「ごぉべ、ごぉべ! やー!」
『こらこら尻尾掴むなクソガキ。またはむつもりかオイ。いい加減にしねえと引っ掻くぞ』
学校に行くまどかに付いていこうとしたごんべえの尻尾を掴みイヤイヤと首を振るタツヤに尻尾を涎でベタベタにされた経験のあるごんべえは爪を伸ばし威嚇する。
両親には何も見えないので何かを引っ張るような動作をする弟をオロオロ見つめる姉という二人の子供にしか見えない。ごぉべとは一体。
『朝から疲れた』
「ごめんね、タツヤが………」
昨晩まどかの家に来て、勝手にテレビをつけて寛ぎ始めたごんべえ。タツヤが近くにいたから特に不思議に思われなかったが、ポルターガイストもどきを起こしたごんべえはバラエティ番組を見ながらポテチを食っていると、タツヤに尻尾を掴まれた。
「わたーめ!」
『此奴見てやがる! おいこら離せ。噛むな! 手入れにどんだけ時間かけてると!』
ごんべえ曰く魔法少女の才能とは因果の強さ。条件は精神の未熟さだという。言外にガキっぽいと言われたが、まあ気にしない事にした。
鹿目タツヤの因果律はそこそこ……学校に通えば下駄箱は手紙で埋まり、会社に通えば女に何度も誘われるタイプの因果を持っているという。そのうえでまあ、未熟な精神。極稀に幼い時だけ見れる者は居るそうだ。女子ならそのまま第二次性徴期前に魔法少女に勧誘され、男子は見えなくなる。イマジナリーフレンドの何割かはキュゥべえ達だと言う。
「でも、何で第二次性徴期? その、感情エネルギーを取りたいだけなら子供でも」
『自己の境界を認識できねえ未熟すぎるガキの願いは曖昧だからなあ。それに、一応は自己判断が出来る年齢ってルールがある。俺達がしてるのは契約だからな』
そのくせ、キュゥべえの方は感情エネルギーを利用してる事を黙っているようだが。
『過去、契約を持ちかけた先輩方に問いかけエントロピーから感情エネルギーの採取、魔女とは何かまで聞き出したクソガキババアが居たからなぁ。それ基準に、「事実過去にも契約前に訊ねてきた魔法少女は居た。自分達がしないという怠慢の責を僕達に求めるのはお門違いというやつだよ」とか言いそうだな』
「その人は、自分の感情が利用されて、倒している魔女がごんべえ達が持ってきたって解っても叶えたい願いがあったんだ………」
『その願いのせいで人類結構やばかったがな』
「………え?」
『古い知人の童話作家に話したら「神になって星を股ぐらに突っ込む変態女も何時か現れるかもしれんな!」って爆笑された』
「へ、へえ………」
『そいつ殺した魔法少女は俺の契約相手だったんだがあのクソガキ、誰も知らねえ土地で静かに暮らしゃまだ少し生きれたろうに、穢を抱えたまま焼け死にやがった。直ぐ近くで生き汚ねえ化物を見てたのによ』
無表情のままチッ、と舌打ちしたごんべえ。その魔法少女に、何か思う事があるのだろうか。
『ま、俺の昔の女の話は良いさ。それよりまどか、そろそろ出た方が良いんじゃね?』
「え? あ!」
「あ、まどか。気をつけてね!」
「ごぉべ、まろか、けをつけえね!」
ごんべえの言葉に慌てて立ち上がるまどか。父の知久はごんべえが見えていないのでまどかだけ見送りタツヤはごんべえも見送った。ごんべえはタツヤを無視した。
『しっかしお前等家族は仲いいな』
「そうかな?」
《それと、独り言言ってるように見えるから今からテレパシーに切り替える》
「!?」
と、鼓膜を揺する物理的な声ではなく、直接頭の中に言葉の情報が流れ込む。
(こ、こんな事も出来るの?)
