あの切羽詰まった状況での契約ならマミ同様暫く面倒見るだろうし
どうでもいいけど強化頑張って石を集めて最終日の朝最後のチャンスで仲良しの
ほんの数日ぶりの学校なのに、やけに懐かしく感じるのはその数日で色々あったからだろう。まだ修理中の教室にはブルーシートと『KEEP OUT』のテープが巻かれている。
あれやったの
「お〜い! まどか〜!」
「あ、おはようさやかちゃん」
聞こえてきた声に振り返ると、さやかが手を振っていた。隣に歩いている恭介と一言二言話すと手を振って離れ、駆け寄ってきた。
「おはよう!」
「……上条君と来たの?」
上条恭介は退院後、中沢など男友達と来ていた。今日はさやかと来ている。何か変化があったのだろうか?
「あ〜、うん。そのね………仁美も来てからというか……」
と、顔を赤くし言い淀むさやか。それだけで、察した。漸くか、と微笑む。
「その様子だと、うまくいったようですね」
「あ、ひと……み!?」
聞こえてきた仁美の声に振り返ったさやか達はぎょっと固まる。仁美が目元を赤く腫らしていたからだ。
「どど、どうしたの仁美ちゃん!? 何かあったの!?」
「仁美……その……やっぱり、あたしのせい?」
「え、さやかちゃん?」
その発言からすると、喧嘩でもしたのだろうか?
と、仁美は困ったような笑みを浮かべる。
「悪いだなんて、思わないでくださいさやかさん。それとも、私に悪いから譲ってくれるんですか?」
「そ、それは駄目!」
「でしょう?」
そう呆れたように言う仁美に、まどかは二人を交互に見る。上条恭介と登校してきたさやか、さやかのせいかもしれない泣く理由。譲る………
「え………ええ〜!? 仁美ちゃんって、そうだったの!?」
「こ、声が大きいです!」
「え、いや…でも、じゃあ………」
「仁美………」
まどかが中沢君と話している上条を見て、さやか達に向き直る。なんて声をかければいいのだろうか。
「本当に、気にしないでくださいさやかさん」
「うう………そりゃまあ、あたしが気にするのは良くないってわかるけどさ。譲る気もないし……でも、仁美が泣いたのは……」
「さやかさんのせいではありませんよ。昨晩……」
と、ごんべえがまどかの肩から飛び降りる。
「ごんべえさんに泣かされてしまって」
「え、ごんべえ?」
「ごんべえ! あんた仁美にまであんな毒ぜ………逃げてるし!」
機を見るに敏。
四足獣らしい素早さで走り茂みに入った。さやかが追おうとするが仁美が止める。
「目立ちますわ。私達は、さやかさん達と違ってごんべえさんが見えないんですから」
「そうはいっても……あれ、見えないの?」
「な、なんで仁美ちゃんがごんべえの事知って……」
仁美の言葉に不思議そうな顔をするさやかとまどか。さやかは見えないという言葉に、まどかはごんべえが才能がないと言っていたはずの仁美がごんべえを知ってることに疑問を持つ。
「ホームルームまでまだ時間があります。場所を変えましょうか……暁美さんは、どうします?」
「………」
その言葉に物陰から現れたほむら。髪をファサッとかきあげる。
「同行させてもらうわ」
「………あんた、何時からついてきてたの」
「普通に合流すりゃいいのに」
さやかと仁美は話した。
昨日、仁美がさやかに宣戦布告した後に織莉子一派の魔法少女に襲われたこと。その際精神的に不安定になったが故に、キュゥべえを視認できたこと。その後は杏子が助けに来てくれたりごんべえとほむらも合流したりして撃退。ほむらもさやかも魔法少女が魔女になったことは、言わなかった。知ってるとはいえ、まだごんべえから聞いただけ。
友人であるさやか達から聞かされた場合、認識の深さは違うだろう。それこそ本当に、魔女を生まれなくするために願いをするかもしれない。
「それで、あたしは仁美に背中押されて恭介に告白して………うん、その………恋人になりました」
「よ、よかっ………あ、えっと………」
「良かったですね、さやかさん」
良かったねと言いそうになり仁美を見て言葉に詰まるまどか。そんなまどかに微笑み、仁美はさやかに称賛を送る。
「仁美………」
「未練がない、といえば嘘になります。でも、ごんべえさんのおかげで少しはスッキリしたんです」
「ごんべえの………?」
「はい、我慢せず泣けと……そう言ってくれたんです。子供なんだから、無理に大人ぶるなと……」
だから、泣いた。声を押し殺してはいたけど、我慢できずに泣いた。泣いて泣いて、とりあえずスッキリした。
「仁美………」
「ですが、さっきもいったようにまだ未練もあります。だからさやかさん、キチンと上条君の手を繋いでいるんですよ?」
「………うん!」
仁美の言葉に当たり前だよ、と叫ぶさやか。二人共、喧嘩にならなくてよかったとホッとするまどかはふとほむらを見る。何とも言えない顔でさやか達を見ていた。
「そろそろ向かいましょう、さすがに少し速歩きしないと遅刻してしまいますわ」
