性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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それでも私、この記憶を信じます

 使い魔に襲われ気絶したいろはは、十咎ももこという魔法少女に助けられた……助けられたんだっけ? 白髪の子は? それに、最後に見たのは青い魔法少女だったような?

 

「小さいキュゥべえと一緒にいる白髪の魔法少女? 知らないなぁ、調整屋は?」

 

 と、ももこが尋ねるのは調整屋の八雲みたま。戦う力を持たない代わりに魔法少女を強化しグリーフシードなどを譲ってもらい生計を立ているらしい。

 

「知ってるわよぉ」

 

 と、ニコニコ笑いながら返事をした。

 

「ほ、本当ですか!? あの、あの人はいま何処に!? 今も小さいキュゥべえと一緒にいますか!?」

「そこまでは知らない。私も噂を聞いて、一度見かけただけだしねぇ」

「噂?」

「迷子の子供を案内してくれる不思議な白いお姉さん。橋の下でザリガニや沢蟹を捕まえている白いホームレス。夜の廃墟で見かけた不思議な白い子供…………これが表向きの噂。魔法少女達の何人かは、魔女の結界で見かけたり小さいキュゥべえと一緒にいるのを見たことがあるそうよ」

 

 ザリガニや沢蟹? 夜の廃墟、橋の下、迷子のいるところ……何処を探せば良いんだろう?

 

「何だ、最近増えてきたウワサかぁ」

「噂が増えてる?」

「そ、最近妙にね。どれもこれも信憑性のないただの噂だけど」

「あら、これはまだ現実的じゃない」

 

 でも調整屋に来てないということは、来たばかりか、それとも調整が不要なほど強いということなのだろうか? 最近と言っていたし、自分と同じように外から来たばかり?

 小さいキュゥべえと一緒にいるなら、自分が覚えていない「願い事」にも関わっていたり?

 

「……私、小さいキュゥべえとその子を探してみます」

「え、ちょ! いろはちゃん!? まだ外に出ちゃ駄目だよ!」

 

 と、外に飛び出そうとするいろはをももこが止める。調整の仕立てではだるさが残ったり上昇した力の違和感に体がついていかないからだ。

 

「行かせてください! 私、見つけなきゃならないんです。小さいキュゥべえを!」

「小さいキュゥべえって、見つけてどうすんのさ………」

「私、あの子を見てからおかしくなったんです」

 

 知らない少女が夢に出てきてその度に胸がざわつく。

 今はただただあの子が愛おしく感じる。

 

「だから、どうなるかなんて分からないけど………もう一度小さいキュゥべえにあって、この夢が何なのかはっきりさせたいんです!」

 

 そう言うと飛び出すいろは。その気迫に押され止められなかったももこはしかしハッと顔色を変えた。

 

「しまったああああ! 今出て行ったら絶対()()()に捕まるぞ!」

 

 

 

 

 先程の魔女に襲われた場所に向かい、気配を探るいろは。当然だが近くに居ない。

 

「どこ、あの魔女は、どこに……!」

 

 薄くなった魔力の痕跡を見つけ、追跡しようとするが、不意に声をかけれる。

 

「待ちなさい」

「──っ!? ごめんなさい、今急いでるんです!」

「私は待ちなさいと言ったはずよ」

 

 と、通り抜けようとしたが呼び止められた。

 

「あの、本当に私急いでて…!」

「どうしても通ると言うなら、私を倒してからにしなさい」

「どうして……」

「それは貴方自身が一番良くわかっているはずよ。魔女の結界内で、無様にやられてたんだから………」

 

 その言葉に改めて相手を見て気づく。砂漠のような魔女の結界内で、最後に見た魔法少女だ。

 

「あなた、もしかしてあの時の………」

「そう、まだ意識があったのね。覚えているなら話が早いわ。邪魔が入って遅くなったけど、今なら心置きなく貴方を追い出せる」

「町から、追い出す?」

 

 剣呑な雰囲気に無意識に一歩後ずさるいろは。

 魔法少女同士の縄張り争いは珍しくないらしい。魔法少女達にとって獲物たる魔女は有限。魔女が落とすグリーフシードの数は限られているのだ。

 何よりいろはは、この町では使い魔にも勝てないことを先程証明している。

 

「さ、自分の町に帰りなさい」

「いや、です。私、この町に目的があってきたんです………だから!」

「だからどうしたの? 目的も果たせず死にたいの?」

 

