「貴方も人類に裏切られたじゃない。遭いして、相して、愛してあげたのに、教えられた言葉を変え、教えられた知識を歪め、殺し合い憎み合い奪い合って………」
「ずっと見てきた。こんな悲しい世界を作ったのが誰かって……ええ、最初は許せなかった。でも、これは貴方が望んだ世界じゃない」
「裏切られて忘れられて、誰もがあなたを置いて行く」
「私と一緒に来て? 何もかもなかったことにしよう? 話し相手には、私がなってあげる」
「貴方が嫌い! 大嫌い! 貴方が居たからこんな世界に! 貴方が居なかったから私達が! 貴方が居れば、私も■■ちゃんも!」
「違う違う違う違う! これは違う、この私じゃない! 私に関係ないのに!」
「どうして………どうしてこの世界の私達の前には現れてくれなかったの?」
「とまあ、彼に言い寄る女が現れるって聞いてね」
「現れる、ですか? 現れた、じゃなくて? え、というかそれ言い寄られてるんですか?」
「知り合いに未来予知の魔法少女が居るんだ」
水名区の噂を調べていると偶然出会った呉キリカと話し合うことになったいろは。どうもこの町に用事で出掛けた知り合いが帰ってこず、仲間の魔法少女に未来を予知してもらったところ女に言い寄られる未来が見えてすっ飛んで来たらしい。
「その変わったキュゥべえは、他にどんな特徴があるんですか?」
「ん〜。そういえばシロマル達とは呼び名が違うらしいね。私はごんべえって最初から呼んでるから気にしたことないけど」
「ごんべえ………?」
「何か知ってるの!?」
キリカの出した名前に反応するいろは。キリカが物凄い力で肩を掴んできた。
「いたた! 痛いです! 違います! 男の人、同じ名前の男の人です!」
「………男の、人? ………人間?」
「はい………」
「なぁんだ」
先程までの慌てようは何処へやら。あっさり手を放すキリカ。
「そ、そのごんべえが本当に大好きなんですね」
「好きなんてものじゃないよ。私のこの愛は!!」
「なんでここで愛!?」
「私にとってごんべえは全てなのさ。彼の為ならなんだってするし何だって捨てる。いろははどうなの? その人間のごんべえを愛してるのかな?」
「ええ!?」
突然の愛してるかという質問に顔を赤くするいろは。そういった会話をする相手が今までいなかったのだ。
「あ、愛とかそういうのじゃ………その、ごんべえさんは私を信じてくれて、それが嬉しいのはあるんですけど」
確かな証拠もなく、記憶にしかいないういの存在を真っ先に信じてくれて、自分すら疑いそうになった時も信じろと言ってくれた。そこに感謝の念はあるが………
「まあいろははまだまだお子様みたいだしね。何時か愛を知る日が来るよ。願わくば、それが叶うことを」
「そ、そんな。いきなり恋人なんて」
「あはは。恋だけが愛じゃないさ………それもそのうち知ると良いよ」
そう言い残すとキリカは去っていった。
「………愛、かぁ」
愛する存在としてまず浮かぶのはうい、灯花、ネム。それから両親。キリカが言ってるのはその愛ではないのだろうが。
キリカと別れた後、みたまにもらった助言に従い歳の近い水名女学院の生徒に話を聞こうとしたいろは。
「あれ、いろはちゃん」
「あ、紗枝さん………」
ということは当然。
「ご、ごんべえさん………」
「ん?」
先程のキリカの言葉のせいで妙に意識してしまう。と………
「モッキュ! モキュキュキュ」
「ああ、年頃だものな」
「う、ういべえ!? まさかあのこと言ったの!?」
ういべえの言葉に納得したように頷くごんべえ。自分の言葉が解るごんべえに、ういべえがあの恥ずかしいやり取りについて話したのだろう。
「え〜、何の話?」
「恋バナ」
「そっか。いろはちゃんもそんな年かぁ」
「うぅ………」
紗枝の言葉に真っ赤になって俯くいろは。恥ずかしいので、話を逸らすことにした。
「お二人は、この辺りでなにか噂を聞きましたか?」
「いや、来たばかりだ」
