性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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マギレコ二部を見て思うんだ、魔法少女が救われるには都合のいい神様を生み出すしかないんだって。
なので予定通りだな!


僕と契約して、魔法少女になってよ

「雷雲がとんでもない勢いで分裂と回転を起こしています! 明らかにスーパーセルの前兆です! 直ちに避難指示の発令を!」

 

 

 

 

 その日、見滝原市に流れる避難警報。

 曇天の空の下で住民の居なくなった街を見下ろすごんべえは遠く、空を見やる。

 

『……お前を終わらせるのは、今回も無理そうだ』

「………これだけの魔法少女が揃ったのは、私の記憶では初めてよ。それでも、無理なの?」

『神浜市って魔法少女だらけの街があるんだが、そこの連中集めたところで勝てやしねえよ』

 

 それこそ歴史の転換点となるほどの因果を持つ魔法少女でなければ、相手にもなりはしない。神浜には候補になり得る存在が数人いたが、内3人は病死して1人は死者を蘇らせるだけの因果を持たない。だが、あれは()()()()()………少しのズレで歴史を変えたろう。

 

『会ってみれば良かったか………』

 

 最後の候補は魔女化した場合の話で、しかしその場合第二のワルプルギスの夜が生まれるだけだ。流石に魔女にしてぶつけるなんて手を取りたくはない。

 

「ごんべえ?」

『なんでもない………次現れる時は更に強化され、ますます倒せなくなって、それでも手段がない。毎度毎度思うただの感傷だ』

 

 ワルプルギスの夜、ごんべえを不死とした魔法少女の成れの果て。倒せそうな候補を見つけても、毎回毎回別の要因でなくなったりそもそもワルプルギスの夜が現れなかったりと運に恵まれない。

 今回は候補がいる場所にワルプルギスの夜が向かってきたが、英雄や救世主になる精神性を持っていたから因果が高いわけでなく、ただの偶然で因果を得た少女に背負わせるには酷すぎる。

 

『まどかはお前達を待ってるだろうな。だからまあ、生きて帰れ』

「もちろん! 私は君の下に必ず帰るよ!」

 

 と、キリカ。口を開こうとしていたマミより速く叫んだ。

 

「ええ、二人であの部屋に帰りましょう? ケーキも沢山作ってあげる」

「…………………」

 

 ほむらもリナも、そっと二人から距離を取る。二人はお互い笑顔だが、今にも喧嘩を始めそうだ。

 

「喧嘩は全部終わってからやれ」

「あら佐倉さん、私は別に喧嘩しようなんて思ってないわよ? ただ、ごんべえと一緒に住んでるのは私ってことを口にしただけ」

「ごんべえは基本的にあっちこっちに動き回るんだろう? 私は別に、縄張りなんていらないからついていくけどね」

 

 杏子ははぁ、とため息を吐く。ゆまが大丈夫、と心配そうに声をかけてくるのが癒やしだ

 

「あれ、そういやさやかは?」

 

 ゆまと同じく回復役のさやかが居ないことに気付く杏子。

 

「んとね! きょーすけって人のところに顔を出すって!」

 

 と、ゆま。同じ回復役だから聞いたのだろうか?

 

『俺も戻る。まあせいぜい死なないよう頑張りな』

 

 

 

 

 さやかは避難所にて、恭介の手を引き人気のない場所に移動していた。

 

「さやか、どうしたんだい? 皆、心配するよ?」

「うん、そう………そうだよね。心配かけるから、恭介にうまく誤魔化してほしいんだ」

「……………さやか?」

 

 まるで戻らないと言っているようなさやかの言葉に、恭介が訝しむ。

 

「今からあたしが言うことはさ、すっごく突拍子もなくて………信じられないかもしれないけど、信じてほしい」

「………………」

 

 巫山戯ている様は見えなかった。自分に想いを伝えてくれた時のような、伝えることで拒絶されてしまうかもしれないという恐れや、強い決意。

 

「うん。聞かせて、さやか………」

 

 それがどんな話でも、信じるから。

 

「あ………えっと、その…………あたし、魔法少女なんだ」

「………えぇぇぇ!?」

「そうだよね、驚くもの無理ないよね。信じてもらえないのも解ってる。でも、あたしは………」

「す、すごい! さやか、魔法少女なんだ!! どうして、どうやってなったの!?」

 

 その覚悟関係なく信じた恭介は思わず叫び、むしろさやかの方が戸惑った。

 

「あ、あれ? あの、信じて………くれてるの、かな?」

「もちろんだろ、僕がさやかのことを信じなくてどうするだよ? どんな告白だって信じちゃうよ!!」

 

 信じてもらえた自分以上に恭介が嬉しそうに見えるのは、気の所為ではないだろう。

 

「すごいよ! 素晴らしいよ!! ボクの彼女が魔法少女!! なんて素敵な響きなんだ…………ねえ、どんな魔法が使えるんだい? なにか目的はあるの? ねぇ、さやか!」

 

 恭介は、意外にそういうのが好きだったのかテンションがとても高い。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて恭介。じゃ、じゃあ今から変身するから」

「変身? 変身も出来るの!? すごい!」

 

 さやかは魔法少女姿に変身した。改めて、好きな相手………どころか思いを告げて恋人になった相手の前で魔法少女姿になるとは、少し恥ずかしい。

 

「予想以上だよ! 完璧だよ! さやか可愛いよ! 素敵だよ!」

 