 冷たい声。しかし否定しきれない事実があった。

 使い魔相手に、それも弱い部類らしい使い魔相手に苦戦した……どころか殺されかかったいろはは魔女に殺されるかもしれない。

 

「でも私、調整屋さんにソウルジェムも弄ってもらって。だから、大丈夫です!」

 

 

 

 

「あのチビ何処行った?」

 

 勝手にいなくなった小さいキュゥべえにため息を吐く。勝手に懐いて勝手に餌を要求するだけの生き物。別に気にする必要はない…………。

 

「おぅい、兄ちゃん!」

 

 と、そこに金髪の少女がやってくる。

 

「今週も依頼が少なくてさぁ、何か食わせてくれ!」

「………残りは全部食っていいぞ」

「マジか! ラッキー………そういや兄ちゃんが飼ってるあのちっこいキュゥべえ、向こうに走ってったけど喧嘩でもしたのか?」

「飼ってるわけじゃねえよ」

 

 そう言うと林檎を渡す。そのまま去っていった。向かった先は少女が来た方向。

 

「………やっぱ飼ってるじゃん。お、ザリガニとカニ! うっ、虫は無理…………蜥蜴は……まあ食ってみるか!」

 

 

 

 やちよというらしい魔法少女に襲われたいろはだったがももこが助けに来てくれた。二人相手は面倒だと思ったのか、やちよは砂場の魔女を倒すことが出来れば実力を認めてくれるという。

 何ならハンデとして二人がかりでもかまわないと提案してきて、やちよの知り合いらしいが敵意むき出しのももこがその提案に乗る。いろはとしては小さいキュゥべえに会えればそれで良かったのだが。

 そして結界内で小さいキュゥべえを見つけたのだが、ももこはこの子を見つけただけでいろはの問題が解決すると決まったわけではない。またこの町に来る必要が出来ても、ここで負けてしまえば追い返されてしまうかもしれない。

 その言葉に迷っていると小さいキュゥべえが突然走り出し、立ち止まり振り返る。ついてこいというようなその仕草を信じて付いていけば結界の最奥、魔女のもとに辿り着けた。

 だが結果として魔女はやちよが弱らせ、いろはが一人で倒すように言われた。なんとか倒せた。

 

「はぁ、はぁ………やった………」

「どうだやちよさん!」

「どうしてももこが得意げなのよ……まぁ、当然でしょう。私だって見殺しにするのはバツが悪いし、勝てる相手を選んだつもりよ」

「ふん、人を弄んだだけだろ」

 

 やちよの言葉にやはり敵愾心剥き出しのももこ。

 

「別に弄んだわけじゃないわ。目的のために導線を引いただけ」

「…導線?」

「そう。ちょっといじめすぎたのかしら。私の前に、このキュゥべえは現れてくれなくて……」

「え…?」

 

 やちよが視線を向けるのは小さいキュゥべえ。自分に向けてきた以上の剣呑さを感じる。

 

「小さいキュゥべえ…今まで有り得なかったイレギュラー………気がついたら神浜市から何時の間にかキュゥべえは消えていて、この子しか存在しない」

 

 どう考えても危険な因子にしか思えない。そう言ったやちよの目にいろははももこに叫ぶ。

 

「ももこさん!」

「しまった!」

「遅い!」

「ぐっ!」

「プギュ!?」

 

 反応が遅れ吹き飛ばされるももこ。その腕から落ちた小さいキュゥべえ。

 

「これで、ようやく消せるわ」

「やめてー!」

 

 いろはが飛び出すも、間に合わない!

 

「いい年したガキが自分よりガキをイジメるもんじゃねえよ」

「っ!!」

 

 小さいキュゥべえを貫こうとした槍が上から踏みつけられた足に穂先の軌道を無理やり変えられる。

 地面をガリガリ削った槍。驚いた小さいキュゥべえは槍を踏みつけた人影の体をよじ登りマフラーの中に隠れる。

 

「っ! 白い、魔法少女!」

「白い魔法少女? 俺のことか?」

 

 やちよの言葉を訝しむ白い魔法少女はやちよが槍を振り上げたので足を離す。

 

「そのキュゥべえを渡しなさい」

「やだね」

「貴方は、そのキュゥべえが何か知ってるの?」

「全部は知らねえな。だがお前よりは知ってる」

 