「今はごんべえの手伝いをしてるけど、それはそれとして私にも外せない用事とかあるからね」
「道中見た変なのといえば、『水をくれ』と叫びながら走り回っていた男が突然の事故で飛んできたタイヤに吹き飛ばされて飲食店の水槽に突っ込んでその際フィルターのケーブルが切れて感電したのか」
さらに言えばフラフラと立ち上がった男は『水、早く水を……』と呻きながら何処かに向かおうとし、ビルの看板が落ちてきて首の骨が折れて死んだ。流石にここまでは語らない。
「な、なんかその人ついてませんね。そんなに喉乾いてたのかな?」
「さて、何か別のウワサでも絡んでいたのか…………」
資金集めにパチンコやっていたごんべえの隣の台でごんべえにも負けず劣らず稼いでいた。そしてごんべえが去った後、慌てて追いかけて来て水を強請った。
もちろん何も知らないと返すごんべえにナイフを向けてきたが、相手が悪かった。
「いろはは何処まで知ってるんだ?」
「神社関連の噂があるってことは」
「ああ、口寄せ神社の噂か………」
と、いろはに口寄せ神社の噂について話すごんべえ。
「会いたい人に、逢える…………!」
もしかしたら、ういとも!? といろはの胸に期待が灯る。
「その神社の場所は!?」
「それを今から調べるんだ」
「…………あ」
しゅん、と落ち込むいろは。折角ういに関して何か掴めるかもと思った矢先にこれである。
「もう! 誰かウワサについて調べてる人いないのー!?」
「ここにいるぞー!」
「「え?」」
「ん?」
と、いろはの叫びに返答が帰ってきた。振り返るとサイドテールの少女が満面の笑みで片手を天に向かい突き上げていた。
「うわさの事なら、最強の魔法少女、由比鶴乃にお任せだーー!!」
「え、えぇ、誰!?」
「さてさて、何について教えてほしい? なーんでも教えちゃんよー!」
妙に明るく親しげに絡んでくる由比鶴乃。ごんべえは今も外行きの仮面を被った紗枝を見て、もう一度鶴乃を見る。
「…………そっくりだな」
「え、何が?」
紗枝もおそらく気づいているのだろうが、気付かぬふりして首を傾げた。
「ウワサはね、好奇心で調べたら危ないよ! 特にウワサと違う行動を取るのはぜーったいに駄目だからね!」
「あの、その辺りはもう………」
「ウワサを消そうとするのも、ぜーったいに駄目だよ。だって、変な化け物が出てくるから。出てきたらとっても大変だよ? とーってもだよ!」
「いや、その辺は知ってる。この前攫われたし」
と、ごんべえが言うと鶴乃はえぇ!? と大袈裟に驚く。
「大丈夫だったの!? って、大丈夫だからここにいるんだよね!? じゃあねじゃあね!」
ごんべえの体をペタペタ触りながら一向に止まらない由比鶴乃。ごんべえがその額を指で打つ。
「あぅ!?」
「こっちの話聞けや」
「ほへー、消えた記憶と、妹さんを探してウワサを……」
「そうなんです。環ういって名前なんですけど、知りませんか?」
漸く人の話を聞いた鶴乃はうーん、と唸る。思い出そうとしてくれているのだろう。
「んーー、やー、知らないなぁ」
ネムと灯花についても聞いてみたが、知らないらしい。
「そうだ、いいこと思いついた!」
「良いこと?」
「口寄せ神社って噂、知ってる!?」
「「「………………」」」
三人はお互いの顔を見合わせた。
「会いたい人に会えるんだって。だからね、一緒に探そう!」
「…………一緒に?」
「うん! 私も探してるから………!」
つまり結局、進展はなしということのようだ。
「よろしくお願いしますね、由比さん!」
「!? なんで私の名前を? 最強の魔法少女だから?」
「あ、いえ。さっき自分で名乗ってましたよ」
「あれ、そうだっけ? えっへへへ……」
いろはの指摘に照れたように笑う鶴乃。
「えっと、私は環いろはって言います。からよろしくお願いしますね。由比さん」
「…………由比さんは堅いなぁ」
「ええ? じゃあ、鶴乃…さん?」
「……………うーん」
