めた相手を操る能力。ごんべえの助言がなければほむらが操られて時間停止させられ杏子とさやかを撃っていた。まあそうなっても魔法少女の魂の在り処を知ってるから平気だったけど。
老弱男女問わず招く魔女。捕まれば道具係りに着替えさせられ死ぬまで、死んだ後も人形劇の人形にされる。
相手がごんべえだったら奇跡に釣り合わねえよと契約しない
アッシェンブレーデル
お姫様の魔女。その性質は理想。
ヒロイン願望、シンデレラコンプレックスを抱えた魔女。自分はお姫様で使い魔は姫を守る騎士。結界の外からやってくる王子様が自分を助けてくれるのを心待ちにしている。そのため男性しか結界に招かれない。
招かれたら招かれたで使い魔騎士に侵入者として殺されるけど。
現代のヒロインイメージも伴っているため魔女本体も戦える。好きな男性のタイプは優しくてイケメンで背が高く金持ちで旅行先は海外で自分の事何でも解ってくれる男。自分に見合う男探すか自分が見合うように努力しなさい。
相手がごんべえだったら………願いがわからないけどまあ契約はしない
本編後
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マギレコでも魔法少女を誑かす
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たるマギで家族3人でフランスを救う
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たむらの旅につきあわされる