が、その表情の意味を知るよりも早く仁美の言葉に歩き出す一同。
「………」
仁美は昨晩のことを思い出す。泣き止んで、それでもまだ呼吸をうまく行えなかった仁美の側に居てくれたごんべえ。
『まあ、お前はいい女だ。今回は振られちまったが、見る目がある男ならほうっておかねえだろうよ』
一聞すると口説き文句のような、人類を誰よりも見てきた者からのお墨付きを貰えた。ああ、この恋は叶わなかった。まだ暫く引き摺るとも。だけど、またいつか恋をしよう。涙を流す時、側にいてくれるような男性と。
上条恭介は、それはさやかに行うだろう。
いつか子供ができたら、さやかと恭介の子や、まどかと誰かの子供と遊ばせよう。魔法少女の素質は関係なく、ごんべえが遊んでくれたら頭のいい子に育つだろうな。
まだまだ先………まだ、自分には先がある。このほろ苦い失恋の思い出と、眩しい友情の記憶を胸に宿したまま進む未来が。
このままでは人類に未来はない。
だから、守らなくてならない。救わなくてはならない、この世界を。
そのために殺さなくてはならない少女は現在予知で見た以上に護られている事だろう。その中心にいるのはキュゥべえの仲間。ならば目的はやはり鹿目まどかとの契約。
こちらの戦力は一人。しかし無数のグリーフシードで長期戦が可能。織莉子の攻撃方法なら数人の魔法少女相手でもゴリ押し出来るだろう。それが並ならば。
汎ゆる予知で敗北を喫した『守護者』に、ベテランの巴マミと佐倉杏子、人見リナに朱音麻衣。穴があるとすれば成り立ての美樹さやかと千歳ゆま。
「とはいえ、簡単に単独行動したりはしないでしょうし」
人質には、できないだろう。その前に戦闘になるだけだ。
だけど、諦める理由にはならない。世界を救うために…
「『世界を救うためにこんなことをした』『あんなことまでやった』………理由をつけて言い訳して滑稽だね」
「…………え」
不意に、誰もいるはずのない部屋に響く幼い少女の声。
振り返った先には良く知った少女が居た。直接見たことなどない、見られるはずもない………それでも写真や映像、鏡で何度も見た少女。
幼い織莉子がそこに居た。
「死体の数なんて数えなければ良かったのに」
予知? いいや違う。これは幻だ。
「ゴールは遠く彼方。たどり着けるか不安になるよね、弱くてかわいそうなわたし」
「────」
小馬鹿にするような幼い己を象る幻の言葉に織莉子はギリっと歯を噛みしめる。
「消えなさい。私は貴女を捨てたの……両親に縋って、泣いてばかりだった小さい私」
そうだ、捨てた。子供でいるわけにはいかないと、もう泣かないとそう決めた時、己の弱さは捨てたのだ。
「私の心を探って小賢しく立ち回っても無駄よ。私は私の願いを成す。死体の数なんて数えるなと言ったわね……そうよ「数」よ。「どこの誰」でもない駒と同じ。願いの為なら私はいくらでも切り捨てる………消えろ」
織莉子の言葉に幻の少女は肩を震わせる。
クスリと、吹き出す笑い。
「フッ……フフ、アハ………アハハハハハハハ!」
「何が、そんなにおかしいの……?」
睨むように問いかける織莉子に、幻の少女は表情を消した。
「『捨てたの』『両親に縋って、泣いてばかりだった小さい私』………今だって縋り付いてるくせに」
「………え?」
「気付いてないの?」
幻の少女は織莉子の心の内。彼女の言葉は、織莉子が無意識に思っていること。目を逸らし続けている織莉子の現実。
「未来を変えられる可能性を教えてくれたのは誰? あの未来は近くて辿り着けない世界のものだから、まだこの世界の未来は定まっていないって、それを教えてくれたのは誰だっけ?」
「…………」
──それは恐らくだが少し時間の流れの速い平行世界の観測だ。
「折れてしまいたくなった時、立てたのは誰のおかげ?」
──何が違う? 言ってみろ。全宇宙のためにとかほざいて年端も行かぬガキ共を生贄にする俺等と、世界のためにと騙って一人の少女を犠牲にするお前。
あの言葉………そう、あの言葉だ。
これが本当に正しいのか、そう疑問に思ってしまった時に投げかけられた言葉。
「ねえ、この言葉がなかったらどうなってたんだろうね? 無意味に人を殺し続けたなんて、殺そうとしていたなんて………「わたし」に耐えられる?」
クスクス微笑みながら寄ってくる幻の少女に思わず後退りするも、後ろは壁。
「無理だよね? 「わたし」が一番分かってる。次にあの人……」
虚空を見つめる幻の少女の目は、まるで親を見つけた迷子のよう。
「あの言葉があったから、あの人に……「この世界の敵」に否定してもらえたから、「わたし」は「わたし」を正しいと思えた。折れずに、立ち上がれた。ねえ「わたし」………敵のはずのあの人に救われてるのに、どうして世界を救えるの?」
へたり込む織莉子を幻の少女は覗き込むように視線を合わせる。
「
「…………あ」