 バールのようなものを取り出す白い魔法少女は反対の手でマフラーの中で縮こまる小さいキュゥべえを落ち着けるように触れる。

 

「っ!」

「ん?」

 

 そしていろはも白い魔法少女とやちよの間に割って入る。

 

「この子が何をしたっていうんですか!?」

「これからするかもしれない。リスクは早めに排除するものよ」

「そんなことをしたら、聞けなくなっちゃう! あの子は……あの子は! 私にとって、大切な子かもしれないのに!」

「……………へぇ」

 

 と、そのやり取りに白い魔法少女が赤い目を細める。

 

「そいつを渡しなさい」

「嫌です!」

「おい、桃色」

「も、もも………?」

「ほれ」

 

 その呼ばれ方に困惑するいろはに向かって投げられた小さいキュゥべえ。

 

「え、あ……え!? わぷ!」

 

 慌てて受け止めようとして、顔に張り付く小さいキュゥべえ。

 

(なに……意識が!)

 

 目の前が真っ暗になる。

 深く深く、意識が沈んていく。

 

「いろはちゃん!」

「っ! あなた、何をしたの!?」

 

 叫ぶももこに白い魔法少女に槍を向けるやちよ。白い魔法少女は気にした様子もなく小さいキュゥべえに目線を合わせるようにしゃがむ。

 

「そいつがお前の探していた奴か?」

「モキュ!」

「そうか」

 

 頭を撫でてやると、やちよに向き直る。

 

「そう睨むな、俺は神浜の魔法少女に比べたら弱いんでね。特にお前みたいな上澄みにゃ勝ち目はない」

「なら、知ってることを話しなさい」

「断る」

「っ………脅しだと思っているの?」

 

 向けている槍を近づけるやちよに対して、白い魔法少女は槍の先端を掴む。ドロリと流れた血が路面を汚す。

 

「脅しだろ? 殺す気もないんだからな」

「それでも、痛めつけるぐらいは………」

「キュ〜、モキュウ………」

 

 と、小さいキュゥべえが心配そうにいろはに擦り寄る。白い魔法少女は槍から手を離す。曼荼羅のような魔法陣が現れ傷が一瞬で消える。

 

「やめだ。おい金髪、この辺りにこのガキ休めさせる場所はあるか?」

「え、あ………うん」

「まちなさい、まだ話は………」

「終わりだ。仮に俺がこのガキになにかしても、余所者が町から消えるだけ。そっちの金髪も俺より強いだろ?」

「…………………」

「心配だって言うなら付いてきても構わんがな」

「……………」

「どうした? 言ってもないのについてこようとするなよ」

「っ! 性格の悪い事言ってくれるわね」

 

 いろはを抱えて立ち去ろうとする白い魔法少女についていこうとして、その言葉に顔を歪めたやちよはももこを見て去った。彼女を信じているのだろう。

 

「いろはちゃんは………」

「記憶の混濁はあるかもだが、体に害はねえよ」

「そっか………」

「キュウ………」

「行くぞ、チビマル」

「キュ!」

 

 その言葉に白い魔法少女の頭に登る小さいキュゥべえ。ももこは調整屋の下まで案内した。

 

 

 

 抱きしめた小さなキュゥべえから、何かが来る。

 

『お姉ちゃん! 今日も来てくれたんだね!』

 

 お姉ちゃん?

 

『あーあ、早く元気になって、私もお姉ちゃんと学校行きたいなぁ』

 

 ずっと入院しているこの子を、自分は知っている。

 苦しそうな顔も、来るさそうな顔も………あの子、そう……名前、何だっけ?

 懐かしくて愛おしい、あの響き。

 

『お姉ちゃん、私本当に退院できるの?』

『そうだよ、うい』

 

 うい……?

 うい…………うい…………そう、ういだ!

 私の妹!

 ずっと入院していて、体が弱くて、直ぐに消えてしまいそうで、かけがいのない大切な妹………

 どうして私、こんな大切なことを………!

 だって、私は、ういのために願ったはずなのに! ういの病気を治してもらったはずなのに!