「鶴乃、ちゃん?」
「はい! 由比鶴乃です、よろしくね! いろはちゃん!」
「とまあ、こっちは由比鶴乃と組んだわけだが………」
『そうですか』
美雨の固有魔法を使い保護者同伴なし、住所記載なしのまま口座や携帯を手に入れたごんべえは、早速使いこなしていた。
『由比さんならば、実力的にも申し分ないかと。最強を自称するに相応しい実力を持ってますから』
「へぇ、誘わなかったのか?」
『お戯れを。私の大願を果たすためには、彼女は余りに綺麗すぎた』
「……綺麗、ね。まあ善性よりなのは否定しないが」
『…………?』
含みのあるごんべえの言葉に訝しむような息遣いが聞こえる。
「で、そっちは?」
『思い出鏡という噂を調査しています。幸せだった頃の記憶を写し………見続けると飲まれてしまう、と』
「どの噂にも人に害なすオチがあるのか。ま、魔女同様に人を喰らう性質をつけたいならそりゃそうだ………発見した場合討伐はするな。向こうから襲ってきた場合その限りじゃねえが、出来れば俺を呼べ」
『何故ですか?』
「『ウワサの核』を回収しておきたい」
と、片手で何やら宝石のようなものを弄ぶごんべえ。電話越しで見えないななかは暫く考えたあと、解りましたと肯定する。
「出来る限り性質について調べては欲しいが、まあ無茶はするな」
『ええ、そちらも』
通話を切り、弄んでいた宝石を見るごんべえ。
「自分の魂削ってまで、叶えたい願いでもあるのかね? 馬鹿らしい、それを奇跡に願えば良かっただろうに」
願わなかったならきっと、本当の願いは別にあったのだろう。
自身を削らねばあの程度の存在も実体化出来ない。
具現化を正しく理解できてないのだろう。恐らく願いが具現化の機能を得ること。
「そういう意味じゃあの女の方が上手…………あの女?」
知識を探る。知識の中にある。
嘗てインキュベーターの機能全てを手に入れた女。他の少女の魂を具現化することで魔法少女も魔女も戦力として手に入れていたイザボー・ド・バヴィエール……。
一体全体なぜそんな昔の人間の記録が詳細にあるのか、数百年前を極々最近と感じるのか。
「俺の過去、ね。思い出鏡………使ってみるか?」
冒頭の湿度が高い女は誰だろうね?
どうやらごんべえの秘密やごんべえが自分の下に現れていた場合を知ってるらしいけど誰だろうねー?
みたまルートが気になるという声があったので
『私が死ぬまで私から離れないで』
その願いにより自由を殆ど失ったごんべえはユラユラと尾を揺らしながら国づくりゲームで暇を潰す。
神様になって色々できるゲームだ。振興領域を他のプレイヤーと競い合うモードもある。自陣では様々なことが殆ポイント消費無しで行え、逆に敵陣営に隕石落としたり噴火起こしたり旱魃させたりはポイント消費が数倍になる。
『まあ向こうの責め方さえわかりゃ色々やりようはあるが』
領土を奪いに来た敵軍を砂漠エリアで砂漠系モンスターに襲わせる。生産力は落ちるが敵の進軍を阻みやすいエリアだ。
『あ〜、暇だな』
WINNERと文字が浮かび領土が増えた。カチカチ適当に操作していると戦争相手ということもあり不満度が高かったが、すぐに下がり忠誠度が上がっていく。
『そういや今町で何か起きてるんだったか』
ゲームのような規模ではないが、それでも組織だった動きがあるらしい。当然それに対抗する勢力も現れ始めるだろう。
『今の俺には関係ねぇけどなぁ………』
養われている…………というよりは監禁されているごんべえ。
ある少女の願いでごんべえが移動できるのは彼女の周囲か、部屋だけ。彼女が近くにいなければ部屋からも出られない。
場所は変わって彼女の仕事場。スマホを操作しながら動画を見る。猿が二足歩行で全力疾走していた。
「っ! インキュベーター!?」
ビール缶片手にジャーキー食っていると不意に少女の叫び声が聞こえる。振り返ると黒い外套を羽織った少女達がいた。蚕のような模様がある、自分は家畜ですアピール?