《俺達は遥か過去からお前達に介入してきた。当然、言葉を持たず数種類の鳴き声でやり取りしていたお前等の祖先ともな………》
(私達の祖先………そういえば昨日そんな事言ってたね……火の使い方とか教えてたって……)
《言語もな。あの頃の人類のコミュニケーション手段は言語ではなくあくまで鳴き声。危険、獲物を見つけた、追え追え、逃げろ、そんな単純なやり取りだけのお前等の祖先にゃ当然合わせられねえ、だから頭に直接願いを思い浮かばさせてた。けど曖昧だし面倒くせえから、言葉を教えてやった。減った森から追い出された平原の猿共にな》
(そ、そうなんだ………)
何か、いろんな意味ですごい存在だ。ていうか石器とかの扱い方も教えたって言ってたし、そういう目で見れば人類の恩人なのでは? いや、動機は家畜の数を増やす為とか、そういうのだろうけど。
《さっきも言ったが、お前達家族は仲がいい。言語化せずとも互いの意図を察し、朝っぱらからキスまでしてやがる》
(う、うん………私も、ちょっと前まで………)
《頬は親愛だったか。まあ、だとしても日本でやる奴は見た事……あんまねえ》
少しはあるのか。
(お母さんにとっては、多分愛情表現以外にも、今日も頑張れって意味があると思うの)
《祝福だったら額だろ》
(そうなの?………あ)
と、まどかは前方に見知った二人を見つける。
「おはよう、さやかちゃん、仁美ちゃん」
「おはようございます」
「おは……うぇ!?」
『おはよう』
振り返り上品な笑みで挨拶する仁美とごんべえの存在に気付き固まるさやか。
「え、あが………」
「どうかしましたか、さやかさん」
そんなさやかを不思議そうに見る仁美を見て、やはりごんべえは普通の人間には見えないのだと改めて理解する。
(頭で考えるだけで会話とか出来るみたいだよ)
「うひ!?」
唐突に頭に響いた親友の声に驚き振り返るさやか。現在はごんべえが中継役とはいえ、不可思議な力を扱うのに少し高揚したのかテレパシーで会話していると仁美が「目と目で分かり合う禁断の恋の形」と勘違いして走り出した。
(仁美って魔法少女の才能ないんだね)
《才能はあるさ、平均的だが。条件を満たしてない、精神的にな》
(ごんべえそれどう言うこと?)
《あれは自分の芯を持ってるタイプだ。己の願いに他者の介入は許さず、そのくせ律儀に他者を己の中で適切なレベルで尊重し、その結果受けた己の損や傷を受け入れ飲み込み前に進む。簡単に言や、精神的に成熟してるって事だ》
(つまり……あたし等は仁美に比べるとガキだと………)
何とも言えない魔法少女の素質の有無にさやかはため息を吐きまどかは苦笑する。
《ああガキだね。一生に一度の願いは裏を返せば一生を掛けて叶えたい願い。それに他人の介入を許しといて、被った不幸を他人にぜぇんぶ押し付けるなんて真似を微塵もしないあのガキと、リスクが不鮮明でも願いに飛びつく可能性があるお前等じゃ精神の成熟度が違う》
(ごんべえ、仁美ちゃんみたいなのが好みなの?)
《いや全然。ああいう手合は敵対すりゃこっちの真意もきっちり確かめようとしてくる。不躾に迫る女とか超苦手。俺人類の敵だし。だいたい俺の女の好みは………》
と、そこでごんべえは言葉を区切り振り返る。そこにはほむらが立っていた。
(契約はしてないようね)
《信用ないねえ》
(貴方自身、する気はなくてもまどかから願われたら断れないでしょう)
《違いない。だがそれはまどかの愚かしい選択で、俺には関係ねえ》
クク、と喉を鳴らすごんべえ。彼のスタンスとしては契約はするが、契約する奴は馬鹿、愚か者という扱いらしい。
(ごんべえはやっぱり、願い事は自分で叶えるべきだと思う?)
