桐野紗枝は南自由学園では知らぬ者のいない人気者。良家の出でありながら決して傲らず、誰にでも分け隔てなく接する。成績も優秀、家庭教師だってできる。男も女も彼女に憧れる…………表向きには。
実際は家は貧乏で借金だらけ。悪人ではないが人が良すぎる両親が詐欺にあったり人に貸したりしてしまうからだ。
だから紗枝も働いて金を稼いでいる。今日もバイト帰り……。
「ああ、おかえり」
「うん、ただいま」
「なあ兄ちゃん、俺唐揚げがいい!」
「私、私オムライスがいい!」
「ちょっと、迷惑かけないの。少しでも節約……………ん?」
と、今の会話に違和感を覚える。
「小麦粉取ってくれおばさん」
「はい。それにしても、本当に良かったの?」
「宿代は払うさ」
知らない誰かが居た。
真っ白な髪を赤いリボンで纏めた中性的な………美少女……?
口調は荒いが、巻いているリボンは女物。ならやはり少女? いや、というか……
「誰!?」
「ごんべえだ」
「だから誰よ!?」
名前からして、男? 見覚えがない。中学生ぐらいだろうが、中等部の後輩でもない。というか後輩を家に誘えるわけがない。
「おかえり紗枝。その子は、ごんべえ君だ。訳あって住む家がないらしくて、暫く家に泊めようかと………」
と、父が言う。その目に解ってくれるだろ、という色が宿るのを見て紗枝は怒りが湧くが堪える。そして怒りを向けるのはごんべえだ。
「この家を見ればわかるでしょ? 私達だって大変なの! 家出なのか、本当に家族がいないのかわからないけど他人を世話する余裕なんて──」
「ああそうだ、これ今週の宿代12万」
「いらっしゃいませ。狭いところだけどこれからよろしくね!」
渡された現金を見て反射的にバイトなどで浮かべる笑みを浮かべた紗枝は、しかしハッと正気に戻る。
「って、そうじゃなくて………そんなにお金があるなら………」
「俺みたいな奴が一人で宿やネカフェに泊まり込めると思うか?」
見た目は中学生程度。そんな人間が、長期休暇でもない時期に泊まり込んでいたらそれはもう目立つだろう。何なら補導もされるかもしれない。
「それに元手はお前の父親が俺にくれた金だ。それを増やしただけだしな」
「そんな方法があるのかい?」
「っ!!」
やはり詐欺かと警戒する紗枝。これから金を増やす方法を教えるとでも言うつもりかと魔力を巡らせ………
「どうせ
「え………」
しかし紗枝の考えはあっさり否定された。
「俺は自分に出来ることと他人に出来ることを混同しない。そういう意味じゃ、この家の娘がお前だったのは好都合」
そう言ってごんべえが中指にはまった指輪を見せてくる。ソウルジェムの指輪状態。魔法少女の証…………!
「お前個人に頼みたい事がある」
「………………」
中々面倒くさいことになった。紗枝は指輪となったソウルジェムをはめた指を、片手で抑えた。
その夜、両親も寝静まったのを確認して客間に向かう紗枝。そっと扉を開ける。
「漸く来たか………」
「…………なんで、この子達が?」
弟達と妹が布団で寝ていた。毛布をかけられている。疲れた様子のごんべえが音を立てぬようにそっと起き上がる。
「何故かガキに懐かれる。この前あった女は俺が子供好きだからだなんだと適当なこと言ってたがな」
「………………」
追い出さなかったり布団に寝かせてあげたり毛布を被せてあげたりと、普通に子供が好きなのでは? 紗枝は訝しんだ。
「この子達寝かしつけるの、大変だったでしょ」
「いや、シロスケにも歌ってやった子守唄歌ったら寝た」
子守唄を歌ったり、やはり子供好きなのでは?