それは織莉子の中に確かにある本心。自分自身を自分が一番信じていない。
「誰、か………誰か私を正しいと言って……」
自分の生まれた意味が知りたい。そう願ったのは、己で己を決められないから。
議員の娘、学園の誇り、文武両道のお嬢様………彼女を指し示す言葉は数あれど、それはつまり彼女を示す名前が数あるということ。
「美国織莉子」という人間を見てほしい。そう願いながらも、彼女は何時だって己の在り方を他人に委ねてきた。
──パパの日記でも読むんだな
「あ………お、と……お父様。お父様の、日記………」
そうだ、持って帰って、でもまだ読めていなかった父の日記。尊敬する父。彼が記した日記に、書かれている筈だ。己のことが………己が何者であるか。
『さて、少し遅かったみたいだが』
借り主のいないホテルの一室。ごんべえは尾を揺らし呟く。
『あいつの事だ、もう俺の過保護にも気づいたろうし………「親離れ」もそろそろか…………まあ、後は公秀に任せるか』
と、欠伸した時だった。テラスの硝子が割られる。
ズカズカと部屋に入り込んできたのは小巻だ。ギロリとごんべえを睨むと頭を掴み持ち上げる。
「あんた、織莉子の居場所知ってたのね!」
『お前も良く見つけたな』
「あんたをつけてたのよ。そしたら、案の定…………で、美国の馬鹿は何処よ」
『今は八重樫のところだろうな。んで、その後に叔父のところに向かうだろうよ』
「そう……案内しなさい」
『………ほっときゃ勝手に折れて魔女になるか、耐えて向かってきて数の力で楽に勝てるのにか?』
「思ってもないこと言うんじゃないわよ。私がつけてたの、気付いてたんでしょ?」
言葉遊びは沢山だ、とでも言うように本題に入らせようとする小巻。ごんべえは仕方ないとでも言うように嘆息する。
『どうしたい?』
「一対一で、本気の本音でぶつかり合う。納得するまで叩きのめす」
『お前………馬鹿か?』
「学年2位よ、私は」
『まあ馬鹿は嫌いじゃねえ、行くぞ小巻』
「あ、ちょっと! 誰が馬鹿よ! あ、待って。修理費置いてかなくちゃ」
『…………早くしろよ』
「気になります」
「何がですか、タルト……」
「あれを見てください」
「リズと、兵士ですね。若い……」
「リズに男が出来るか不安なの?」
「? 男が、できる?」
「男女の関係のことよ」
「元々男女なのでは?」
『ま、お前にゃまだ早いな』
「あ、天使様!」
「インク様………あの、いいんですか、リズを放っておいて」
『ん? ああ、男に言い寄られてるのか。まあ良いんじゃねえの、お前達は魔法少女だが、だからといって人としての幸せを捨てる必要もねえ』
「そうではなく……貴方、何時も彼女と一緒にいるでしょう」
『一緒にいても、どうせお前達は俺を置いて逝くだろうが。縛られてないのに縛るなんざ労力の無駄だ』
「………貴方にとっての瞬きの間ですら、誰も縛りたくないなんて、貴方を縛りたい者からすれば残酷な言葉を…」
「それより、それよりもです。気になることがあるんですって」
「ああ、そういえばそんな話だったわね」
「何が気になるんですか?」
「リズってほら、ああ言うふうに兵士の人達話し掛けられても、褒められても気にしないじゃないですか」
「……でもこの前、天使様が迷子の男の子案内してあげた時男の子がリズの髪を綺麗だって褒めてたじゃないですか」
「その時天使様も同意したら、リズは照れてました………お二人共?」
「ああ、うん……」
「いつもの流れですね」
「見ていたなら、助けてくれてもいいじゃない」
『面白かったからな』
「……………人の人生からすれば、ほんの一時しか存在できない私達が、人の心を縛り縛られるなんて、無駄の極みよ」
「あ、天使様も言ってました」
「………そう」
「そういえば、リズはどうして天使様の時だけ褒められると照れるんですか?」
「………へ?」
「い、いきなり何を……!?」
「だって、さっきの兵士さんに褒められても困ったような顔しかしてなかったのに天使様の時は嬉しそうでした!」
『まあ俺は世辞とか言わないと知ってるからな、本心からの言葉だと確信してるからだろ』
「あの人も本心だったと思いますよ?」
『………ま、細かいことは気にするな。お前も何時か解る』
「何時か……まだ、わからないってことですか?」
「そうね、タルトには……少し早いかな。でも、この人の言葉だけは特別に感じる。そういう時が、何時か来る」
『明日かもしれないし、まだ先かもしれねえ。まあ、そうやってまたお前の成長を感じるんだろうな』
「そうね、少し寂しくて……でもやっぱり、嬉しくなるのかしら」
「…………?」
「……………」
「言いたい事は分かるけど、無言で指差すのはやめなさい」
「ですがあの会話、どう聞いても………」
「気にするだけ無駄よ」
感想待ってます
本編後
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