 百年の恋も冷めかねない熱狂ぶりだが生憎とさやかちゃんは普通に照れて赤くなるのであった。

 こっそり心配で見ていた少女は、なんかもう色々思うところがある。

 

『…………戻ってきたら、何だこれ』

「なんなのでしょう」

 

 敢えて姿を見えるようにしてくれた妖精が実はこの光景に心が揺れた影響で見えたのでは、と少し不安になるほど、なんかもう色々………うん。とりあえず頭に乗っている妖精と共に見守ることにした。

 

「で、変身して何が出来るの?」

「んと………あたしは、治癒魔法が使えて………使命としては、悪い魔女と戦って………」

 

 ごんべえ曰くそれ自体は彼等が定めた使命ではなく魔法少女達が言い出したことらしいが………。

 

「悪い魔女? じゃあ、さやかは正義の魔法少女なんだ!」

 

 まあそういうことには、なるのだろう。

 

「で、どうやって魔法少女になったの? 何処かで募集してるの? さやかはこの世界の人じゃないとか?」

「ちょっと違うかな………。あのね、願いを一つ叶えて貰うかわりに、魔法少女になるっていうか」

 

 魔女と戦う、という言葉を入れそうになったが、多分それを言ってごんべえあたりに聞かれたら噛みつかれそうなのでそこは言わなかった。それは使命ではないのだから。

 

「願い? 願いを叶えた上に、魔法が使えるようになるんだ………へぇー。さやかはどんな願いを叶えてもらったの?」

「…………それ、やっぱり気になる?」

「うん………聞いちゃ駄目だった?」

 

 もし駄目だと言われたら、少し悲しいけど引き下がる。そんな声色と表情の恭介にさやかは、それを口にした。

 

「………あのね……覚えてる? 恭介の手が、お医者さんに治らないって言われたときにあたしが言った言葉………奇蹟も、魔法も………あるんだよ。あの後、恭介は覚えてないだろうけど、魔女に襲われたの。それで、魔女に囲まれて、助けに来てくれた魔法少女も他の魔女に手ぇいっはいで…………あたしが願ったんだ、『恭介の手を治して欲しい』って」

「さやか………」

「ご、ごめんね。勝手なことしちゃって、あの時大変だったし………それにあたし、恭介のバイオリンが聞きたかったから………」

「さやか………! ああ、なんてことなんだ……大切な願い事を、僕のために使ったなんて! 僕は、さやかのおかげでバイオリンが弾けるようになったんだね」

 

 その代わりに、さやかは魔女と戦う魔法少女になった………いいや、なってしまったのだろう。

 

「それなのに、僕は、恋人が魔法少女なんだって………ただ、浮かれて…………」

「良いんだよ。恭介は気にしないで。あたしだって、受け入れてくれるとは思ってなかったし………」

「そっか、じゃあ………さやかは、これから戦いに行くんだ」

「うん。この嵐さ、滅茶苦茶強い魔女の仕業なんだって………あたし以外にも、魔法少女の先輩達が向かってて、それでも時間稼ぎしかできないって………」

 

 それでも、行く。魔法少女としての使命だからじゃない、自分が美樹さやかで、上条恭介の恋人だから。

 

「…………さやか、君に聞かせたい曲があるんだ。君のために、考えた曲」

「…………うれしいよ、恭介。でも、もう行かなくちゃ」

「うん。だから、必ず帰ってきて………」

「…………うん。ありがとう」

 

 さやかは微笑むと、走り出す。まだ隠してることはある。それも、何時かちゃんと話す時が来るだろう。でもきっと、恭介なら受入れてくれる………今ならそう思える。

 

「さやかさん!」

「っ! 仁美…」

 

 屋上に飛び出そうとしたさやかを呼び止める声。

 

「………また、3人で登校できますか?」

「もちろん! あ、でも暫くは恭介を優先させてほしいかな」

「……………はい。でも……また、必ず」

「うん。約束」

 

 さやかは今度こそ屋上に飛び出し、再び変身する。

 そのまま建物の屋上を跳ねながら合流地点に向かった。

 

 

 

 

 

「皆は、生きて帰ってくるよね? 誰も、死なないよね?」

 

 戻ってきたごんべえに不安そうに問いかけるまどか。

 ごんべえはただじっと窓の外の曇天を見上げる。

 

『生きるのに専念すればな。ただ、足止めだろうと挑むのなら、どうなるかは解らない』

「っ………そ、っか…………」

 

 それだけ強大な魔女なのだ。そしてそれを、別の自分は一撃で倒したらしい。

 

『………ワルプルギスの夜を倒したお前は『ワルプルギスの夜を倒す』をそもそもの願いにしてたんだろうよ。因果の量が膨大とはいえ、あれはそうそう倒せる魔女じゃない』

 

 もちろん数多に存在する平行世界の因果をさらに集めれば可能だろうが、交わらぬはずの因果をそこまで絡めたらそれこそこの世界から外れるだろう。

 

「ごんべえは、ワルプルギスの夜になった子を……私に倒してほしくないの?」

 

 それを目当てに強力な魔法少女を探していたのは、事実らしい。

 

『………でも、誰かに倒せる存在でもない』

「……………え?」

 

 その言葉に…………否、その変化にまどかは目を見開く。

 

『ワルプルギスの夜を倒せるとしたら、それは君だけだよ、まどか』

 

 首に巻かれた赤いリボンは、自分がごんべえにあげたもの。先程まで話していた彼は、間違いなくごんべえだったはず。

 

『だからまどか…………』

 

 なのに、どうして…………。

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ!』

 

 どうしてここに、キュゥべえがいる………。

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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