「何でこの町に、ここに入ってこれないって………!」
と、各々の固有武器を出し今にも飛び掛からんとする少女達。と………
「あらぁ?」
たった一言。されど込められた殺気に黒衣の少女達がビクリと震える。
「駄目よぉ、絶対中立の調整屋さんで荒事なんて」
するりと伸びてきた白い腕が最後尾の魔法少女に絡みつく。
「っ! や、八雲みたま………これは、どういう」
「どうも後も、私は別に貴方達の味方じゃないんだけどなぁ? そんな事も弁えず、彼に手を出すなら………お仕置きしちゃうわよ?」
「ぎっ、あ!?」
ビクリと震え倒れる魔法少女。ガクガク痙攣する少女を無視して、みたまはごんべえを抱えて椅子に座る。
「力を求めた弱い弱〜い魔法少女の皆、よく聞いて? 何事にも対価はつきものなのよぉ? それを無視して人を殺そうとしてるのを見逃してあげてるのに、それでも勝手をするなら…………お姉さんがお仕置きしちゃう」
どす黒く穢れたソウルジェムから現れる紳士服姿のドッペル。その悍ましい魔力に魔法少女達は震え上がる。
「た、戦えないお前に変わり私達が………!」
「お客さんなんて他にもいるのよぉ?」
「っ! 我々の計画に、賛同しないと?」
「魔法少女の救済とか、私にはどうでもいいの。魔女になるならその時はその時、程度だもの。解ったら、大人しく並んで。ね?」
「………………」
『……………?』
「モキュ?」
無言で見つめ合う小さいキュゥべえとごんべえ。小さいキュゥべえがいきなりごんべえに襲いかかったが返り討ちに合い、今は大人しく見つめ合っている。
みたまは小さいキュゥべえと桃色の髪の少女を連れてきたももこと話している。
「モキュモキュ!」
『…………なるほど。ま、悪いが俺は相談役程度にしかなれねえよ』
「モキュウゥ」
その後目覚めた少女、いろはの話を聞く一同。
誰の記憶からもなんの記憶からも消え失せた妹を探しに来たらしい。
『見つかるといいな』
「ごんべえは、信じてくれるの?」
キュゥべえはわざわざ一人の存在を消すなんて現実的ではないと言われたのに。
『嘘だったのか?』
「ち、違うよ!」
『なら誰が信じた、誰が信じなかったなんざ気にするな。やる気を下げるだけだ』
「…………ありがと、ごんべえ」
「……………………」
『ナニを不機嫌になってやがる』
「別にぃ? 相変わらず女の子に優しいんだな〜って思っただけよぉ」
『特段性別を意識したことはないが……』
まあそれは、確かに。菓子屋のおじさんとか個人(?)的知り合いのルポライターのおじさんとかとも同じ様に皮肉の聞いた言葉で接していた。
「やっぱりお店に連れて行くのやめようかしら?」
『これ以上俺の生活範囲を狭めると? 酷い女だお前は』
「酷いのはごんべえだも〜ん」
『お前をからかうぐらいしか娯楽ねえし』
つまりさっきまでのやりとりはわざとか、と肩に乗るごんべえの頬を突くみたま。
『どのみちお前からは離れられないんだ、誰かと話せる時ぐらいは好きにさせろ』
「……私の願いがなかったら、離れていたのかしら?」
『だろうな………フローにしても、一時は離れていたし』
「………そう。じゃあ、死が二人を分つまでは一緒にいましょう?」
『お前がそう願うならな……』
みたまの言葉に呆れるごんべえ。それでもみたまは、肯定してくれたことが嬉しかった。
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