性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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はんたーさんらファンアートをいただきました


何も出来ないことと、何もしないは同じじゃない

「ごめんなさい」

 

 今度はほむらが織莉子達に頭を下げる。

 織莉子はその謝罪を受け入れた。元を辿れば自分に原因があるからだろう。

 

「これで人間関係は終わりってことでいいのかな?」

『ま、俺が把握してる限りはな』

 

 キリカの言葉にマミの膝の上で丸くなっているごんべえが欠伸をしながら応える。

 

「となれば、我々の次の目標はワルプルギスの夜への対処ということになりますね」

 

 リナはそう言って壁一面に張られたワルプルギスの夜の情報に目を向ける。

 場所はほむらの部屋。巨大な振り子が揺れる真っ白な部屋の中に時計を模した様な配置のソファーや丸椅子。先程ごんべえが『誘う友達もいないのに椅子だけは多いな』と言ってまどかに叱られていた。

 

「噂でこそやばい魔女って聞いてるけどさ、結局のところどんだけやばいのさ? ほむらは前の世界で何度も戦ってるんだろ?」

「ええ………強さは………ごめんなさい、正直良くわからないの。あれが本気だったのかさえ」

 

 ワルプルギスの夜とは災厄そのものだ。被災地の人間にとって、街が吹き飛ぶレベルを超えた台風の違いなど分かるまい。ほむらの受けた印象も正しくそれだ。

 

『そもそも勝とうとするのが間違いだ。あれはただ戯曲を演じに来ただけ。終演時間になれば勝手に消える』

 

 と、ごんべえが尾を揺らしながら言い切る。

 時間、そう………時間だ。超弩級のワルプルギスの夜が、過去何度も出現し人類や魔法少女を蹂躙しても大災害の一つとしか表向きに記されないのは、人類を滅亡させるつもりがないから。

 

「時間稼ぎって、どのくらい?」

『講演時間はまちまちだ。まあ、30分より少ないってことはあまりない』

「つまり最低でも30分は時間を稼ぐと…………それは、仮に生き残れたとしてもソウルジェムが持たないのではないか?」

 

 麻衣の言葉に全員がごんべえを見る。ごんべえはぷえ、と大量のグリーフシードを吐き出した。

 

『まあ大半がワルプルギスの夜に潰されるだろうが、残った奴と戦うとなると質より量の方がいいな………』

 

 狐模様などをゴクリと飲み直すごんべえ。残ったのはグリーフシードとしては質は低めな………弱い魔女の卵。

 

「飲み込んだのは強い魔女の卵ってこと?」

『そうだな。下手に育てば第二、第三のワルプルギスの夜になる』

 

 それを何個も持ったまま処理しないというのは、なんともインキュベーターらしくない、非合理的な行動だ。恐らくはごんべえにとって、そうそう消したくない相手だったのだろう。

 

「魔力の回復はこれでなんとかするとして………回復役はあたしとゆまちゃん、防御を小巻さん、サポートをほむらに任せて……攻撃をマミさん達………あれ、これ案外いけるんじゃ………!」

『無理だね』

 

 と、不意に聞こえた声にほむらとリナと織莉子と杏子が臨戦態勢になる。何時からそこにいたのか、キュゥべえが部屋の隅にいた。

 

『彼女達じゃワルプルギスの夜に敵としてすら認識されない。むしろそっちのほうが良いのだろうけど、ろくな時間稼ぎもできず死ぬだけさ』

 

 キュゥべえはトテトテとまどかへと歩きながら話す。ごんべえ達に睨まれてもまるで気にしない。

 ここで潰したところで、言いたいことを言い終わるまで部屋を白い肉片で汚すだけなので全員手を出さない。

 

『だからまどか、ボクと契約して魔法少女になってよ!』

「いやだ」

 

 あいも変わらずの勧誘。彼からすれば、魔法少女の真実を知ることと願いを叶えないことは別物なのだろう。だから魔法少女の真実を知られたとは思っていても、バレたという考えにはならない。

 まどかが断ればそうかい、と背を向ける。しかし今回もしつこく、首だけ振り返った。

 

『本当にいいのかい? ワルプルギスの夜の討滅はごんべえの望みでもある。それを叶えられるとしたら、因果の収束点であるこの一ヶ月の間のまどかだけだ』

「ごんべえの?」

『何故ならワルプルギスの夜は彼の────』

 

