性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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Qごんべえは桐野家両親についてどう思いますか?
A頭腐って堆肥でもなってっから花畑みたいな思考してるんだろうな、と思います

Qごんべえは桐野を家庭教師として雇おうとした家をどう思いますか?
A貧乏人だとか心が貧しいとか言う以前に先輩とはいえ家庭教師に一つ上の学生雇う程度の頭が何偉そうにしてんだろうと思います

Qごんべえは桐野紗枝に契約を迫られたらどうしますか?
A家庭環境どうにかするか真実が広がらないようにするか、どっちも叶えるか聞いてきます。真実隠すだけの願いは大抵歪みが生じることも教えてくれるよ

Qそもそもごんべえ一回断られた相手に近付くの?
A近づかない。みゃーこ先輩あたりと居て向こうからくるパターンになる

Qごんべえのお金は何処からきてるの?
A拾った小銭を知り合いに札に換金してもらったり昔馴染の店から貰ったり知り合いと競馬やパチンコに行ったり宝くじの当選番号統計で出して教えたり株やったり、色々して手に入れてます。その気になれば投資家の弟子に


泣かせにきた

「さやかさんは、私と違って………臆病でしょう?」

「お、臆病?」

「私はきっと、利用します。恩人であることを、そのために人でなくなったことを。でも、さやかさんはしないでしょう? それで、受け入れてもらえないのが怖いから」

『…………………』

 

 仁美の言葉にごんべえはユラリと尾を揺らし、杏子は目を細めゆまは首を傾げほむらは何時でも止められるようにと盾の中に手を伸ばそうとしてごんべえがその腕に飛び乗った。

 

『黙って見てろ。外野が口出しで………いや、はっきり言わねえとわからねえな、お前馬鹿だし』

「なっ……」

『お前じゃ悪化させるだけだ、大人しくしてろ』

 

 ごんべえの言葉に何か言おうとするほむらだが、ぐっと堪える。どうせ美樹さやかと志筑仁美がこうなった以上、結果は決まっている。ならせめてそれがまどかの耳に入らないよう、こいつを監視して……。

 

『だから何も救えねえんだよ、お前は……』

 

 ごんべえは呆れたように呟くのだった。

 

 

 

 

 怖い?

 ああ、怖いとも。今の関係が崩れるのが怖い。魔法少女、なんて夢のある言い方をしても結局はいずれ魔女という化け物になる動く死体。

 それが知られるのが、拒絶されるのが……

 

「いいえ、さやかさん。貴方は今の関係を変えることを恐れているだけです」

「っ!」

 

 内心を見抜く仁美の言葉に息を呑むさやか。ああ、そうだ。簡単にバレるだろう。伊達に親友をしていたわけじゃない。

 

「そんな、風にわかってくれるなら何で恭介を好きになんのよ!?」

「親友の好きな人だからと諦めろと? 私はさやかさんと対等であっても下ではありません! だいたい、まだ付き合ってすらないじゃないですか!」

「そ、それはそうだけど………」

 

 恋人でもないさやかに何かを言う資格などないと告げる仁美に言い返せないさやか。

 チャンスはいくらでもあった。まだ人間だった頃に思いを伝えることだってできたはずだ。

 

「で、でも! 仁美が割り込んでこなければ、私だって!」

「相手が私じゃなかったら、勇気を出す前にいきなり失っていたでしょう!」

「喧々諤々ね」

「「っ!!」」

 

 ほむらの言葉にキッと振り返る仁美とさやか。ごんべえは巻き込まれたくないのか杏子の肩に移動していた。

 

「なんかさ、男を取り合うってのがあたしにゃ解らねえけど、いっそ二人で告白して選んでもらえばいいんじゃねーの?」

 

 杏子は杏子で付き合うのが面倒くさくなってきたのかごんべえの背中を掴みひっくり返し反対の手で腹を撫でながらそう提案する。ごんべえはサッと逃げてゆまの頭に移動する。

 

「それは無理!」

「そうですわ!」

「な、なんだよ……そのほうがはっきりするじゃんか」

 

 二人の剣幕に押され珍しく狼狽える杏子。杏子としてはそれが一番手っ取り早く、こうして喧嘩する必要もないと思ったのだろう。

 