 

 

 

 

「はっ……………」

「あら、目を覚ましたのね?」

 

 意識を取り戻すいろは。顔を覗き込んでくるみたまが声をかけてくる。

 

「ももこ〜、いろはちゃん目を覚ましたわよ」

「えっ! ホントに!? いろはちゃん、大丈夫?」

「ももこさん……みたまさん………」

「なに? 何処か痛い……?」

「私、思い出したんです。どうして魔法少女になったか………」

 

 そう、自分はたしかに妹を治すためにキュゥべえと契約した。それを思い出した。

 

「どうして忘れてたんだろう。こんな大切なこと………」

「忘れてたって、どういうこと……長い間、離れて暮らしていたとか?」

「いえ、この間までずっと一緒にすんでました………」

 

 同じ屋根の下で、同じご飯を食べていて。なのに忘れてしまった。皆消えてしまった。記憶だけでなく、あの子がこの世界にいた痕跡ごと。

 

「そんなことって………」

「でも、実際にそうなんです………」

 

 家に帰ってもあの子がいないことが普通になっていた。両親と3人で何時も通り暮らしていて、さっきまで自分は一人っ子だと思っていた。

 

「つまりそれって、私が妹ちゃんに会っていたとしても………」

「はい、忘れちゃってると思います」

「魔女の仕業かしらぁ?」

「長いこと魔女と戦ってるけど、そんな魔女の話聞いたこともないよ」

「それじゃあ、どうして………」

「答えの出ない議論ほど無駄な時間はねえな……」

 

 と、考え込むももことみたまを笑うような声が聞こえる。白い魔法少女だ。

 

「答えが出ないって、なんで言い切れるのさ」

「情報が足りてねえんだ。それで出した答えなんて正しいはずがない………情報は何事も大切だぜ? それさえ集めればちょっとした未来予知だって出来る」

 

 その膝の上でまるまる小さなキュゥべえをいろはに渡してくる。もう何かを思い出すことはない。

 

「でも、貴方がういを思い出させてくれたんだよね?」

「キュ?」

「きっとそうなんだよ。そんな気がする」

 

 小さいキュゥべえは不思議そうに首を傾げたが、撫でられ気持ちよさそうに目を細めた。

 

「うん……決めた………」

「いろはちゃん?」

「私、また来ます……この神浜市に」

「目的は果たせたんじゃないの?」

「今度は、ういを探さないといけませんから」

 

 そしてそれはきっと、この神浜市の何処かに手かがりがある。

 あの子が消えた理由も、あの子が今、何処に居るかも。

 

「ういのことを思い出させてくれた、この小さいキュゥべえがいる町だから」

「その記憶が実は嘘で、何者かに植え付けられたとしてもか?」

 

 と、白い魔法少女が尋ねてくる。ももこやみたまも同意なのか、何も言わない。

 

「それでも私、この記憶を信じます」

 

 ういのことを考えるだけで愛おしく感じるから。

 鮮明になった思い出が、あの子がいたって実感を与えてくれるから。

 

「そして何より………今の私は、環ういって妹がいる、環いろはだって思えるから………」

 

 だから、この愛おしさを信じると決めた。

 

「環ういがいる環いろは……その記憶を信じて、妹ちゃんを探すんだね? この神浜市で」

「はいっ!」

 

 ももこの言葉に笑顔で返事するいろは。白い魔法少女は小さいキュゥべえの首根っこを掴むといろはに投げ渡す。

 

「其奴が手掛かりなら持ってっていいぞ」

「い、いいんですか?」

「勝手についてきて困ってたところだ」

「モキュウ………」

「あ、悲しそう………」

 

 勝手についてきたと言われ落ち込む小さいキュゥべえ。

 

「そういえば、この子はなんていうんですか?」

「…………名前?」

「キュ!」

「……………チビとかシロスケとかガキとかで通じる」

「モキュゥ……………」

「あの、じゃあこの子の名前、決めてくれませんか?」

 

 ずっとこの子と一緒にいたこの人に名前を決めてほしい。この子も懐いているようだし。

 

「キュウウ………」

「う………いや……ういべえ」

「ういべえ?」

「何か関わりがあると思うんだろ?」

「そ、それは………そうですけど」

「モッキュ! モキュキュィ!」

 

 喜んでるみたいだから、いいのか?