《どんな願いも必ず自分の手でやり遂げられる、なんて思うほど俺は人間に期待しちゃいねえ。まして、他者どころか異星の民利用してる俺達が言っても説得力がねえ》
(それは言えてる。ま、あんたは他の仲間よりは説明してくれるって話だけどさ)
《そうとも、地獄を提示され地獄を進む事を決めた奴に、文句を言われる筋合いはねえ。それでもと奇跡を求めたなら、その地獄は奇跡への正当な対価として黙って抱えろってな》
少なくともごんべえは、魔法少女の進む道を地獄と認識しているらしい。
(ほむらちゃんは、どうだったの………? その、願い事って)
《うわあ、普通堂々聞いちゃう? 遠慮ってもんがないねお前》
(え、あ……ご、ごめんなさい………)
(……気にしてないわ)
傍から見れば見目麗しい美少女達が無言で歩きながら表情を変えたり強張らせたりしているなんとも珍妙な光景だ。
ペココココ! ペコ、ペココ!
ポンポンポンポンポォン!
「………………」
教室の後ろで響く電子音。ごんべえが誰にも見えないのを良いことに堂々とゲームをしていた。魔法少女と魔法少女の才能があるものにしか聞こえないが、逆に言えば3人からすれば滅茶苦茶鬱陶しい。
まあ、授業中絵を描いてるまどかの言えたことではないが。
昼休み、見滝原中学は弁当、学食制なのでまどかとさやかは魔法少女の話をするつもりでほむらを誘おうとしたがほむらはごんべえの耳から垂れている触覚を掴むと何処かに行ってしまった。
(聞きたいことがあるわ)
《良いけど、何でトイレ? しかも飯食うのかよ》
(空調で空気は清浄だもの。別に雑菌だらけという訳ではないわ)
《それはそうだが、やけになれてんなぁ……》
呆れたようなごんべえの態度に本当にキュゥべえ達とは違うのだと今更ながら思う。
(貴方自身、宇宙の延命にさして興味ないような態度だったけど魔法少女との契約自体はしてるのよね?)
《この体は乞われれば願いを叶えるようになってる。それが、どれだけ俺達にとっても不都合であってもな》
それは、初めて聞いた情報だ。例えばまどかから魔法少女の素質を消す、あるいはキュゥべえから見えなくするなどの願いを………。
《他人に誰かの不幸を押し付けようって顔だな》
(っ! だとしたら、何?)
《別に。さっきも言ったが、俺達に願いを聞かない選択肢はない。邪魔は出来るが、言われてしまえばそれまでだ。ただ、他人の幸福を願い己が不幸を背負うように、他人に不幸を背負わせて己に幸福が運ばれるとは思わねえことだ》
ニィ、と目を細めるごんべえ。キュゥべえの貼り付けたような笑みとは異なる、嘲笑という感情を宿した瞳。
(感情があっても、貴方はやっぱり人類の敵ね)
《何を今更。俺達がお前達を
たとえ一時馴れ合えても、人間は彼等の命を奪う側である事には変わらない。むしろ明確に敵であると自称しているごんべえの方がまだ友達だと言った動物の住む山を削る輩よりはマシかもしれない。
(あなた自身、心があるなら、言葉をかわした相手を地獄に歩かせる事をどう思うの)
《俺はその先が地獄だと教え、背中は押さない。自分で進むと決めた奴に靴を履かすだけ……まあ強いて言うなら、銀●匙のハチケン?》
(ぎんの………なに?)