『その場合どっちかは断られるわけだ。自分が振られても友達が振られても傷つくんだろ。仲の良い友情だねえ』

「親友なんだって!」

「親友なんです!」

 

 ごんべえは面倒くさそうに尾を揺らした。

 

「だいたい一緒に告白するも何も私はさやかさんに告白してこいと言っているんです!」

「だ、だから私は………えっと、その……ほら、魔法少女だし。ゾンビだし……魔女退治しなくちゃいけないわけで二人の、恋人らしい時間なんて」

「そんなこと、理由になりません!」

「ええ!?」

「だいたい、上条君と恋人になっても、上条君が練習練習で二人の時間を作る難しさは変わりませんわ!」

「そ、そんな事! 恭介だって、ちゃんと恋人との時間作って…………つく…………作る、かなあ………」

 

 杏子は巻き込まれるのが嫌なので視線だけでごんべえに「あいつ等好きな男の話してんだよな?」と訪ねてきたのでごんべえも『そうだ』と視線で返した。

 

『好きだからこそ、よぉく解ってるんだろう』

「ごんべえも、ゆま達人間のこと良く知ってるのは好きだから?」

『長年愚かしさを見てきたからだよ』

 

 頭の上のごんべえを両手で抱え首を傾げるゆまの鼻を肉球でぷにと叩くごんべえ。

 

「そう! 魔法少女の忙しさがあろうと、上条君と過ごせる時間にはあまり変わりがありません!」

「……………なんか」

「言ってて、虚しくなりますわ………」

「恭介の奴、絶対バイオリン一筋だろうしなあ………」

「ええ……公演が終わったら次の公演に向けて休んでる暇なんてないと、言うでしょうね」

「お前等好きな男の話してるんだよな?」

「そうだよ!」

「そうです!」

 

 杏子は人を好きになるって面倒くさそうだなあと思った。自分も何時か恋をするなら、年上の余裕があってゆまの面倒も見てくれて魔法少女に理解もあってなるべく多くの時間を共有してくれる男にしようと心に誓った。

 

『恋路に口を挟むのは面倒なだけだ。ほっときな……』

 

 と、ごんべえはゆまに撫でられながら呟いた。

 

「と、とにかく魔法少女だから二人の時間を作れないという言い訳は却下です!」

「う、うう………で、でも……あたし、ゾンビだし。す、好きな人に死体をだけなんて」

「何処が死体なんです。心臓も動いて、呼吸もして…」

『成長しようと思えばできるし子供だって作れるぞ』

「こ、ここぉー!?」

「だ、そうですわ」

「え、いや!? 今、子供って………ええ!?」

 

 顔を真っ赤にして狼狽えるさやか。今の彼女を見て、誰がゾンビだなどと言えるのか。平気そうに見える仁美もよく見ると耳が赤い。

 

「さ、さやかさんは……しませんの? その、二人の子供の想像とか」

「そんなの…! …………しま、した……」

 

 私は何を見せられているんだろう、と彼氏どころか友達も両手の指で数えるほどしか出来たことのないほむらは思った。

 

「そうでしょう。それだけ好きなら、想いを伝えずにどうするのです!」

「でも! その、も……もしうまく行って、つきあ……つき、付き合ったら。仁美は、ふられちゃんうんだよ?」

「私だってさやかさんに、そういう思いをさせる覚悟で上条君を好きになったんです。私だけその感情から逃げるなんて、していいわけが無いでしょう」

 

 男前だ、と杏子は思った。

 ゆまはかっこいいと思った。

 口ではこう言っても、後悔するかもしれない。未来なんて誰にもわからない。自分が傷付いて、苦しむかもしれないのに、それでもさやかに想いを告げるようにいう。

 

「魔法少女になってまで、戦いの運命を受け入れてまで、上条君を守りたかったんでしょう? その夢を叶えてほしかったのでしょう?」

「それは………」

「それだけ思っているのに、想いも告げぬまま取られたら、さやかさん魔女になりますわよ」

「そ、そんなこと………………」

「いいえ、なります。魔法少女の絶望の形というのなら、私そっくりな使い魔を虐めます」

「あたしそんな性格悪いと思われてるの!?」

 

 まあそういった魔女もよくいたな、とごんべえは思った。

 

「人魚姫………」

「………え」

「助けた人に思いを告げられず、泡へと散った物語。今のさやかさんに、よく似ています」

『…………………』

 

──好きだねえ、お前こういうの。

 

──惚れた腫れたで己の一部を差し出した愚かな女だ。己自身を大切にしない者が、己の幸福を得られるわけ無いだろう?