 ガブリとごんべえがキュゥべえに噛み付いた。ブチブチ肉を引き千切り、新たに現れたキュゥべえも噛み殺す。

 漸くごんべえが止まらないと理解したのか、現れなくなるとペッと最後の一体の目を吐き捨てるごんべえ。

 

「ご、ごんべえ……?」

『…………ワルプルギスの夜は、俺を不死にした魔法少女の成れの果てだ』

「ごんべえを……?」

『「死なないで」と願って、死なねえ存在になった。なまじ因果を持ってたせいで、俺は今もこうして生きている』

 

 ユラリと尾を揺らすごんべえ。

 ごんべえの不死の要因。人間の文明が安定し始めた時点で、インキュベーター達にごんべえという存在の保持の理由がなくなったことを考えると、人類史初期の存在ということだろうか?

 

「因果ってことは、やっぱり有名人?」

『名前は伝わってねえけど……アンティキティラ島の機械は知ってるか? あれを作った女だ』

「アンティキ…………なに?」

『現存する世界最古の歯車式機械………千年は先を行った天才だ。本人は舞台装置を作るのが夢だったんでな、俺が教えてやった』

「『舞台装置』………」

『一つ一つじゃ意味をなさねえ歯車を組み合わせることで、複雑で強い力を生む。彼奴はそれを人に例え、人と人を繋げようとしていた……』

 

 まあどれだけ歴史を紡ごうと、人が一つになることなど一度だってなかったが。

 

『関係性を聞かれると、まあ娘だな。アルビノで色合いも似てた』

 

 というかそれが原因で、母親が浮気を疑われ『私は悪魔にお前を孕まされた』と虐待していた。ごんべえを見るなり『パパ?』とか言ってきた。

 肉体を失えば二度と甦れないため、雇った魔法少女からゴキブリでも見るような目で見られた。

 

『で、死にかけた際願われた。俺は不死になり、彼奴は魔法少女に…………そして、魔女になった』

 

 願われた結果だけが残り、ごんべえは不滅の存在になった。本体が消えれば流石に消えるだろうが、その場合肉体だけが残るかもしれない。

 

『一人じゃ何も出来ないと魔女から魔力を集めて、生まれたのが『舞台装置の魔女』………誰も幸せにしないかわりに不幸を笑い話にするために世界を戯曲に巻き込もうとする迷惑な災厄だ………他の並行世界は知らんが、この世界ではそうやって生まれて暴れている』

 

 あれは魔女の集合体。絶望を制限なく取り込み続ける、成長する魔女。人が増え、魔法少女が増え、魔女が増えるほどに力を増す。加速度的に増える人類の数からして、嘗て顕現した時よりも力を増しているだろう。

 

『殺してやりたくても、殺せるだけの魔法少女がいねえ。フローは戦場から離れる気が無かったし、タルトは役目があった。妲己に頼むのもあれだったし…………』

 

 戦国のあの男が良くふざけて契約しろと言ってたが、マジでしていれば良かったかもしれない。その場合はその場合でまた別に厄介なことになるだけだが。

 

「ごんべえは、その子を終わらせてあげたいんだね」

『魔女になれば望む望まぬに関わらず呪いを撒き散らす。あいつは望んでない方だ………だってのに、何時までも放置なんざできるかよ』

 

 かと言って、ワルプルギスの夜を滅ぼせるだけの魔法少女など早々生まれない。ましてやこのような時代、歴史を揺るがす程の因果を持つ少女など現れる可能性は低い。まどかは偶然で、ましてや魔法少女にするには危険が過ぎる。

 

「で、でも………私なら、その子を解放してあげられるんだよね?」

『さてな。一撃で倒したというが、それはつまりひっくり返る間もなかったんだろ?』

 

 と、ごんべえはほむらを見ればほむらは記憶を探り頷く。

 

『なら下手に敵と認識されるレベルの魔法少女は用意するな。正位置になって文明を吹き飛ばされるだけだ』

「正位置?」

『ゲームで言う第二形態って奴だよ。力の桁が違う、ただ移動するだけで何もかも破壊する。本気になれば星を滅ぼすのだって容易い』

「え…………」

『つまりだ、ワルプルギスの夜を倒すには正位置にならないよう抑えて倒すか、正位置になる前に一撃で倒すか………本気にさせないのが絶対条件の魔女だ』

「……………無理じゃない?」

『無理だろうな。だから時間まで押し留めておけ』

 

