性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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謝るべきは俺だ

 噂を探して数日。行方不明になった被害者の喧嘩相手にも聞き込みをしてみたが、皆一様に謝った相手が突然消えたと零す。そのうち何名かが鎖の音を聞いた、と。

 

「私の……私のせいなんです。私の!」

「仲直りしたいにせいもクソもあるか、その鎖の化け物が悪い」

「でも………」

「はぁ………ウザってえ。何も出来ねえからって一々自分を責めたって、結局何も変わらねえだろうが。無駄な時間過ごす暇あんなら有意義に時間使え」

 

 その物言いに相手は固まり、真里愛も眉根を寄せる。

 

「出来ねえ事はできねえ、それこそ奇跡にでも縋らねえとな。んで今、この町でそれが出来ない。ならせめて待ってろ」

「……待つ?」

「戻ってくるのを。んで出迎えてやれ………」

「…………戻って、来るんですか?」

「さてな………少なくとも俺達は、元凶の鎖野郎を探してる。見つけたらお前の前に連れてくるのは無理でも、まあお前の代わりに殴っといてやるよ。情報料にゃちょうどいい対価だ」

 

 個人的に用がある以上、彼女の情報と鎖の化け物の発見において得をするのはこちらのみ。ならば彼女の代わりに鎖の化け物に一発くれてやると誓うのは、捕獲か討伐が決まっていない今なら対価としては十分だろう。

 

「…………はい、よろしくお願いします」

 

 

 

「普通の人間には姿が見えない、ね。やはり魔女か使い魔か?」

「でも、結界内で特定の行動を嫌う魔女はともかく特定の行動に反応してどこにでも現れる魔女なんて聞いたことないわ………」

「じゃ、魔女じゃないんだろ」

 

 真里愛の言葉にあっさり返すごんべえ。広げた神浜の地図に印と時間を付けていく。

 

「人通り、時間は無関係。ただただ行動に対して動く。ああ、そりゃあ魔女じゃねえな……というか噂を流している彼奴等も使い魔じゃねえし」

 

 ごんべえにより『イドバタ』と名付けられた人型が人に混じり噂を流している。結界の外に出た使い魔のようにも見えるが…………?

 

「あれは魔法少女の魔力で作られてんな。よほどグリーフシードを持ってるのか、外付けのエネルギーを用意したか知らんが」

「魔法少女? 一連の出来事が、魔法少女の仕業!?」

「ああ。だがこの『具現』…………?」

 

 と、目を細め考え込むごんべえ。すぐに頭をガリガリとかく。

 

「だめだ、情報が足りねえ………」

 

 推測はできるが確信がない。と、いろはとういべえを脳裏に過ぎらせる。世界から消えたいろはの妹。この町を取り巻く魔法。『具現』の力を使った『イドバタ』達……異様に多い魔女………これが意味することとは?

 

「きゅう!」

「ん?」

 

 と、聞き覚えのある鳴き声と共にごんべえの頭に乗っかる小さな白い影。

 

「ちっちゃいキュゥべえ?」

「キュッ?」

「まあ、可愛い」

「モッキュ!」

「こら、ういべえ! すいませ……ごんべえさん!?」

 

 紗枝が訝しみ、真里愛がコテリと首を傾げる様子に微笑み、慌てた様子でやってきたのはいろは。思いがけぬ再会だ。

 

「ういべえ、ほら降りて」

「キュゥ!」

 

 いろはの言葉にヒシッと小さな四肢でしがみつくういべえ。

 

「おりろチビスケ」

「キュップイ!」

 

 と、ごんべえの言葉にプイと顔をそらすういべえ。

 

「……………おりろ、ういべえ」

「モキュ!」

 

 名前を呼ばれたらあっさり降りた。

 

「ブラシはあるか?」

「あ、はい。これですよね………?」

 

 いろはが鞄から取り出したブラシで膝の上で丸くなるういべえの毛づくろいをしてやるごんべえ。紗枝と真里愛は困惑し、いろはがハッと気付く。

 

「あ、あの。はじめまして、環いろはです!」

「いろはちゃんね。私は由貴真里愛、よろしくね」

「桐野紗枝。よろしく、いろはちゃん」

 

 人見知りなのかそのままごんべえに助けを求めるように視線を向けるいろは。

 

「いろはは妹を探しにこの町に来たそうだ。心当たりはないか?」

「妹さん? お名前は?」

「ういって言います。えっと、私に似てるけど……私より、可愛くて…………その……」

「あなたも十分可愛いよ。写真とか、ないの?」

「あ、その……………」

 