《そういう意味じゃマミは事情が事情だからな………》
マミの契約内容を知っているほむらは、その言葉にほんの一瞬目を伏せた。
《さっきはああ言ったが、農家の連中が何も思わず育ててるとは思ってねえよ》
(………家畜扱い側の身としては、複雑な心境なのだけど)
《その唐揚げだって元は家畜だろうが。ふむ、冷凍か………》
勝手に唐揚げを食いそんなことをのたまうごんべえにほむらは箸で刺してやろうかと構えを取った。
《人間の愛玩……元は益のために始めた狼の家畜化、牛豚鶏と続いていつしかただ愛でるだけの為に飼うようになった。お前等の私達を尊重しろってのは、それに近い。そもそも種族が異なるのに対等に接するってのがおかしな話だ……》
キュゥべえやごんべえはエネルギーを求めてやって来た宇宙人で、ほむら達魔法少女はエネルギー効率の良い原生生物。
人類が馬や猪、牛などを発見し飼い慣らし、品種改良したのと同じだ。違うのは言葉が通じるだけ。
(だけと言うけど、これって結構重要じゃないかしら?)
《人間を特別視しすぎだクソガキ。まあ人間だしな……通じないからどんな動物も食っていいし住処から追い出して良いと思ってんなら、それこそお前達の価値観で言えば悪魔の所業だろう》
(……………)
《ま、俺は良いと思うがね好きにやって。他の生き物に配慮なんて、それこそ思い上がりだ。規模が違うだけで他の動物も別種を絶滅させた事はあるし、最初の植物プランクトンが引き起こした酸素発生なんて微生物ってだけで奪われた命の数は人類にも引けを取らねえだろうに……生存競争の頂点に立って今更生存競争の外にいる私達がこの星を〜なんざ傲慢で滑稽、愉快で不愉快。愚かしいにも程がある》
人を皮肉る獣の姿をした遥かに優れた文明を持つ降臨者。愛玩の概念すらないその星で、果たして他の生物は生存していたのだろうか。
(貴方にはないの? 人類に対する愛玩………昨日の話を信じるなら、教え子とまでは言わなくてもそれなりに干渉した生き物でしょう)
《遠い昔、似たような質問されたな。別人だから進歩がねえとは言わねえが、家畜主に家畜が何を求めるよ……》
(そう、昔似たような質問がされるぐらいには、貴方は他の奴等とは違ったのね)
《さてね、「見守っていて何も感じなかったの」とか、「解ってあげようとしなかったの」とか言われたが、それは俺なら解ってくれると思っての発言だったのかね………》
(解ってあげようとしなかったようね………)
《解ったところで何をしてやれって? 俺は全部話した上で契約してきたのは向こうだ………契約、したか? 先輩の方だったな、確か。そりゃ文句も言うか》
キュゥべえのやり方は魔法少女との軋轢を生むとはやはり解っているようだ。わかった上で、何もしない。
キュゥべえほど敵ではない。だが、ならば味方というわけでもない。
(いいわ、別に。貴方が何方であれ、その存在があいつ等からまどかを遠ざける要因になるのなら)
《もっとも、俺に願うって選択肢はまどかの方にはあるが……しかし、まどかまどかと……他人の為に己の全てを賭けれるってか、気持ち悪い。それとも惚れてんのか? なら人間らしい》
予鈴がなる。ごんべえとほむらはクラスに戻る。
「………え?」
その姿を見る、黒髪の少女。人目を気にしたほむらが訪れた、人気のないその場所に訪れるような少女。
普通の人の目には映らぬ筈のごんべえにその視線が注がれていた。
「何で……誰? し、仕事って………魔法、少女? あれが、マミ? で、でも……あれ? なら別に、離れても………今までは、そうだった……なのに………何で?」
気の弱そうな少女は、混乱する心を落ち着かせようと幽鬼のようにブツブツと呟く。答えは結局出なかった。
見滝原の素質持ち。カラフルな髪色が多い魔法少女の中で黒。一体何者なんだ
本編後
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マギレコでも魔法少女を誑かす
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たるマギで家族3人でフランスを救う
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たむらの旅につきあわされる