 そもそも勝てる相手ではなく、勝とうとするなら一撃で終わらせるほどの力がないと文明が崩壊しかねない。本来なら時間稼ぎをするどころか、逃げるのが正解なのだ。

 

「あのさ〜、ならいっそ皆逃がせばいいんじゃない? おっきな台風みたいになって現れて避難するんでしょ? そこより遠くに避難させようよ」

 

 と、キリカが提案する。

 そもそも戦って勝てないのなら戦わなければいいのだ。

 

『その台風すら、ワルプルギスの夜が現れる余波でしかない。今の人類が観測出来るエネルギーより遥かに広範囲を破壊するなんて、どう説明するよ? ましてや相手は「役者」を求め人の多いところに移動するんだぞ?』

 

 世界を戯曲に染める魔女は、悲劇をただの劇にすべく現れる。無人の町になど長くとどまるはずもない。

 

「………………」

『契約でもしたいのか?』

「え!?」

 

 俯くまどかにごんべえが問えば、慌てて顔を上げほむら達の視線に気づく。

 

『覚悟を持って決めたなら、俺から言うことはねえが………』

「…………解んない。皆が危ない目にあって、助けられる力が手に入るのに………その力が、皆を苦しめるかもしれないんだよね? どうすればいいのか、わからないよ」

『そりゃそうだろうよ。未来なんて誰にも解らない………いや、俺達ならある程度解るがそこに感情が関わるなら解らん』

 

 あくまで自然に起こる現象なら進化先まで予知できる。ただし感情の伴う生物の行く末は、感情を理解するごんべえぐらいしか予知できない。ごんべえのそれもあくまで大衆の動きであって、一人一人は見通せない。

 

『まどかならワルプルギスの夜を一撃で倒せるだろうよ。ただ、その後伝説の魔女を滅ぼしたお前に他の魔法少女達は恐れを抱く。どこまでもやるだろうし、その結果まではわからん』

 

 最悪なのは、まどかを殺すために魔法少女の真実を知らない魔法少女が彼女の家族にまで手を出し絶望させることだろう。

 

「現状まどかさんは何もしない方がいい、ということね」

『そういうことだ』

 

 織莉子の言葉を肯定するごんべえ。自分だけが何もできない事にまどかは再び俯く。

 

『…………何も出来ないことと、何もしないは同じじゃない。そこを履き違えて勝手に落ち込むな』

 

 そんなまどかに苛立ったように尾を揺らすごんべえ。多分、慰めてくれているのだろう。本人は絶対認めないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 まどかが落ち込んでるからとマミにより鹿目家に送られたごんべえ。その口に咥えられたキュゥべえの死体。

 

「ごおべ、もぐもぐ?」

『これはお前の飯じゃねえ、放せ』

 

 タツヤがごんべえが食べているのを見て真似しようとするのでまどかがタツヤを引き剥がした。

 

「タツヤも間違えないんだね」

『子供ってのはそういうもんだ』

「私も、なんで解るのかな?」

『子供だからだろ………間違えて契約をするなよ?』

「………………」

 

 何故か解るが、確かにごんべえとキュゥべえの見た目は全く同じだ。

 まどかは徐ろに赤いリボンをごんべえの首に巻く。

 

『……………?』

「あ、えっと…………こ、これで違いが出来るかなぁって………」

『…………まあ良いだろ』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 鏡を見て気に入ったのか、ごんべえはそう言うとベッドに飛び移り枕の側で丸くなる。

 

『礼になにか昔話でもしてやろう。落ち込んでいても、答えなんて出ないからな』

「………うん。ありがと、ごんべえ」




ごんべえの初代パートナー
文明がある程度育ち、早々に絶滅しないと判断されたため『ごんべえ』の引き継ぎがなくなったので護衛として雇った魔法少女。
当時アザゼル(人に知識を与えた堕天使の総統)と名乗っていたごんべえとの契約者で、自称娘を見て後の世に堕天使は女と交わるのが好きとかいう逸話をばら撒いた。


自称娘
千年は先を行く天才。天体運行を観測する機械をごんべえから天体について聞いただけで作った。
喜劇を演じる舞台を作ろうとしたが魔女化の際すべてを吹き飛ばし、人類の発展が遅れた。

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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