 無い。

 痕跡は完全に消え失せ、ういの事はいろはの記憶の中にしか存在しないのだ。

 記憶を頼りに病室に向かってみたが、妹の友達だった二人も居なかった。何処に居るか知らないか尋ねても、家族じゃないからと教えてもらえなかった。

 

「それって………その…………貴方の記憶が偽物の可能性は……いえ、ごめんなさい」

 

 言葉を選びきれず結局謝る真里愛。偽の記憶と聞いて紗枝が僅かに反応した。

 

「そんなこと……!」

 

 この思いは嘘なんかじゃない。

 そう叫びたくても、しかし事実として証拠はいろはの記憶の中にだけ。

 

「………ごんべえさんもやっぱり、ういなんて居ないと思いますか?」

 

 誰も覚えていないのに、自分だけが思い出せたなんて、そんな都合のいい話があるのだろうか?

 

「人の心ってのは、時に因果すら凌駕する。お前の妹へ想いが強けりゃそんなこともあるだろう」

「ういは、居るのかな……」

「まずはお前が信じてやんな」

 

 今この世界において、環ういが居たと確信できるのはいろはだけなのだ。そのいろはがやっぱ居ないと疑ってしまえば、誰も信じてやることはできない。

 

「少なくとも、お前が信じてる限りは俺も信じてやるよ」

「ごんべえさん……うん、ありがとう。私、やっぱり信じる………ごんべえさんが、信じてくれるなら」

 

 だからいろはが信じている間は環ういの存在を信じてやるというごんべえに、いろはは安心したように微笑んだ。

 

「モキュモキャッウ」

「俺がなんだって?」

 

 呆れたように鳴くういべえの額をごんべえが指で突く。ういべえはごんべえの膝から逃げるといろはの膝に移った。

 

「……………その小さい子キュゥべえって、何なの?」

「えっと………私にもよく解らなくて。ただ、この子のお陰でういの記憶を取り戻せたんです。えっと………私に会う前は、ごんべえさんが世話をしてました」

「ごんべえさんは知ってるんですか?」

「いいや…………中身は想像つくが、そいつ自体は良く知らん。まあ、迷子だ………少なくともこれのデカいのと違って害はねえよ。なんの機能も持ってないからな」

「キュウ?」

「ついでに知性も足りてない」

「モッキュウ!」

 

 と、ごんべえの言葉に憤り跳ねるういべえ。

 

「ゴンベエシスベシモッキュー!」

「ほれ……」

「モナッキュゥー!」

 

 ごんべえに飛び掛かってきたがモナカを投げると飛び付きサクサク食い始めた。

 

「食うか?」

「あ、ありがとうございます」

「いただきます」

「ありがとう」

 

 ごんべえが人数分出したので全員受け取る。

 

「………あの、皆さんは魔法少女、ですよね?」

 

 ういべえが見えているし、そうなのだろう。二人もうなずいて肯定した。

 

「えっと………何をしてたんですか?」

 

 何やら地図に印や時間が書かれているが………。

 

「絶交ルールの噂について調べてた」

「え、ごんべえさん達も!?」

「…………情報の交換と行こうか」

 

 

 

 

「ごめんなさい………」

 

 ごんべえ達に情報は増えず、いろはだけが新しい情報を得る結果となって落ち込むいろは。ういべえが慰めるように肩に乗り頬にぷにっと触れる。

 

「ここ数日、何やってたって話ですよね………あはは」

「卑屈になるな。有能な人間と無能な人間は確かに存在する」

「慰めてません〜!?」

「気にしないでいろはさん。ごんべえさんは、根は優しいの。本心じゃないわ」

「うん。それに、他の魔法少女が絶交したって話は、聞けてよかったと思うしね」

 

 ごんべえの代わりに真里愛と紗枝が慰めた。

 

「取り敢えずその二人に気を使ってやれ」

「はい! あの、ごんべえさん。また、会ってくれますか? ういべえも懐いてるし」

「モキュ!」

「…………まあ、完全に無関係とも限らんからな。構わん」

「ありがとうごさいます!」

「…………………」

「あ、あの………」

 

 笑顔を浮かべるいろはを見て、何か考え込むごんべえ。何かしてしまったかと慌てるいろは。

 

「お前、昔俺とあったことあるか?」

「え? いえ、神浜市が初めてだと思いますけど………」

「そうか、ならいい」

 

 記憶を失う前の知り合いの誰かにでも似ていたのだろう。

 