取りあえず子供部屋に移動する。今は誰もいないからだ。
「それで、私に何をさせたいの?」
「お前の固有魔法は色々使えそうだが、まあ今回は戦力として雇いたいんだよ」
「…………戦力?」
「この町で調べごとをしたいんだが、どうにもキナ臭い。魔女が集まりやすい環境、魔法少女が生まれやすい環境だとしても限度がある」
「………………」
良く分からないが、自分以上に魔女や魔法少女について知っているのだろう。
「私だってバイトがあるんだけど? 自分で戦えばいいじゃない、魔法少女なんだから」
「実は記憶喪失でな、変身の仕方忘れた」
「………………」
胡散臭い。
変身の仕方を忘れたってなんだ。
「だから、俺と契約してくれ………」
「だから、バイトが…………」
「時給1890円。使い魔戦闘一度に付き1万、魔女一匹に付き最低2万、強さにより要交渉」
「精一杯働きます!」
次の日、スクラッチで30万ほど手に入れるごんべえ。紗枝が先程使い魔と戦闘したので1万を渡した。
「全部4等………一等も当てられるんじゃないの?」
わざわざ店員に上から何枚目だの細かく指示していた。どれが当たりか解るのだろう。そういう固有魔法?
「当てたところで預ける先がねえからな」
アイスを2つ購入し、渡してくる。近付いてくる子供達に飴を撒いて子供達を撒く。本当に子供に懐かれるんだ。
「それで、調べごとって?」
「俺の記憶喪失の理由」
「そんなのどうやって調べるの」
「関わってる可能性が高いのはあれだ………」
そう言ってごんべえが姦しく話す少女達を指差す。
「?」
「右から二番目。よく見てみろ………
「え…………」
絶交ルールのそのウワサ
知らないと後悔するよ?
知らないと怖いんだよ?
後悔して謝ると、嘘つき呼ばわりでターイヘン
怖いバケモノに捕まって 無限に階段掃除をさせられちゃう!
ケンカをすれば一人は消えちゃうって
神浜市ではもっぱらのウワサ
オッソロシー!
「……………何、あれ」
人に紛れ人と話す異形。一度気付けば、辺りに紛れる異形達。人々に様々な噂を語り、その異様さに誰も気付かない。
ごんべえが横を通り抜けた一団に紛れていたそれを殴り殺すと彼等はそれに気づいた様子もなく通り過ぎた。
「俺はキュゥべえに会ったことがねえんだ。少なくとも記憶の上では」
「………?」
「つまり俺が記憶喪失になった時期とこの町からキュゥべえが消えた時期は近いってことで、この町の明らかな異変はあれ………噂を広めてたし、ウワサ……は、混同しそうだな。ウワサ………広める……イドバタとでも呼ぶか」
そしてそのイドバタが広めている噂。わざわざ広めるぐらいなのだから、なにかあるのだろう。
「つーわけだ桐野紗枝。誰か適当な友達と絶交して仲直りして…………いや、やはりいい」
友達と絶交と言われ僅かに顔色を変えた紗枝を見て言葉を切るごんべえ。と………
「あら、貴方は………」
「この前の………」
ごんべえを見て一人の少女が声をかける。相手は、紗枝にとっても見覚えがある相手だった。
「真里愛さん………」
「あら、桐野さん?」
「……知り合いか?」
「ええ………真里愛さんも?」
「うわっ………」
ニッコリ微笑みを浮かべる紗枝に思わず本音が出掛けたごんべえはしかし速攻で事情を察し言葉を止めた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。由貴真里愛です」
「ごんべえだ」
「ごんべえさんですね。よろしくお願いします………それで、こちらで何を?」
「あー………真里愛、今から俺と絶交してくれ」
「絶交…………ひょっとして絶交ルールについて調べてるんですか?」
真里愛も噂を聞いていたのかごんべえが調べていることを当て、何処か困ったような顔をする。
「………ごめんなさい。おふざけでも、それはできません。バイト先の学童保育で、喧嘩した子達が………」
「すまん」
「いえ………」
少なくとも噂が本当かどうかはともかく、噂に似たような状況になったのだろう。
「なら、その子供を探すためにお前も来るか?」
「え、ですが…………その…」
と、紗枝を見る真里愛。
「魔法少女の事情に関しては俺も知っている」
「え……!? そ、そうですか…………」
なら、と真里愛は笑みを浮かべた。
「…どの道、手かがりもありませんし。ご一緒してもよろしいですか?」
「誘ったのは俺だ」
「うん。私も構いませんよ」
そして魔法少女を二人連れ、ごんべえは噂を探して歩き出した。
美少女二人を引き連れた男。
ただし周りから見たら美少女3人組にしか見えない。
どこから来たごんべえ?
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神浜在来種(みかづき荘)
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神浜在来種(調整屋)
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神浜在来種(ママミ魔法少女)
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黒江ちゃんと一緒にくる
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いろはちゃんと一緒にくる
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見滝原からこんにちは
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何故か病院を拠点にしてた
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何故か人型