 

 王子も王子の婚約者も、身投げした人魚姫を心配していた。ほんの少しの違いで、或いは結末は変わっていた。

 もっともこちらは風の精に仲間入りなどできず、300年経とうと魂など得るどころか失われているが。

 

「貴方は声が出るでしょう? 想いを伝えられるのでしょう?ちゃんと、伝えてください。逃げないでください……自分が幸福を諦めれば、私達が幸せになれるなんて考えないでください。友達じゃないですか………さやかさんが、何もせず我慢して、諦めて………そんなの、私は嫌です」

 

 不幸になってほしいわけじゃない。でも自分の幸せも諦めたくない。そんな葛藤から出た提案が、先に告白してもらうということ。さやかならきっと、想いを告げるだろう。だが魔法少女という言い訳が生まれてしまった。その言い訳で告白せずに、しかし何もしなかったことを後悔する人間であることは、良く知っている。

 

「さやかさんは魔法少女にまでなったのに、それを知っているのに、どうして私が想いを伝えて幸せになれるんでしょう………譲るなんて、おっしゃらないでください。それでは私は間違いなく幸せになんてなれません」

「……………仁美」

 

 目尻に涙をためて、それでもはっきり言ってくれた仁美にさやかはゆっくり近づく。そして……

 

「さ、さやかさん!?」

 

 仁美を抱きしめる。

 

「ありがと、仁美……」

「……………」

「まどかといい、仁美といい………あたしゃ友達に恵まれてんねえ。てか、いっつも引っ張ってるつもりになってて………あたしが一番ガキだった」

 

 ポンポン仁美の頭を撫でながら、さやかは笑う。

 

「そうだね、ちゃんと口にするよ。怖いけど、逃げちゃいたいけど………親友がここまで応援して、信じてくれて………ならもう、あたしが逃げるわけにはいかないから」

「………ええ、そうしてください」

「うん! じゃあ、行ってくる!」

 

 と、さやかは仁美から体を離す。

 

「今からか?」

「うん。じゃないとあたし、また逃げちゃいそうだから。じゃ、また後で!」

「さやかさん!」

 

 走り出そうとしたさやかは仁美の言葉におとと、と立ち止まる。振り返り、涙を拭い笑顔を向けてくる仁美と目を合わせる。

 

「……結果、きちんと教えて下さいね。まどかさんには言うんでしょう? 私だけ仲間はずれはいやですわ」

「…………いいの?」

「はい……」

「…………あはは、あたしが男だったら、惚れてたかもなあコレ。うん、登校日、まどかと一緒にね」

「ええ…………」

 

 今度こそ立ち去っていくさやかの背中を見て、ほむらは目を見開き固まっていた。

 

「………どうして」

「暁美さん?」

「どうして、こんなに………こんな、うまくいくの。だって、私の時は………」

 

 絞り出すような声で、ほむらはごんべえを見る。いや、最早睨んですらいる。まるで何かを認めたくないような、そんな瞳。

 

『私は救えなかったのにって? そりゃあそうだろう。お前は救われたいだけで、救おうとしなかった。他者を幸福にしたいと願いながらもその根幹は無力で無能な己の救済。なのにいったい、どうして誰かを救えるだなんて思っちまったんだ』

「──っ!」

「おっと……」

 

 怒りに顔を歪め銃の引き金に力を込めようとしたほむらだったが、杏子の槍が首筋に添えられる。

 

「こいつは嫌な事も言ってくるけどさあ、嘘は言わねえんだ。それがこいつの主観だとしても、結構あたってるとあたしは思ってる」

「………………」

「……今日はここで解散と行こうぜ。まどかの方は、あたしが見てるよ。ごんべえと喧嘩しちまう」

「………………」

 

 ほむらは無言で踵を返し、早足に去った。杏子は呆れたように肩をすくめる。

 