 

 

 

「うっるせぇ、バーカ!」

 

 そんな子供じみた叫び声と同時に曲がり角から飛び出してくる人影がごんべえにぶつかりそうになる。

 

「うわっ!?」

「とっ………」

 

 既のところで回避し、目が合う。

 

「兄ちゃん!」

「フェリシア?」

 

 金髪の中学生ほどの少女。

 

「どうかしたのか? 喧嘩してたみたいだが」

「ななかの奴がうるせーんだよ………」

「ななか?」

 

 その言葉に顔をあげると少女の集団。全員魔法少女だ。

 

「あの魔女はオレが先に見つけたんだ!」

「ちょっ! フェリシアちゃん、一般人を前に………!」

 

 大人しそうな少女が慌てる。ごんべえは見た目から性別は判断しにくいが、兄ちゃんと呼ばれていたなら男。つまり魔法少女じゃない筈なのに魔女の単語を………!

 

「へへん、兄ちゃんを甘くみんな! 魔女や魔法少女の事を知ってんだ! ちょーせーだって出来るんだぜ!」

「調整?」

 

 内面を知られたくない故に調整に赴けない紗枝が反応した。今日何度目だ。

 

「え、でも…………お兄さん………えぇ?」

「細かいことは気にするな。で、何があった?」

「魔女の気配を追ってきたのですが、フェリシアさんとかち合いになり……」

 

 そのままフェリシアが結界内に飛び込んでしまい、しかし使い魔が多かったのか魔女が強かったのか苦戦していたようで魔法少女達が飛び込み助けたのだが、その際にフェリシアが暴れたらしい。

 

「あんな魔女オレ独りで十分だったんだ! 魔女はオレが全部ぶっ殺すんだ!」

「成る程………ええっと」

「ななかと申します。常盤ななか、どうぞよろしく」

 

 丁寧にお辞儀する眼鏡の少女。育ちがいいのが所作で分かる。

 

「迷惑をかけたな常盤ななか」

「んな!? 兄ちゃん、そいつの味方するのかよ!?」

「そういうつもりはねえよ」

「じゃあどういうつもりなんだよ!? 迷惑かけられたのはオレの方だっての!」

 

 ガーッと叫ぶフェリシア。ごんべえが味方してくれなかったのがよほどご立腹のようだ。

 

「まあ聞けフェリシア」

「うるせえうるせえうるせえ! オレは悪くないんだ! んで解ってくんねえんだよ!」

「フェリシア………」

「絶交だ! 兄ちゃんなんか絶交してやる!」

「……………」

 

 その言葉にごんべえは紗枝達に振り返り唇に指を当てる。この状況を利用する気なのだろう。

 

「フェ、フェリシアちゃん………」

「んだよ、かこ。オレは……」

「フェリシア」

 

 と、ごんべえがフェリシアに視線を合わせるように屈む。

 

「な、なんだよ……」

「俺が魔女結界に飛び込んだら、お前はどうする? もう絶交したら放っておくか?」

「……………兄ちゃんには借りがあるし、別に……一回ぐらいなら助けてやっても」

「俺がそれを邪魔だと言ったら?」

「はあ!? 兄ちゃん弱っちいのに、なんでだよ!?」

「心配か?」

「当たり前だろ!」

「少なくとも、そいつ等もそうだった」

 

 と、視線をななか達に向ける。青髪は「私はしてないヨ」と顔をそらしたが銀髪とななか、先程の気弱そうな少女はフェリシアを真っ直ぐ見つめる。

 

「…………でも、オレ強いし」

「なら、俺も強けりゃ魔女と一人で戦ってよかったか?」

「………………………」

「……ほら、あの子達に何ていうか解ったか?」

「…………………ん〜………あ〜……………! ごめん!」

 

 と、投げやりながらも謝るフェリシア。

 

「はい。その謝罪、受け取りましょう。深月さんのお兄様も、ありがとうございます」

「礼は良い」

「兄ちゃん、俺………」

「待て」

 

 フェリシアがごんべえに謝ろうとするが、ごんべえが静止する。

 

「謝る必要はない。というか、謝るな。謝るべきは俺だ、いやマジで」

「はあ? 何だそれ………」

「うん。先に言っておく、何が起きても気にするな。お前のせいじゃねえから…………ほんと、悪いな」

 

 瞬間、空気が変わる。景色が塗り替えられる。

 

「魔女の結界!? でも、魔力が………!」

「来るぞ」

 