 

「でぇ? 色々噂を聞く貴方は一体何者なのかしらぁ?」

 

 と、みたまが白い魔法少女に問いかける。いろはも気になる。小さいキュゥべえ………ういべえと一緒にいてくれたみたいだし。

 

「俺の名はごんべえ」

「ごんべえ? まるで男の子みたいな名前だなぁ」

「まるでも何も、俺は男だ」

 

 ももこの言葉に白い魔法少女、ごんべえは何言ってんだと言いたげな顔をする。

 

「………………え?」

「………………………は?」

「…………………………………………えぇ!?」

 

 みたま、ももこ、いろはの順番でその言葉を理解してを見開く。

 

「え、え……おと…………ええ!?」

「男の子の、魔法少女………え、ていうか魔法少女なの?」

「さあ? ソウルジェムは持ってるが、変身出来ねえし」

「ソウルジェムを持ってるってことは、何か願いを叶えたの?」

「知らん」

「知らんって……まさか、誰かから奪ったのか?」

「それも分かんねぇな」

 

 睨み付けてくるももこに曖昧な言葉を返すごんべえ。はぐらかされているのかと、眉根にしわを寄せる。

 

「名前や知識はあるが………他は知らん。記憶喪失なんだ、俺」

「記憶喪失?」

「この町に居た以上この町かその周辺に関係あるんだろうと探っちゃいるが、収穫は無し。ういべえや他のガキに絡まれて禄に進まねえ。ういべえは任せたぞ」

「モキュゥ?」

 

 行っちゃうの、と言うようにごんべえを見つめるういべえ。ごんべえはふん、と鼻を鳴らす。

 

「ガキの世話ほど面倒なもんはねえよ。お前が勝手についてきただけだろうが……ああそうだ、これそいつのお気に入りのブラシ。毛づくろいはこれでしてやれ」

 

 いろはにブラシを渡すとじゃあな、と出て行くごんべえ。

 

「…………世話してんじゃん」

 

 ももこは呆れたように呟く。

 

「まあ、悪いやつじゃないのかな?」

 

 

 

 

「さて今日はどうするか………動物は消えたし」

 

 ネットカフェか何処かに泊まるか。いや、別にういべえは一般人には見えないのだが。

 

「そこをなんとか……!」

「ん?」

「そうはいっても、私達にもお金が………」

「分割払いで良いんです! 助けると思って………貴方達の生活にも役に立ちますし、ね?」

「貴方……こんなに必死なんだし………」

「ううん、そうだな…………」

「すいません警察ですか? はい、住所は」

「っ!!」

 

 ごんべえの言葉に男は慌てて走り去った。困惑する夫婦。

 

「どうも、桐野ご夫妻」

「あ、ああ………こんにちは。君は………紗枝の知り合いかな?」

「いいや? まあ先日バイトしてたのは見たが」

「ああ、そうなんだ。あの子は何時も………私達もいつも迷惑ばかりかけていてね…………なんとかしてあげたいんだが」

 

 口惜しそうに言う男。娘に迷惑をかけてしまっているのを申し訳なく思っているのだろう。思っているだけのようだが。

 

「ちょうどいい話がある。取り敢えず一万円俺に寄付してすみかを提供してくれないか?」

「え、それは………」

 

 突然の金の催促に困惑する男だったが、妻が肩に手を置く。

 

「貴方、その……住処って……………ひょっとしてこの子、住む家もないんじゃ」

「…………」

 

 ハッとごんべえをみる男。そして、心配そうな顔で2万円ほど渡す。

 

「………もし、大変だったらうちに来なさい。一人ぐらいなら大丈夫だから」

「………………ありがとう」

 

 そう言うと去っていくごんべえ。

 

「…………良い奴等………というか、最早馬鹿だな。自分達だけ苦しんで周りが幸せになるとでも思ってんのか?」

 

 しかもその「自分達」の枠組みに家族を入れていることにも気付いていない。

 

「ま、俺には関係ねえ…………パチンコにでも行くか」




ごんべえ
記憶喪失の魔法少女(?)♂。
向こう側が透けて見える無色のソウルジェムを持っているが変身した記憶はない。
ういべえがついてくる間はギャンブルをしなかった。ペチペチ叩いてきて鬱陶しいのだ。

どこから来たごんべえ?

  • 神浜在来種(みかづき荘)
  • 神浜在来種(調整屋)
  • 神浜在来種(ママミ魔法少女)
  • 黒江ちゃんと一緒にくる
  • いろはちゃんと一緒にくる
  • 見滝原からこんにちは
  • 何故か病院を拠点にしてた
  • 何故か人型

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