「あんたはどうする?」

「あ、えっと………近くのコンビニに、迎えが来るので………」

「そっか………じゃあそこまで送ってやるよ」

 

 

 

 

「やー♪」

「あー♪」

 

 ゆまが両手を挙げるとタツヤも真似して挙げる。ゆまがほっぺをモニモニするとタツヤは擽ったそうに笑った。

 

「最近、まどかが友達を泊まりで連れて来るようになったけど、こんな小さいお客さんは初めてだね」

「邪魔してるかい?」

「いいや、タツヤと遊んでくれてありがとう」

「…………いい親父さんだな」

 

 と、杏子が言うとまどかは照れくさそうな顔で頷いた。

 

「あ……!」

 

 と、タツヤと遊んでいたゆまが短い悲鳴を上げる。膝に乗せたタツヤがばんざいし、前髪を指先がかすめケロイド状の皮膚が露わになる。慌てて隠すゆま。眼の前のタツヤには間違いなく見られたと、顔を青くする。と………

 

「たい……いたい?」

「……え………あ………ううん。大丈夫、痛くないよ」

 

 ケロイド状の部分に触れないようにゆまの髪に触れる。

 

「ゆまのかみ、みどりーろ………もりみたい、きれーねえ」

「………………おい、あいつまだ3歳だよな」

「ママに似たんだろうね」

「ごんべえの真似してるのかも」

 

 そこは父親ではないのか。あと、まどかの中のごんべえのイメージはナンパな性格なのか?

 そういやごんべえ何処行った?

 

 

 

 

 さやかは告白しに行った。上条恭介に長年の想いを告げて、その結果は、聞くまでもなく解っている。

 

『馬鹿な真似をしたもんだ…………』

「貴方は………」

 

 ベッドで膝を抱えて丸くなっていた仁美は、不意に聞こえてきた声に顔を上げる。近くの椅子の上に、ごんべえが居た。

 

「………馬鹿なことをしたと、そう思いますか?」

『思うから言ったんだ。ま、あの場では指摘しないでやったがな。あれはお前の覚悟の現れだろう』

 

 やはりこの個体はキュゥべえと異なり人間をよくわかっている。

 

「………私に、契約でも唆しに来ましたか?」

『いいや。類は友を呼ぶって言葉があるように、お前もさやかと同じく言い訳してんだろうと思ってな』

 

 なんのことですか、そう言いたいのに言葉が出ない。真ん丸な赤い瞳がすべてを見透かすようで、思わず後ずさる。

 

『「私は自分で決めて、さやかさんの背中を押すことを選んだ。後悔なんてするはずない、していいわけがない」』

「っ!!」

『わかりやすいんだよお前等は。俺は新人が生まれた遥か前から人類(お前等)の世話をしてきたんだぞ』

「それで………言い訳している私に、何を……」

『泣かせにきた』

 

 ごんべえはそう言うとベッドの上に飛び乗る。

 

『「やらずに後悔するよりやって後悔」………考えた奴は人間という種の分際を弁えてるな。後悔しない生き方なんて、出来やしねえ。その後悔から目をそむけて、溜め込む。何時しかそれが大人になることだなんて言い訳してな』

 

 くだらねえ、と尾を揺らすごんべえ。

 

『泣けよ。どうせなんの責任もねえガキなんだ惨めに泣いて泣き腫らした顔でさやかに会えよ』

「……………性格の悪い方ですね」

『良く言われる』

「…………私、上条恭介さんが好きでした。さやかさんがあの方を好きだと知っていたのに、好きになりました」

『……………』

「好き、だったんです。でも、さやかさんと友達でいたくて…………逃げたのは、私の方です、諦めさせてほしくて………なのに………何も知らせず、奪っていればよかったと思う自分がいて………後悔してる自分がいるんです」

『そりゃそうだろ。なにせお前は好きな男に、告白すりゃ成功すると解ってる女の背を押したんだ』

「う、ぐぅ…………うぅうう………」

 

 押し殺したような嗚咽が響く。

 泣けと言われても、それでも我慢しようとして漏れ出してしまった鳴き声。ごんべえはそれ以上何も言わない。慰めも寄り添いもしない。

 ただ、恋敵に発破をかけ己の初恋を自ら破った愚かな少女が泣き止むまで、そこに居た。




感想待ってます

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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