 と、ごんべえがフェリシアの体を押しその場から飛び退く。何かが通り抜けた。

 

「使い魔!?」

 

 鎖と赤い糸の絡みついた宙に浮かぶ南京錠。

 

『|『』『』『』!!|』

 

 妙な鳴き声をあげごんべえに迫る。一匹二匹ではない。複数匹。

 鎖や糸を伸ばしごんべえの身体に絡みつく。

 

「こんの! 兄ちゃんから……!」

「ちょ、フェリシア! お兄さんごと潰しちゃうよ!?」

「──!?」

 

 その言葉に慌てて止まるフェリシア。気弱そうな緑髪の魔法少女が凹型の金属プレートがついた槍を振るおうとするも、結界が解け使い魔が消える。ごんべえの姿とともに…………

 

「…………兄ちゃん? おい、兄ちゃん!? 何処だよ、返事しろよ!」

 

 

 

 

 

「魔女じゃねえな、やはり」

『|ラ↑ン↓ラ↑ンラ/!!|』

 

 アーチにぶら下がった巨大な鐘が不快な音を響かせる。脳を揺さぶるような音を、しかしごんべえは気にした様子もなく辺りを見回す。噂通り階段を掃除する人影がチラホラ。

 

『!?!??|ラ↑ン↓ラ↑ンラ/!!!|』

 

 ごんべえが一向に洗脳されないことに気付き動揺したようにけたましく身を鳴らす絶交階段のウワサは、やがて異分子と判断したのか南京錠をけしかけてくる。洗脳された人間達も。

 

「鬱陶しい」

 

 数が多い。逃げ続けるのは現実的ではない。

 

「っ!」

 

 近くの人間を気絶させようと蹴りを放とうとし、着ている制服が先程情報提供してもらった少女と同じことに気付き一瞬固まるごんべえ。

 ゴッと頭に南京錠が当たる。血が流れた。

 洗脳された人間達が倒れたごんべえを何度も何度も踏みつけてくる。

 

(……本当に面倒だな)

 

 一撃一撃は何なら素面の人間以下とはいえ数が多い。時折ぶつかってくる南京錠も、ボウリング玉ぐらいはあるのではなかろうか。

 一気にぶっ殺す………は駄目。何か拘束する方法があれば……………

 

「────レガーレ・ヴァスタアリア」

 

 無意識に呟かれた言葉。瞬間、無数の()()()()()が現れ人間も南京錠も拘束していく。

 

「………何だ今の?」

 

 起き上がり、首を傾げるごんべえ。無意識にでた言葉、無意識に発動した魔法。これが自分の力? いや、なにか違うような?

 絶交階段のウワサは配下が拘束されたのに動揺するように身を震わせ……………

 

『────────!!』

「は?」

 

 急に平静を取り戻し何処かに向かう。

 何だ今の? 動揺も、恐怖も、何もかも忘れたかのように機械的に何処かに向かった。

 結界が移動する。別の獲物でも見つけたのだろうか?




・ごんべえヘアー
色素が一切ない純白の髪。手入れは一切しなくても常にサラサラツヤツヤ。普段は赤いリボンで纏めている。

・ごんべえアイズ
真っ赤な目。ジト目で気味で人を嫌って睨んで来ているように見えるが人類全体は嫌っていても個人個人を理由なく嫌うことはない。

・ごんべえファング
とても鋭い。筋張った肉も簡単に噛み千切れるが、肉食性ではなく雑食性のようだ。うっかり舌噛むとヤバい。

・ごんべえマフラー
時折ういべえが入り込む。夏は通気性に優れ冬は保温性に優れる。かなり丈夫で先端の輪っかを引っ掛け移動手段にもできる。

・ごんべえポッケ
飴やチョコなど小さめのお菓子が入っている。

・ごんべえフード
ういべえのお気に入り。某猫型ロボットを思わせる収納で菓子折り、バールのようなもの、ノート、他にも様々なものが保管されている

・ごんべえボイス
皆さんの認識によって変わる

・ごんりんがる
地球上に存在する過去現在はもちろんあらゆる国の言葉、現状地球上に存在しない言葉も操る。後ういべえの言葉も解る。

どこから来たごんべえ?

  • 神浜在来種(みかづき荘)
  • 神浜在来種(調整屋)
  • 神浜在来種(ママミ魔法少女)
  • 黒江ちゃんと一緒にくる
  • いろはちゃんと一緒にくる
  • 見滝原からこんにちは
  • 何故か病院を拠点にしてた
  • 何故か人型

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